ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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終章 時の降る雨空
存在の痕跡‐193
* * *

 ―――――青い空に雲がたなびく。光の雨と破滅の嵐が静まった後のギルドでは、朝礼場にてパトラスが手紙のようなものを床に広げ、大きくため息をついていた。
「…………カイトさん、寝ちゃいましたよ」
 ちりん、ちりんと、柔らかな音がギルドの中に響き渡る。弟子達の部屋へとつながる通路から、ベルがゆらゆらと姿を現した。その顔つきは悲しみに覆われており、ベルのその様子を通してからでもカイトの悲しみや苦しみが読み取れる。
 カイトがギルドに帰ってきた時点では、ギルドに居なかったはずのシャロットがパトラスの隣に佇んでいた。それを見たベルは『まぁ』と小さく声を漏らすと、お茶を汲みに行こうと食卓へと向かおうとする。しかし、それはフラーによって制止された。手紙とみられるものを床に広げ、パトラスは珍しく眉間に皺を寄せてそれを何度も読み返しているようだった。そして一通り読み終えると、また深くため息をつく。シャロットが『手紙』を持ってきた時から、ずっとこの繰り返しだった。
 そして、ギルドの内部からはグズグズと泣き声が響く。まだ事の真相も分らないのに涙と鼻水をまき散らしている犯人はグーテだった。アカネが居なくなってしまった。リオンも帰ってこなかった。ステファニーも……後輩がみんな、帰ってこなかった。カイトを除いて。その事実だけでもう、彼の顔はグチャグチャになっていた。皆必死にこらえているというのに。と、アドレーが彼を叱咤しようとするが、それは彼の三つの体が全てヘクターの鋏に挟まれると同時に避けられた。
 悲しみは皆深い。だが、その溢れでる感情を押しとどめろというのは、いささか我が儘なように思えたのだ。いつも直球なヘクターの判断だった。
 そして、何度も手紙を読み終えた末、パトラスはこんなことを口にした。
「…………………僕は、本当は知ってたんだ。こうなることを」
 グーテの泣き声が止まる。そして、ギルドの中に一瞬の静寂が訪れた。
 パトラスが呼んでいたのは、シャロットのもとへと届いたリオンからの手紙だった。磯の洞窟への出発直前、リオンはこの手紙をシャロットに出していたらしい。様々なイザコザがあり、シャロットもその手紙を読めていなかった。シャロットもそれぞれ避難の方針が決まった後、母ゼノヴィアと共にホスピタルへ向かった。その時、星の停止が食い止められることを待つ過程でこの手紙の封を切ったのだ。
 その手紙の中には、カイトだけが『幻の大地』から帰省し、アカネやリオン達が居なかったその理由と原理が記されていた。歴史を変えることで矛盾が生じ、世界から切り離される未来と『タイム・パラドックス』についての記述だった。
 リオンなりに必死で書いたのだろうという文章だった。どこか読みづらかったが、その内容はパトラスの頭に入っては記憶と結びついていく。パトラスは、その内容が完全に自分の『記憶』と一致したことを確認し、そうつぶやいたのだ。
「ど……どういうことですの?親方様……」
 フラーが不安気につぶやく。手紙の内容の大雑把な部分はシャロットが事前に説明したことから、全員なんとなくではあるが頭に入っていた。しかし、まだ理解し切れてはいない様子である。フラーの問いに、パトラスは話の続きを始める。
「前に……皆にはラウルとの会話の話をしたね。シャロットはちょっとわからないだろうけど、話の内容は殆ど手紙と同じだから、それで考えてみてほしい。
 あの話には、まだ少し話していなかったことがある。それが彼の意思だった……という理由でもあるんだけど。
 遺跡の欠片……そして、磯の洞窟と幻の大地のつながり。僕たちが今やろうとしている事…………それを聞いたラウルは、最後に僕にこういったんだ。

