運命の裁き‐174
* * *
―――――シュン。
じっとりとした洞窟の中で、磯の香が勢いよく風に乗って吹き付ける。その風は自然の摂理によって吹いたものではなく、ポケモンの技によるものだった。
「……やはり、強いんだな……なんだかんだで」
リオンは、体に付いた水を払いながらそうぼやいた。彼の言葉が指し示した人物とは、ペリーの事である。体がこの中で一番小さい上に、いつも偉そうなことばかり言っている彼のイメージと言うものは、器が小さい男かつ戦闘能力が何だか弱そう、というあらぬ誤解を招いていたらしい。前者はともかく、後者は確実な誤解だったようだ。ペリーが『足を引っ張るな』と言ったのも、これを知っていればそこそこ頷ける。
「……私が親方様と入った時も、この地点は難なく通ることが出来た。ここは精神をすり減らさない程度に警戒しておけ。……けど、絶対に警戒を解くんじゃないぞ」
すっきりとした顔でそう言うペリーは、先ほど一撃でクラブやオムナイトを吹き飛ばしたポケモンとはまるで違っていた。戦闘中の射るような目つきは存在せず、すっかり元のペリーに戻っている。ポケモンにもやはり、二面性があるのだろう。
リオンのほか、アカネやカイトもやはり驚いてはいた。ただただ腰巾着なだけだと思っていたのに、ペリーの探検家としての才能は本物だということをギルドに入門して初めて理解した。
三匹はそう思っていたが、一方でペリーも様々な事に感心していた。三匹のそれぞれの戦闘スタイル、動き方や技の使い方。三匹の間にこれと言った共通点は無いが、一つ言えるとすれば『並ではなく戦闘が上手い』ということである。
これは経験だけではないだろう。おそらく才能があるのだ。それぞれの、一つ一つ違えど、己に適合した『才能』が。
無意識なのだろうが、アカネは敵の動きをよく見ている。だから無駄のない動きが出来る。体に蓄えられる電気の量も並み以上の筈だ。カイトは、敵の攻撃よりも味方の方をよく見ているのだろうか。敵の攻撃を阻むような動きが多い。体格がそれほど大きくない相手には物理攻撃の方が得意なのだろう。あの馬鹿力は体の小さなペリーにとっては羨ましいものだった。
リオンは瞬発力に優れている。体の動きが激しくはあるが、視覚よりも聴覚に頼っているところが有る。リオルの種族と言うのは元々『波導』である程度の事を予測する能力がある。リオンからそんな話は聞いたことが無かったが、その名残なのだろうか。
ペリーが三匹を見る限り、そんな感じだった。ペリーもまた、三匹の闘いっぷりと言うものをちゃんと見たことが無かった。大抵依頼をこなす量だとか、その質だとかでチームのレベルを判断していたのだから、当然と言えば当然である。弟子のバトルスタイルをしっておくのも、面白いなとふと思った。
「カイト、そっち投げるわよ!」
ペリーがそう考えてふと顔を上げると、その瞬間にアカネのとんがったような声が聞こえた。彼女の声はカイトの名を呼んでいる。カイトを探すと、拳を握りしめて地面に踏ん張っていた。
何をしようとしている?ペリーは急いでアカネに視線を向けると、アカネは対峙しているキングラーに渾身の『アイアンテール』を叩きつけ、カイトの方へと吹き飛ばした。キングラーの意外に巨大な体は宙を舞い、カイトの方へと放り投げられる。カイトは拳に力を籠めると、一気にその拳を燃え上がらせた。『炎のパンチ』である。それを、飛んできたキングラーの腹に叩きつける。
チームワークも悪くない。むしろかなり良い。
アカネとカイト、ギルドに入って最初の頃はチームワークが整わず、それなりに諍いも多かったという。しかし、今はそんなもの存在していなかったのではないかと思う程に面影がなくなっていた。
