ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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終章 時の降る雨空
揺蕩う者達の選択-188
 * * *

「落ち着いて!落ち着いて、移動してください!」
 アカネとカイトが、ディアルガと死闘を繰り広げているその頃だった。トレジャータウンでは、重大なニュースによって異様な空気がポケモン達全体を包み込んでいた。悲鳴や泣き声が其処ら中で響き渡り、理不尽な怒りや悲しみによって叫び散らす者まで現れている。警察や探検家、援助隊ギルドを中心に、住民たちの大規模な移動が行われていた。
 住民たちが目指す先は、既に完全に時が停止しているであろう場所……『キザキの森』だった。
 赤黒い雲は、速度は遅くとも確実にトレジャータウンの方へと迫っていた。雲がかかって一定の時間を超えると、一気にその場所の時は停止してしまうらしい。その前に、完全に時が停止しているであろう場所で一番近い地点……『キザキの森』を目指し、ポケモンたちは移動をしていた。
 キザキの森がとてつもなく危険な場所、という訳ではないことは、探検隊『クロッカス』達の証言によって警察は把握していた。今もそうであるとは限らないが、『時の破壊』が迫っている今、こちら側で待つ他無いポケモン達には、とにかく生き延びなければならないという使命のようなものがあった。
 しかし、様々な理由からその地を離れたがらず、移動にはついていかないポケモンもいた。警察や探検隊が説得に説得を重ねても揺らがぬ意志を持ったポケモンは、その地に置き去りとなる。
 当然、ポケモンたちはパニックになっていた。速くキザキの森へ向かわなければ、と足早になるものもおり、警察は行き交うポケモンたちの群れを先導し、整備しながら移動を進める。
 移動の手伝いには付近の探検隊ギルドの一つに、パトラスのギルドのポケモン達も駆り出されており、更に援助隊ギルドのポケモン達も混じっていた。トレジャータウンはかなりパニックに陥っていたが、移動する者達を誘導するポケモンが多くいたことで、『赤黒い雲』の話が伝えられた最初の頃よりかは大分落ち着きを取り戻している。パトラスは移動するポケモン達一匹一匹に励ましの言葉を書けるようにして、トレジャータウンから送り出していた。
 『キザキの森』はダンジョンである。当然、野生のポケモン達は外部のポケモンを襲うだろう。腕の立つ探検隊や警官が列の一番前や後ろ、中心に並び、慎重にキザキの森へポケモンたちを先導していた。不安気な面持ちのポケモンたちがぞろぞろと歩いている中で、泣き出している者や歯を食いしばり怒りや悲しみに耐える者も少なくはない。
「大体のポケモンは行ったでゲスかね?」
「おそらくな。私とトランでポケモンたちの家の中を探ってみたが、移動拒否したポケモン達以外は既に列に並んだようだ」
 トレジャータウンの、殆ど警察官や探検隊達で埋め尽くされた広場で会話をしていたのは、グーテとアドレーだった。二匹は、モタモタと準備をしていてなかなか終わらないポケモンを手伝ったり声を掛けたりしながらトレジャータウンを回る役目を受けていた。何とか作業も一段落したが、今度は自分たちが移動しなければならない番である。
 グーテはボッテリとした顔の眉間に皺を寄せると、何やら考え込むようにして黙り込んでしまった。
「…………そろそろ、私達も準備をせねばな…………」
「…………あっしらも、移動しなきゃだめでゲスかね…………」
「どういう意味だ?」
 そんなグーテの言葉に、アドレーまでもが眉間を寄せた。トレジャータウンは妙な焦りや不安に包まれていたが、二匹の間でもまた、妙に気まずい空気が漂い始める。その時、アドレーの隣にその息子のトランが顔をひょっこりと地面から突き出した。しかし、グーテとアドレーの妙な雰囲気を感じ取ったのか、トランは何も言わずに少し離れて様子を伺う。
「だって……アカネ達は、今もきっと戦ってるでゲス……仲間が頑張ってるってのに、あっしらは逃げてしまうなんて……それはなんか、いやでゲス」
「グーテ。嫌だと言っても、ここに留まっていればおそらく私たちも時の破壊に飲み込まれてしまうぞ」
「だから……どんな形になっても、帰って来たアカネ達を、ギルドで迎えたいと……そう思うのは可笑しいでゲスか?」
 グーテはアドレーにそう訴えた。アドレーは眉間に皺を寄せながら彼の話を聞いていたものの、ふと眉間の皺が緩む。暫く黙り込み、何かを考えているかのような顔つきを見せた。
 アドレーが何も答えない間も、グーテは彼を睨みつけるようにして答えを待っていた。
「…………なんだか、お前は…………アカネやリオン達がギルドに来てから、変わったな。前までお前は、そこまで自分の意見を強く言えるような奴ではなかった筈だ。アカネ達がギルドに帰ってきてからも、あいつらのことを一番に信じて宣言したのはお前だったか。
 ……お前の言う事にも一理ある」
 アドレーの目が笑った。グーテは眉間の皺を綺麗に伸ばすと、心底嬉しそうに顔をグイッと持ち上げる。アドレーの近くで話を聞いていたトランも、何故だか分からないが、グーテの言うことに心底納得していた。
 パトラスのギルド一出来る子であるトランは、自分の父親の先回りをするようにして地面へと潜り込み、パトラス目指して進み始めた。