『あなたは、彼らを信じて幻の大地へと送り出すつもりでいるのだろう。だが、本当に未来を変えることが出来たとして、あなたは彼らの命を代償にする覚悟はあるか。歴史を変えるという事の、本当の意味を理解しているのか』……と」
「ラウルは……ラウルは、知っていたという事ですの?アカネ達が消滅するって……」
「じゃあ、何で親方は早く俺達にも言ってくれなかったんだ!?ヘイ!」
 皆、驚いたように口を開く。パトラスはそんな声を聴きながらも、小さく数回頷いた。そして、皆を諫めるように手を持ち上げると、自分の周りに集まるポケモンたちを見渡した。少し息をつくと、再び話を開始する。
「……いや。ラウルはきっと知らなかっただろうね。けれど、このままだと未来は星の停止を迎えるって事や、未来から来たポケモンたちの存在。星の停止を食い止めるって話をして、その意味を理解したんだと思う。君達に今まで言わなかったのは……選択をアカネ達に委ねたかった……からかな。言い訳にしかならないかもしれないけどね。
 彼はすごいね……。頭がいい。それとも、本当の意味で第三者の立場から世界を見ているから、すぐに気づけたのかな。
 …………いや、本当は僕も、気づいてなかったわけじゃなくて……気づかないふりをして、認めたくなかっただけかもしれないけど……ね」
 パトラスはその後、より詳しく『タイム・パラドックス』について皆に説明した。話が長くなっていくほどに、何処からか泣き声や鼻水を啜る音が聞こえる。説明されてやっと理解できる。言われてみればそれはそうだ……と、理解できる。何故、他者に言われなければ理解できなかったのか。考えてみれば……少し考えてみれば、直ぐに気づけそうなことなのに。
 皆が何かしら思っていたのかもしれない。その後なかったことになる暗黒の未来の存在を。それでも心の底に隠していたのかもしれない。知らなかったふりをして。

 
   * * * 

 窓から見た流れて行く雲は、今までの壮大な冒険を全て夢だと思わせる程に、穏やかに佇んでいる。雲の隙間から見える青い空に手を伸ばしてみても、感覚的に絶対触れられることは無いものだとわかる。数回、瞬きをすると、カイトはゆっくりと手を下ろした。
 体中がずきずきと、目の下はヒリヒリと痛んだ。その痛みこそが、あれらは夢ではなかったのだという確固たる証拠だ。アカネがいなくなってしまってなどいないという事実はどこにも無く、二匹の部屋だった場所にカイトが立っていた。昨日の涙ですべての感情を流してしまったかのように、彼の心の底から湧き上がってくるものは何一つなかった。
 部屋の隅に寂しく置いてある彼女のバッグを見て、ふと息をつく。ここでカイトが一匹で取り残されたことなんて、殆ど無かっただろう。このギルドに入ってチームを結成してからというもの、いつも彼女と一緒だったのだから。
 青い光の雨はとうに降りやんで、安定した時間が世界を巡り続けている。誰から見てもおそらく、その時の速さは一定なのに、この部屋の中で流れて行く時間だけは重く静かで、ゆっくりと通り過ぎて行った。カイトに彼女との日々を思い起こすほどの気力は残っておらず、彼はただたなびく雲を眺めていた。
 どうして僕一人だけが生き残ったんだろう。彼女との約束も少し頭を離れて、自問自答を繰り返す。

