行き場の無い私はひとり-5
私は、気が付いたらあの場所に居て、あいつに出会っていた。関係が浅い者は、信じるな。私の何かがそう言っている気がして、あのヒトカゲを冷たくあしらった。もとよりそんな性格の私だから、きっとすぐにあきらめるだろうと思い、冷たい言葉を吐き続けた。
正直に彼は優しいポケモンだった。だが、やはり信じることはできなかったのだ。
目を覚ましたら、自分の名前と、細かな知識以外、全て記憶から消えてしまっていた。それは偶然なのか、必然なのか。分かることは、私は元々人間だった、ということだ。そんなことを言って信じてもらえる訳がない、だから彼には何も言わなかったのだ。
人間からポケモンになってしまうというのは、私の知識にも無いし、もしかしたらそれすらも忘れてしまっているのかも知れない。しかし、それを知る以外に今の状況を変える術は無いと言える。
まず、この世界の事を調べることにした。私の記憶にはきっと、この世界の記憶はなかったのだろう。全てが珍しく、感じることが多すぎる。しかし、同時に少し懐かしくも感じるのは、私の元の記憶がそう叫んでいるのか、否か。
そんなことを考えながら歩いていると、やはり私の事が気になるのか、彼は物陰に隠れて私についてきていた。正直に邪魔だった。それだけだ。
私の周りから彼を完全に消すには、誰かに頼るしかないだろう。きっと彼は何を言おうと私についてくる。あきらめの悪いポケモンだ。
道行くポケモンに「警察はどこだ」と尋ねた。幸いこの街をよく知っているポケモン達に当たったらしく、すぐに「警察署」を見つけだすことができた。
彼には悪いが、一芝居打たないことには何も変わらないだろう。彼は意識していないと思うが、これは明らかなストーカーというやつだ。理由はどうあれ、ストーカーはストーカーである。
「どうしました?」
署の前に立つ二匹のカモネギが、私を見つけて話しかけてくる。そこで私はこういった。
「さっきから誰かに付けられてるの。チラっと見たけどヒトカゲだった。多分ストーカーだと思う……あっ!おまわりさんあいつです!!!」
木の影に隠れた彼を指さすと、警察署内から勢いよく何頭ものポケモンが飛び出してきた。彼はあっという間に取り囲まれ、その姿がコイルやレアコイルの体で見えなくなるのを見届けると、私はそっと、警察署前を後にした。
とは言った物の、本当に行く場所が無い。ここで彼に甘えようという選択肢はもう使えないので、日が落ちそうな空の下で、今日は野宿をするしかないだろう。腹の中も空で、何か腹に入れないと動けなくなりそうなのが現実だ。そうなる前にさっさと眠ってしまおう。明日になれば人間に戻っているというラッキーはきっと無いだろうけれど、きっと何かが変わるはずだ。
そう思い、崖の上にある木の下に横たわると、瞼を閉じた。
暫くそうしていると、やがて辺りが暗くなり、眠気も徐々に疲れとともに押してくる。それに身を任せ、息を吐くと睡魔に身を委ねた。
その一瞬、まぶたの裏側に、何かを見たような気がした。