……あの二匹、一緒の部屋にしてるこの状況はちょっとアレだな……。
大人の事情と言う奴で、何か妙な事をこっそりと考えもするペリーである。
「…………ペリー。ちなみに、後どれだけ行けば奥なの?」
「嗚呼。今丁度中央位に差し掛かった頃じゃないかな。あと半分ちょいか……お前達をちょっと甘く見すぎてたかもな。このペースなら、早々に奥地まで辿り着けるかもしれない。
だが、油断するな。先ほども言ったが、ここには相当手強い奴がいる。それこそ、先ほどの野生のポケモンとは比べ物にならないようなデカい奴がな……」
四匹が今いる地点から、少し先に進んでみると、開けた空間のど真ん中に『ガルーラ像』が佇んでいるのを発見した。おそらく、ここが中央に近しい場所なのだろう。
ペリーは思い出していた。ここを通った時は、まだ大丈夫だった。あいつらはおそらく、ここにはいない。
ガルーラ像があったことから、少し休憩しようという事になり、カイトはその部屋に入った時点でバッグを開いた。、中にあるオレンの実を取り出そうとしてバッグをのぞき込み、前のめりになる。
油断するな、と言われたばかりだった。しかし、カイトは本当に油断していたのだ。
「わっ!!!」
「何だ、どうした!?」
カイトが突如声を上げて少しだけ吹き飛び、倒れ込んだ。アカネとリオンはその声と音に反応し、思わず声をかける。ペリーも同様に、驚いた表情でそれを見ていた。
倒れた反動で開いていたバッグから『遺跡の欠片』を入れた巾着袋が飛び出す。床に落ちたそれを、何者かが瞬時に掠め取った。
アカネは、カイトを突き飛ばしたであろうポケモン達を見て、思わず唖然とする。
「……あんた達、なんで……」
「ケッ。久しぶりだな」
遺跡の欠片の入った巾着袋を掠め取ったのはエターだったグロムに素早くそれを渡すと、中身が遺跡の欠片だという事を確認する。グロムはいつもの気味の悪い声でクククッと笑った。
「これか、遺跡の欠片と言うのは……しかし、運が良いもんだな。転がってきてくれるのがこいつなんてよ……欠片はお前より俺達が良いみたいだぜ?」
「……え、え?ちょ、ちょちょちょ!まってください!え!?
あなた達はどうしてここに!?遠征以来ずっとお見掛けしなくて、すっごく心配していたんですよ!?私!」
「……心配、ねぇ。クククッ……ホント、おめでたい奴らばっかだな」
「あ……あれ?なんか、言葉遣いも悪くなっていらっしゃるよーな……」
「おい、ペリー!お前ホントに気づいてなかったのかよ……これがこいつらの素だよ。こいつら、ずっとギルドをだましてやがったんだ」
リオンが呆れた顔でペリーに忠告をした。と言っても、騙されていたのはギルドの中ではペリーただ一匹である。パトラスも早々に気付いていたし、ギルドメンバー達もこの三匹が善良な目的でギルドにやってきたわけではないことは気づいていた。
「うぇ!!?ホントなのか、それ!?」
「当然の事。あんな薄っぺらい演技に騙されやがって、本当におめでたい奴らだ。騙される方が悪いんだよ、バーカ。
とにかく、遺跡の欠片は手に入れた。後は幻の大地へ行くだけだ」
別に、ここを突破したからと言って幻の大地へ行ける保証はどこにも無いのに。アカネ、カイト、リオンは呆れていたが、呆れている暇など無いことに気付き、カイトは『火の粉』を三匹に吹き付けた。
しかし、エターの『エアカッター』によって相殺される。
「フン、面倒なことにならないうちに行くぜ!あばよ、マヌケ共!」
そう捨て台詞を投げると、グロムは身を翻し、クモロとエターを連れて洞窟の奥へと走り去っていった。相も変わらず、逃げ足だけは速い輩である。アカネ達も後を追おうとしたが、そこでペリーの様子がおかしいことに気付いた。
「……アイツら……私を、私をだましていたとは!!
