クロッカスの花‐最終話
* * *
幻の大地は、あの事件から少し時間を置き、ある程度平和を保つことが出来るようになっていた。
塔の修復に取り掛かっていたディアルガは、ふと手を止めて塔の外を眺める。そして、あの英雄たちが時限の塔を去った時のことを今一度思い起こしてみた。あの事件がここまで壮大なものとなってしまったことは、闇に侵された自分の罪である。それをディアルガは自覚していた。ディアルガが闇に呑まれたりなどしなければ、巨大な『タイム・パラドックス』など、起こす必要が無かったのだ。沢山の命を、犠牲にする必要などはなかったのだ。
そして、今日。タイム・パラドックスによってあの時消滅した世界に対する、『神』の決断が下された。
ディアルガは、天よりさらに貴き場所から降り注いでくる声を聞き、そっと目を閉じる。そして、自らの罪を戒めた。これから先に続いていくであろう未来を思い浮かべ、目を開く。
「あれから、幾月がたったか。…………カイト。お前がこの塔を去る時……虹の石船で、ここから別れを告げる時、痛いほどに、お前の悲しみがここまで伝わって来た。今でも、あの痛みは覚えている……。
お前に……そして、この長い歴史に関わったすべての者達へ……この声が聞こえるかはわからないが……伝えたい。
今この瞬間、私よりも上から世界を見ている者達により、新たな運命が施された。あの闇に包まれた未来は、再び生まれ変わる。死を迎え消滅した筈の世界の意思が、あの革命の瞬間に動き始めた。あの未来は、創造者達により全ての歴史をリセットされ、新たな世界として生まれ変わることになった。
闇に汚染されたあの未来を、もうこの世界の未来としてそのままにするわけにはいかない。生まれ変わった後も様々な障害が待ち受けているだろう。全てがリセットされた世界であっても、こびりついて離れぬ闇がやがて世界を再び侵すということもあり得る。しかし、この世界とは決して重なることの無い並行世界となって、あの未来は存在し続ける。我々は、こびりついてしまった闇がいつか世界から解き放たれる時まで、一つの世界となったあの未来を守り続けよう。
そして、我々はあまりにも世界に関して無関心で……怠惰だった。これは我々に関する新たな意識革命の第一歩でもある。
あの暗黒の未来で消滅した数々の命、そして自らを犠牲にして戦った革命者達……創造者は、お前達の存在をこの世界にて存続させることを決定したと同時に、この世界の先へと繋がっていく未来を一から創り上げて行く決意を固めた。その未来が、どんな悪にも朽ちることの無い輝かしい未来になると信じ……私は、大切な役割を授かった。
あの未来を生きていた沢山の者達、そして私を闇から救ってくれた英雄達……これからの新たな未来を、お前達に託そう!これは、私からの詫びと礼だ……受け取るがいい!!」
ディアルガの体が光を灯し始める。世界の全てへととどろかせるように、光が届くように。全ての力と思いを込める。
時限の塔から時空をも超えて、全てを包み込むような青い光を乗せ、高らかな咆哮が高く高く響き渡った―――――。
* * *
毒々しい色から鮮やかな色へ、そして次は煌びやかな星のような空間へ変わった。とても不思議な場所で、交じり合った色が不規則に塗りたくられているトンネルの中を歩いているようだった。
ホウオウの姿はもう見えない。アカネはその懐かしい足で地面であろうものを踏みしめて前へと進み続ける。先はまだ見えず、当然出口があるのかもわからない。この先は一体どこへつながっているのか。もうしかすれば、ホウオウの言っていたことは見当違いで、ただこの空間を彷徨い続ける運命なのかもしれないとさえ思った。
美しい髪が揺れる。白い体の輪郭はぼんやりと薄く、存在しているようで存在していないようだった。何も纏っていないこの姿を誰かに見られるのには抵抗があったが、体が若干透けているので羞恥心にそこまでこだわるという事も無い。ピカチュウだった時は『衣類を纏っていない』ことなど特に気にはならなかったのに。人間にもがっつり体毛が生えてさえいれば恥ずかしくは無いのだろうか。
そんな場違いな事を少し考え、頭の中から取り払う。カイトは今、どうしているのだろう。あの瞬間から、あの世界では一体どれほどの時間が過ぎているだろう。そもそも、この世界とあの世界に繋がりというものはあるのだろうか?
