ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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十章 夜明けの思い
美醜な親子の物語‐158
―――――それにしても。

 お前を見ていると、どうも昔の私を思い出す。ヤミラミのその裂けた口、腫れぼったい目元、ゴツゴツと不揃いな牙……醜いものだ。嗚呼、お前をけなしているわけではない。お前とて、そこまで言うほどの容姿では無いから……昔の私の容姿の事だ。
 フフ、本当に久しぶりだ。こんな風に私として誰かと向き合って話すのは。フフ……私から目を逸らすなよ。逸らしたらまず、その岩のような目を潰してやる。

 …………いつ頃だったかは忘れた。私がまだエーフィの進化前のイーブイであり、この未来の世界で育っていたころの話だ。まだ大人とは言い切れないほどの年頃の娘だった。
 私は生まれた頃から、顔立ちの整った美しいイーブイだった。そんな美しい私には、更に美麗な母が居た。種族はリーフィア……名前は『クロエ』という女だ。母は、昔の私が知っていた限りでは、何よりも、誰よりも美しい存在だった。そんな美しい母を、この暗闇の世界では、誰もが求めたのだ。殆どが男だったが、私にもその気持ちは分かる。洗練された美しさ、仕草やほんの少しの瞳の瞬き……そのすべてが暗黒の世界で光を放ち、生き物たちが忘れていた柔らかな若草のような良い香りのする母を、誰もが手に入れたがったのだ。
 しかし、どれだけ見てくれが良くとも、決して母の内心は美しくは無かった。それさえも気づいていた男たちにとっては、きっと母が棘で覆われた深紅の薔薇のように見えていたのかもしれない。
 母はストレスを溜め込み易い性格だった。私の父はいつごろからか失踪し、母は寄ってくる男たちに擦り寄る生活。しかし、決して近づきすぎはしない。そんなことをしていたから、母の中には苛立ちや狂気が如何なる時も募っていた。母はそのストレスを、私を『可愛がる』事によって発散していた。
 ……何か言いたいのか?別に、可愛がるという言葉に深い意味は無い。そのままだ。母は私を甘やかし、体を撫でて抱きしめ、誰もいないときにはいつもべったりとくっついていた。私は、そんな過剰なスキンシップを取ってくる母を拒否することは無かった。それが母と娘の本来の姿だと本気で信じ込んでいたからだ。……否。そこに無駄な感情さえなければ、それは完全に母と娘の姿だった。
 何歳の時だったか。覚えていないが、そこそこまだ子供ではあった頃だ。私は一匹で『不思議のダンジョン』という場所に迷い込んだ。母と付き合いのある男から、『不思議のダンジョン』には、比較的たくさんの食料があると教えられていたからだ。空腹に耐えきれず、私は危険な地へと足を踏み入れた。
 その結果、どうなったと思う?母に甘やかされ続け、ロクに戦うための心得も持っていない。そんな私がこの腐った世界のダンジョンに入った結果、見ず知らずのポケモンたちにいたぶられ、大きなけがを負うことになった。
 
 ダンジョンを自力で這い出た時の私は、もはやこの世の物とは思えない程に醜い姿となっていたことだろう。顔面に攻撃を受けたことで、幼かった私の左側の口隅が切れて大きく裂けた。常時目の周辺が浮腫んで形が崩れ、常に顔面がはれ上がったような状態が続いた。並びの良かった牙も、戦闘の際抵抗したことでボロボロだ。母を慕う男たちが独自に『癒しの鈴』や『アロマセラピー』などを使い、私の体の状態を何とか保とうとしてくれたおかげか、感染症などは特に起こさずに済んだ。
 母がお願いして助けてくれたのだと思っていた。だけど違った。母は何も指示していなかった。私の姿を見て、ただただ顔をゆがめていただけだったのだ。
 時が止まり、固形化した水面を見て、初めて自らの姿を認識した。口が裂けている。目がむくんで、顔もはれ上がって。グロテスクなものだった。天使から悪魔へと落ちたような変わり様で、私自身が分からなかったほどだ。
 その日から、母は私をかわいがることをやめた。私の醜さに嫌悪感を抱き、生活で貯まるストレスを『私を貶す』ことによって、発散するようになった。暴力は無い。しかし、醜い、気持ち悪い、ブサイク…………死ねばいいのに。そんな汚い言葉は、数え切れないほどにポロポロと母の口からこぼれていた。最初は悲しかったが、私はそのことを『アタリマエ』だと思っていた。母は美しいから愛される。私も美しかったから愛された。それは、私と母の間の『常識』となっていたのだ。母は、そんな常識を私に教え込んでいた。
 
