ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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十一章 幻の大地
古代遺跡‐178
 * * *

 強い。
 幻の大地に潜むポケモンたちは、かなり強い。その一言に尽きた。ポケモンと戦っている時間など殆ど無い四匹は、喧嘩を吹っかけてくるポケモンも出来るだけかわし、油断しているポケモンからは目を付けられない様、出来る限り離れて行動していた。しかし、幻の大地のポケモンたちは強いことにプラスして、かなり荒々しい性格をしていた。時限の塔に近い為か、周辺の時は停止していなくとも、時間の歪みの影響が出やすいらしい。ダンジョン内で縄張り争いのようなことをしている場面にも何度か遭遇した。そんな所を見る度、未来での理性を失ったポケモンたちの事を思い出す。
 ダンジョン内の細い通路を、巨大なポケモンが塞ぐ。そんなときには戦闘せざるを得ない。巨大なタテトプスが行く手を阻みながら攻撃を仕掛けてくれば、相性的に有利なルーファスが応戦してタテトプスの意識を奪った。ルーファスでも多少手こずるレベルなので、アカネやカイト、リオンもかなり苦労していた。
「流石幻の場所とあってか……強いな」
 ルーファスは反撃された時に付いた汚れを軽く拭いながら言った。地面には草が生い茂り、花が点々と咲いているにも関わらず、この『幻の大地』では『砂嵐』のような悪天候が多い。しかも、アカネの電気技が通じない相手である『避雷針』の特性を持つポケモンも生息しているのだ。ルーファスやリオンに有利なポケモンが多い為、絶対的不利と言う訳ではなかったにせよ、かなり行動を制限された。
 とにかく急がなければと、四匹は出来る限りポケモンたちを振り払い先へ先へと進んで行く。階段を十個は通過したとき、中間地点らしき場所が見えてきた。ガルーラ像が佇んでいる。四匹はその空間へ足を踏み込むと、安心したように腰を下ろした。
「ここに来るまでに相当疲れたわ。オレンの実と復活の種、あと何個?」
「うぅん、怖いから数えたくないな……」
 カイトは目を細めながらバッグを開き、中に入っている道具を探り始めた。
 『復活の種』とは、瀕死状態に陥ったポケモンでも飲み込めば健康な状態に回復できる……と謳われる、夢のような道具である。実際にかなりの回復効果があり、探検家達の間では重宝されている道具なのだ。アカネ達はこの道具を滅多に使おうとはしないが、流石に今回の件では大量に持って来た。
「……うーん。復活の種はまだ一個も使ってないから結構あるね。オレンの実も同じだけど……今使う?」
 カイトはアカネ、リオン、ルーファスを順に見渡した。大きな怪我はしていないものも、皆擦り傷などはあるようだ。今ちゃんと回復しておいた方が良いのではないか、と言う意味合いでカイトは言ったのだが、ルーファスは軽く首を横に振った。
「いや、俺はいい。特に大きな怪我もしていないし、擦り傷位なら痛くもかゆくもない」
「じゃ、一個を四つに割って食べるのは?疲れは少しでもとっといた方が良いでしょ」
 アカネがそう言ったので、一つのオレンの実を四つに割ってそれぞれ食べることにした。ほぼ一口で終わってしまうくらいの大きさだが、それなりに回復効果が見られたのか、皆先ほどまでの疲労は飛んだようである。
「……じゃあ、行くか」
 そう言うと、それぞれ腰を上げてバッグを肩にかけ、また『幻の大地』の奥地へと進行し始めた。
「……そういえば、アカネ。『ウロボロス』の調子はどうだ?」
「……え?」
 出発して数分で、ルーファスからそんな言葉が出た。アカネは思わず目をまん丸に開き、ルーファスを見つめる。いや、そこまで反応してくれなくても大丈夫なんだが。と、ルーファスはそんなアカネの反応に困ったような顔でそう言った。
「ここ、かなり難しいダンジョンだろ?だから、少し位能力が出てきてもいいんじゃないかと思っていたんだが、全然そんな様子が無いから気になってな。
 キースやへケートが襲撃してくる可能性もあるし、何よりディアルガとの対峙は避けられない。できるだけ有利な状況にしたい、と思っていたんだが、どうだろう?
 ……勿論、使うか使わないかはお前の自由だが」
「…………そ、そうね…………。ポケモンと戦闘になったら、少し意識してみるわ」
 