嗚呼、嗚呼!うぐぐ、許せない!絶対にとっちめてやる!コラァ、待たんか!!」
唾をまき散らしながらそう吐き捨て、ペリーは今までに見た事の無いほどに羽を超高速でバタつかせながら颯爽と三匹の後を追って奥の方へと消えて行ってしまった。まさに光のような速さ。ペリーの豹変に、三匹はまた唖然とした。
「……あいつ、頭に血が上ると何するか分かんないタイプだな……」
「てか、それより……欠片持ってかれたわよ。どうすんの!?」
「追っかけるしかないよね……」
ペリーによって置き去りにされた三匹は、ガイドがいないままではあるが『遺跡の欠片』を取り戻さないことにはどうしようもないと判断し、急いでドクローズとペリーの後を追いかけた。
野生のポケモンなど殆ど構っていられない。そんな暇はない。しかし、事情などしらないポケモンたちは容赦なく侵入者を追い払おうとして来る。三匹は多少の苛立ちを抱えながらも、とにかく先へ先へと進み続けた。
早くいかなければ。早くいかなければ、何か悪い事が起きる気がする。このままではきっと済まない。そんな悪い予感が、ドクローズに対するものか、遺跡の欠片に対するものか、ペリーに対する者なのかは分からない。
しかし、三匹はそんな妙な焦りを感じており、一心不乱に奥地へと突き進んでいた。
ゴツゴツした岩の床を踏み続けた足の裏が固くなっていくのを感じていた。三匹は一気に奥へ奥へ進み、それなりに深さのあるところまで進んで行くにつれ、妙にダンジョンの空気が蒸し暑くなったことを感じた。アカネは『熱水の洞窟』の事を思い出し、軽く一匹で苦笑いをする。
進んで行くうちに、またもや他の空間とは少し違う、開けた場所へと出た。そこからまた細い道で向こう側の部屋へと繋がっているらしく、三匹は迷うことなく進んで行く。
細い道へ入っていこうとした瞬間、戦闘を歩いていたアカネが突如足を止めた。
鉄臭い。血の臭いがする。
こんなにキツイ臭いに遭遇するのは、初めてなのではなかろうか?三匹は警戒し、体を強張らせるとゆっくりと細道を通り、次の部屋へと進んで行く。
そして、見たくは無かったものを目にした。
「……ッ!?ちょ、あんた達、何!?どういう事なのよ……!」
「おい、生きてるのか!?しっかりしろ!」
ドクローズの三匹が血を垂れ流しながら横たわっていた。それほど時間は立っていない筈。一体、何があったのか。ペリーが居ないという事は、おそらくこの先であろう。
ドクローズ達の体の傷はおそらく、ペリーの言っていた『強敵』にやられたものだ。
「おれたちは、おれたちは…………アニキは……」
うわ言のように何か言っているクモロの声に反応し、アカネはグロムの方へと視線を向けた。横たわった状態で、腹の横の方をザックリと刃物のようなもので切られている。並の力ではない。グロムの体に付いた傷は他の二匹に比べて倍以上の数である。そして、とても深い。出血量もかなり多かった。息もどこか浅い。
何故グロムだけここまでボロボロなのか。いや、そんなことはどうでも良い。何があったのか、ペリーはどうしたのか、遺跡の欠片は……。アカネの中で、整理し切れていない情報が頭を駆け巡った。
「もしかして、突然、複数のポケモンに襲われたんじゃ……!」
「……ケッ……知ってんなら、最初から言ってくれりゃぁ……。
………………なんていっても、俺達に教えるわけ、ねぇか。ははは……」
エターが自嘲するようにそうつぶやいた。彼は翼の付け根を切られている。刃物による攻撃は少なかったようだが、元々クモロとエターはレベルが低かった。それでもまだ喋ったり蠢いたりすることが出来るという事は、そこまでの攻撃を受けたわけでは無いはずだ。
……おそらく、体の大きなグロムが、二匹を守る様にして戦っていた。だから、彼の体の傷は取り返しがつかない程に深い。
