世界を託して‐181
* * *
何という、再生力と執念だろう。
遺跡の頂上。虹の石船であろう場所の上にて、カイトはキースを目の前にそう思った。腹部に重傷を負ったキースが、下でへケートたちが戦っている間に息をひそめながら遺跡の上へと上がって来たのだ。あそこまでのダメージを負って、本当なら攻撃なんて出来る筈も無い。それどころか動くのもままならない筈なのだ。
キースは遺跡の上でカイトと対峙していた。彼は殆ど動くことも出来ず、体を地面につけた状態だったが、その目は明らかにカイトを攻撃するつもりでいた。遺跡の欠片を握りしめた拳の力が強くなる。これは渡すわけにはいかない。欠片がカイトを選んだのだから。
「キース…………」
「私は諦めないからな……ッ……カイト!!」
キースは悪の波導をカイトに向けて放った。カイトは地面を力強く蹴ると、悪の波導を回避する。そしてキースを虹の石船から遠ざける為に『火炎放射』を放った。動くことができないキースは、火炎放射をモロに受けながらも腕を盾にして必死に耐えていた。ここで倒れるわけにはいかない、気を失ってしまってはすべてが終わりだ。そんな狂気染みた感情がカイトにもじりじりと伝わってくる。そして、もう動くことが出来ないキースに攻撃を続けるのは良心というものが痛んだ。カイトはもう十分だろう、と思い攻撃を辞める。キースは体中に火傷を作りながらも、憎しみのこもった巨大な目でカイトを見据えていた。
「なんでそこまで……ディアルガに従うんだよ」
「お前に、分かるわけが無いッ……あの世界で生まれたポケモンになど…………恐怖と……ぐぅっ……絶望に、満たされた……私達のことが…………ッ……」
「それは……」
「カイト!!」
誰かが階段を駆け上がってくる音がした。アカネ、リオン、ルーファスだった。それに続いてへケートがゆっくりと階段を駆け昇ってくる。キースが居ないことに気付き、ここに居ると踏んできたのだ。ボロボロで火傷だらけのキースをもう一度見て、カイトは『もう大丈夫だ』と言おうとした。その時だった。
キースは大きな唸り声を上げ、今度こそ渾身の力で、体の中に余った全てのエネルギーを掻き出し、不意打ちでアカネに『悪の波導』を放った、悪の波導に当たりそうになったカイトは驚いて退いたが、その後すぐに後悔した。『悪の波導』はアカネに向いている。そして、あまりに急な事にアカネは対応し切れていなかった。このままでは当たってしまう。
「アカネ!!」
「ッは…………」
黒い波導が迫ってくる。アカネは頭を腕で庇い、強く目を瞑った。そして、大きな衝突音が轟く。そして、男が痛みに耐えるように叫ぶ声が耳に大音量で入り込んできた。それに気づいて目を開くと、目の前に緑色の背中が佇んでいる。直ぐにルーファスだと気づいた。
「ルーファス……!」
「アカネを庇ったか、ルーファス!!しかし、今の攻撃で相当なダメージを負った筈だ!!このままへケートと戦っていても力尽きるのは時間の問題だろう!」
「……………………時間の、問題……か。そうか……そう、かもな………………!!!」
体の傷を抱え、俯いていたルーファスが顔を上げてキースを睨んだ。脚に強い力が入り、地面を思い切り蹴り飛ばした。有り余る力すべてを振り絞り、キースの方へと凄まじいスピードで迫っていく。どこにそんな力が余っているのか。へケートも予想しておらず、動揺を見せた。すぐさまサイコキネシスでとらえようとしたが、それに気付いたリオンが『真空波』をへケートに撃ち、立て続けに『はっけい』を繰り出した。その妨害によりサイコキネシスは当たらず、サイコキネシスを免れたルーファスはキースの目の前まで迫る。キースの何倍の細い腕でキースの両腕を拘束すると、地面を再び蹴って遺跡の下へと飛び降りた。
「あああああああああああルーファス!!!やめろ!!とまれェ!!!」
