円を貫く稲妻-18
殺気に包まれた場所で、僕は敵を見まわす。カラナクシ二体に、アノプス三体、リーシャンが三体。駄目だ、今の僕のレベルでは勝てない。一度か、多くて二度でも水タイプの技を食らわせられればアウトだ。僕にはそんな運動神経は無いが、ここは力で強行突破するしかないだろう。一か八か、そう思い、一番近くに居たカラナクシに「ひっかく」を食らわせた。僕の力は普通のヒトカゲの何倍も強い。これは両親からの遺伝だが、このひっかくはおそらく低レベルの切り裂くほどの威力はあるだろう。「ひっかく」で吹き飛ばしたカラナクシの居た場所に飛び込み、円状になっている敵を見定め、一気に「火の粉」を振り撒いた。最大パワーで炎を吐きだしたために、継続時間は短かったものの敵全てに火の粉が降りかかった。火の粉の熱で噴き出す蒸気、その蒸気の向こう側から「水鉄砲」が僕めがけて飛んできた。
「くっ……!」
ギリギリになって避けたは良い物の、やはりタイプの問題もある。先ほどの「ひっかく」でカラナクシ一体は倒したと思っていたが、見当違いだった。まだそのカラナクシは先頭不能になっておらず、カラナクシによる攻撃だった。
「どこ行ったの!?アカネ!」
アカネが走って行った方に叫ぶと、何かがかすかに動いた。あの動き方は、アカネだ。それを確認する暇もなく、次はアノプスが体当たりを仕掛けてくる。それを回避するので精いっぱいだった。
「アカネ!!」
叫ぶが、アカネは返事をしない。また、何かが動いた。しかし、それを見る暇は本当に無かった。後ろから水鉄砲、横から体当たり、挟まれた、そう思い水鉄砲が来るであろう場所より斜め側に飛び込むと、水鉄砲と体当たりはタイミング良く衝突した。しかし、未だに一匹も倒せていないこの状況をどう回避すればいいのか、僕には分からなかった。
「どきなさい!!!」
突如、そんな声が聞こえ、僕は戸惑いながらも敵側から大きく離れる。すると、いきなり湿気の多い水場に稲妻が走った。足元からしびれる感覚がやがて体を覆い尽くす。光に驚き目を瞑った。暫くして目を開けると、そこに居たポケモン達は全員戦闘不能、目を回していた。後ろから小さな足音がし、振り返るとそこには疲れ切ったアカネの姿があった。
「アカネ!どこ行ってたの!?」
「敵に気付いただけよ。あんたがさっさと付いてこないからこういうことになるの。」
「少しは何か言ってよ〜……僕はエスパータイプじゃないんだからアカネの考えてることなんて分かんないよ……」
「………そ、それは悪かったけど」
アカネが口ごもると同時に、僕は先ほどの出来事を思い出す。目の前を貫いた稲妻に、倒れているポケモン達。岩場に揺らいだ影。
「というか何してたの……?さっきの電気ショックだよね?でもアカネ、使えない筈じゃ」
「私にも分かんないわ。ただ、急に………まぁ言ったって信じてくれるわけじゃないわね」
「え?何なの、教え……」
「先を急ぐよ。ここのポケモン達は怯えてる。長居するとやっかいとしかいえない」
そういうと、彼女は僕の前に出て歩き始める。いきなり電撃技が使えるようになったのには何かわけがあるようだが、それは帰ってからゆっくり話してもらうしかないだろう。彼女の言うとおり、ここのポケモン達は何かに脅えている。先を急がなければ、そう思っていた。
それにしてもあの電気ショックの威力は何だろう。ただの「電気ショック」とは思えない威力だった。低級のダンジョンといってもポケモン達はそれなりに体力があるだろうに、あの電気ショックで一撃、とは考えにくい。それとも、何かきっかけがあって彼女の技が平均以上の威力を出していたとしたら、それも説明がつくのだが。
「何やってんの?」
「いや、何でもない。あ、アカネ。あそこに階段あるよ」
ダンジョンの階段を見つけ、そちらに駆け寄る。アカネが「ちょっとまって」と僕を止めると、階段についた足跡を指差す。
「ここらのポケモンの足跡じゃないわ。後この階段何個くらいあると思う?」
「えっと、あと五回か六回くらい、かな。それにしても大きいね……何の足跡だろ」
「………ただの通りすがりだったらいいんだけどね。嫌な予感しかしない。」
「とにかく、気を抜かずに行こうか……」