ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















小説トップ
十章 夜明けの思い
あらゆる後悔‐156
 * * *

 時間は流れていく。
 『サメハダ岩』にて、未だアカネ、ルーファス、カイトの三匹で話を進めていた。アカネの能力、『ウロボロス』について、ルーファスは知っている限りの知識をアカネとカイトに与えていたのである。
 アカネは、『時空の叫び』異常に、その能力を全く使いこなすことが出来ていなかった。それは、キースの策略の内と言える。この能力を味方に付ければ、ルーファスにとってはかなり有利な状況に思えた。しかし、アカネはルーファスの話を聞き、少なからず『破壊』の能力におびえていた。それは想定内の事。そうなることを覚悟して、アカネに話をしていたのだ。
「…………アカネがそんな能力を持っている理由について、一つ言うとすれば……血筋だな」
「ちょっと待って。人間は御伽噺の中の存在じゃなかったの?……というか、サラさんは?」
「……母さんは確かに人間だけど、『並行世界』……まぁ、ちょっと嘘くさく言うと、パラレルワールドから、第三者の力を借りて来たって言ってた。良く知らないけど、母さんはこの世界で生まれた人間じゃないよ?た、多分ね……」
「嗚呼。確かに、人間は御伽噺上の生物となっている。しかし、この時代からしてみてもかなり昔……隠された歴史がある。人間が確実に存在していたという歴史だ。どこかで生きていたか、第三者の手を使って種族を残したか……それは分からない。だが、アカネの姿は確かに『人』だった。
 カイトの言う、並行世界とか言うのはよくわからないが……」
「そこは……僕にもよくわかんないや」
「……とにかく、アカネが能力を持っているのは、血筋による物だ。しかし、血はかなり薄いものとなっている。能力が適切に発動する可能性は極めて低かった。しかし、アカネは操ることに成功した。それが『奇跡』ということだ。薄くなっていた筈の、能力を持つ者の血が顕著に表れる……所謂、先祖返りと言う奴だ。まぁ、伝説のポケモンすら圧倒する力を持つ血縁者達なわけだから、生命力も強かったのだろう、としか言えないがな」
 一応これで、話がまとまった雰囲気になった。説明しているルーファスすら、多少混乱しそうになる話である。アカネとカイトもまた、頭の中がかき回されるような感覚を感じているところはあった。
 それを知ったところで、これからどうするのかと言う点も少し難しい。できれば、『青』だけを使えるようになり、あとは抑制してしまいたい。アカネはできれば、とそう思っていたし、ルーファスはどうにかならないものか、別のことに考えを馳せていた。
「……アカネとカイト。『ポケモン』としてならば、十分戦闘能力が高い。アカネも、この先能力を使った方が良い、などと考える必要はないと思う。いずれにしろ、俺がこの話をしたところでお前の意識は変わっている筈だ。それが後々、どう響いてくるか、だな」
 気分に靄がかかりながらも、アカネはルーファスの言葉に軽く頷いた。顔を下に向けて悩んでいても仕方がないのだ。今まで全く分からなかった自らの得体の知れない能力。その名称が作用がはっきりしただけでも、大分進歩している。時間が無いのは分かっているのだが、能力のことは焦っても仕方がないのだ。使うなら使う、使わないのなら使わない。ルーファスは選択肢をくれた。アカネは、大人しくそれに乗っかることにする。
「……けど。アカネは、お前は完全に能力を自覚した。実感がわかなくても、感じているところはあるだろう。先ほど言った通り、能力には意思がある。『赤の目』……つまり、破壊の能力はそれほど自己主張が強い能力ではないのだ。破壊の力は、自らが使われることをあまり望んでいないと、過去のお前は言っていた。激しい感情変化の際に目が光る程度の場合が多い。
 しかし、『青』は違う。過去のお前は積極的に生命の力を望んでいた。その所為で、この先とにかく外に出てこようとする可能性がある。
 だが……悪いものではない。『青』に関しては、そこまで拒む必要は無い、と考える」
「…………分かった」
 よくわからないことが多いが、とりあえず理解はした、という意味で、アカネはルーファスの言葉に軽く頷く。能力のことは後から考える。一方、カイトの方は何か言いたげな顔で、指先の方に藁を挟んで弄んでいた。何か聞きたいことがあるのだろうか。ルーファスは、カイトの方をのぞき込むと、『なんだ?』と、軽い声の音で尋ねる。確かになにか聞きたいことがあったようで、カイトは軽く躊躇するようなしぐさを見せた。