へケートは、ルーファスが何をしようとしているのか察した。そんなことはさせない。そんなことになってはならない。美しい顔立ちが鬼のように醜いものへと変わっていく。半ば叫び散らすようにしてルーファスを追ったが、それをリオンが阻んだ。リオン如き、蹴散らそうとへケートは『電光石火』で迫るが、リオンはそれを待っていた。勢いよく足を振り上げ、足先に力を込めて振りかざす。すると、リオンの体を赤い炎が包み込んだ。『ブレイズキック』である。今まで不完全だったという理由で使っていなかった技だが、へケートの足止め程度にはなる。そう思っていた。
リオンも、ルーファスが何をしようとしているのか察してたのだ。『別れ』を告げられなくてもいい。革命が成功すれば、きっといつかこの先の世界で出会える筈だ。それが黄泉の国であっても、地獄の底であっても。
「リオン!!」
「俺はこいつ止めとく!!ルーファスのとこに行け!!」
カイトは心配そうな顔でリオンを見た。おそらく長くは止めていられないだろう。そんなことは分かっていた。リオンはもう一度『行け!』とカイトに叫ぶ。へケートのサイケ光線が頭スレスレに飛んできた。格闘タイプのリオンは、それを受ければ致命傷にもなりかねない。モタモタしてはいられないのだ。アカネとカイトは、へケートをリオンに任せると、遺跡の下へと降りて行った。
「邪魔だ…………」
「邪魔してんだよ!!」
リオンはもう一度『ブレイズキック』を繰り出すが、次はサイコキネシスによって足を止められた。そして地面へと叩きつけられる。リオンが動きを止めれば、へケートは直ぐにルーファスを追ってしまう。動かなくては。動き続けなくては。リオンは痛みなどに厭わず立ち上がった。そして『はっけい』を再び繰り出す。へケートはそれを避け、『シャドーボール』をリオンに放った。避ける為に体を屈めるが、背中を霞めるようにして通り過ぎて行った。背中は火傷をしたようにじりじりと痛む。
「退け!」
へケートは目を大きく見開いた。『サイコキネシス』を使うつもりだ。リオンは瞬時にそう判断し、『影分身』を使ってそれを回避した。影分身は相手の注意が散漫になる上にスピードが上がる。エスパータイプ相手であっても有効な技だった。
これが普通の勝負ならば、へケートはこれほど動揺したりはしないのだ。しかし、へケートの今の目的はリオンではない。ルーファスだった。彼女自身も、何故ここまでルーファスに執着しているのか、本当は分かってはいないのだろう。しかし、今リオンを殺したところで征服欲も何も無い。今の彼女にとって、リオンは本当に邪魔なだけの存在だった。殺す価値も無かった。
一方で、遺跡の下へと駆け下りたアカネ、カイトの二匹はとんでもないものを目にした。ルーファスはキースの重い体を引きずるようにして、時空ホールへと向かっていたのだ。ルーファスは、キースを道連れにして未来へと帰るつもりだった。手負いのキースが一度未来へ帰ってしまえば、直ぐにまたタイムスリップをしてくることは出来ない。ルーファスは遺跡の下に降りてきた二匹にそう伝えた。
「ちょっと……ちょっと待ってよ!!」
それを聞いてカイトは動揺し、ルーファスを引き留めようと手を伸ばす。しかしルーファスは首を横に振ると、暴れるキースの腕を更に強く掴み上げた。一瞬だけ片方の手をキースの体から離し、素早く自分のバッグの中に入っている巾着袋を手に取ると、二匹の方へ放り投げた。地面に落ちた巾着袋の中身は、五つの時の歯車だ。時の歯車は巾着袋が地面に落ちた衝撃で、音を立てながら床に散らばる。
「投げ出すようで悪いが……俺はおそらく、もう二度とここへは戻ることはないだろう!カイト!!アカネの事を頼んだぞ!!」
「そんな・・・・‥僕ルーファスの変わりなんて僕出来ないよ!」
「いや、お前ならできる!やるんだ……お前達は、最高のコンビだッ!
