ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜 - 九章 暗黒の未来で
硝子の中の真実‐153
 * * *

 ―――――ヴォォォォォォォ!!!

 その獣の雄叫びは、地面にぶつかり、地上の者たちの体を軋ませる。思わず耳を塞ぎたくなるかのようなけたたましい咆哮。皆、一斉に高台の一番高い位置を見上げた。
「…………はは…………冗談だろ?」  
 ルーファスの声が、収まっていく獣の声と重なって軽く響いた。彼以外の者は、ただただ上を向いて声を上げることすらできない。降り注ぐ威圧感。どうしようもない絶望感。この場を脱するための方法は何も降りてこない。降りてくるのは、ただただ体を軋ませるようなプレッシャーのみである。
 巨大なポケモンが、高台の一番高い位置で佇んでいた。青い体に、その何とも言えない、竜のような作り。体の表面にはいくつかの線が巡り、そこからは赤黒い何かが体を這いまわっていた。巨大な飾りのような体の一部。その大きさは、アカネやカイト達が対峙した幻のグラードンよりも巨大な気がした。
 これが一体何者なのか、本当は分かっていた。しかし、思わずカイトは聞いてしまう。あの獣の正体を。
「…………ルーファス……あれって、もしかして…………」
「……闇に侵された時間の神…………あれが、闇のディアルガだ……」
 ルーファスは皮肉を言うかのように、そのポケモンの名を連ねた。キースはそんなルーファスを見て、哀れなものだと思う。そんな彼の様子を、ただただ冷ややかな目で見つめる一匹のイーブイに軽く目を当てると、ニヤリと笑って見せた。
「……あれが、闇のディアルガ……?僕らの敵……?」
 カイトは、敵の強大さに圧倒される。キースとヤミラミ達を前にしたときは沸いてこなかった感情が、彼の中に微かに湧き上がってくる。しかし、それは『恐怖』ではない。そのことを、彼以外の誰も感じてはいなかった。
 ルーファスさえ、もはや絶望的な顔つきでその姿を見つめている。戦闘態勢に入っていたことにより、力の入っていた指先は、無気力からかすでに彼の腰の真横にぶら下がっていた。
「どうした?ルーファス……さっきまでの威勢の良さは」
「…………ルーファスさん……」
 シェリーは一度キースとステファニーの方を睨みつけると、不安気にルーファスの顔をのぞき込む。心底悔しそうな顔で、何か必死に考えているようだったが、やがて再び脱力した。
「…………ははっ……そうか、あの方は……あんなのと戦ってたのか……一騎打ちで……。

 あの方が勝てなかったんだ……無理ない。……もはや、ここまでか……」
「え…………!?る、ルーファス!何言ってんの!?戦うんじゃないのか!?」
「おいルーファス!戦う前から脱力しててどうすんだよ!」
「シリウス!お前だって分ってるはずだ!!キースやヤミラミならどうにかなる……ッ。
 しかし……あの化け物にはシャロットさんでさえ敵わなかった!そんなのに俺達が勝てるのか!?」
「…………それは……」
「……シャロット?」
 アカネとカイトは、リオンとルーファスの会話に思わず眉をひそめた。聞き覚えのある名前がいきなり浮上したからである。二匹の頭の中に浮かんでいる共通の少女。しかし、そんなポケモンはこの件には何も関係が無い。
 何故、彼女の名前が?珍しい名前ではない。こんな偶然があるのか?アカネとカイトは顔を見合わせた。
「……シャロットと同名なだけ……?」
「違う。同一のポケモンだ」
 アカネが疑問をつぶやくと、キース達の方から声が飛んできた。ステファニーである。相変わらず見慣れない怪しい笑みを浮かべながら、自らの陣の籠の中で嘆いているポケモンたちを嘲笑していた。
「ルーファスの言うシャロットは、お前達の知っているシャロットと丸きり同個体のポケモンだ」
「それってどういう……?ここは時の回廊を通らなければ戻れない程、僕たちの時代とは離れた世界じゃないのか……?」
「いや、間違っていない。シャロットはお前たちの住んでいた時代とこの暗黒の世界、双方で生存していた。嗚呼、もう死んでいるか?かつてあれほどの勢力を作り出しておいて、あっけないものだな。最後の瞬間にお目にかかれなくて残念だった。確かに神に匹敵する女だ。奴を殺した時、どんな気分になれるんだろうな」
 また別の個体のように、ステファニーは何かに心酔したような口ぶりで話を始めた。そこで、アカネがふと気づく。もうしかして、そういう事なのではないか?……そう思ったことは、おそらく正しいのである。
「進化……?噂だけではあるけど、ロコンの進化形ならおよそ千年は生きることが出来る……」
 アカネは、確認を取る様にルーファスの方へと顔を向ける。ルーファスは、それに肯定するように軽く顔を縦に振った。
「……シリウス……シャロットさんは、今どうしてる」
「あいつらがここに居るということは……まだ、無事な筈だ。今回の件で疑問を持った過去の奴らが対策を取っていてくれることを願う……」
「……そうか。良かったよ。
 キース……へケート!……降参だ!煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
 シャロットの生存確認をすると、あっさりとルーファスは降参を言い渡した。その言葉に、アカネとカイトは大きく目を見開いた。はっきりと『降参』と言ってしまったのだ。もう終わりになってしまう。
 キースは嘲笑するように彼に『諦めが速いな』と突っ込み、ステファニーはどこか不満げに彼の方を見つめていた。とにかくルーファスは、既にこの場で抗う気は一切無いようである。
「…………確かに、俺はこの場では諦めたが……まだ、希望はある」
「ほう?希望……な」
「……シェリー、そしてシリウス……お前達も知っているだろう。あの時……過去へと向かうために時の回廊を潜ったあの時……星の停止を食い止めに過去に行ったのは、俺とシリウスのみではない。
 『もうひとり』いる」
「ッ!ルーファス!そのことはっ……!」
 リオンがルーファスの言葉を慌てて遮りに入るが、遅かった。アカネとカイトはルーファスの言葉に食いつき、『どういうことだ?』と、しきりに尋ねる。
「僕たちの世界に来たのは二匹だけじゃなかったの!?」
「そうだ。俺には相棒が居た。シリウスと出会う、もっと前からの付き合いの親友だ。俺とシリウス、そしてそいつで、時の回廊を潜った。
 ただ『時の回廊』を通っている途中に予期せぬトラブルがあり……俺達は離れ離れになってしまったのだ。
 シリウスと俺は幸いにも同じ場所に着地した。しかし、そいつとはまだ連絡が取れていない……しかし、簡単に死ぬような奴じゃない。
 まだ、過去のどこかにいる筈だ」
「ルーファス、それは…………」
「あいつがきっと、俺達の代わりに使命を…………星の停止を食い止めてくれるに違いない……」
 ルーファスは、希望を託すようにそう述べた。一方、なぜか一生懸命に言葉を遮ろうとしていたリオンは、その言葉を聞いて地面を見つめ、拳を握りしめた。
「…………………ふ、フフ………フフフ……」
「ッ……おい、何が可笑しい」
 自分の述べた希望を笑われ、ルーファスは思わずキースにかみつく。しかし、キースの笑みは止まらない。今までずっと抑えてきた笑い声が、一気に噴き出す様に、キースの君の悪い声はやまなかった。
 息を整えると、キースはルーファスを馬鹿にするように表情をゆがめながら、こう質問を繰り出す。