「……ああ〜……ええと、あの、さ……。
 アカネの、人間の頃って……どんな感じ?」
「人間の時か……。クロッカス……アカネは、人間の時の印象がかなり強かった。だから、お前があのクロッカスだって聞いた時、『嘘だろ?』と思ったぜ」
 ルーファスはからかうようにそう言うと、アカネの方をちらりと見た。座り込んだ状態で手を組み、そっぽを向いている。挑発的な声で、かるくルーファスに言い返した。
「へえ。じゃあ、どんなだっての?」
「言い表せないよ、言葉では。……軽く調子に乗ってるときもあれば、だらりとしていたり、影が有ったり、真剣だったり…………変な奴だった。話をするのが意外と好きで、よく女性陣であつまって何か話しているみたいだったし。恋愛沙汰や細かい事にも鋭かった。
 今みたいにツンツンしてることは少なかったかな」
「……誰かと間違えてんじゃないの?」
「いや、お前のことだ」
 思い出す様にルーファスは『アコーニー・ロードナイト』……コードネーム・クロッカス、という、人間の女性について話し始める。カイトはひたすら驚いた表情でアカネを見つめ、アカネはただただ違和感で頭を覆い尽くされる。自分が?調子者?だらり?変人?誰だろう、それは。そんな感情がふつふつと沸いてい来る。
「……え?えっと、どうして記憶を失ってこんな感じに……」
「ちょっと、どういう意味?」
「まぁ、記憶を失ったということはつまり、今までこいつが過ごした経緯が全てパーになるわけだから……実際、時空の叫びの事もウロボロスの事も忘れていた。
 …………新しい経緯が書き加えられることで、アカネの第二の人格というのかな……それが生まれたのかもしれない」
「けど……いいのかしら。そういう事なら、私はあんたの言う『クロッカス』から、大分逸れた存在って事になるけど。……確かに元人間のクロッカスかもしれない。けど人格が違う。あんたの信頼してたクロッカスじゃないの。……こういう事、いうのはあれかもしれないんだけど……信用できる?」
「……そういうのは、気にしていない。まぁ、確かに寂しいよ。昔の事を全部忘れてるとなると、はっきり言って戸惑う。寂しい気持ちは変わってない。
 だけど、お前が生きているとわかって、嬉しい気持ちの方が強い。お前がどう変わっていようと、『離れたい』とは思わないかな」
 穏やかな口調でそう言うルーファスを見て、アカネは多少安心したような気がした。ルーファスが、アカネの人格の変化を知って掌を返すようなポケモンならば、あの状況から生き残れていたとしても『後悔』した筈だ。
 そう思うと、非常に安心した。
「……そっか。
 あのさ、ルーファス。人間って具体的にどういう姿してるの?実際に見たことないし、絵で見てもピンと来なくて……それに、親と折り合い悪くて、母さんにはあまりそういう話したことなくてさ」
「なぁ、お前のその、『母さん』っていうのは……数十年前に起きた『隕石落下事件』を食い止めた元人間の事か?」
「その認識であってる」
「……ほう。…………そうか。大したもんだな。
 人間は……いや、クロッカスだった頃のアカネは、と言うべきかな。一言で言うなら、絵で見るよりもずっと美しかった。
 絵で見るものは種族の特徴こそとらえているものの、やはり物足りない。はっきり言うと、人間の顔立ちの良さだとか全体の美醜とか、そういうのは俺にはよくわからん。ポケモンならば、多少種族が違ってても顔立ちや背格好の判断くらいなら出来るんだが……。
 比較対象が居ないから、まぁ、他にもいろんな姿をした人間がいるんだろうな、と思っていた。
 でも、何でだろうな。そういうの抜きにしても、美しかった。クロッカスは」
 どこかうっとりとしたような顔つきで喋るルーファスは、どこか本当に幸せそうに見えた。アカネは実感がわかず困っていたものの、ルーファスが話している人物が自分なのだと思うと非常に恥ずかしくなり、思わず腕をギュッと組みなおした。カイトはアカネの方をチラチラ見ながら、どうにかこうにか頭の仲で姿を組み立てようとしているようだ。うまく組み合わないのか、首をかなり傾けている。
「ピカチュウっていうと、イメージとかけ離れていて……でも、体毛のような物が金色だったから、あっていると言えばあっているのかな……」
「嗚呼、それ……毛髪ってやつだよね。髪の毛。ポケモンにも時々ある」
「金色?ああ……」
 アカネは自分の事を元人間、と言う割に人間の知識はあまり無いような気がしていたが、聞いてみると段々と『人間』という生き物の知識を思い出してくる。金髪……嗚呼、そうなんだ。なんとなくイメージは立った。それでどうするんだ、という話ではあるが。