そう思っていると、周辺の色が次は緑色を基調とした不思議な色に変わる。この色には何か意味でもあるのだろうか。
(…………退屈しないだけ、いいかも)
ただ長い一本道を歩き続けることは、とても退屈だった。だからこれはこれで悪くはない。色の変化に飽きれば下を向いてしまえばいいのだから。そうすれば、自分の毛髪というものであろうこの金色の糸しか見えなくなる。
ふと、道の先に何かが見えた。何かが蠢いている。誰かが居るのかもしれないと思い、アカネはその両足で走り始めた。不思議な感覚だった。走る時は四足歩行が多かったから、なおさら二足の長い足で走るというのは懐かしく、そして新鮮だ。
その何かに駆け寄っていったアカネの目に映ったのは、体格が人間とよく似たポケモンだった。少し鋭い目つきと狼のような顔つき、後頭部に生えている四本の房のようなものが印象的だ。まるで、人狼のようだった。
覚えのある種族だ。確か、『ルカリオ』というポケモンである。
少し警戒しつつ、アカネはルカリオに近づいた。ここで襲われたところで、既に自分は消滅の運命を辿っている。死ぬ死なない問題以前の話である。そうやって頭の中で完結させると、警戒を解いて堂々とルカリオの方へと歩み寄って行った。
「…………?……クロッカス…………?」
「…………誰?」
「お前……人間に戻れたのか!?俺だ、シリウス…………いや、リオンだよ」
自らのことをリオンだと主張するルカリオは、アカネの知るリオンの姿とは違っていた。リオンはリオルという種族である。しかし、よくよく考えてみるとリオンは確か元の種族がルカリオだったと言っていた筈だ。タイムスリップの影響で種族が後退したと言っていた。そして、人間からピカチュウに変貌してしまったアカネも今は人間の姿へと戻っている。リオルからルカリオに戻っていても可笑しくはない。アカネは、とりあえず目の前のポケモンがリオンだと思うことにした。
お互い、体がぼやけている。消滅の運命を辿った者同士だった。
「…………ここは、どこなんだ?」
「消滅した覚えはある。だから、死後の世界……なんて」
「…………ということは、革命を成功させたんだな。…………ありがとう。本当に……ありがとう」
ルカリオの姿をしたリオンは、泣きそうな顔をしてアカネに頭を下げた。そして、顔を上げると、次はまた少し複雑な面持ちでアカネの方へと問いかける。
「カイトと、納得できる別れとか……出来たか?」
リオンにそう聞かれると、アカネは顔を斜め下に向けて寂し気に笑った。そうではなかったようだ。と、リオンも察して口を噤む。アカネは少し息を飲むようなしぐさをすると、顔をふっと上げた。勢いで浮き上がった髪の毛がさらさらと肩へ落ちる。それすらもこの世界ではぼやけている。アカネは小さく首を横に振ると、ちいさく『ううん』と口から零した。
「そうか……」
「自分の言いたいことを、一方的に押し付けてたような……そんな気がする」
「…………そのことを考えたって、どうしようもないか。これから、どうなるんだろうな。俺達は」
「ここで私たちがまた会った事にも、何か意味があるのかしら」
アカネはぽつりとそう言った。リオンは首を傾げると、『確かに』と共感するように頷く。アカネとリオン……他にも歴史の改変によって消滅を遂げたポケモンは数え切れないほどに居たはずだ。しかし、何故よりにもよって自分たち二匹なのか。これは、この場所を脱出するための過程なのではないかと考える。
ホウオウは言った。『道の先へ向かえ』と。やはりただ闇雲に言ったわけではなかかったという事だろうか。実際に大分早い段階でこうやってリオンと再会することが出来たのだ。
「…………さっき、ここでもう一匹のポケモンと会った。知り合いではないけど、この場所の意味を知ってたみたいだったわ」
「そうなのか?俺は……会わなかったな」