「グロム……大丈夫!?」
思わずカイトは声を上げた。グロムは閉じていた瞳をゆっくりと開くと、馬鹿にするように鼻で『フン』と笑い、かすれた声で弱弱しく返事をした。
「…………お人好しな野郎だ……俺達の心配なぞいらん……ペリーの野郎が、俺の怒りに火をつけやがった…………」
「ペリーが、か……?」
「ペリーの奴、後からきて……倒れてる俺達を、散々罵倒してどっか行きやがった……メチャメチャ、ムカついたぜ、全くよ…………」
グロムの声は、徐々に小さく低くなってくる。それを感じ取ると、アカネは『喋んないで』と力なくつぶやいた。
「……ここを、出て……必ず、ペリーをボコって、やるってェ…………。
……けど、考えようによっちゃぁ……諦めかけてた俺は、そんなペリーに怒りとかいうエネルギーをもらったのかも、しんねぇなぁ……」
元気なんて、そんなことを言っていられるような状態ではなかった。グロムの瞳は、何故か微かに潤み、目が赤く充血している。彼は一体何を考えているのだろう。カイトはオレンの実を取り出すと、皮を向いて汁を絞り、グロムの口の中へと流し込もうとした。
しかし、グロムは無理に口を開こうとはせず、ただそんなカイトを眺めていた。
アカネはグロムの腹部に軽く触れると、意識を集中し始める。意図してやるのは初めてであるが、彼女の能力である『ウロボロス』の『ヒーリング効果』を利用しようと考えたのだ。とにかく、自分の中の何かに訴えかけるように意識を集中させる。治れ、治れと、ただそれだけを念じ続ける。
アカネの目は青みを帯び始めた。グロムはそれを見て、『嗚呼』と心の中でつぶやいた。そのことは、本人しか知らないことである。
「…………駄目、か……」
アカネはグロムの体に触れ続けてはいたものの、そうつぶやいた。
能力自体は発動していた。しかし、ルーファスの言っていたことが頭をよぎる。あまりにも傷が深すぎる場合、ヒーリング効果にも限界がある。どうしようもない場合だって存在する。
おそらく、アカネの力が不足しているわけではない。今がその時なのだ。
それほどに、グロムの傷は深いのだ。
「……………もう、いい。別に、お前達が心配することじゃない。
なんで、なんでそこまで他人に肩入れできんだよ……」
「そりゃ、腹立つことしか無かったけどさ……死にかけてるじゃないか。そんなポケモン放り出すのは、ちょっと抵抗あるし」
「……クククッ……クククククッ…………」
コトリ、と何かが地面に落ちた。
巾着袋からはみ出した『遺跡の欠片』が、グロムの手の中を離れて地面へと転がり落ちたのだ。明らかにグロムが自分から放り出したものだった。アカネ、カイト、リオンのいる方向へ向かって。
「……遺跡の、かけら」
カイトはそれを確認し、咄嗟に呟きはしたものの、直ぐに拾い上げようとはしなかった。そんな様子を見てどこか呆れた様子のグロムは、息苦しそうにしながらぽつぽつと独り言を口に出した。
もはや、声を出すのさえ苦しい筈だった。
「……ぁー……あ…………俺、としたことが…………落としちまった……ハハ……これじゃカイトのとこに、戻っちまう…………俺は動けねぇしなぁ……どうしようもねぇわなぁ…………」
「…………なんで……」
カイトは未だに遺跡の欠片に手を付けないまま、おもむろにグロムに尋ね返した。眉間に皺をよせ、軽くカイトを睨みつける。血のほかに、水が大量に体にかかったようで、傷口から流れる血液は水の通った後を伝って今も溢れるように流れていた。
本当は、クロッカスを見返したくて実行した作戦だったはずだった。嫌がらせのつもりだった。そこに確かに、悪意は存在した。
カイトは、グロムと言う男がよくわからなくなっていた。