「…………そういえば、大分話をした気がするけど。リオン、帰ってこないわね」
 アカネは依然変わり映えの無い階段へと視線を移した。帰って来た時にはまだ大分明るかった気もするが、茜色の空が暗くなり始めるまでになっていた。話にそこそこ熱を上げていた、という事なのか。
 そろそろ腹も空いてきた為、ルーファスは自分の持っていた巾着袋のようなバッグを漁り始める。中からリンゴが三つ出てきた。未来の世界で拾った林檎。本当に、どこからああいう食料は発生しているのだろう。
「あの……未来では『時間が止まっている』のに、どうやって林檎ができるわけ?」
「殆どが『不思議のダンジョン』で入手しているものだ。一見時が止まっているように見えて、実際はちゃんと育っている物もある。まぁ、食糧難には変わりないが……中途半端な星の崩壊……だからこそ、俺達の光を求める欲求は強まったのかもしれないな。中途半端だからこそ、もっと欲しくなる。グミもたまにあるんだが……はっきり言って、よくわからん」
 そういって、ルーファスは林檎を齧る。アカネ、カイトもかじってみた。この世界で食べるものほど甘みも無く酸味も無く……味が薄い。そして固い。なんかパサパサしている。はっきり言えば不味いのかもしれない。甘いものがそれほど得意ではないアカネも、思わず砂糖と水で炊きたくなるような味である。
「あんまり美味しくはないだろ?正直、この世界の食料には度肝を抜かれた。そこらへんに落ちている『種』でさえ、美味しく感じたんだ」
 そういって、苦々しい顔つきでまたルーファスは林檎を齧った。食べられない味……ではない。一応。
 アカネは元、未来で生きていた者だった。その味には慣れている筈だったのに、本当に不味いように感じていた。だけれど、どこか懐かしい。ただただ、黙々と食べ続けていた。
「…………上に、誰かいるな。シリウスか……帰って来たみたいだ」
 そういって、ルーファスは林檎のタネと芯までも口の中に放り込むと、階段の方をのぞき込む。彼は、他のポケモンだったらどうするか……と考えていたが、確かにそこにはリオンの姿があった。
 泥だらけで傷だらけ。未来の世界で、ステファニーと一緒に現れたリオンもそうだった。あの時から傷の手当てもしていない。万が一化膿でもしたらどうするのか。カイトは何枚かの布切れを水場の方に持っていき、水に浸して濡らし始めた。アカネはオレンの実を取り出すと、少し苦戦しながらオレンの皮を剥き始める。
「……ちょっと遅くなった。悪かった。とりあえず、枯れ木の枝とか集めてきたから、あとで火つけようぜ」
「嗚呼。それより、シリウス……これで全員揃ったわけだから、落ち着いたら『へケート』の話をしたいんだ。……大丈夫か?」
「もう大丈夫だ。構わない」
 何か振り切ったような顔でそういうが、まだ苦しそうな部分はあった。後の三匹はそれには触れず、今日一晩をここで過ごすことが出来るよう、準備を開始した。
 アカネとカイトは近くのダンジョンに存在する『ガルーラ像』へと向かい、そこで道具のやりとりを行った。やはり、食料が足りないのである。
 アカネとカイトが食料をバッグに詰めて帰ると、四つのベッドの真ん中の一か所に拳程度の石に囲まれた枯れ木や枯れ葉がこんもり敷かれていた。ほとんど空に茜色は見えなくなり、『夜』へと変わる。
 それでも、涼しい風がサメハダ岩を横切った。そんな世界に、またルーファスは新鮮さを感じる。
 カイトはこんもりと敷かれた枯れ木や葉などに軽く『火の粉』を放ち、火を焚いた。それを囲んで四匹でベッドに座り込み、木の枝に刺した木の実などを軽く焼き始める。
「…………そう、だな。まずは……一方的に連絡を絶って悪かった。シリウス」
「嗚呼。連絡が取れなくなった時はぶん殴ろうかと思ったが……今は、そのことは気にしてない。今回、俺の怠慢や力不足もすごく影響してるだろうしな……ステフィの事も、何の疑問も持たずに過ごしてきた」
 心から後悔の念に駆られているような顔つきで、リオンは下を向く。ルーファスは軽く息を吐くと、何か思いつめるように焚き木の日へと目を向けた。
「…………今から、ステファニーという少女……改め、『へケート・ロべリア』という女について、少し話を始めようとおもう。
 昔話だ。この中では俺と……人間だった頃のアカネのみが知っている事実。いいか?」
 三匹は、恐る恐る頷いて、ルーファスの言葉に耳を傾け始める。
 真実を知る不安を、胸に秘めながら。

