滝壺の洞窟-34
滝の中に入る。そんな馬鹿げた話を、信じた。アカネの「夢」、そのビジョンは信じられるものだと思ったからだ。映像まで見えたのだから気のせいではないだろう。彼女はきっと嘘をついていないし、なにより僕がそう信じているのだから。
「アカネ。じゃあ、そこに並んで。1、2、3で入るよ。いいね?」
「………分かった」
アカネの顔色は若干悪くなっていた。僕は信じているのに、自分の事を信じられなくてどうするのだ、そう思いアカネの肩をぽんぽんと叩くと、それに気付いたのかコクンと頷く。
「……じゃあ、いくよ。1、2」
「3っ!!!」
バシャッ、と体に力を込め、思い切り突っ込んだ。隣から音が聞こえたかは、正直自分のことで精いっぱいなため分からなかったが、きっと彼女の事だから僕に就いてきているだろう。突っ込んだ瞬間、意識が遠くなったのを覚えている。炎タイプで体も小さな僕にしてみれば大ダメージだ。この滝の勢いだけで倒れてもいいほどだった。しかし、何とか持ちこたえ、水の感覚が収まったと思ったらどこかに放り出される。触れた場所は固く、岩のようだった。
「いった……アカネ!大丈夫!?」
「大丈夫じゃないわよ………体中が痛い」
放り出されたのは、滝をの後ろ側にある洞窟だった。じめじめ、じめじめとしていて、床が濡れている。天井から水滴が滴り、ぴたりと僕の頭の上に落ちた。水で濡れてしまった体をアカネはブルブルと払う。痛そうに腰をさすると、洞窟の奥の方を見つめた。
「洞窟だ……アカネは正しかった!」
「なんでこんなとこに洞窟が………」
「分かんないけど……誰も見つけられないよね。こんな所。行こっか。」
「………そうね」
洞窟の方にぺチャぺチャと濡れた足音を立て、奥に進んでいく。どうやらここもダンジョンになっているようで、住み着いているポケモン達が影から不審そうにのぞいていた。攻撃してくるポケモンもちらほら見られたが、このダンジョンのポケモンはあまり凶暴には思えない。アカネはとても退屈そうに小さく欠伸をしながらダンジョン内を歩いていた。戦いながら進むのがデフォルトだったので、あまり戦うことのないダンジョンが退屈なのだろうか。すると、後ろからコダックが首をかしげながらこちらに近づいてきた。
「アカネ。敵だよ」
「………ていっ」
コダックを尻尾ではねると、コテンと横になって倒れてしまった。と思いきや良く見たら寝ている。呆れた顔をしている僕とアカネは、顔を見合わせ、僕だけクスクスと笑った。簡単なダンジョン、簡単なダンジョン。そう思いながら階段を上っているうちに、ダンジョンのポケモン達がだんだんと強くなっていることに気付く。これは前のダンジョンでもあった事だし、特に気にはならないものの、レベルの高いポケモンが多く、探検隊の訪れたことのないこの洞窟内でどうしてここまで強いポケモンが育っているのかも気になったし、もうしかしたらそれで強いのかもしれないとも思った。
「ねえ、あと何階くらいだと思う?」
「ポケモンの数が多くなってきてるよね……ちょっときついかもしれないけど、後三、四階くらいかな……」
ゲッとした顔をすると、ハァ……と小さくため息をついた。そんなアカネを見て、僕がそっと背中を撫でた。電気ショック承知だったのだが、アカネは電気ショックを繰り出さなかった。その事に驚き、なんだか少し、安心している様子の彼女の顔に、更に驚いていた。