 忘れていた、とは言えなかった。
 思い悩んだ能力の正体を知ってしまったアカネにとって、最初は気になってしまうものの、段々とそんな不安や揺らめきなどは時間が解決してくれる。ラウルの背中の上で眠った時、『能力』からの干渉があった。その事すらもカイト達には伝えていなかったのだが、幻の大地に足を踏み入れて以降、アカネはすっかりそのことを『忘れていた』のだ。
(……もしかして、これが原因……?)
 アカネは能力を認知したにも関わらず、実際は頭の隅の方に仕舞いこんで、他者に言われなければ思い出せない程にそのことを忘れている。自分の中に、自分とはまた違う『意識』のようなものが存在するのだという事を全く自覚していない。
 そういうことなのだろうか。 
 だから、イベルタルは勿論の事、ゼルネアスも協力の意志を見せたがらないのだろうか。
 磯の洞窟で、治癒能力は自ら使おうとした。実際に発動していた。けれど、それはアカネの中の『ゼルネアス』という存在に協力してもらっていたのではない。
 アカネの中にある『道具』を使っていたようなものだったのだ。
 存在を認知しているにも関わらず、頭の片隅に放られ、まるで大昔の記憶のようにきっかけが無ければ思い出すことが出来ない。思ってもらえない。能力に干渉された際、『再生』の能力の化身はこんなことを言っていた。