 感情が流れてしまったわけではない。ただただ、気持ちが沈み込んでいるのだ。浮き上がる力も出ない程に沈みこんで、それゆえに心が空っぽだと思ってしまう。また、彼女の面影が残るこの部屋に縋りつく。しかしそれは、カイトの精神を追い詰めるだけだった。
 カイト一匹だけがいるこの部屋こそ、アカネが世界に存在しない証拠なのだから。
 ふと、窓から目を離して部屋の出入り口へと目を向けた。ひそひそと話し声がする。カイトが少し聞き耳を立ててみると、『しっ!お黙りなさいな、起こしてはダメですわ!』『え、でもよぅ……』と、フラーとゴルディが言い争う声が聞こえた。あの二匹はよく言い争っているが、本当はこのギルドの中でお互いをとても信頼し合っていることを知っている。彼らがお互いに向ける感情は、カイトがアカネに向けていたそれとは種類が異なるものの、カイトは二匹の会話を聞いてとある感情を宿した。
 嫉妬心だった。
 気が付けば、また目からダラリと涙がこぼれる。彼は腕でそれを拭い取った。自分の体に目を向けてみれば、包帯だらけの体がそこにある。ディアルガと戦ったのだ。そして、事実としては勝利したことになるのだろう。
 カイトはゆっくり足に力を込めて立ち上がろうとした。筋肉痛のようなもので足が軋むが、そんなのはもう慣れっこだ。立ち上がり、そのまま出入り口の方へと向かった。未だにフラーとゴルディが争い合ってる中、強い力を込めてドアを開く。そこには、ゴルディの豚鼻に鶴の鞭を引っかけているフラーと、彼女の糸目を更に吊り上げさせようとしているゴルディの姿があった。そんな二匹を見て、カイトは柔らかく笑う。
 妙な威圧感を感じ、二匹は『お、起きたんですの!?』『も、もう大丈夫なのか!?』と、見事なコンビネーションでカイトに詰め寄った。カイトは軽く頷くと、『ちょっと出てくるね』と言って、通路を渡る。クロッカスの部屋の前に残された二匹は、顔を見合わせると、心配そうにカイトの背中を見つめた。
 通路から出て直ぐに、繕った笑顔はほどけた。冷たく濁った瞳がただぼうっとカイトの顔に二つくっついている。カイトはできるだけ周りに見つからないようにしてギルドを出た。何をしたかったという訳でもない。ただ、何かを探していたのかもしれない。
 カイトはギルドの前の階段を下りた。歩くたびに体がグラグラと宙で揺れる。足元など見ては居なくて、ただぼうっと空を眺めていた。
 僕たちがああしていなければ、今頃あの空は灰色だったのかな。そんな風に頭の中で考えていた刹那、ぐらりと体が揺らめき、足元が崩れる。カイトは階段から軽く転げ落ちた。
 下の方から二、三段ほどの所だったので、大したけがはない。ただ、ディアルガとの戦いで負った傷に塩を塗り込んだような痛みを覚えた。カイトは顔をゆがめながら、地面に手をついて起き上がる。

