ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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十一章 幻の大地
欠片の意思‐176
* * *

 アカネ、カイト、リオン、そしてルーファスが幻の大地へと向かったその数時間後だった。
 トレジャータウン、パトラスのギルドにて。朝礼場はなにやら、どんよりとした空気に包まれていた。ポケモンたちは皆不安や怒りなどを抱えながら、その場に黙り込んで佇んでいるのみ。しかし、視線の先は一つだった。弟子たちの部屋へと繋がる通路……その中の空いた一室に、現在負傷したペリーが運び込まれていた。
 以前、アカネやカイトがルーファスとの戦闘で負傷した際にもギルドを訪れたラッキーのアリーナと言う女性が現在、ペリーの治療を行っているところであった。親方も立ち寄っており、その場に居る者達は一切ペリーの容態を知らないのである。
 ペリーは助かるのだろうか。アカネ達はちゃんと『模様』へとたどりつけたのだろうか。いつ、時が停止するのだろうか。
 不安だらけだった。誰かと話を出来る気分でもない。ただどんよりしているわけにもいかず、皆ペリーが助かることだけを一心に願っていた。
 そうしているうちに時間は過ぎて行く。パトラスはペリーの治療が終えると同時に、通路から出てきた。それを待っていたかのように皆パトラスの方へ駆け寄り、ペリーの様態の説明を迫る。しかし、パトラスの表情は緊迫した雰囲気とは違い穏やかだった。
「命に別状はないそうだよ。今は眠ってるけど、明日になったら目を覚ますだろうって。酷いけがではあったけど、羽の傷の方は処置が速かったからか後遺症も残らないらしい。
 心配することないってさ♪」
 各メンバーから歓喜の声が上がった。皆、本気で心配していたのだ。中には涙を浮かばせるものもいる(主にグーテ)。
「親方様。昔、ペリーに助けてもらった……って、そう言っていましたわよね?
 その時のお話を聞かせてほしいんですわ」
「……うん。そうだね。
 ……あの時は、壁の模様の事なんて知らなくて、ただなんていうだろう。探検家としての探求心が燻ったんだ。洞窟の奥に何かがあると直感して、僕たちは洞窟の奥へと足を踏み入れた。
 だけど、カブトプスたちは不意をついて襲ってきた。完全に僕が油断したんだ。ペリーの方が先に気付いていたばかりに、ペリーは僕をかばった。
 何年か前の話だけどね。それでも、今ギルドの親方をしている僕が聞いてあきれるよ。カブトプスたちを追い払うことに対して恐怖心なんてなかった。けど血まみれのペリーをみて、いきなり怖くなったんだ。
 嗚呼、死んじゃうんじゃないかって。どうすればいいんだろうって。頭が真っ白になって、助けを呼ぶためにとにかく叫んだんだ。
 …………その時、ラウルが現れた」
「……ラウル?」
「ラプラスと言う種族のポケモンだ。…………そうだ。あの時、ラウルはペリーの命を救ってくれた」
 
 * * *

 一方で、場所は海の上。ラウルの背中に乗った一行は、ギルドでパトラスが昔話を語っているのとほぼ同時に、ラウルから同じような話を聞いていた。
「……パトラスとラウルは、そんな関わりがあったわけか」
「はい。本当は姿を見せるつもりはありませんでした。けれど、悲痛なパトラスさんの叫び声や、血の海に倒れ込んでいるペリーさんを見て、流石に無視はできなくなった。
 しかし、それっきりだと思っていたのです。僕は、もう二度とパトラスさんやペリーさんの前に現れる気はありませんでした。
 だから、パトラスさんと“約束”をしたのです」
「……約束?」
「……はい。決して破らせてはならない“約束”です」