 一方、警察署の方では、殆どの警官がポケモンたちの移動に駆り出され、残ったポケモンたちは会議室であれこれと議論を交わしていた。巨大な会議室の中に飛び交う声の中には、他の地域の活動にも手を貸すか否か、という議題が見られる。
 そんな様子を会議室の隅っこの方から見つめているポケモンが何匹か存在した。その中に、シャロットやゼノヴィア、レイセニウスやセオも混じっていた。シャロットとゼノヴィアは非常事態の為に一か所に固まって欲しいと言われ、この場所へ連れてこられた。そしてドナートと共に警察署へとやってきたレイセニウスも、急激に動き出した状況によりこの場所へと放り込まれたのだ。その際に、まだ警察署の近くをうろうろとしていたセオもこの中に同じく放り込まれてしまったという訳である。
「あぁー……えーっと……シャロットー……えぇーっとぉ…………」
「あの、ラルクさん。ホスピタルにいるポケモンたちの移動はどうなさるんですか……?」
 セオが、深く傷ついているであろうシャロットにどう声を掛けようかと考えているうちに、シャロットはホスピタルで治療を受けているノギクの事が心配になり、ラルクへと問いかける。その問いかけに、ラルクは一瞬心底困ったような顔をすると、言いにくそうにして答え始めた。
「はい…………病気や怪我が軽い……所謂治療機器をそこまで必要としないポケモンは、問題なく移動させられると思うんですが……ノギクさんなどの、油断が出来ない重症の方は、動かすのが困難です。
 キザキの森は、殆ど建物などがありません。環境も、怪我の治療をする上で清潔とはいい難い……彼女たちに関しては、『奇跡』が起こることを願うしか」
「そんな…………」
 『奇跡』……即ち、アカネ達が『時限の塔』に時の歯車を納め、時の破壊を完全に食い止めるということだ。
「『時間』は、確かに失われつつあるかもしれません。しかし、それでもまだ残っているんです。 
 最後の最後まで……それこそ、時の破壊が世界を全てのみ込むまで、諦める訳にはいきません。大丈夫です。……きっと、大丈夫」
「そうだって。あいつら妙に強いからさ、きっと大丈夫だよ。未来でだって殺されずにちゃんと帰って来たんだしさ、今回もいけるって」
「そ、そそそ、そうだよ!ね!」
 ラルクに続いて、レイセニウスがシャロットを元気付ける中、とりあえず便乗しておこうというノリでセオもそうシャロットに語り掛ける。シャロットの目には涙が滲んでいたが、やがて何かを決心したかのように顔を引き締めた。
「あたし……キザキの森へは行きません。ホスピタルに……ノギクさんの所に行って待ってます」
「え!?ちょ、何を言っているの!?」
 シャロットの母、ゼノヴィアが驚いたように目を大きく見開き、二足で立ち上がるとシャロットの肩をがっちりとつかんだ。シャロットは片足を上げて、ゆっくりと母を引き離すと、軽くゼノヴィアを睨みつける。しかし、ゼノヴィアはそんな小さなことでは引き下がらず、体を更にシャロットへ近づけて負けじと睨みつける。さすがナンタラ大会のチャンピオンということもあり、それは小柄な体にしてかなりの迫力だった。
「あたしは、移動しないの。ノギクさんの所に行く」
「どうして?」
「その…………」
 理由を尋ねて、どもるシャロットに対し、ゼノヴィアは更に厳しい目つきで彼女を見据えた。また危険な目に合わせて、子供を死なせかけてたまるかとばかりに、更に彼女へと詰め寄る。
「あなたがそのノギクさんという方の所に行くとして、それならしっかりと理由を説明をして。私を納得させなさい。
 可能性に掛けて子供の言う事ホイホイ聞く程、私は甘くないわよ」
 ゼノヴィアはそう言ってシャロットを引き留めた。今にも警察署を飛び出していきそうだったシャロットは、彼女のその言葉に思いとどまり、その場へとゆっくり座り込む。
「ノギクさんはあたしを逃がした所為であんな酷い怪我を負った。またあたしだけ逃げるのは嫌なの」
「言いたいことは分かる。けどそれは、ノギクさんが助けてくれたその命を無駄にするってことと紙一重なのよ。分かってる?」
「分かってる。けど、彼女は死にかけてまであたしを助けてくれた。やっぱりここでまた逃げたくない。それに、あたしはアカネさんたちを信じてるから、キザキの森じゃなくてこっちで待ってたいんだよ。お母さんは確かに強いけど、それ以上にクロッカスは最高のチームだと思う。こんなこと言うのはアレだけど、妙に確信をもってそう言える。絶対大丈夫だって思ってる」
「シャ、シャロット!けどさ!それってやっぱり可能性だって!失敗する可能性の方が高いのがみんなわかってるから移動してるんだし、星の停止が起こっても生き延びる道はあるんだからさ!」
「セオは黙ってて!!」
「!ッ…………だ、黙らないね!!シャロットが別に星の停止と何にも関係ないポケモンなら僕だってここまで言って止めないし!そこまで言うなら勝手にしろって思うしさ!?