 『母は美しく、私は醜い。醜い者は愛されない。私がこう言われるのは当たり前』

 そう思い込んでいた。暴言だけでも、母が無関心にならないよりは、ずっと楽だった。私にとって、母はすべてだったのだから。
 正しい事を教えてくれるポケモンも、いなかったのだから。

 私は美しい少女から一転し、どんなポケモンよりも醜いイーブイとなった。私の生活は一変した。母を好いている男たちは皆、私を付録のように思っていたのだろう。最初の内は同情しつつ、それは段々と嫌悪の目に変わっていった。母も私を遠ざけるようになった。住処から離れた場所に、よく置き去りにされたものだ。だから、私は一匹になる時間が増えた。
 そんなことがあり、私は孤独に暗黒の世界でフラフラと歩いていた。これから母の所に帰らなければ。そういう時……旅をしているのだろうか。見ず知らずのポケモン二匹が、私の目の前を通過していったのだ。
 母と子らしかった。子供は私よりも少しだけ年が下のポケモンだった。その親子は寄り添いながら、楽しそうに何か会話をしていた。こんな何もない世界で、何故笑うような話ができるのか。その時、疑問の思ったものだ。私と母とは随分と違う雰囲気のその親子に興味を持ち、私はその二匹の後をついていった。
 そしてこの時、私は初めてポケモンを『殺す』という行為を知った。
 …………そんな恐怖におびえた顔をするな。そもそも……処刑人だろう。お前は。
 不思議だった。母親も子供も、そこまで器量が良くないのにも関わらず、どこまでも楽しそうだった。私は母親にどれだけ可愛がられても、あそこまで笑顔になれることは無かったのだ。いつでも私より母の方が何倍も立場が上だった。幸せだったが楽しくは無かった。だから、母につられて笑っているふりをしていたのだ。

 だから、一つ『実験』をしてみた。

 私は母親が子供から目を離した隙に、道端で拾った林檎を持って子供をおびき出してみた。子供は相当腹が減っていたらしく、はしゃぎながら林檎へとかじりついていた。丁度母親には見えない程の岩陰までおびき寄せ、私はその子供の前に出た。
 別に、その時はまだ殺すつもりなどなかったのだ。ただ、顔に『傷』を付けてやろうと思った。私のように、とても見れたものではない程の傷を。顔立ちすべてが変わってしまうような痕を付けてやろうとした。そんな我が子を目にしたとき、母はどう思うのか。そんな風に声をかけ、どんなふうに接するのか。その後、子供にどんな感情を向けるのか。
 母は、私が醜くなった途端に興味を失くした。ゴミを見るような顔で私を見てくる。私は、その子供が同じ結果になると思っていた。
 行為に及んでいる最中に殺意が加速したという訳ではなく、その子は気付けば息をしていなかった。その時の状況はよく覚えていないから省く。顔は確かに、傷つけていた。
 …………罪悪感?……いや、特に無かったが。見つからなければいいと思っていた。
 私はその子を地面に横たわらせると、少し離れた場所まで行って岩壁に『シャドーボール』を放った。音に反応し、子供がいないことに気づいた母親が子供の所までくることを期待していたのだ。結果は当然、その通りになった。
 しかし、あの時はひどく驚愕した。母親は子供を見つけると、狂ったように激しく揺さぶりながら涙をまき散らしていた。すでに事切れているという事が分っていても、数回にわたって何度も揺さぶり続け、声をかけていた。血で汚れてしまうことも厭わず、何度も何度も子供を抱えて揺さぶった。叫ぶような泣き声で、名前らしきものを呼んでいたが、まぁ、覚えていないな。そこらへんは。
 私の母は泣きもしなかったのに、その母親は鼻汁をたらしながら涙をボロボロと流し、声にならない声を上げて泣き叫んでいた。まさに狂気的ともいえる光景だ。しかし、その時なんとなく分かった。あの母親には、子供の『死』というものがとんでもなく辛い事だったのだ、という事に。
 私の母が怖かったことと言えばなんだろう、と思うと、やはり顔の事しか分からない。母は、私の顔が崩れたことで興味を失くした。母は、私の美しさにしか興味が無かったのだ。
 それが『ふつう』の親子ではないと、始めて悟った。母は私の醜さを見下しているのではない。母は、私と言う『存在』自体を見下していたのだ。それは美しかったころでも変わらない。私は母の玩具だったのだ。