『今のあなたは、本気で私たちの事を必要としていませんね』

 …………おそらくではあるが、昔のアカネはそうではなかったのだ。姿かたちは見えなくとも、『能力』として接するのではない。力を貸してくれる友人として接していたに違いない。今のアカネにとって『能力』どころではなく、まるで『道具』であると認識されている事を知っている彼らは、果たして今の彼女の中に、昔の『主』が見えているのだろうか。
(…………そんな風におもってるつもりは、なかった……けど)
 思考の海にどっぷりと漬かり込む。おそらく、アカネの中に存在する者達はその思考を、記憶を共有しているに違いない。アカネが今、何を考えているのかもわかっているのだ。
 しかしアカネは、そのことを分かっていなかった。
「……アカネ?……アカネ、大丈夫?どしたの?」
「…………」
「アカネ!」
「……あ。あ……えっと、カイト。ごめん、何?」
 カイトがアカネの顔を覗き込み、心配そうに声を掛けた。思考の海から引っ張り上げられたアカネは、少し戸惑ったような態度でカイトの顔を見返した。
 近い。
 お互い顔が目の前にあった。特別気にするようなことではないのに、何故かそこが気になった。戸惑いつつも照れてしまったように顔がスッと熱くなっていくのを感じた。勢いよく顔を背けると、ニヤついた顔のリオンとルーファスが目に映る。アカネはルーファスには暴力やきつい言葉を振るうことが少ないが、今回ばかりは殴ってやろうかと思った。リオンに関しては足を踏んでも良い。
「さっきからボーっとして、階段通過しても全然反応ないから変だなって。大丈夫?体調とか悪いんじゃない?」
 心底心配そうにそう言った。アカネは軽く首を横に振ると、『大丈夫』といって意識を現実へと引き戻す。気になることは色々あるが、なんとなく見えてきた気がした。この先、自分がどうすればいいのかという事も。
「……ポケモンが少なくなってきた。そろそろ出口か?」
 出発して数十分。意外と早く先が見えてきたようで、ルーファスは周辺を見渡した。『幻の大地』のダンジョンは妙な天候が多いし敵は強いしで、こちらに有利なことは殆ど無いが、何とか抜けることが出来そうである。
 進んで行くにつれ段々とダンジョンの複雑な構造がシンプルな物に変化してくる。出口が近い特徴だ。更に先に進むと、ダンジョンとは全く雰囲気の違う場所へ出てきた。
 周辺が岩に囲まれている。ダンジョンではなさそうだ。ゴツゴツとした岩や、一方で人為的に形が整えられた岩が積まれており、それが道を作っている。奥の方の横側の壁に妙な物が見えたので、四匹は速足でそちらへと移動した。
「……ここは、まさか……」
 その岩壁には、多数のポケモンらしきものの絵が描かれていた。猫系のポケモンのような耳を持ち、異様に尻尾の長い桃色のポケモンや、巨大な青い魚のようなポケモン、そしてアカネ達が『霧の湖』で対峙した……幻ではあったものの、グラードンの姿が描かれていた。
「確かこのポケモンは……ミュウ、かな。この青いポケモンも、グラードンと対で掻かれてるってことは多分カイオーガ……殆ど大昔の伝説に出てくるポケモンだね」
「なら……やっぱここが、古代の遺跡って事ね」
 更に進んで行くと、更にもう一つ壁画があった。ディアルガの壁画である。ディアルガに対になるように描かれているポケモンが居たが、それはカイトもよくわからなかったらしく、首を傾げた。
「ということは……この先に虹の石船が?」
 更に先の方を見ると、何やら高台のようなところに繋がる階段があった。きっとあの上に、虹の石船がある。皆言わずともそう直感し、アイコンタクトを少しだけ取ると階段の方へ進み、昇って行った。
 頂上に到着すると、まず探したのは『船』らしきものである。しかしそのような物は特に見えたらなかった。しかし、その代わりに別のものを発見する。石畳の上に、巨大な模様が描かれていたのだ。しかもその模様の構成が、『遺跡の欠片』に描かれている模様と酷似している。