「……なにしてんだろ」
 自然と口からこぼれた言葉は、特に頭の中で何も考えていなかった彼の心の隅の声なのか。やらなくてはいけないことがある。こんなことをしていてはいけないと、必死に警鐘を鳴らしているのだろう。だけど、それがいったい何だったのか思い出せない。カイトは立ち上がるのが面倒になり、ギルドの階段の下、十字路のど真ん中で大の字になって寝転がり、空を見上げた。
 青い空にふと彼女の青く輝く瞳が思い浮かぶ。どうして記憶だけはきちんと残っているのだろう。世界にぽっかりと穴が開いたかのように、存在だけが消えている。なのに、記憶の中には鮮明に残っているのだ。どうして、記憶ごと消えてくれたりしなかったのか。
 …………だけど、記憶が消えたところで、そのとき彼はモヤモヤとした何者かの存在を探し続けることになるのだろう。その結末も知らないままに。
 再び鼻の奥がつんとした割に、もう目からは一滴の涙も落ちてこなかった。
「…………おい、そこの不良」
「……何?」
 カイトの顔に影が落ちた。太陽の光がふさがれて、何者かが自分の上に影となって覆いかぶさっている。カイトはその正体を知りながらも、気だるそうに起き上がる。そして視線を少し右側に逸らすと、そこには一匹のフローゼルが居た。
 自分よりも大分大きいその相手は、彼の幼馴染だった。レイセニウスはその涼し気な目元を細めると、自分の肩掛けバッグから一枚の紙を取り出した。なにやら依頼書のようなものだった。
「……ギルドに居たのかい?」
「おう。さっきお前見かけてさ、追っかけてきた」
 訝し気な表情を見せて、カイトは渋々レイセニウスが差し出す依頼書を受け取った。依頼は、ごくありふれたものだった。『湿った岩場』にて、最奥部に来たはいいもののポケモンたちの縄張りに挟まれてしまい、身動きが取れないとの依頼だった。報酬もまぁ、普通だろう。文面的に随分困っているようだった。
 しかし、カイトは度重なる疲労ですでに依頼に行く気力など失くしていた。何故、体験体でもなく、ましてやダンジョンに入ることにすらビビりまくっているレイセニウスがこんな依頼書を自分に付きつけてくるのかと思う。
「どうしたのさ」
「いや、俺もそろそろダンジョンに進出しようと思ってさ。だってほら、俺って記者の端くれだろ?だからいろいろ経験した方が良いと思うんだよな。でも俺ほら、弱いし。だからこの依頼をお前が受けて、俺がついていくって形で行ってみたいんだけど。どう?」
「僕、この怪我なんだけど」
「でもちょいちょい体動かさないとさ、引きこもりのニートになるかもしれないぜ?」
 カイトは『ああ、たしかに』と、妙に納得している自分がいることに気付く。確かにそうだと本気で思ったのだ。引きこもりのニートというのは言い過ぎかもしれないが、この無気力状態が続くと探検隊という仕事から離脱してしまうのではないかと思った。とは言っても乗り気ではなかったが、『湿った岩場』なら前に何度も訪れたことがある。体中包帯だらけではあるが、相手の攻撃に極力当たらないようにすれば大丈夫だ、と高を括ってレイセニウスにオッケーを出した。
 彼の涼しい目元が細まる。

 たった昨日、壮大な冒険から帰って来たばかりだった。部屋に帰って適当に荷物を見繕い、バッグを肩に下げて再びギルドを出る。体に包帯を巻いたペリーが、ギルドの屋根の上から出ていくカイトを見つめていた。『がんばれよ』と小さな声でつぶやくと、羽ばたいて地面に降り、そのままカイトとは背中合わせにギルドへと入っていった。
 
 『湿った岩場』は相も変わらずジメジメとしており、体の傷が疼いた。来る場所を間違ったかもしれない、とカイトは眉間に皺を寄せる。レイセニウスも一緒に来ていたが、彼は復活の種等を何個か自分の鞄に詰め込むと、カイトの後ろをついて回っていた。いきなり口笛を吹こうとするので、カイトは彼の足を強く踏みつける。声にならない叫び声で洞窟の中が満たされた。
「なぁ、なんかすごいみんなこっち見てんだけど……俺らがかっこいいから?」
「縄張りに入って来た敵だから」
 レイセニウスが『そうか』と一息つこうとした瞬間に、二匹の所へ『水鉄砲』が飛び込んできた。レイセニウスはメスポケモンのような女々しい悲鳴を上げて身を屈め、カイトは身を翻すと『火炎放射』を放ち、水鉄砲へ直接衝突させた。水と炎、有利なのはどう考えても水であるが、炎の勢いに呑まれて水鉄砲は霧散し、そのまま水鉄砲を売って来たポケモンへ直接ぶつかっていく。何かの悲鳴が聞こえて、ポケモンたちが走っていく音が響いた。カイトは冷めた目つきでそれを見ながら、レイセニウスの尻尾を掴んでズリズリと階段まで引き摺って行く。
(つ……強ぇぇ…………)
 苦手な筈の水技をぶち抜いていくレベルの攻撃力。子供のころのカイトの強さは知っていた。しかし、それは子供なりに強かったというだけの話だと思っていた節もある。野生のポケモンと比べてみれば強いが、そこそこの訓練を受けている者と張り合うとまぁ、勝てないことも無いだろうが、ほぼ敗北するだろうというレベルだったと記憶していたのだ。
 レイセニウスは引きずられながら体制を整えて立ち上がる。平然と歩き続けるカイトの顔を見て、ついついそんなことを思い耽った。
 よく考えてみれば、レイセニウスは水タイプでカイトは炎タイプ。それなのに、小さい頃は殆ど喧嘩で勝てたためしがなかったな、と思う。
 レイセニウスは尻尾を解放されると、再びカイトの後ろをついていった。何か話そうかと思っても、カイトはどこか上の空だ。敵の気配を感じた時以外は何か別のものを見ている。