 私は顔に傷がつけられたあの日以降、初めて涙を流した。塩ッ気が治り切っていない傷にしみて痛みを感じていたことも忘れて涙を流した。どうやっても、あの親子のようになれないことに苦しみを感じた。私の母はきっと、私の顔が醜く崩れたあの時、醜態をさらす位ならばいっそ死ねば良かったのにと思っていたに違いない。母が普段から私を罵る台詞であった『死ね』という言葉は、少し言い過ぎただけだとばかり思っていた。
 私は、あの親子を羨んでいたのだ。
 …………子供の事?嗚呼、殺したことか。その時はもう、頭から吹き飛んでいたな。思い出そうと思わなければ多分思い出せなかった。あの時も、今も。そもそも、頭の中にそのことがなければ、言動や行動にも出ずにばれることも無い。

 私は母の元へ帰る気力がガリガリと削られ、とある岩陰でぐずぐずと泣いていた。この世界、ポケモンを食そうとするポケモンも多いだろう。しかし、私はそんな危機感もなく泣いていた。今思えば、あの時が一番子供らしい。感情のままに涙を流す。記憶を失くした後は、全てステファニーの役目だった行為だ。
 涙が枯れる程泣いた後、私はただただ呆然としていた。死のうなどとは考えていなかったが、何もする気が起きなかった。
 その時、一匹のポケモンが私に声をかけてきた。顔は見えない。種族も分からない。ただただ淡々とした声だった。性別もよくわからなかった。そのポケモンは黒い布のようなものを体に巻いていて、顔の半分をかくしていた。ただただ、紫色の透き通った瞳が私をじっと見つめていたのを覚えている。大きなバッグを持ち、私よりも何倍も大きな体で、二足歩行。二メートル近い身長だった。
 私は言った。私の顔は醜いから見ないで欲しいと。相手から何とも言えないプレッシャーを感じ、きっとこいつも私を醜いと感じているに違いないと思っていた。
 私の言葉を受け取った相手は、意外な言葉を私に投げかけた。
『ポケモンの顔など、皮を取れば皆血と肉と骨だ。お前は私ほど醜くはない。羨ましさすら感じる』
 私は驚いた。私の姿を『羨ましい』というポケモンなど、顔に傷がついてから一匹も居なかったのに。久しぶりに聞いたその言葉に、私は衝撃を受けた。
 私のあの顔を羨ましいとまで言うポケモン。おそらく、その姿は相当醜いのだろうと思った。しかし、形が整い、透き通ったあのポケモンの紫色の瞳を見て、不思議とそうではないと思った。私は言った。姿を見せてほしいと。
 そのポケモンは、体に纏った布の中から腕を私の方に突き出してきた。血の気が無い白い肌に、使い込まれたような、どこか少しざらついた感触。三本指で、何やら不思議な形をしていた。
 特に、醜いとは感じなかった。そんなポケモンはごまんといるからだ。
 そのポケモンは私の姿がコンプレックスだという事を悟ると、何かをバッグの中から取り出して私の首に付けた。それが『太陽のリボン』だ。
 何故私にそれをくれるのか、当時はわからなかった。そのポケモンは私に太陽のリボンを付けた後、別れを告げてどこかへと姿を消してしまった。なんとなく悲しみは和らぎ、私は母の元へ帰ろうと思った。
 母の元へ帰ると、また母はイライラとして私を待っていた。いつも通り『ブス』と私を罵り、私に憎悪の目を向けて睨む。しかし、母は私に目を止めた時、何かを見た。『太陽のリボン』を、私が首の下に付けているのを見つけたのだ。
 母は驚いた顔をしながら勢いよく私に近づいてくると、初めて私の体に『体当たり』を仕掛けてきた。『誰に貰った』『それをこっちによこせ』と、『太陽のリボン』に向かって顔を伸ばしてきた。
 その時、何かがぱちんとはじけた。
 首を伸ばしてくる母の顔面を、思い切り爪で切り付けた。初めての母への反抗だ。母は咄嗟に反応することが出来ず、顔面にざっくりとした傷を負った。
 そこからは、覚えていない。どんなふうに攻撃して、どんな傷を負わせたか。しかし、最後はアイアンテールで首の後ろを叩き割ったのは覚えている。
 