 そして、その模様の中心部には小さな窪みがあった。その場所だけもぎ取られたような痕である。窪みを見た時点で、アカネ達はなんとなくこの先どうすればいいのか予想がついた。『遺跡の欠片』を、その窪みにはめ込めばいいのだ。窪みの形状や大きさも、『遺跡の欠片』とよく似ている。
「多分、ここに遺跡の欠片を嵌めれば……」
「まぁ待て。……こっちを見ろ。石板がある。古代のアンノーン文字で書かれているんだが、ここに『虹の石船』に関するヒントが書いてあるようだ。まずはこれを読んでからでも遅くないだろう」
「うわぁ、全然分かんない……読めるの?」
「嗚呼。こういう時困らないために、俺達は未来の方で古い言葉は一通り勉強してきたんだ。アカネも読めないか?これ」
 リオンがそう言ってアカネに尋ねる。アカネは高台の隅の方においてある石板をのぞき込み、その言葉を読み取ろうとした。なんとなくだが、頭に入ってくるし意味も分かる。知識的な物の為、多少覚えてはいるようだ。
「…………読めるけど、所々抜けちゃってるわね。知識が」
「そうか。………………………うん。
 この石板によれば、どうやらこの場所自体が、『虹の石船』になっているらしい。あそこの窪みに、『遺跡の欠片』を嵌め込むというので大丈夫だ。遺跡の欠片を嵌め込めば、『虹の石船』が起動する。そう書いてあった」
「わかった。はめ込んでみるよ」
 窪みに遺跡の欠片を嵌め込む。そのために、カイトがバッグを漁り始めよう……と、自分のバッグに手を掛けたその時だった。突如、黒くて丸い物体が勢いよくカイトに向かって飛び込んでくる。咄嗟に気付いたルーファスが、カイトの腕をつかんで強く自分の側へと引き寄せた。
「カイト!」
「うわっ!?」
 突然の事に驚いたカイトは、ルーファスに引っ張られるがままにその場から動いた。その背後で、大きな爆発音が響き渡る。
 『シャドーボール』だ。
「ッ……危なかった」
「まさか……!」
 ルーファスは目をぐっと吊り上げ、喉の奥を低く鳴らした。考えていなかったわけではない。が、油断した。
 シャドーボールを放ったのは、ルーファスの倍は体の大きなゴーストポケモン……ディアルガの手先、キースだった。複数のヤミラミの泣き声がその場で響き渡る。キースが階段の下から現れ、ヤミラミが六匹、アカネ達を囲み込んだ。
「くそ、待ち伏せか!!」
「当たり前だろう。時空の塔に繋がる道は、ここしかないのだからな。ここで待っていればお前達は絶対に現れる。わざわざ追い掛け回す必要も無い。ディアルガ様が直接ここに飛ばしてくださったのだ」
 キースは、喉の奥でつっかえているような、気味の悪い笑い声を四匹に披露する。『虹の石船』から遠ざける為だろう。ヤミラミ達は四匹にじりじりと近寄って行きながらその鋭く光る爪をちらつかせ、階段の下へと誘導した。
 アカネは咄嗟に電気ショックを放とうとしたが、ヤミラミの内の一匹がアカネの方へと電光石火を使って突撃してきた為、それは叶わなかった。アカネはそれをゆらりとかわすと、小さく舌打ちをする。
「……おい、連れて来たぞ。……モグラ女」
「やっとか……思っていたより遅かったな」
「……?」
 階段の下へと押されている途中、アカネ達の耳に女の声が聞こえてきた。一瞬誰だかわからなかったが、ステファニーによく似たような声の質だと思った。そして、それがへケートだと察するのにそれほど時間はいらなかった。
 いや、察する以前に、アカネ達はその女の姿をその目で見ていたのだから。
「…………え……?」
 その声を持つ者が誰か分かっていても、その声を発した者に関しては、やはり一瞬分からなかった。その姿を見てしまった時、ヤミラミに囲まれたアカネ達は全員動きを微かに止めた。
 美しい、菫色のビロードのような体毛。額で妖しく、赤く光る石。水色がかったような、凛とした瞳。スッと通った鼻筋に、長くて細い尻尾は尾の先がまるで化け猫のように二つに分かれている。そんなポケモンが無情な顔つきで、階段の下にべったりと座り込んでいた。
「…………ステフィ……?」
 リオンはふと頭に浮かんだ名前を呼んだ。しかし、そのポケモン……エーフィは、まるでリオンを馬鹿にするかのように、目をゆっくりと細めて口角を引き上げる。そんな彼女を見て、リオンは瞬時に頭の中を切り替えた。
 