(…………アカネちゃんと一緒に、ここにきたのか)
 カイトの様子を見ていると、誰かが隣にいる様な雰囲気を感じた。実際には右にも左にも誰もいなくて、後ろでレイセニウスがついて回っているだけなのだけれど。妙に話しかけづらくて、話しかけたとしてもおそらく別の誰かを思い浮かべながらカイトは話をするのだろう。
レイセニウスも、アカネが居なくなった事情は理解していた。シャロット伝いに聞いたのである。それを聞いて彼も、とても寂しい気持ちになった。深いかかわりがあったのかどうかは分からない。でも、同じ世界の、同じ場所に立っていたような、そんな気はしていたのだ。
 レイセニウス自身、異性として見て見れば、アカネの事は好いていた方だったと思う。というのも、雰囲気が神秘的で、美しい容姿をしていたからだ。カイトの事を本当に羨ましいとは思っていたし、そう思えばアカネのことが好きだったのかもしれないと思う。
 しかし、カイトの隣にアカネが居ないその景色は、妙に悲壮感が漂っていた。アカネが居ないとわかっていながらも、探してはいけないと思いながらも、アカネの存在を求めている彼が何だか哀しくて、痛々しい姿に見える。
「……?」
 目の前のカイトが足を止めた。レイセニウスもこけそうになりながら足を止める。そして、何かあったのだろうかと注意深く周りを見渡した。レイセニウスはダンジョンに入ることを避けて生きてきたため、敵意やポケモンの気配に多少鈍い部分があるが、どこからか荒々しい鼻息のような、唸り声のようなものを聞き取る。
 そして、それは複数匹存在した。
 複数の岩がそこら中に散らばっている。ポケモンが何匹でも隠れられてしまいそうな場所だ。レイセニウスは恐る恐る、『何匹くらいいるんだ?』と、小さな声でカイトに尋ねた。カイトは数秒黙りこくると、『七匹だよ』と、小声で返す。レイセニウスは顔を青くして、口元をひきつらせた。
 カイトは慣れた手つきでバッグの中を弄り始める。『縛り玉』を探していたのだ。しかし、見つからない。ディアルガ戦にてすでにほとんど使ってしまっていたため、保存のために持ってこなかったのである。ということは、敵ポケモンたちを全て岩陰から引きずり出す必要があった。影から攻撃されっぱなしとなってもキリが無くなってしまう。
 こんな時アカネがいたならば、周辺のポケモンを片っ端から麻痺状態にすることができるのに。と、一瞬頭の中に過った甘い考えを即座に切り捨てる。切り捨て……たかった。
こういう時でもアカネの存在を感じて悲し気な顔つきをするカイトを、レイセニウスは心配していた。本当はあふれるような感情が内心にあるはずなのに、それが表情にあまり出ていない。その状態は、少し不思議に見える。