 私は、母も殺した。
 やはり罪悪感はなかった。むしろ、もっと早くにこうしておけば良かったとさえ思った。血の海の中に倒れる母。傷が付いていても、母の顔は美しかった。しなやかな尾が地に濡れて赤くなり、鉄のようなにおいを発していた。
 私がやったのだ。母の死を完全に確認し、それを改めて見た時、私は思った。自覚したのだ。そのとたん、あの子供を殺した時には無かった感情が芽生えた。
 美しい母を殺害したことで、『征服感』のような物がじわじわと沸いてきた。それはとてつもなく気分の良いものだったが、具体的にはどうとも言えない。美しい母を、私が殺したのだ。何とも言えない素晴らしい感覚だった。その快感と、どこか危険なスリル感に呑まれた。
 その時は、そんな感情に埋もれて気が付かなかったが、徐々に目線が上に上がってきていることに気付いた。私が上を向いたという訳ではなく、前を向いたまま、そのままで目線が持ち上がっていく。その妙な感覚に、私は固形化した水面を思わず覗き込んだ。

 その水面には、血まみれの見知らぬ女が佇んでいた。大きな耳に、ふさふさとした体毛。スッと通った鼻に、大きく凛々しい紫色の瞳。その風貌は、まるで母そっくりだった。
 それが私自身であると気づくことに、あまり時間がかからなかった。顔の傷も無くなり、外見的な物が全て解消されている。血をなんとか拭き取ってみれば、私の容貌は、母よりも、もしかすれば母以上に美しいポケモンとなっていた。
 『太陽のリボン』……あの道具はイーブイの進化形であるエーフィに進化するための道具だったのだと、その時初めて知った。あのポケモンは、これからも生きていく故で少しでも希望が持てるようにと、このリボンを私に託したのだという事も察した。
 美しい容姿となり、私は生まれ変わったのだと思った。しかし、これからどう生きていくかと言うことなど考えず、考えていたのはただ一つの事だ。

 もう一度、母を殺した時の感覚を味わいたいと思った。
 この風貌ならば、この先どんなポケモンでも私に擦り寄ってくるはずだ。母と同じくらいに美しいのだから、もうしかすればもっとたくさんのポケモンが寄ってくるかもしれない。
 そうなれば、一段とやりやすくなる。だって、良い顔しておけば油断するから。油断すればそれだけやりやすくなる。殺すまでの過程はどうでも良い。
 ただ、何かを壊すことで得る『征服感』や『危機的なスリル感』というのは、どんなものにも代え難い。
 
 …………その後?嗚呼、直ぐに他の奴も殺した。母の愛人に一番近しかったポケモンだ。悔やむ気持ちは一切無い。私はたくさんの物を支配下に置いてきた。沢山のポケモンを殺してきた。
 私は、その者達の中で偉大な存在となった。

 …………そうだ。お前はどうだ。お前は処刑人だから、当然殺しをしたことはあるだろう。最初、どんな気分だった?どんな感触だった?柱に縛り付けて殺す、という殺害法は何度か行ったことがある。お前はそれをしたとき、どう思った?
 …………また罪悪感か。…………キースにか?キースに、命の重さを教わったと?……中途半端な事を。
 
 ……嗚呼、お決まりの言葉を言っておかなくてはな。
 他言はするな。話を聞いてくれた礼として生かしてはやる。しかし、他者に喋れば殺す。

 私はエーフィに戻るつもりだ。だが、お前が悪タイプだからと言って

  
 下手な事は考えるなよ。





■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「リオンとカイト君さ、合コン興味ない?」
カイト「はぁ?」
リオン「あ、俺ちょっと行きたい。コジョンドとかいんの?あ、ロズレイドとかとか」
作者「そんな一軍居るわけないっしょ何言ってんだ」
カイト「僕行かない。興味ないし」
作者「あ、男の数も足りないけど女の子もだからアカネちゃん誘ってよ。アカネちゃんのファンってやつがいてさぁ」
カイト「絶対嫌だざけんな( ゚Д゚)」
リオン「俺一軍居ないならいかねー。勝手にやってー」
カイト「合コンの必要性って何?」
リオン「お前には分からんだろうなぁ」

作者「こいつらお互いパートナーが居ないとこだとこういう態度かぁ( ;∀;)」





ミシャル ( 2016/04/10(日) 01:44 )