アカネも……クロッカス。俺はお前にもう一度再会できてうれしかった。幸せだった!別れは辛いが……あとは、頼んだぞ!!」
キースは、ルーファスの腕から逃れようと尚も必死にもがいていた。キースの目の前には時空ホール。そして、あともう一歩踏み出せばその黒い穴の中に吸い込まれることだろう。キースだって命がけだった。しかし、怪我の所為で力は殆ど出すことは出来なかった。ルーファスに念を押す様にもう一度押さえつけられ、動くこともままならなくなる。
「……叶うのなら、シリウスにも伝えてくれ。後は頼んだ。……と。
ッ待たせたな!キース!帰るぞ……俺達の世界に!」
ルーファスはそう叫ぶと、キースの腕を固定したまま力強く地面を蹴り上げ、時空ホールへと身を投じた。
体が宙に浮いた瞬間、全てがゆっくりと時を刻んでいるように見えた。泣きそうなアカネとカイトの顔も、どこからか溢れ出す自らの涙が目の前に浮かんでいるのも
(…………嗚呼………‥)
『――――――シャロットさん。何故、消えてしまうとわかっていながらここまでできたんですか?』
『………………時が刻まれていた世界を知っている。だからこそ取り戻したいの、あの頃の……太陽の下で輝いていた笑顔を。朝も昼も晩がやってくるのも……当たり前だったことも、すべてが愛おしく、すべてが懐かしい』
『皆に申し訳ないんだが……俺には未だによくわからないと思うことがあるんです。自分がどうするべきか……どうしたいのか…………』
『消えたくない……という思いは、何も悪い事ではないと思うわ。この世界にだって、一部には幸せに暮らしているポケモンたちが居る。それを崩してまで、あたしは自分の考えを押し付けているのかもしれない。あたしはこの世界で生まれたわけではないし、きっと完全に存在が消滅するわけではないと思うわ。だから、命の重さを考えないサイコパスに見えても仕方がない……。
……けれど、一つだけ言うならば。暗闇の中に浮かぶ満開の星空も、澄んだ青い空も、流れる雲も……照らしつける太陽も、淡く光る月光も。きっと実際に見れば分かると思うわ。何故これを守りたいのか……。
それが分かるのは、まだ大分先になりそうだけれどね』
まるで、走馬灯のように。自らの『母』とも言えるポケモンとの思い出が流れて行った。この時代のあなたにも、会いたかった。そんなことを思ったところで、辿り着く先は暗黒の未来。
……しかし、だ。
(―――――――シャロットさん。
初めて見た青空も、星空も、月も、太陽も……『朝日』も。涙が出る程に美しかった。想像を遥かに超えて、俺のちっぽけな理想なんて比でも無くて。言葉で言い表すことなんてできない。
この世界に来て、初めて、本当の意味で。あなたの気持ちが理解できました。
………………時が刻まれる世界が、どれほど素晴らしいものなのか…………それを守りたかった、あなたの心が……。
だから、待っていてください)
ルーファスは、呆然と見つめているアカネとカイトの二匹に向かって、微かに笑いかけた。まるで、二匹を励ましているようだった。
キースの断末魔のような叫び声が響く。そして、ルーファスの体は黒く渦巻く穴の底へと沈んでいった。『時空ホール』は、それを確認したかのように、ゆっくりと口を閉じた。
ルーファス・レッドフィールドは、今度こそ完全に、この時が流れる世界から姿を消したのである。
時間が無い。にも関わらず、アカネとカイトはしばらくの間沈黙した。そして、それを打ち破ったのはカイトだった。
「…………ルーファス……笑ってたね」
時空ホールが消えた場所を見つめながら、カイトはそう言った。へケートとリオンが激しく争う音が遺跡の下まで響いてくる。ルーファスが事を行うまでの足止めには成功したようだ。カイトは、ルーファスの言葉を胸に刻み込み、地面に散らばった時の歯車を集め始めた。その一つ一つに、ルーファスの思いが詰め込まれているような気がして、拾っていく度に、カイトの目は潤んでいった。泣いてはいけない。泣くのは全て終わった後だ。そう思い、カイトは涙を堪えた。