 カイトは動き出した。一番ポケモンが潜んでいそうな岩陰へと『竜の怒り』を飛ばしたのだ。殆どの確率で命中するその技は、青い炎となって意思を持つ竜のように飛び回った。そして、岩陰に隠れたポケモンを脅し、弾きだしてくる。
 姿が見えた瞬間に、カイトは『火の粉』を放って岩陰から姿を現したポケモン二匹を攻撃し、火傷を負わせたのちに戦闘不能にした。攻撃の爆発音や衝撃によって出てきたポケモンたちは五匹。倒した二匹と合わせると計七匹だった。おびき出すことに成功すると、カイトは四方八方から飛んでくる技をひたすらに避け続ける。しかしそんな技量はレイセニウスには存在しないため、先ほどまでポケモンたちが隠れていた岩陰に自分が入り込んで、その戦いを見つめていた。自分が全く貢献できていないことは分かっていたが、まぁ予想内であった。
 水鉄砲が三か所から飛んでくるのを身を屈めて避ける。時限の塔での傷が動くたびに痛み、体が軋むが、時限の塔であの時、アカネに触れていたおかげだったのだろうか。相当な怪我だったはずなのに、今こんな風に戦闘することが出来るくらいまでに回復しているのだ。
 カイトは水鉄砲を放ってきた一匹のカラナクシの背後に回り込むと、その首根っこを引っ掴みそのまま壁へと叩きつけた。体の水分量の多いカラナクシは、べちゃりという音を立てて地面に倒れ込む。そして背後から迫ってくる『バブル光線』を避けると、顔をぐりっと傾けて『火の粉』を攻撃元へ放った。カラナクシが倒れたのを確認すると、更にそちらへと攻撃を傾ける。攻撃してきたカブトの他にもう一匹近くにいたため『火の粉』を『火炎放射』に切り替えた。ジュウジュウと焼けていく音が聞こえ、火傷を負ったカブトとリリーラがその場で倒れ込んでいる。この時点ですでに五匹、戦闘不能にしていた。
 残るは二匹だった。カイトは相手が攻撃してくるのを待たずに『煙幕』を繰り出す。二匹の敵ポケモンの周りには黒い煙が渦巻き、カイトはその中に入ると息をひそめた。近くに接近してきたのを感じると、素早く『引っ掻く』でその相手を張り倒し、音を聞きつけてやってきた相手を『火の粉』で片付ける。
 こうして、七匹の相手が完了した。湿気の多い場所で暴れた所為で汗をかき、カイトは体のじめっとした部分を拭った。岩陰から『すげぇ……』と眺めていたレイセニウスは、敵がいなくなったのを確認すると警戒しつつも姿を現す。一撃も攻撃を喰らうことなく複数の敵を片付けたカイトの体は、地面を踏みつけた時に飛び散った水や泥、苔で汚れていた。
「………………」
「おい、どうしたんだよ」
 倒したというのに、やはり浮かない顔をしている。今の彼の心理状態なら仕方がないが、それよりももっと違うことを考えているようだった。
「……初めて僕がここに来た時、同じようにたくさんの敵に囲まれたんだ。
 ……けど、一匹じゃ全然対処し切れなかった」
 ――――いつのまに、こんなに強くなったんだろう。
 
