鉄格子の向こう側-9
「………ちっさ」
「言っちゃダメ」
ほんのちょっと見上げる程度の、聳え立つ建物。目の前にあるのは鉄網によって塞がれた穴だった。確か、鉄格子によって阻まれたギルドの入り口を通るには、この鉄網の上に乗らなければならなかった。情けない話、僕はこの上に乗るのが何となく怖くて、今まで一度も乗れなかったのだ。「落ちたらどうしよう」、など、くだらないことを考えては乗るのを止めてしまっていたので、実際どういうことをするのかは分からなかった。
「この上に乗るのね?」
「うん。アカネ、悪いけど先に乗って見てもらえる?
「は?言いだしっぺはあんたなんだからあんたが先に乗るべきでしょ。ほら行きなさいよ!」
そういうや否や、アカネは僕の背中を強く押した。その衝撃で僕の体は思い切り前へと傾き、その穴の上に大の字で倒れることになった。その瞬間、穴の中から声が発せられた。
「ひっ!?」というアカネの声が聞こえ、心なしか少しにやけてしまったが、穴の中の声にも耳を傾けた。
『ポケモン発見!ポケモン発見!あの!!これ足形じゃないです!誰かが穴に覆いかぶさってる……のかな?』
『からかってんのか!!!さっさと足形見せろ足形!!!』
急に聞こえてきた大きな声に、おもわず穴の上に立ちあがって耳を塞ぐが、この鉄網は意外と丈夫ならしく、軋むこともなかった。
『ポケモン発見!ポケモン発見!足形は……ヒトカゲ!!ヒトカゲ!!』
『ヒトカゲか……近くにもう一匹いるな。お前も乗れ』
どうやらポケモンの種族を判別するシステムのようだ。穴から出ると、アカネにも「乗って」と言った。
「………めんど」
そう零すと、アカネは穴の上までスタスタと歩く。すると、さっきのように声が聞こえたが、なんだか様子がおかしく、アカネも少し困惑した表情をしていた。どうやら、足形の判別が難しいらしく、声は戸惑いの色を見せている。少したってから、ようやく「足形はピカチュウ!ピカチュウ!」と、アカネの足形を判別できたようだった。
アカネはアカネで、自分の事が分かってもらえなかったのが腹ただしかったのか、歯をギリギリと言わせながら音を立てて開くギルドの扉の向こうへと進んでいった。入って直ぐの所には地下へとつながる梯子があり、僕を先頭にして下っていくと、大広間のような場所に出た。
そこには何匹ものポケモンたちがポスターのようなものに貼ってある紙を見つめてはポスターから千切ったりなど、まさに「探検隊」というような風景が広がっていた。ただ、この空気があまり好きではないのか、アカネは少し嫌そうな顔をしていた。
「わぁ、見てよアカネ!このポケモン達、みんな探検隊なのかなぁ……」
「さぁね。どうでもいい」
そう言いながらも、ちらちらと興味深そうに周りの様子をうかがっているのだから、アカネはきっと素直じゃないんだな、と今更にして思った。ここでうろうろしていても仕方がないので、このギルドの上の方のポケモンと話そうと思い、足を動かした時だった。
「さっき入ってきたのはお前達か」
少し高くて、特徴的な、男の声が頭に響いた。