 * * *

「親方様。で、その約束ってのはなんだい?」
「ラウルは一目ですぐに僕たちが探検隊だと察したらしい。彼は、ペリーの命を救う手伝いをする代わりに、とある条件を僕に付きつけてきた。
 『あなた達が野心に満ちた盗賊か……あるいは、正義の心を持つ探検隊なのか。それは僕には分からない。
 あなた達の助けになろう。しかし、世界の為に約束してほしい。ここで見たこの模様の事だけは、探求しないでくれ』と」
 皆興味深そうな顔つきでパトラスの話を聞いていた。パトラスの昔話。意外な一面。ギルドのメンバーたちは内心戸惑ったり、驚いたりしていた。
「それで、親方様は一体何と答えたんですか?」
 ベルはそっとパトラスに尋ねた。彼女はパトラスに好意を抱いている節があり、メンバーの中では特に知りたそうにしていたのだ。
「……うん。その時、ぼくは……」

 * * *

「パトラスさんは快く約束してくれました。ペリーさんが助かるなら、この件からは手を引くと言ってくださったのです。
 …………しかし、約束は破られてしまいましたが。良い意味で、ね」
 そう言ってラウルは穏やかに笑った。四匹は神妙な顔つきでそれを聞いていたが、やがてカイトはラウルの顔をのぞき込んで尋ねた。
「どうして、探求させたくなかったの?」
「……幻の大地には、ディアルガのいる時限の塔があります。
 『時限の塔』は、時間を司る神聖な場所。故に、他者から害を加えられる事などあってはならないのです。
 誰が、何の意図があってそこへ向かうか分からない。ディアルガは自分以外の他者が時限の塔を訪れることを恐れました。
 だから、ディアルガは時の狭間に時限の塔を隠したのです」
 時の狭間。そんな妙な言葉を聞いて、カイトは更に首を傾げてしまった。アカネは眉間に皺を寄せつつその言葉の意味を考え、ラウルに尋ねる。
「……時間と時間の間……ってことかしら。全然イメージ沸かないんだけど」
「……説明しろと言われると、僕も実は難しいのですが……アカネさんが言ったことは間違っていません。時間と時間の間。その通りです。まあ、一番近しいもので言えば……『時渡り』でしょうか」
「シェリーが使う、あれか?」
 アカネとカイトが未来で出会ったセレビィである。セレビィは『時渡り』という特殊な能力を使い、時代を移動するのだ。時の狭間がセレビィの使用する『時渡り』と似ているとは、どういう事なのか。
 時を渡るという意味では、時空ホールとは違うのだろう。
「みなさんがご存知の時空ホールなどは、無理やり時間と時間の間に穴を空けてトンネルを作り出します。不規則的な空間の為に、時空のゆがみがとても起きやすいのが特徴です。
 一方、時渡りと言うのは……時間と時間の間にあらかじめ存在する道を使わず、使用者が独自に持つトンネル……第三の空間によって時間を移動します。この空間は使用者の管理によって機能しているため、時空ホールよりも規則的で歪みが生じにくいです。この規則的な空間と言うのが、時の狭間ととても近しいものなのです」
「……うーん……ごめん、説明されてもやっぱ分かんないかも……」
 ラウルの言っていることは難しくて理解に苦しむが、それでもとりあえず『時渡り』の際に生じる空間と似たような感じなのは全員が理解できた。時渡りの際に生じる空間なんて、使用者のセレビィ以外は知る由も無い。時の狭間がそれと似ているというのならば、どうりで見つからないわけである。普通は目に見えるものではないし、実際にそこに行くとなれば全く話が違うのだから。
「なるほど。確かにそんなところには誰も行けないな……」
「しかし、ディアルガは幻の大地へ訪れる為の資格を一つだけ設けました。
 それが……『遺跡の欠片』です」

