親愛なるあなたへ‐192
――――――拝啓 親愛なるシャロットさんへ
突然の手紙、すいません。この手紙が届いている頃、もしかすれば、俺はトレジャータウンにはもういないかもしれません。貴方相手だとおもうと、どうしても敬語の方が書きやすくなってしまうので、敬語のままで書かせてもらおうと思います。
もともと文章を書くのはあんま得意じゃなくて、活字もそんなに好きじゃなかったんで、こういう時前置きに何を書いていいのかよくわかりません。ルーファスと手紙を出し合ってた時は、ただ状況報告をすればいいだけだったから、余計に、です。
すいません、どうでも良い話になりました。この手紙を書いた理由は、貴女に伝えておかなくてはならないことがあったからです。書こうか悩みました。ここまで貴女に教えてしまうと、運命に縛り付けているようで、躊躇ってしまいます。それでも、俺の口からは誰にもいう事が出来なさそうだから、手紙で貴女に伝えてみようと思います。
俺達の運命について。
シャロットさんは、『未来を変える』ということに関する本当の意味を知っていますか?もっとも、この事実に初めに気付いたのは未来の貴女だった……ような気がします。未来には時間という概念がないにも関わらず、貴女と過ごした『時間』は、まるでゆめのようでした。あの暗黒の世界で、あなたは俺達の中に灯る一つの光だったんです。
なんて、ロマンチック?なことを書いてしまうのは、読書好きだった相棒に触発されたんですかね。
話を戻します。手紙なのに、途中で読み返すと口で話すみたいに話の趣旨がずれてしまう。やっぱ俺、頭悪いですね。
……さておき。俺は、この革命計画に関する一番重要な点を、今まで皆に隠していました。
『未来を変える』
時の止まった暗黒の未来を、この時代において新しい光に満ちた世界に変えるというものです。俺達にとってそれは革命だし、今のシャロットさんたちにとってそれは継続。光がともる、普通の世界を継続することに当てはまります。
ただし、俺達未来を生きていた者にとって、やはりその行為は『革命』なんです。今から先、続いていく未来は『星の停止』の起こった暗黒の未来だと確定している。俺達がそれを知っている……だから、それを書き換えるということはつまり、俺達の知っている『世界』を、根本から作り替えることになるわけです。
図で書いた方が分かりやすいかな、とも思っていたんですが、俺は死ぬほど絵が下手だったのを思い出しました。分かりづらいかもしれないけど、このまま文章で説明させてください。
俺達のしっている『暗黒の未来』を根本から作り替えるという事は、つまり確定した未来を『なかったことにする』という事です。
星の停止が起こり、世界が暗黒時代に切り替わった時点で、沢山のポケモンが星の停止に巻き込まれ、事実上命を落としました。生き残った僅かな生き物たちで何とか命をつなぎ止め、俺はその命の連鎖によって暗黒の世界に生まれたんです。俺は勿論、アカネもルーファスもキースも……未来から訪れたと言うポケモンたちは皆、星の停止が起きたずっと後の世に生まれました。
星の停止がここで食い止められれば、俺達未来のポケモンも光のある世界を生きることが出来る……それが、理想でした。だけど、事はそう簡単ではなかった。それが、未来にて『星の停止存続派』が大半を占める理由です。
ここまで書いたら、もうお気づきなんじゃないかと思います。
『タイム・パラドックス』を知っていますか。時間と時間の間に生じる『矛盾』です。
星の停止が起きてしまう前に歴史を変え、この先も平和な世界が続くようにしてしまうと、訪れる筈だった『暗黒の未来』は一体どこへ行ってしまうのか。暗黒の未来によって出会ったポケモンたちと、そしてその間にできた子は一体どうなってしまうのか。
『暗黒の未来』は書き換えられ、『平和な未来』に変わります。つまり、『暗黒の未来』はなかったことになる。この世界からは切り離されてしまうんです。
当然、暗黒の未来という状況が作り出したであろう歴史も、その歴史の中で生まれた俺達自身も世界から切り離される。
だから、歴史が変わったその瞬間、俺達の存在は最初からなかったことになり、消滅するんです。
だからきっと、この先もしも革命が成功したとしても、生きて帰ってくるのはカイト一匹だけだと思います。俺もアカネもルーファスもステフィも、未来の存在だから。革命の成功は、俺達の消滅を意味する。
誰かに言うべきだったんだと思います。こんな形で伝えるべきではなかったとも思います。俺達が今から出発する場所が、革命に通じているかどうかは分かりません。けれど、星の停止について本当に時間がないのは分かります。
……すごい眠たくて、文章が可笑しくなっているかもしれませんが、俺が伝えたかった事実は以上です。
もしも…………本当に革命が成功して、俺が書いていることと全く同じことが起こったら、これをギルドの皆に渡してほしい。革命が成功するまで……もしくは、最悪の未来になってしまうまで。それまで、この手紙の中身は、貴女の中で秘密にしておいてもらえませんか。
アカネとカイトは、このことを知りません。本当は一番に話さなければいけない相手だと思います。
ずっと二匹を見ていました。本当に、チャンスならいくらでもあった。それでも言えなかったのは……二匹が一緒にいるところをずっと見ていたからこそ、辛くて言えませんでした。
……一方的にこんなことを打ち明けられるのは、本当に迷惑だしつらいとも思います。ここまで来て、俺も自分にちょっと引いていますから。未来で『存続反対』のポケモンたちのシャロットさんへの妄信具合は本当に凄まじかったので、進化もしていないあなたに押し付けてしまっているんだな……と。少し自己嫌悪に浸っています。
突然の手紙、本当にすいませんでした。では、どうぞご無事で。
――――リオン