アカネも、足元に転がっていた歯車を一つ拾い上げた。歯車を見つめているうちに、ルーファスの顔が頭に浮かんでくる。『アカネ』として、そこまで長い間一緒に居たわけではない。しかし、彼は間違いなく、人間だった頃のアカネの相棒だった。ルーファスが、アカネに向ける言葉の一つ一つから、果てしない友情のようなものを感じていた。
アカネは巾着袋を拾い上げると、その中に一つ、歯車を入れる。そしてカイトの方へ近づくと、巾着袋を手渡した。
「……行こうか」
「……うん」
* * *
一方、過去の世界。まだ時の停止が起こる前の世界では、とある事件が世間を騒がせていた。それは現在進行形で各地に広がっており、そのスピードは凄まじいものだった。
「重傷者が約三匹だ!!早急にホスピタルに搬送しろ!」
黒く焦げた建物の前で、一匹の巨大なウインディは多数のポケモンたちに対してそう吠えた。事件の現場は凄惨な有様だった。まだ死者は出ていないようであるが、犯人は逃亡。重傷者は三匹、警備に当たっていたポケモンと、調理担当のポケモンだった。火災、そして中で激しく争った痕跡などが見られており、さらに通報者……シャロットの証言により、現在犯人が捜索されていた。
焦げた建物は、シャロットを保護するための隔離施設だった。そこに毎回警備のポケモンたちを充てていたという話だったが、結局まんまとシャロットは襲撃され、建物はほぼ使い物にならない状態になり、重傷者もでた。不幸中の幸いかどうかは分からないが、シャロット自身は火災による『貰い火』の影響で殆ど怪我などは無かったらしい。火は駆けつけたポケモンたちによって消し止められたが、現在重症の三匹を搬送中だ。
「ヘルガー……あのヘルガーですか?」
ラルクは、メモを取りながらドナートにそう尋ねた。ドナートは苦虫を噛んだような顔をすると、小さく頷いて気分が悪そうに眉間に皺を寄せる。
「嗚呼、あのシェイミの里襲撃事件の犯人だな。もう何年も前の話になるが……特徴が奴と一致する。ったく、とんでもない奴だな……」
ドナートはそう吐き捨てるも、その大半は自分へのイラ立ちであった。易々とシャロットを襲撃させてしまった挙句、重傷者を三名出し、その上犯人は逃亡中。行方がつかめていない状態である。
その犯人が数年前に起きた事件の犯人である可能性があるならば、それはもう警察の失態であった。何年も放置してしまった末路がこれなのだから。
「しかし……犯人のあのヘルガーがシャロットさんを襲撃したという事は、ヘルガーはキース達と何らかの関係があるという事なんでしょうか?」
「いや、それは分からん。キースは未来から来たポケモンだ。ディアルガとやらの力を使えば時間を行き来するのもそう難しい事じゃねぇだろうし……多分。
この世界に元々住んでるポケモンの力を使う理由も分からん。俺達が何年探しても見つからなかった野郎だ。物知りってだけで見つけられるもんでも無いだろ」
「じゃあ、ヘルガーは一体誰に頼まれたんでしょうか……」
ヘルガーは明らかにシャロットを狙って犯行に及んだということが彼女の証言から判明している。今までシャロットが狙われていた理由は、キース達による彼女の存在の抹消だったはずだ。そう考えるならば、当然ヘルガーはキース達に依頼された……という事になる。
しかし、それでは少し不自然だ。筋を通してしまおうをすれば通るのだが、それでも少々歪になる。
「今シャロットちゃんは?」
「署に居ます。聴取を行っている最中だと……」
「そうか……ちょっとは休ませてやってくれよな。あと、奴の存在が出てきた以上一匹にするわけにはいかんことを忘れんなよ。
お前は一足先に署に戻れ」
「了解しました、警部補」
ラルクは小さく敬礼をすると、バッグの中にメモ帳を仕舞いこんで警察署へと帰っていく。ドナートはそれを見送りながらため息をつくと、再び惨状に目を向けた。
どこもかしこも焦げて、辛うじて形をとどめているような状況だ。室内から発見されたノギクは、火傷を負った状態で重症だった。しかし、体に切り傷などがあることから、直接的な原因は犯人と争った為だと推測され、シャロットの証言からもそれが裏付けられている。何とか形を留めているこの黒こげの建物がもし崩壊していれば、おそらく彼女の命は無かっただろうと思われた。
「おい、しつこいぞお前!」