 殆ど相手は苦手な筈の水タイプ。しかも相手は七匹で、それなのに自分は怪我を負っている状態の中敵からのダメージは一切なしで全員倒してしまった。最初のころ、アカネの『電気ショック』によってどうにか戦闘不能を免れたのだ。
 カイト一匹で、あの時の敵は八匹だったか。しかし、今のカイトならば、七匹だろうが八匹だろうが大して変わらなかっただろう。おそらく、あと十匹何処からか沸いてきたとしても、彼は変に焦らず確実に敵を倒すに違いない。カイト自身気づかない間に、彼はそこまで強くなっていたのだ。
 どこかで、あの頃のままのような、そんな気持ちがあったのである。
「…………お前が強くなったんだ。それ」
「……そうだね。うん。
 …………早く行こう。依頼人が待ってるから」
 そういうと、カイトはその部屋から早々に出て行った。レイセニウスも後を追う。

 強くなったことを、一匹で喜んだところで意味がない。本当は、二匹で。最初と同じ、二匹で喜び合いたかった。
 依頼を達成し、ギルドに帰省してレイセニウスと別れた後も、カイトの悲しみは続いていく。

 どこにもかしこにも、全てに思い出の痕跡が残りすぎていた。








 


 あいつは無意識にポケモンたちの目を避けているな、と。あの事件以来初めてあいつに会った時に思ったのがこれだ。その後仕事でダンジョンに同行したが、どこか心ここにあらず、という状態で戦闘をしているように見えた。それでも的確に敵を倒し、始終あいつが敵から攻撃を受けるということは無かった。あいつの戦闘能力は凄まじく、それこそ故郷に居た頃のあいつとは比べ物にならない程の力を得ていた。今のあいつならば、あの頃からまた随分と年を取った『FLB』のメンバーたちとやり合っても勝てるのかもしれない、と思う。
 あいつは昨日の時点で、世界を救った英雄となった。あいつの両親と同じような肩書を持つことになったのだ。
 伝えられた『物語』によると、ジェファーズ婦人のサラもまた、一度ガリュウに永遠の別れを告げているらしい。それはサラが元々人間だったことにより、『隕石衝突を阻止する』という任務を終えることでもともと住んでいた並行世界に帰還しなければならなくなったことより起こった現象だった。
 しかし、その任務に携わる者達の計らいでサラは戻ってくることが出来たらしい。
 この中に登場する『あいつ』……カイト・ジェファーズは、本当に両親とよく似た境遇を持ったことになる。あいつは、両親の肩書によって自らが好奇の目で見られることを極端に嫌っていた。
 今、アイツ自身が自らの肩書のおかげでそういう立場に立っている。あいつもそれを分かっている。だからあの頃の苦しい思い出が、無意識にポケモンたちを避けているのだろうか。
 それとも、自分だけの成功ではないのにも関わらず、誰かに讃えられることに罪悪感でも抱いているのだろうか。
 いずれにしても、サラ・ジェファーズとガリュウ・ジェファーズのような幸運は期待できないかもしれない。二匹は世界は違えどこの先も生きていくことが出来る運命にあった。しかし、アカネとカイトでは話が違う。
 アカネは既に、どこの世界からも『存在しない』という事になっているからだ。
 もっとも、あいつやほかの誰かがまた過去にさかのぼって、次は星の停止を食い止めることを阻止する側に回れば、アカネは消滅したりはしないのだろうが。
 今のこの世界でそんなことをする者は、一匹もいないだろう。時間は弄んではならない。それを皆がしっている世界になったんじゃないかと思う。
 アカネは帰ってこない……それが結論で、カイトはこの先も、英雄として讃えられ続ける。カイトはまた、自分の立ち位置から逃げるのだろうか。
 …………書いていて、すごく憂鬱になった。以上。

R・Mメモ ≪カイト・ジェファーズの心境≫より 

 




■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「ぶっちゃけキャラの中で一番デリカシー無いのって誰だと思う?」
へケート「さぁ?何にしても私には関係ないがな」
セオ「え?そう?君破壊光線レベルでひどいじゃん」
シャロット「うっわ、ブーメラン刺さってるよね」
レイセニウス「もうこいつの場合性格が悪いレベルの話じゃないからな」
へケート「言っていい事と悪い事が理解できないのだ。哀れな」
セオ「だから君には言われたくないんだよ!」
作者「ハハーセオ哀れ〜ぴへへ〜」
カイト「一番デリカシー無いのはやっぱ作者だね」
リオン「それな」
ステファニー「わざわざ言わないようにしてたのに」
アカネ「まぁ言ったって治らないもんね」
レイセニウス「作者については諦めようぜ」
ゼルネアス「屑は屑です」

作者「みんな割とガチな回答してきた。やばい心臓止まる」



ミシャル ( 2016/10/08(土) 22:57 )