「そのポケモンは、ここを出ることができるみたいなことを言ってた。ここよりもっと先に進めって言われて、そうしたらあんたが……。
あんた、ホウオウって知ってたりする?」
「なんか人間の姿でその口調だと、今更に違和感あるな……。まぁいい。
ホウオウ……聞いたことはある。大分前にシャロットさんが言っていたような……」
ルカリオの姿のリオンは少し考え込むようなしぐさをした。しかし、うんうん唸っているあたりどうも思い出せないらしい。アカネは密かに息をつくと、ゆっくりと先の道へと歩き始める。
「…………先に進めば、何かが変わるかもしれない……なんて」
「…………そうだな」
リオンもアカネの後を追いかけて歩き始める。聞きたいことはお互い山のようにあった。ディアルガと戦った時の事、へケートとは結局どうなったのか。しかし、聞きたくても今ここで尋ねる気にはならない。お互いなぜかは分からなかったが、少しの間黙り込んで静かに歩き続けていた。
景色は変わっていく。何もないと思っていた世界は赤と桃色、白が入り混じった花園が浮かんでいるような色へと変化した。リオンはそれを見つめながら訝し気な顔つきを見せる。不思議がっているのか、それともリオンはこのような場所が苦手なのか。アカネも、今は閉鎖的な空間があまり好きではない。カイトと出会った当時一匹狼気質だった彼女も、気が付けば何かに囲まれて誰かと共に歩んでいるのが当たり前になっていたのだ。
人間だった頃の自分は、そうではなかったようだが。この変化は一体何なのだろうと、アカネも訝し気な顔つきで考える。
歩き続けていると、少しずつ目立っていた周辺の色が薄れていることに気付いた。ずっと先を見つめると、真っ白な空間がぽつりと浮かんでいる。どこか今いるこの空間とは霧はなされた世界である様に感じた。戸惑いつつも、アカネとリオンはその領域に足を踏み入れる。真っすぐ先に延びている道の最後には、ぽっかりと穴が開き、そこからたくさんの光がこちらへ向けて差し込んでいた。
一人と一匹は顔を見合わせる。微かな期待と巨大な不安が心の中に複雑な彩の炎を灯した。この先に行けば何かが変わるのか。この空間から出ることが出来るのか。それとも、今度こそ本当に意識も存在も消えてしまうのではないか、と。願望と疑いが心の中で暴れる。
黙りこくるアカネは、それを目の前にしてその二本の足のどちらも前に出すことはできなかった。リオンもそれは同じで、一人と一匹、その眩しくて溢れんばかりの光の前で己の感情に流されながら、ただ突っ立っていた。沈黙の時が流れる。
それを打ち破ったのは、アカネだった。
「…………この先どうなろうと、私たちは覚悟の上だった……のよね」
「…………嗚呼。こんな状況になるなど考えても見なかった。ただ意識も存在も消えて、何も残らないと、思ってたから。
…………アカネ。お前は、やっぱりカイトと……一緒に居たいのか?」
「………………叶う、なら」
それを聞き、素直になったものだな、とリオンは小さく笑った。
リオンも同じだった。まだ生きたい。生きることの目標を、命の存在しないこの世界で見つけてしまった。この光の中を歩いていけば、また生きていくことができるという確信はない。光の満ちた世界で歩んでいきたい。この理不尽な世界にまた抗ってみたい。
「…………帰るか」
「……ええ」
二匹が足を同時に前へと出し、その光の中へと踏み込む。
目の前が光で満ちて、全てが白く染まり、そして感覚は下へ、勢いよく落ちて行った。
そして、巨大な海の中へとドボン、と落ちて、ゆっくりと沈む音がした。目を開くと輝かんばかりに真っ青で、広くあたたかな海が広がる。
その中でもがく腕は、小さくて黄色くて、柔らかだった。
*
いつの世も理不尽なことは変わりはしないが そのような歪な波に流されていては何に辿り着けもしない
誰かの思いが世界を変えたのならば また誰かの思いが運命をも変えることもあるのだということを、おまえはどのような気持ちで知るのだろう
