ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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-序章-
真上に居たその人は-6
 ツンツン、と何かが頬をつついたような感覚がした。周りに殺意や敵意は感じられず、ゆっくり目を開けると横になっている私を覗き込むような形で、昨日のヒトカゲの顔が目に映りこんだ。彼の目には綺麗に私が映りこんでおり、彼は笑顔で「おはよう!」と顔を上げた。まて、何故彼がここに。
 手をばたつかせていると、不意に何かが手に当たった。起き上りそれを手に取ると、真っ赤に熟した林檎が籠から溢れている。落ちていたそれを持って、きょろきょろと周りを見渡すと、気持ち良さそうに背伸びをしながら笑っている彼が「それ、あげるよ。お腹空いてるでしょ?」と私に言った。
「いらない。別にお腹も空いてないし。何なのあんた。なんでここに居る訳?」
「いやね、僕の取り調べ担当のポケモンがたまたま顔見知りだったから、きちんと訳を話したら返してくれたんだよ〜。『はぁ?カイトお前器物損害の次はストーカーかよ?やるじゃねぇか!』って。」
 カイト、というのは彼自身の名前だろうか。まぁ、どうでもいいことだが。ところで今器物損害、そして口ぶりからして常習犯だろう。ということは何かしら悪だくみをしているのかもしれない。しかし、なら警察は何故彼を逃がしたのか分からない。
「ふざけないで。関わらないでって言ったじゃない。なんでそこまで私にひっついてくるのか理解できないんだけど。」
「ん〜……いや、あのね。実は君に頼みがあって、ちょっと聞いて欲しい話が……」
「へぇ、この林檎はワイロって訳?悪いけど私あんたにもあんたの話にも興味無いの。分かったら関わらないで」
 そう言った途端に、腹が「ギュルル……」と音を立てた。「しまった」と思い腹を押さえると、手に持った林檎がポトリと落ちた。彼は落ちたリンゴを拾い上げると、私にそっと手渡す。
「とりあえず食べながら話そうよ。何の話でも良いんだ。君の話でも、僕の話でも。」
「だ、だから、興味無いって言ってんでしょ!」
 林檎を彼の方へ放り投げると、林檎は彼の頭に痛そうな音を出してぶつかった。すると、彼は何も言わず、新しい林檎を私に近づいて手渡す。
「いらないってば」
「本当は君も言いたいことがあるんじゃないのかなーって。君が言うこと信じるよ。」
 「ぐっ……」と息が詰まった。何なのだ、こいつは。私の何がわかるというのだろうか。それらしいことを言っているが何一つ根拠がないではないか。
 ただ、そう言われている中で言われていることが少しだけ、本当に少しだけだが、嬉しく感じたのも本心で。
 気が付いたら、無意識に首を縦に振っていた。違う、きっと、きっと私の意志では無い。別に、誰かの手を借りたい訳じゃないし、話も聞いて欲しいわけではないのだ。

 ただの、誰かの悪戯だ。

ミシャル ( 2014/06/12(木) 21:05 )