「…………あり、がとう……」
カイトは遺跡の欠片を拾い上げると、巾着袋に再びしまい込んでバッグの中に詰め込んだ。次は失くしてしまわないように、しっかりと奥の方に入れて。
そんな様子を、グロムは満足そうに眺めながら言った。
「……拾った、なら…………さっさと、失せやがれ。そんな目で、みるな…………俺達、より、ペリーを……心配するんだな…………」
「……そう、だね」
リオンとカイトは、その言葉に頷く。アカネも納得し切ってはいないものの、とにかく三匹は先を急ぐ道を選んだ。遅れてしまえば、ペリーが危険だ。下手をすれば命を落としてしまう。グロム達のこの惨状を見て、それを実感したのである。
三匹は顔を見合わせて頷き合うと、更に奥へ向かうために足を一歩、二歩と前へ進める。
「……なァ、アカネ…………」
「…………何?」
突如、グロムがアカネを呼び止めた。アカネは嫌な顔はせず、グロムの方へと真っすぐ足の先を向けるように振り返り、返事をした。グロムは、そんな彼女の様子に満足げに小さく鼻を鳴らす。
「俺達は、散々お前達のやること、なすこと、妨害してきた…………。
おれは、お前がきらいだった。お前も、おれがきらいだろう。それで間違いないと思ってた。それでいいと思ってた。
………けど…………たった今は…………考えてみりゃぁ……なんでお前がきらいだったのか、もう、思い出せねェなぁ…………」
グロムはポツポツとそうつぶやいた後、口を閉じると、それ以降何も話すようなしぐさを見せなかった。アカネは顔色一つ変えずそれを聞く。全てを聞き終わり、グロムがもう話をする意思が無いのを確認した。
虚ろなグロムの目が、しっかりとアカネの瞳を捕えた時、『私も嫌いだった』と一言言い返すと、表情を隠すかのようにグロムから顔を逸らし、カイトとリオンと共に、ペリーがいるであろう更に奥へと足を踏み出していった。
「………………アニキ、最後の最後で、ちょっとだけ、良い奴になっちまいましたね」
一連のやり取りを聞いていたクモロは、何気なしにそう言った。彼の声は、心なしかどこか濡れている。そんな声を聴いて、グロムは心底『情けねぇ奴だな』と思った。『そんなアニキも結構好きですぜ、俺』と、エターがその言葉にかぶせるようにつぶやく。喉がはれ上がっているかのようにかすれていた。鼻汁を啜るような音が微かに洞窟内に響く。
「…………うる、せー…………ククッ…………。
……嗚呼……しかし、流石に、疲れたぜ…………わりぃ、ちょっくら…………俺は寝る。
お前達が動けるように、なったら…………適当に、起こしてくれや」
「…………へい…………了解しやした、アニキ」
やはり、クモロの声は情けなく濡れていた。
(……嗚呼、何だ。体の痛みが、急に楽になった。さっきまで傷という傷が悲鳴を上げてたってのに、今は体自体存在しねぇみてぇに楽だ。頭の中も思考も、どこか柔らかく、聡明だ。
……俺が、俺自身に聡明なんて思う時が来るなんて、こりゃどういう風の吹き回しなんだろうな。ちょっとくらい良いことすりゃぁ、ここまで何かしら楽になるもんなのかな。……いや、良いことをしたわけじゃないか……悪事を少し清算した程度だろうな……。
…………嗚呼、すっげぇ眠い……でも、びっちゃびちゃの岩の上に横たわってるのに、すっげぇ心地いいや。
こんなに心地良い感覚は初めてかもな。このまま眠って、ふと目が覚めれば……
俺の見ていた薄汚れた世界も、少しはマシな景色に変わってるのかな)
彼の人生とは相反し、静かに、穏やかに。一つの命の灯が消えいり、蝋燭の先に残された白い煙は、一直線に空へと向かって色を散らす。
眠ってしまったかのように瞳を閉じたグロムは、クモロとエターが動けるようになった時にはもうすでに、息をしていなかった。