雨のような黄金の涙を流しながら その美しい真実を心の中に入れてそっと蓋をするのだろうか
世界は汚らわしくも美しく それはいつの世も変わりはせず それらは必ず平等に存在する
その秤が狂うようなことがあったのならば、それを均等に直してやることは世界に生きる者たちの持つ唯一の役割だろう。感情を知る者が世界の上でいつの世も無自覚に生き続けている限り、それは何一つかわりはしない
それを知る者が数少ないからこそ、おまえはそれを生きる者達へ説いたのだろうか
世界はおまえを振り回し、痛めつけて最後には甘い果実を与えた
おまえはおそらく、世界に愛されていたにちがいない
おまえが世界を愛したように
* * *
日が沈んでいく海岸を、一筋の光が横切った。何かが頭に当たって、レイセニウスは空を見上げて目を細める。
「…………雨」
雨は、気分を憂鬱にさせる。嗚呼、ついていない日だと目を背けようとしたが、その雨が彼の知る普通の物と大いに違っていることにはすぐに気がついた。空には茜色の美しい空が尚広がり、その茜色に滲んだ雲が今も風にたなびいている。厚い雲など一切かかっておらず、空からただただ星が降ってくるようにして地面に向かって降り注いでくるのは、青い光の雨だった。
この光景を知っている。世界が時の破壊から解き放たれた瞬間に降り注いだあの雨と同じだった。あの神秘的な光景を忘れるわけがない。あれから数か月も時を経て再び降って来たあの光の雨は、地面を濡らすことなく入り込むようにしてしみ込んでいく。レイセニウスの目からはまた自然と涙がこぼれ、後ろからそれを見つめていたビッパはその美しい雨に息をつく。
ふわふわと浮いては景色を映していく泡に、茜色に彩られた世界、青い星のような輝きを放つ雨が、不思議で神秘的で、言葉にどう表せばいいのか分からない程に美しかった。
カイトのすすり泣く声と波が唸る音が響き渡る。レイセニウスはふと、何かの気配を感じてカイトの体を通り越したある一点を見つめた。少し海の水に浸っているような位置だったが、そこから何かを感じる。その一点をじいっと見つめていると、その場所から微かな光の粒子が発生していることに気が付いた。青く光り輝く雨と混ざり合った海の水の中から立ち上る様に光が立ち上っている。レイセニウスは思わずカイトを強く揺さぶった。後ろで見ていたグーテも思わず『あっ……!』と声を上げる。海から立ち上る光はやがて自らほんの少し離れた位置で固まりはじめ、少しずつ形を成していく。その姿を、レイセニウスは知っていた。
「おい、カイト……カイト!!後ろ見ろ、立て!!早くッ!!」
レイセニウスの言葉は鼻声になり、まるで彼まで泣いているようだった。まだ尚涙を流し続けているカイトは、そんな声にゆっくりと顔を上げる。そして、まず最初にあの時見た『時の雨』が、なぜか現在進行形で降り注いでいることに酷く驚く。やたら後ろを見るように促してくるレイセニウスの声に従い、カイトはゆっくりと自分の背後へと顔を向けた。
「…………………?」
海の中に、足元を浅い水につけた状態で、一匹のポケモンが佇んでいた。そのポケモンとカイトは目が合って、そして思わず小さく声を漏らす。目が合い、その姿を見ても尚、彼はそれが現実だと信じることが出来なかった。絶対にないと思っていたから。そう思い込もうとして、全てを涙に乗せて流してしまおうとしていたことだったから。
一生会えることの無い、永遠の別れを告げた相手だったから。
そして、その感情は『彼女』も同じだった。
『本当に、君なのか』
見つめ合っていた二匹の頭の中をそんな言葉がゆっくりと過っていく。読むようにして理解した瞬間、カイトはその場から飛び出していた。バシャバシャと海の水を水たまりを踏みつけるようにして走り、会いたくて仕方がなかった懐かしい存在へと手を伸ばした。
