ころころ林檎-26
今度こそ私達がギルドに帰ろうとすると、向こう側から「イゴルさーん!」とイゴルを呼ぶ声がした。よく見ると、先ほどの二匹がこちらに走ってきている。何事かと思うと、二人は林檎の入った袋を振り回しながら走ってきていた。あの余分なリンゴに気付いたのだろうか。イゴルも驚いた顔で見ていたが、二人の話を聞いて直に安堵の表情を浮かべる。
「林檎が一つ多いです!僕達こんなに多く買ってないと思います」
「嗚呼、それは私からのおまけ。いつものご褒美だよ。二人で仲良く分けて食べなさい」
そう言って微笑むイゴルを見て、「優しいなぁ」と呟くカイト。二人は嬉しそうに顔を見合せながら、「ありがとうございます!」と元気よく言い、また元の道を帰って行った。
ふと、マリの足元に石が転がっていることに気付いた。案の定、マリはその石に躓いて盛大に転んでしまい、持っている林檎を一つ、ぽとりと落としてしまった。
「いたっ!!」
「マリ!」
ルリマが駆け付け、マリを起こす。マリは少し足の先を擦りむき、痛そうな顔をしていた。私は落ちたリンゴの方へ行くと、そっと手にとってマリの方に歩き、手渡した。
「ほら、林檎。あと、その傷はオレンの実を擦って塗れば直治ると思うから、これあげる」
そう言って、先ほど買ったオレンの実をマリに手渡した。林檎とオレンの実を交互に見つめ、「ありがとう…!」と、目を輝かせて私を見る。子供のそんな目が、少しだけ私は苦手だった。
手渡したオレンの実から手を離した頃、ぐらり、ぐらりと視界が眩んだ。目眩のような、そうでないような、とにかく気持ちが悪い感覚に襲われる。視界が暗くなり、閃光がその闇を過った。何か、夢を見ているような気分で、それに耐えていると、「アカネ!」という声が聞こえ、ふらふらしている私をカイトが支える。その瞬間、何かが見えた。いや、聞こえた。鮮明な声が、『助けて!!』と、叫んでいた。
その声には聞きおぼえがあり、「大丈夫ですか……?」と、私を心配している彼女の声と同じだった。
「………あんたが、言ったの?」
「え、えと、大丈夫ですか?やっぱりオレンの実はピカチュウさんが持ってた方がいいんじゃ……」
「……いや、いいわ。私、もうひとつオレンの実持ってるし……」
いくら考えても分からなかった。そのため、仕方がなく「気の所為」で終わらせたものの、何か少し気になっていた。「助けて」という声は、マリの物。しかし、マリはそんな様子はなくこちらを窺っている。
「ピカチュウさんありがとうございます……えと、お名前は……」
「私はアカネ。で、この赤いのがカイト。一応探検隊」
「困ったことがあったら言ってね。できる限り力になるから」
そう言うと、心底うれしそうな顔をして頷いた。嬉しそうに帰っていく二人を見て、少し頬が緩んでいることに気付く。これはいけない、と思い口をグッとひきつらせた。
「アカネ何か変な顔になってるよ?笑ってる?」
「う、うっさい!行くわよ!」