 ステファニーだが、ステファニーではない。へケートだ。あいつは、ステファニーの体を支配している『へケート』である、と。

「……進化、しやがったのか……勝手に……」
「勝手に?私は元々この姿だった。この姿の私こそ私だ。イーブイの時代など……今となっては忌まわしい。忌まわしい記憶を取り払ったのだ。ステファニーなど知ったもんじゃない。……まぁ、いい。別にお前に用など無い。私はルーファスに用があるのだ、外野は知らん」
「おい。因縁の対決は良いが、しっかり協力してもらうぞ」
 キースはどこか呆れたようにそう言った。へケートは心底キースを軽蔑したような目でフン、と鼻を鳴らすと、ゆらりと立ち上がってアカネ達の方へと近づいてくる。
「……ッ……おい、あれ見ろ」
 一瞬だけへケートから視線を外したルーファスは、ぎょっとした顔つきで皆にそう言った。へケートがゆらゆらとした不気味な足取りで近づいて生きている中、他の所にあまり気を振ることが出来なかった。しかし、ルーファスの指さした方を見た時、皆の視線は一気にそこへ固定される。
 今ルーファス達が居る階段の下。石や草に囲まれた場所だったが、その一番奥の壁際に、大きな黒い渦のような、禍々しい『穴』が大きく口を空けて佇んでいたのだ。
「……時空ホール……」
 アカネはそうつぶやいた瞬間に、未来での出来事を思い出した。冷たい牢獄、涎を垂らしながら襲い掛かってくる野生のポケモン達、朽ち果てた世界……。
 キースは、四匹をこのまま未来へ連れ帰り、四匹を殺してしまうつもりだった。キースはヤミラミ達に、四匹を時空ホールへ放り込むよう指示を出した。
 抵抗しなければあっという間に放り込まれる。そんなの御免である。ルーファスは瞬時に四匹にアイコンタクトを取った。動揺はしていながらも、それに気づき三匹も目で返事をする。
 息をつく間もなく、ヤミラミ達は一斉に四匹に襲い掛かって来た。爪を使う者、特殊技を使う者……襲い掛かって来たヤミラミ達を、四匹で力づくで弾き飛ばし、戦闘態勢に入った。ルーファスは一番近くに居たヤミラミの腕をつかみあげると、そのままカイトの方へと放り投げる。いきなり投げられて直ぐに体制を整えられなかったヤミラミは、そのまま成す術なくカイトの方へと投げられる。カイトは大きく息を吸うと、『火炎放射』を飛んでくるヤミラミに向かって放った。避けられはしない。ヤミラミはそのまま炎に包まれ、苦し気な声を上げた。
ルーファスは直ぐにキースの方へ攻撃を仕掛けようと方向転換するが、それを阻む者がいた。へケートが殺意のこもった目つきでルーファスの前に立ちはだかったのだ。ルーファスが言葉を発する隙も与えず、直ぐに『サイケ光線』を放った。そこにはもう、イーブイの少女の面影はない。
 ルーファスは微かに身震いした。ルーファスにとっても忌まわしい記憶がじりじりと蘇ってくる。へケートに裏切られ、殺されかけた事。苦しかった、悲しかった、辛かった、逃げたかった。記憶と同時に、その時の感情までもが湧き上がってくるかのようだ。
「ッ……!」
 このままでは、キースを抑えることが出来ない。絶え間なく攻撃してくるへケートを目の前に、ルーファスはかなり焦っていた。へケートをどうにかしなくては。しかし、攻撃する隙が見つからない。とにかく攻撃を避け続けていたが、ルーファスもへケートも後ろから近寄るものの存在に気付かなかった。
「………………!!」
 突如、へケートは攻撃を辞めて飛び退く。ルーファスが落ち着いて状況を見ると、リオンがへケートの背後から攻撃を仕掛けたようだった。へケートはルーファスに夢中になるあまり、周りが見えていなかったのだろうか。リオンの攻撃に対し、焦りが見えた。
「ッ……邪魔臭い!!」
 強い殺意を込めた瞳でへケートはそう言ったが、リオンは構うことなくルーファスに言った。
「お前はキースをやれ!!ヤミラミはアカネとカイトで十分だ!俺はこいつを抑える!」
「ふざけたことを言うな!!」
 先に声を上げたのは、やはりへケートだった。戦闘を邪魔され機嫌を損ねたのか、リオンに対し無数の『シャドーボール』を放った。へケートはエスパータイプに対し、リオンは格闘タイプのポケモンだ。リオンが不利になることは間違いなかった。『ふつう』の戦闘ならば、ルーファスは割って入っていただろう。
 しかし、これは彼なりの『ケジメ』なのだとも思った。
 そう考えて納得すると、ルーファスはへケートをリオンに任せてキースに攻撃を仕掛ける。『エナジーボール』を四つ程作り、一斉にそれをキースの方へとぶつけた。防御が固いキースは、腕で身体を覆ってそれを防ぐと、『シャドーパンチ』でルーファスに殴りかかる。
 一方、ヤミラミたちの相手をするアカネとカイトは、かなり順調にヤミラミ達を撃破していた。現在六匹中三匹を戦闘不能にしている。あと半数、三匹だ。
 アカネは爪を立てて襲い掛かってくるヤミラミをの指先を『アイアンテール』で弾き飛ばすと、次に『十万ボルト』で狙い撃った。直撃はしたものの、まだ動けそうなヤミラミを見て、もう一度『十万ボルト』を浴びせる。次こそ戦闘不能になったが、体の小さなアカネをヤミラミ達は先につぶそうとして来る。それを見越した上で、カイトは極力アカネから離れないようにしていた。アカネに飛びついてきたヤミラミを『竜の怒り』で押し返すと、『炎のパンチ』をその脳天に叩きこむ。地面に叩きつけられたヤミラミは、息を空回らせながら地面を這いずり回った。
