ならず者二匹-3
「何なの。あんた達」
倒れこんだ僕を気にすることもなく、ピカチュウは淡々と口を開いた。すぐに体制を立て直し後ろを振り返ると、そこには二体のポケモン。一方はボールのような丸い形をしたポケモンで、もう一方は蝙蝠のような容姿をしている。ガスのような鼻を突く臭いが周囲に少し漂っていた。おそらく、このポケモンたちはズバットとドガースだ。何の目的があってかは知らないが、僕達にちょっかいを掛けている。
「嫌べつに?さっきの見てたぜ。雌のちっせぇのに不意突かれてやんの。あんまり弱そうだから俺たちが鍛えてやろうと思ってさ」
「そーそ」
「一々第三者が介入することでも無いでしょ。そんなこと言って冷やかしに来ただけの癖に」
「ケッ。理屈はいいんだよ。そうそう、俺達暇なだけだからさ。ちょっと付き合ってくれね?」
ふざけたような顔をして、二匹は僕たちに向かって攻撃をしかける準備をしている。 体を斜めに傾け、僕たちを見据えた。ちらりとピカチュウを見ると、まるで興味がなさそうに海の方を向いている。彼らの視界には彼女も入っているだろうというのに、今の彼女では明らかに負けてしまうだろう。僕が守らなければ。
「よそ見してっと死んじまうぞ!!!」
そう思っていると、やはりドガースの方は彼女を先に攻撃しようとした。攻撃はもろに彼女に当たり、彼女はその力で吹き飛ばされる。助けなければと思い、すべり込んで彼女を受け止めた。しかし、そのピカチュウはまるでダメージを受けていないように見えた。目はぱっちりと開き、僕の体から離れると砂を払うように攻撃されたところを撫でた。
「……なにこれ。だっさ」
「あ!!?」
反感を買うであろう言葉を発した直後、挑発に乗ったのか、そうではないのか、ドガースが怒りを露わにした。
「あんたの攻撃、そこのヒトカゲの力の半分にもなってないって意味よ。弱すぎ。傷もつかないじゃない。よくそんなのでいばれるもんね」
「黙れ!!!」
再び体当たりをしかけようとするドガースに、ピカチュウは海岸の砂を蹴り上げドガースの顔面に巻き上げた。「わっ」と驚いた様子のドガースに今度はピカチュウの方から体当たりをくらわせる。ズバットは黙ってそれを見ているだけだったが、やがて僕の方に近づいてきた。
一方、体当たりを食らったドガースは目を回しており、何を考えているのかその後ピカチュウはドガースの体に砂をかけ始めた。
「……うわぁ、弱い……」
つい口にしてしまった言葉に自分でも「酷いなぁ」という感覚を覚えた。やられた会い方を見て汗を滴らせているズバットを見る限り、彼も同じレベルだと見た。早くカタをつけてしまった方が良いだろう、そう思いズバットを見据えて拳を握り、殴りかかる。
「ヒィッ!!!」
情けない声をあげてよけると、埋まっているドガースを引っ張り上げて一目散に海岸から逃げて行った。いったい彼らは何だったのか、未だによくわからない。
「あ!!ピカチュウ大丈夫!?ああ言ってたけど、大分いたそうだったよ!?」
「痛くないって言ってんでしょ。大体相手が弱すぎんのよ。何あんな奴らに舐められてんの?」
「うっ……でも、君結構強いんだね……君が弱ってなきゃ僕やられてたかも」
「は?何言ってんの。あんたのは本当に痛かった。あんたに負けたのは本当よ」
フン、と鼻を鳴らす彼女の顔は、なんだか少し嬉しそうではあった。
「これからどうするの?記憶がないということは、行くところ無いんでしょ?」
「別に。まずはこの世界の事を調べる。」
「じゃ、じゃあ!!僕が案内するよ、ここら辺の事詳しいし!」