ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















小説トップ
-序章-
海岸の足跡-1
 平凡は、正直懲り懲りだった。
 誰かを困らせ、普通に生活し、友人もそれほどいなければ、恋人さえも居ない。そんな自分に正直飽きてしまっていた。僕のような性格だから、そんなことを考えているように見えるなど誰も思わないだろう。そんなことを考えながら、茜色に染まる空をに息を吹きかけた。退屈で退屈で、いっそのこと海に身を投げてしまおうか。とも思ったほどだ。
 ヒトカゲの炎は、水がかかっても消えることはない。しかし、炎タイプである僕が水に長時間浸っていれば、体力を削られ、最悪死に至るだろう。しかし、考えてみればそんな死にかたは散々だ。父さんや母さんのように、誰かの役に立てたとしたら、なんて。一人でもできることでも、結局意気地なしでできることもできないのだ。正直、そんな自分も嫌いで嫌いで仕方なかった。
 呑気に、今日の夕食でも考える方がずっと僕らしいだろうに。そうだ、夕食の事でも本当に考えよう。どうしようもないことを考えるより、答えがあることを考える方がずっと僕らしい。
「えーと……今日は薬草でも摘んで青汁作って飲もうかな。えへへ、あれ不味いんだけど起きた時のさっぱり感が良いんだよね。」
 なんて一人でブツブツ言いながら、クラブ達が吹いた泡の漂う茜色の砂浜を歩いていた。自分の影が小さく動く。濃い影を見ると、嗚呼、やっぱり自分は生きているのだな、と思えてしまう。生死に、強く固執するのは止めよう。むなしくなるだけで、余計自分を追い詰める。
 暫く考えながら一本道の砂浜をゆっくり、うゆっくり、歩いていると、不意にこつんと足先に何かが触れた。大きな石でもあるのかと思い下を見ると、黄色い物体が目に入った。
 柔らかな毛におおわれており、所々模様が入っている。いや、まさかこれは。まさかではなく、いや本当に。
「ぽ、ポケモン……?」
 自分より少し小さめのポケモンが、横になって倒れていた。顔立ちを見る限り、雌らしい顔をしている。確かこれは、ピカチュウというポケモンだっただろうか。確か性別の判断は尾にあった筈だ。先の方が丸みを帯びているのが雌だった筈。やはりこのピカチュウは雌のようだが、何故こんなところで眠っているのだろうか。呼吸もあり、脈も正常だ。一向に起きようとしないのは、ここで眠りたくて眠っているわけではないのだろうか。たとえばそう、波に流されてきたとしたら。体は確かに濡れていて、ひんやりと冷たかった。このまま放っておけば、低体温の所為で死んでしまうだろう。起こして体を乾かしてやらなければ。
「ね、ねえ。大丈夫?ちょっと!!!もしもし!!!」
 叫んでみたり耳元で喋ってみても起きやしないし動きもしない。もしかしてこれはまずいのでは、と思い、ゆっくり腰をおろしてピカチュウをかかえると、自分の住処に運ぼうと背負う。そう、背負おうとしたのだ。その時だった
「うっわ!!!!!!!」
 足元の砂で体が傾き、ピカチュウが居る方向に思いっきり倒れてしまった。その瞬間に「いった!!!!!」という少し高めの大きな声が自分のすぐ下から聞こえた。
「え、あ、あ!!起きた!?ごめん!!」
「い、いったいなぁ……何してんのあんた!!ここどこ!!!」
 目付きを鋭くして僕に吠えかかるピカチュウは、何が起こったのかわかっていないようで、一度動きを止めた。五秒ほどフリーズし、「え?」と小さく漏らす。
「ちょ、ちょっとまって」
 酷く困惑した声で僕の方を見直すと、また目がきょろきょろぎこちなく動いていた。
「あんた!!!」「は、はい!!」
 いきなり指さされ、驚いて情けなく返事をする。ピカチュウは何かを考えるそぶりをし、海の水面を見つめた。そしてもう一度僕を見返し、ゆっくりと口ずさむ。
「あんた、私が何に見えてる?」
 何を言うかと思えば、変な質問をしてきたものだからつい「ふふっ」と笑ってしまった。そうすると、また目付きを鋭くし、苛立った表情をするピカチュウが目に入り、ぴくりと体が震える。
「な、何って、ピカチュウでしょ」
 答えた瞬間に、目の前が暗転し、僕の目は空を見ていた。



ミシャル ( 2014/06/11(水) 17:35 )