ザバン、と小さくだが水飛沫が上がる。カイトが勢い余って『彼女』の体もろとも押し倒し、水の中へと二匹して倒れ込んでしまったのだ。
息が出来なくなるほどの深さではないが、中途半端に体が水につかっている状態でもカイトは起き上がることなく、倒れ込んだままに彼女の体を腕で抱え込んだ。
「ちょっ…………」
感動の再会にも関わらず、早々に文句を言おうと口を開いた彼女……アカネは、その開いた口をゆっくりと閉じた。カイトのすすり泣く声が耳元で聞こえたからだ。カイトと初めて出会った時に感じた懐かしい体の冷たさを思い出し、じんわりと目の奥が熱くなってくる。二匹で並んで水の中に倒れ込んだ状態のまま背中に両手が回され、がっちりと抱きしめられて動くことができなかった。どうすることも出来なかったので、相手の背中に同じように手を回してみる。忘れていた暖かさが体に染みて、目の前がぼやけた。
カイトは体に手を回された感覚で我に返ると、腕の中にいる小さなポケモンを潰してしまわないように、地面に座り込むようにしながらゆっくりと起き上がった。涙が尚流れ続けているのに、もう泣き叫びたいという衝動は霧散していた。大きくて涙がボロボロとこぼれている瞳が下からじっとカイト顔を眺めていて、何か言おうとしても頭の中が真っ白になる。
「あんた、顔ぼこぼこじゃない」
そうしていると、アカネは涙を流しながらそう言って、可笑しそうに笑うのだ。そんな風に笑いながら、アカネは『ごめん』と、小さくつぶやいた。カイトはその言葉にブンブンと強く首を横に振って、『おかえり』と告げる。
「……会いたかった」
「…………うん」
『私も』と言うのは、今更ではあるがあまりに恥ずかしい。その代わりにカイトの首元に顔を摺り寄せる。時の雨は徐々に弱まり、時間が過ぎていくことを告げるように、太陽は水平線の彼方へと静かに沈んでいく。黄昏の空がゆっくり閉じていって、静かな海の音が耳をくすぐった。
「アカネのこと、最初に見つけられなくて、ごめん」
「あんたも見つけてくれたんだから、別にいい」
「うん」
「……ねぇ」
「なに?」
「また、一緒に居てもいい?」
「…………勿論」
カイトがそう言ったあとの彼女の瞳は、その最も深い所からキラキラと輝いていた。未来に希望を見ていた。彼女のそんな美しい姿を見て、カイトはふと思う。彼女が居なくなってしまった事で、この数か月様々な過ちを犯してきた。所々で誰かが助けてくれて、この世界は明るかった。理解しているつもりではあった。でも本当は、レイセニウスの言っていたように自分の殻にこもったまま、理解しているつもりでいただけだったのだ。
カイトの目の前が、アカネが現れた時以上に大きく開ける。カイトは顔を上げると、アカネを支えながら水が薄く張った地面から立ち上がる。『帰ろうか』と、柔らかく笑うと、彼女もそれに返事をするように笑い返した。
少し離れた場所で二匹の再会を見守りながら、呆れたようにひきつった顔をして笑っているレイセニウスは海岸の隅で手を振った。涙を止めようにも止められないグーテは、そんなレイセニウスに小突かれながらその小さな腕を上げて振っていた。
アカネにとってすべてが懐かしい風景で、以前の世界よりも一層輝いて見えた。潮風が二匹を歓迎するかのようにふわりと香り、海は遅れて落ちてきた一筋の時の雨を受けとめて、青い光と混ざり合う。
世界のどこかで、咲いたばかりの黄色い花が風を受けてしなやかに揺れた。それらはいつしかまた種を落として命をつなぎ、世界のどこかに同じような花を芽吹かせるのだろう。
英雄たちの愛した世界を花弁が彩り、そして英雄たちの愛した世界はより一層美しくその姿を変えていく。幾つもの命が枯れていくと同時に、またどこかで新しい命が生まれる。それらは限りある命の中で、美しく輝きを放ち続けるのだ。
(ただいま…………私のパートナー)
――――――この世界に、時が流れ続けている限り
〜THE END〜