「いや、教えてくださいよマジで。今回の件は、時の歯車事件と関連性があるんすか?」
「まだ調査中だ!部外者は立ち入るな!」
一匹の捜査員……種族はグラエナ。名前は忘れたが、ドナートは彼の顔に見覚えがあった。グラエナの彼は、先ほどから絡みついてくるポケモンに対して嫌悪感をあらわにしていた。そこそこ優秀な捜査員らしい。どうも鼻が利くとか。それはいいとして、そんなグラエナの彼が心底嫌がっている相手とは、大きな体をした一匹のフローゼルだった。顔はそこそこハンサム。ああ、俺あいつ知ってるわ。その顔を見た瞬間、ドナートはそう思って大きくあくびをすると、二匹に近づいた。
「よぉ、レイセニウス」
「嗚呼、ドナートさんじゃないっすか。ねぇ、事件のことを教えてくださいよ。このポケモンさっきから何も教えてくれないんですよー」
「だから、教えるわけにはいかん!ところで、お知合いですか?警部補」
「嗚呼。こいつは被害者の友人っていえば友人かな。記者ごっこの真っ最中なんだ」
「ひっでー……」
チャラチャラした外見で事件のことを教えてくれと捜査員に絡むのだから、ただの野次馬だと思われるのは当たり前である。実際まだまともに記事を書いたことも無いので、野次馬と言われればそれまでだ。捜査員のグラエナはレイセニウスを軽く睨みつけた。刑事の目である。レイセニウスは媚びを売る様に作り笑いを浮かべた。気色が悪い、と捜査員はフン、と小さく鼻を鳴らす。
「うん、うん。あとは俺がやっとくから、お前捜査戻っていいぞー」
「はい」
離れていく捜査員を見ながら、レイセニウスはべー、と舌を出した。そんな様子を呆れたように見つめながら大あくびをするドナートは、死んだ魚のような目をしてレイセニウスの方へ再び目を向けた。
「記者ごっこだか探偵ごっこだか知らんけどな、俺は今珍しく初っ端から真剣なんだ。あんまかき回すんじゃねぇぞ」
「まさかそんなことしませんて。記事にできるくらいの力量もまだ殆どないしね」
「嘘つけ。出版社に持ち込んで保留中だろう。知ってるぞ」
「良いじゃないっすか。とにかく付き添うだけ付き添わせてくださいよ」
「あんま中まで入ってくんじゃねーぞ」
フン、と鼻から息を勢いよく吐き出すと、ドナートは捜査官の方に調査の進み具合を尋ねに向かった。レイセニウスは足音を立てないように、足跡を付けないようにそうっとそうっと後ろからついていく。
「まず足形が一致しました。シェイミの里襲撃事件の犯人で間違いないかと思います」
「そうか……弱った。まぁ奴の風貌は特徴的だしなァ……探ってみれば目撃情報も結構あるかもしれない。今まで姿を暗ましていたが、ようやく手がかりがつかめるかもしれんな」
「あの、ちょっといいっすかね」
レイセニウスが会話の中に飛び込んで行く。捜査官とドナートは目を細め、『どうした?』と尋ね返した。レイセニウスはしばらく考え込むようにした後に、ドナートが他の話を切り出そうとしているのを察して無理やり自分の話に切り替えた。
「シェイミの里襲撃事件て言うと……もうだいぶん前に同一のポケモンが事件を起こしてるって事っすか?」
「嗚呼、まぁな……他にペラペラしゃべんなよ、お前。
シェイミの里っつー、シェイミって種族のポケモンが密集して暮らしている場所がある。そこに以前、炎が放たれて大惨事になった。犯人も暴れまくってな……まぁ、被害も相当なもんだった。
シェイミ達の証言や、そこに残されていたシェイミ以外の複数の足跡から犯人を割り出して、犯人を辿ってたんだ。
その犯人の足跡と、今回の事件で残されていた足跡が一致した。もう何年も前の話だ」
「それ、本当にキース達の仲間なんすか?さっきの捜査員の反応を見るに、時の歯車事件と関連ありまくりって感じではあったけど……。
それ聞くと、どうも怪しいっすね」
「嗚呼。俺もそう思ってはいるんだが……今んとこキース関連しか情報が無い。そもそもこの施設はシャロットちゃんをキース達から守るための者だったからな……キースと関係が無い、とすると参っちまう」
ドナートはため息をつくと、黒焦げになった建物を見つめた。
まぁ、結局守れてないのは変わんないんだけどな。と、吐き捨てるように事件現場にそう言った。