 * * *

 ――――パトラスの静かな声が、しんと静まり返った空間に広がっていく。
「……ジゴウ長老の話。そして、カイトの持つ遺跡の欠片を見て、真っ先に頭に浮かんだのがあの洞窟での事だった。
 あの洞窟にある模様。それこそが、『幻の大地』へ通じていると……直感的に、そして確信をもって感じた。
 だから、僕は皆が磯の洞窟へ向かう前に出掛けたんだ。再び、ラウルと会って話をするために……。
 そして、僕はラウルと会って話した。各地の時が止まり始め、この世界が危機にあることを。そして、一刻も早く『時の歯車』を時限の塔へおさめなければならないことを。だから、『幻の大地』へ行く方法を教えてほしいと頼んだんだ。
 ラウルは事情を理解すると、躊躇することなく教えてくれたよ。幻の大地へ行く者は、『遺跡の欠片』が選ぶんだ。
 そして、その言葉の通り『遺跡の欠片』は選んだんだ。カイトの事を、幻の大地へ向かう資格を持つ者としてね」
 辺りが微かに騒めいた。そのほとんどがカイトを讃える声である。何故欠片がカイトを選んだのか、それは誰にもわからない。しかし、これは運命だったのかもしれないと……アカネとカイトが出会ったのも、リオンやステファニーがこのギルドに訪れたことも、アカネとカイトも後を追うように入ってきたことも、何もかも……運命だったのではないのかと。
 そんな考えを一瞬でも持たなかった者は、少なくともこのギルドの中には一匹もいないのだろう。
「何で、カイトを選んだんだろう……」
「これは憶測だけど、ディアルガは悪しき者を『時限の塔』に入れたくはなかったのだと思う。だから、大切なのは心。遺跡の欠片は、カイトの心のどこかに共鳴したんじゃないのかな。
 …………とにかく、僕たちが何かできるのもここまでだ。あとは、アカネやカイト、リオンにルーファス……クロッカス達にすべてを託そう。
 幻の大地へ行き、時の破壊を食い止めることを心から願って……。今日は皆、お疲れさま。今夜はしっかり休んでほしい。おやすみ」