 残り一体。またもやアカネを狙ってヤミラミが技を仕掛けてくる。『乱れ引っ掻き』である。無差別に鋭い爪を振り回し、アカネに襲い掛かって来た。
「ッ……しつっこいわね!!」
 アカネは再びヤミラミをアイアンテールで弾き飛ばそうと尻尾を振り上げ、体にぐっと力を込めた。
 ヤミラミに攻撃しようとしたその時だった。アカネの体の中の電気が一気に体の外に漏れだし、アカネの顔のすぐ目の前に巨大な電気のボールが形成されていく。それを見て、アカネは驚いて攻撃を止めてしまった。それが自分の『技』だということを理解するのに時間はかからなかったが、思考を巡らせている間、ヤミラミは待ってくれはしなかった。
 間に合わない。そう悟ったカイトは、アカネとヤミラミの間に無理やり滑り込み、炎もエネルギーも何も纏っていない拳でヤミラミの『乱れ引っ掻き』を受け止め、もう片方の拳でヤミラミの鳩尾を突く。
 ヤミラミは声を出す間もなく、その場にへたり込んだ。綺麗に鳩尾に入ったらしく、動くことが出来ないようだ。念を入れるように、カイトは『火の粉』をヤミラミに吹きかけた。
「カイト、あんた手……」
「いや、大丈夫だよ、このくらい。オレン掛けとけばすぐ直るから!」
「……わるかったわ」
「気を抜かないように、ね?」
 そう言って、カイトは苦戦しているリオンとルーファスの方を視線を流すようにして見つめた。キースとルーファスは互角だった。互角……否。むしろ、ルーファスの方が押していた。巨大な体に屈することなく、そのとびぬけた瞬発力にスピード、攻撃力でキースを責めていく。防御が固いキースは、守ってばかりの所もあって押されているようだった。これならいけるかもしれない。アカネとカイトはお互いに目を合わせて頷き合う。
 ルーファスが押している中、下手に手出しをすると逆転されてしまう可能性がある。未だにルーファスの方へ行こうとしているへケートを抑え込むリオンの方に加勢すべく、『真空波』や『シャドーボール』が飛び交う場所へとむかった。
「…………ッ……」
 リオンの放った『真空波』が、へケートの背中を霞めて壁を叩き割った。へケートは一瞬だけ顔をゆがめると、リオンに向かって『サイケ光線』を放つ。リオンはぎりぎりの状態でそれを回避した。
 倒せるとは思っていない。ステファニーの体だ。そして、進化したのはつい最近の筈である。そこまで戦闘力を高める時間も無かったのではないか、と期待していたが、やはり強かった。さすが、ルーファスが恐れる相手である。
 ルーファスがキースを叩きのめすまで。格闘タイプのリオンではそれが叶わない。だからせめて、キースを倒すまで。それまでへケートの足止めになればいいと思っていた。
「…………しつこいな……」
 まとわりついて来るリオンに嫌気がさし、へケートは一旦遺跡の頂上へと身を置いた。下から見上げるリオンを笑いながら、ゆっくりとその場に座り込む。別にルーファスと力合わせがしたいわけではない。戦闘をする必要はない。殺せばいいのだ。
 へケートはルーファスを殺したいだけだった。キースがルーファスをこの場で殺すというのなら阻止するまで。あとはボロボロになったルーファスを自分が痛めつけて殺してしまえばいい。キースが押し負けても同様のこと。何も不都合なことなど無い。どこかぽっかりと穴の開いたプライドだった。リオンはへケートがルーファスの邪魔をする意思が無い事を悟ると、階段の下からへケートの姿を眺めていた。
「リオン、あいつ……」
「ちょっと待ってくれ」
 眉間に皺をよせながら、へケートに攻撃しようとしたカイトをリオンが制止した。カイトは少し不満そうな顔をしたが、何か考えがあるのだろう、と思い黙って引き下がる。
 実際は、特に考えなどなかった。ルーファスとキースの戦闘を高い所から見物しながら、憎しみの炎を囂々と瞳に宿す彼女をただ見ていた。本当にあれはステファニーなのだろうか。いや、ちがう。違う、しかし、ステファニーだ。どこがステファニーなのだろう。
 あの憎しみの灯った瞳の奥で、きっと泣いているのだ。

 そんな自問自答をくりかえしながら、リオンは大きく息を吸った。

 


■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

カイト「アカネとステファニーがさ、最近モデル系の雑誌見てるんだけど」
作者「え?服とか特にないのにモデルとかあるの?」
カイト「うーん。夏のイケメン&美女特集的な奴だよ。二匹でイケメン特集のページ見てたりすると真面目にヒヤヒヤするんだよね」
作者「ま、まぁ。あんま良い気はしないよね」
カイト「アカネが一言カッコいいって言ったらそのモデルのいる事務所を灰にしてもいいかなって思う時があるんだよね」
作者「シャレになんないよ」

ミシャル ( 2016/07/27(水) 23:08 )