 * * *


「き、キース様ッ!」
 真っ黒な空間。人工的な光のみが存在する世界。『時間の停止した未来』では、一匹のヤミラミが建物の中を駆け巡り、キースの名を叫んでいた。
 壁に背をもたらせ、本をぱらぱらと読んでいたヨノワールことキースは、ヤミラミの声に反応して本から顔を上げる。ヤミラミはもう、直ぐ近くまで来ていた。妙に、何か訴えたそうな雰囲気である。
「キース様!」
「何だ、騒がしい。静かにしろ」
 そういってキースはヤミラミを睨みつけるが、ヤミラミは懲りずにキースの名を呼んで背伸びをする。小さくため息をつくと、キースは本を脇のテーブルに置いて、ヤミラミの方へと目を向けた。
「なんだ?」
「キース様……前から思っていたことではありますが……本当にあの女を作戦に加えるのですか!?」
「そうだ。ディアルガ様のご判断だ。何か文句でもあるのか?『リーダー』よ」
 キースに抗議に来たヤミラミは、多数存在するヨノワールの部下達のまとめ役……所謂『リーダー』だった。
「ひぃっ……や、やはり!あの女は危険です!頭が可笑しい!
 私達もキース様も、好きでポケモンを殺めているわけでは無いのに……あの女、先ほども一匹、無関係のポケモンを傷だらけにして連れ去ってきました……もうこれで何度目か!」
「ふむ……そのポケモンはモグラ女の気に障ることでもしたのだろう。第一……ディアルガ様はそんなことに理解をお示しにはならない筈だ。あの女、過去で相当我慢していたらしいな。その分を解消しているのではないか?」
 すっきりした顔つきで返すキースに対して、ヤミラミは上司であるとわかっていつつも奥歯をギリギリと噛みしめた。本当は言い返したい。キースに『あの女』ほどの異常性は無い。キースは、全てを理解したうえで行っている。しかし、やはり怖い。
 ヤミラミは一旦肩を落として落ち着くと、話題を少し切り替えた。キースは一応、話はまともに聞いてくれているようである。まともな返しはしていないが。
「…………あの女は先ほど、『太陽のリボン』を持ってくるように、他のヤミラミに命令しました。
 今のあいつの種族はイーブイ故、その能力にそこまでの殺傷能力は無いものの……あの女は、また戻るつもりです。本来の姿に……!」
「そうか。『太陽のリボン』は、倉庫に確か二枚ほど保管している。機嫌が悪くならぬうちにもっていってやることだな」
「キース様!本当によろしいのですか!?」
 思わず声を張り上げたヤミラミを、キースは思い切り睨みつけた。上からの巨大なプレッシャーに、思わずヤミラミは慄く。キースは関心が無いのではなかった。ただただ、頭の仲で『考えないように』していただけなのである。
「……良い訳が無いだろう…………あいつの目的は私たちを弄ぶことに有る。その他の……私達と同じ目的は『一つ』のみ。あいつは自分の異常性を肯定している。『異常行動』という行為そのものが快感だからこそ何とも思っていない。だからタチが悪い……!
 ……ルーファスとあいつが同じ空間に存在するとき、絶対に近くに寄らない方が良い。私から言えるのはそれだけだ。さっさと帰れ!!」
「ッ……は、はいっ……」

 苦虫をかみしめたような顔つきをしながら怒鳴り散らすキース。それを見て、ヤミラミは『キースだって気持ちは同じ』だと思った。
 ディアルガがへケートを認めた。だから自分たちも認めなければいけない。どれだけ異常な行動を繰り返そうと、どれだけ他者を見下そうと、ディアルガのいう事だから絶対に服従。

 それを考え、キースに抗議を行った勇敢なる一匹のヤミラミは、地面を見下げてしょんぼりと、歩き始めた。
 キースはその背中を、しばらくの間見守っているのだった。



■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「サラさんが人間だったときってどういう感じだったんです?」
サラ「超美人よ」
作者「まぁそう言うと思いましたけどね!」
サラ「私の美貌にはアルセウスもマイ●ル・ジャ●ソンもメロメロだったわ。ピ●ソとも話をして絵を描いて貰ったことがあるし、モナ●ザのモデルさんと握手もしたわー。その後レオナ●ドにも絵を描いてもらって……」
作者「あんた本編で過去の自分覚えてねぇっつったよな!?」
サラ「私ってホント罪な女だったわね〜」

やっぱりサラさんの元人間発言は嘘かもしれません


ミシャル ( 2016/04/04(月) 23:51 )