 * * *

 ……ギルドでは、皆が寝室へ戻り、就寝準備を始めていた。一向にラウルの背中の上で揺られているアカネ達も又、かなり疲労が溜まっており、目の前がたまにくらくらとしてくる。いつも規則的な生活のアカネやカイトは眠たげに目を擦り始めていた。体内時計がしっかりしているもんだな、とルーファスは鼻で笑う。まるで子供のようである。
「……そういえば、ラウル。いつの間にかあの石が……『遺跡の欠片』っていう名前が定着してるけど……それでいいの?」
「はい。それはディアルガや、僕のような幻の大地に関係するポケモンでも『遺跡の欠片』と呼んでいる物です。遺跡の欠片には意思がある。それは所謂、一つの生命体なんです。カイトさんが何も知らずにそう呼んでいたという事は、遺跡の欠片がそう呼ばせていた可能性が高いですね」
「そ、そんなところまで……」
 カイトは自らのバッグの中を透かすように見つめた。なんだか、欠片一つに手の上で転がされているような感覚である。長年謎を解きたいと思っていたことがこんな形で実現してしまうとは。しかも、そんな代物だったとは。驚きの連続である。
「……そう、だ。
 ルーファス。一つ聞きたいことがあるんだけど……」
「なんだ?」
 突然、カイトが顔つきを曇らせてルーファスに問いかけた。アカネは眠気に耐えながら、カイトの話に耳を傾けようとする。リオンは今にも背中から転がり落ちそうな程眠気でクラクラとしていた。
「ルーファスとパトラスが僕たちのいる部屋までくるちょっと前に……その……倒れているポケモンたちは居なかったかな。三匹で、一匹は結構大きくて……」
「……嗚呼……。いたよ。 
 あれは一体、どうしたんだ?」
「あいつら、ダンジョンを通ってる途中で僕の遺跡の欠片を奪って逃げたんだ。そしたら、ダンジョンの敵にやられたらしくて……その、大丈夫だったかな、って……」
「……どう、だろうな」
 ルーファスはカイトの言葉に口ごもった。それを聞いていたラウルは、少し顔を俯かせながらルーファスの代わりにカイトの質問に返答する。
「……酷な話ですが……遺跡の欠片を、所有者の意思に反して他者が所有し、模様の元まで向かおうとしていたのなら、遺跡の欠片はそれなりの『罰』を下したはずです」
「…………欠片が……罰を?」
 その事に関しては、あまり深く考えすぎない方が良い……と、ルーファスは後付けのように言った。カイトは複雑な表情で再び自らのバッグを見つめたが、見つめていたとて何か分かるわけでもない。仕方がない、と一度思考をリセットした。
 先ほどからアカネやリオンの声がしないと思い、二匹の方へと目を向けると、二匹とも寝息を立てながら眠り込んでいた。話を聞いていたのか聞いていなかったのか、だが、相当つかれていたものだと見える。現在夜であったが、実質どれくらいの時間なのかは分からない。四匹がラウルの背中に乗ってから、そこそこの時間は立っている筈である。
「ありゃりゃ、アカネもリオンも寝ちゃったね」
「……ぐっすりだな」
「幻の大地へ到着するまで、まだかなり時間を有するかと思います。希望があれば途中小島で休憩を挟みますが……」
「了解だ。その地点になったら言って欲しい」
「はい。募る話もあるとは存じますが……幻の大地はとても厳しい場所です。ディアルガが刺客を送り込んでこないとも限らない。あれは一応ディアルガの領域ですからね……。
 ある程度休んでおく方が良いと思います」
 リオンは座ったまま眠っていた為、今にも揺れで海に転がり落ちそうだった。とりあえずラウルの背中にある突起部分にリオンの腹を引っかけて落下することを防ぐ。アカネは体が小さいのでふとした拍子に転がり落ちてしまうかもしれなかった。ラプラスの首の部分に背中を委ね、片足を突起部分に引っかけて固定する。二匹に起きる気配はなく、熟睡しているようだった。
「よくこんなに不安定な場所で、ぐっすり眠れるもんだ。
 ……カイト。なんか……ごめんな」
「え?どうしたのさ、急に」
「……いや。アカネは確かに、星の調査団の一員だったが……今は少し違うのかもしれない。アカネと言う一匹のポケモンで、この世界で記憶を失っていながらも、お前と、ギルドの奴らと幸せな毎日を送っていた筈だ。
 アカネとのつながりでお前を巻き込んで、今更心配になった。妙なこと言って申し訳ないんだが……」
 急に態度が萎み、どこか伏せ目がちになるルーファスを見て、カイトは違和感を覚えた。本当に今更な事だと思ったし、自分がこの計画に参加する理由は既に話したはずだ。ルーファスもそれは理解していた筈で、割り切った物だとばかり思っていた。それなのに、なぜ今更そこまで言うのか。
「僕は、遺跡の欠片に選ばれた……ってことになってる。遺跡の欠片を見つけた時点で、僕もこの計画に参加することが決まっていたんだと思う。星の調査団の一員じゃなくても、僕は自分が関係者だって、そう思ってるんだ。
 だから、気にしないでよ」
「……そう、か……。……なぁ、カイト。
 やっぱり、お前にとって……アカネは、大切なのか?」
「え?勿論、大事だよ」
「……自分の命よりもか?」
「……かも、しれないね。って、どうしたんだよ急にさ」
「……いや!
 ……青春と言うやつだなぁ、とな。うん」
「なにそれ!」 
 夜はまだ更けない。まだ見ぬ幻の大地を目指して、ひたすらに響いてくる波の音を聞く。月光に照らされた海は夜空を映し出すスクリーンのようで、黒い海面にぽうっと浮かんでいるぼんやりとした月が、ラウルを先導するかのように先の海を照らしていたのだった。


 

 
 

 













































「…………………ごめん、な……」
 誰にも聞こえぬように呟いたその言葉は、微かな波音にさえもかき消されて崩れ落ちた。

■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

サラ「…………」
ガリュウ「どした?サラ」
サラ「……な、何故、かしら……」
作者「なんか声が震えてますなぁ」
サラ「……こ、腰が……」
ガリュウ「腰が何だ?」
サラ「触んなァ!!!('Д')ゴルァ」
作者「え、何?何?」
サラ「……いや、まさか……まさか私がそんな…………」
ガリュウ「いやだからマジで何……」
サラ「いやだから触んなァ!!('Д')アー!!!
   ……嘘よ……まさかこれは……まさか……」

医者「ぎっくり腰です」

サラ「イヤァァァァァ!!!!」
ガリュウ「時の流れを感じるな……」
サラ「( ;∀;)年齢関係ないわよ!」
作者「あらまぁ」
ミシャル ( 2016/07/20(水) 23:03 )