 けど、皆がシャロットを守って来た意味はどうなるわけ?何でリオンがわざわざ君を守ってたの?未来で君があのポケモン達を先導する役目を担ってるからでしょ?言ってる事可笑しいんじゃないの!?自分の立場分かってる!?君が死ぬって事は君やそこのお母さんだけの話じゃないんだって!!君が今星の停止に巻き込まれるって事だけでこっちは大迷惑なんだよ!」
「そんな起こっても無いことで縛り付けないでよ!!!」
「やっぱ君はホント馬鹿だよね!現に未来では起こっちゃってるからリオンやアカネさんが来たんだろ!?未来のこととは言ってもそんな未来の自分を知ってるポケモンが目の前に何匹もいたじゃないか!そういうことへの責任って、君が何才だろうがいつの時代だろうがあると思うけどね、僕は!!」
「ッ……!それはっ」
「はいはい、ストップストップ。落ち着けそこの二匹」
 ガミガミとお互いの意見をぶつけ合う二匹の間にひらりと滑り込んだのはレイセニウスだった。涼し気な目元を細めて二匹をお互いに引き離す様にして真ん中に入り込む。二匹とも本当に噛みつき合わんばかりに頭に血が上っているようだった。レイセニウスは窘めるようにしてシャロットの頭のふわふわとした部分をポンポンと撫で、セオには掌に力を入れて軽く頭にチョップを入れた。じんわりとレイセニウス自身の手が痛む。こいつ、石頭だな……と、初めて気づいた瞬間だった。
「お前ら自分の言いたい事ばっか言い合ってもしょうがないって。決着つくわけないじゃん」
「……っ。すいません、あたしたち、昔からずっとこうで……」
「成程ね。チーム解散って、こういう訳だったの」
 ゼノヴィアが、少し驚いたような顔をしてそう言った。当たり前だった。シャロットは、セオと激しく言い争う場面を母親の前では見せたことが無かった。セオも、悪い印象を持たれぬよう、彼女の母親に出くわしたとしても慎重に発言していた。
「嗚呼……まぁ、こういうことです……すいませんでした」
 シャロットとセオ、先ほどの言い争いでかなり体力を消費したようだった。シャロットは首を前に傾けて、肩で息をしている。セオもその場にべったりと座り込んだ。レイセニウスは腕を組んで首を傾げると、二匹の主張をまとめ始める。
「……ん。まぁ、傍から聞いてたら双方納得できるとこはあった。
 セオの言う、シャロットちゃんが死ぬことは哀しいとかそれ以前に大迷惑だって話も理解できる。今回のアカネちゃんたちの計画だって、根本はシャロットちゃんいてこその計画だったみたいだしな。歴史が繰り返すとき、またシャロットちゃんが動いてくれれば、皆集うことが出来る……か。それは確かに、歴史を繰り返しているうちに世界を救うという事に繋がるかもしれない。だから、シャロットには生きていてほしい、と。今回も、世界を救えるかどうかは可能性的な話で、そんな運任せに出来る問題じゃないと……今のシャロットにだって、『責任』があると。そう言いたいわけだよな。セオは」
「…………そうだね」
「シャロットちゃんは、アカネちゃんたちが星の停止を食い止めるのを信じて待つ選択だよな。
 未来の自分と今の自分は、切り離して考えてるように聞こえたけど、別にそうじゃないんだろうなって思う。っていうのが、やっぱりリオンからカミングアウトされてすごい悩んでたの知ってるからさ。
 けど、こうも考えていいと思うんだよな。俺の意見だけど、俺も今のシャロットちゃんにも責任があるっていう意見には共感だ。けど、今のシャロットちゃんにも責任があるからこそ、仲間を信じて待つっていう選択肢も有りなんじゃないかと思う。シャロットちゃんがそれを言い訳にするのは違うと思うが、意識さえ変えれば、また別の意味がでてくるんじゃねぇかな。シャロットちゃんのお袋さんが言う事とはちょっと別の問題になるかもしれないけどさ、そのことに対してもそう考えてみれば、少し違うんじゃないかと思う。どうだ?」
「なんか気障でムカつく」
「おい黙れモラハラ野郎」
 落ち着きを取り戻したであろうセオが、口を尖らせながらそう言った。せっかくかっこよく言おうとしたのに!と、レイセニウスはセオの頭を指でコンコンと小突いた。暴力反対、とまだ減らず口を叩くため、もう放っておこうとさえ思ったところだった。
 ゼノヴィアも何か納得したかのようにシャロット、レイセニウス、セオを順番にじっくりと見ていき、また目を逸らす。そして、シャロットもセオも、場が少し冷静になった後で、ゼノヴィアは再び質問をした。『本当にキザキの森に行く気はないのか』ということだ。
「…………ありがとうございます。レイセニウスさん。
 あたし、やっぱりホスピタルの方に行きます。……セオの言ってることも分るけど、それならあたしは、レイセニウスさんの考え方に賛同する。信じてるから、アカネさんたちの事」
「…………じゃあ、私も一緒に行くけど。そこは妥協して頂戴ね」
「う、うん……わかってる」
「……しかたないな」
「まぁ、とりあえずこの件は一件落着ですかね。……僕としては、やはり残るのは反対ですが……」
「ハハ、水差しちゃ駄目っすよ」
 
 生暖かな空気が流れたが、それぞれの方針は決まったようだった。シャロットとゼノヴィアはホスピタルへ、レイセニウスやセオは実家へ連絡の後、移動。
 パトラス率いる探検隊ギルドのメンバーたちは、ギルドにて待機することを選択した。
 破滅の足音が聞こえる中で、着々とそれぞれの覚悟が固まっていった。



 

■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

カイト「僕、好きな子がいるんだ」
作者「うん。知ってる」
カイト「まん丸でキラキラしてて、でもちょっとクールな目に、ふわふわの黄色い毛で、すごくかわいい刺激的な子なんだけど」
作者「(お、line来てる。うっわゼルネアスさんからだ)」
カイト「僕の幼馴染がなーんかその子のことをちょっと厭らしい目で見てる気がしてさ」
作者「(めんど……yo-tubeみよ)」
カイト「もともと女の子に関しては評判よくない奴なんだよ……うぅ」
作者「(sn●wか……最近のアプリってプリクラより盛れるのか)」
カイト「けど、僕が近くに居れば大丈夫か……あいつバトルは全然だめだし……大丈夫か」
作者「(やべぇメッチャ盛れる)」
カイト「僕頑張るよ!あの子を守って見せるさ!よーしがんばるぞー!!」
作者「へぇ、うふーん…………(やっべぇ作者メッチャセクシー!!)」


ミシャル ( 2016/09/19(月) 12:51 )