「……お前のほかに、過去に行った奴……な。
 ちなみに、そいつの名前は何と言う?そいつの名前を言ってみろ」
「聞いてどうなる」
「何だ。まさか、名前を知らないのか?ならば、コードネームを言ってみろ。あるのだろう?あの女が……シャロットが、『星の停止調査団』を作る時制定した筈だ。コードネーム使用を許可すると」
「……確かに、本名は知らされていない……。
 
 ………………『クロッカス』……それが、あいつのコードネームだった」
 
 『クロッカス』という言葉を聞いて、微かにアカネとカイトの頭の仲に引っかかった。自分たちの探検隊チームの名前である。二匹が探検隊を結成し、初めにギルドで設定したチーム名だ。
 しかし、それ自体は『花』の名前。可笑しい事ではない……筈である。
 だが、その考えは、次のシェリーの一言で完全に粉々に砕けることになる。

「…………あの子の本名はアコーニー・ロードナイト…………でも。
 
 彼女は『アコーニー』を『アカネ』と言い換えてた。だから言葉にする時は……『アカネ・ロードナイト』」
「…………え?」
 真っ先に……思わず声を上げたのは、『アカネ』だった。
 クロッカスと言う言葉が先ほど出てきたばかりで。連なって、名前事態は違うものの、発音の違う通称として自らの名前が挙がる。アカネは戸惑い、カイトはすかさずシェリーとルーファスに声を上げた。
「……ちょっと待ってよ……ここに居るのがアカネだよ!この子の名前はアカネ!それにっ……」
「シェリー!?お前なんであいつの名前を……いや。
 確かに、あのピカチュウの女性はアカネという名前だ。しかし、違う。俺の知っているあいつは、ポケモンじゃない……。
 俺の知っているクロッカスは……アコーニー・ロードナイトと言う女は……人間だ」
「なっ……はぁ!?」
 アカネとカイトは、思わず驚きのあまり目を見開き、アカネに至っては驚きのあまり声を出してしまう。
 『嗚呼、大正解だ!』と、とてつもない快感に、思わずキースは腹の口を大きく開けて大笑いをした。皆一斉に彼の方を見つめ、ステファニーは不快そうな顔で、非難するようにちろりと舌を出す。

「嗚呼、本当に馬鹿馬鹿しい!!何も知らないとは、本当に無様なものだな、ルーファス!
 ビンゴだ!ルーファスよ、そこに居るのはお前の言っている『クロッカス』で間違いない!
 そこにいるアカネは、タイムスリップ後の事故によって記憶を失くし、激しい時間の波にさらされたことでポケモンへと変貌した元人間だ!記憶を失くしたこの女は、自らの名前にコードネームを使わず『アカネ』と名乗った!そして、記憶の断片に残っていた自らのコードネームを、探検隊のチーム名に使ったのだ!この女自身、私に対して人間だったことを公言している!」
「なんだとっ……!?」
「……あ……え…………?」
 ルーファスはキースの言葉に驚き、思わずアカネの方を凝視した。アカネは大きく目を見開き、微かに震えながらキースの言葉をただただ聞いている。微かに喉の奥から声を上げ、信じられないような話を受け入れようとしていたが、どうすればいいかわからなかった。

(…………どういうこと……?私がルーファスと過去へ向かった元人間……?キースの話が本当なら……え?意味わかんない……。
 急にリオンが共犯だとか、シャロットも未来では加わってるとか、意味わかんないこと言われて、ステファニーまでおかしくなって…………どういうことなの?何で私なわけ?どうして、なんで……?)
 アカネの目は、あからさまに泳いでいる。激しい動揺の所為か、目の前がぼんやりとしていた。今まで、ここまで激しく動揺したことは無い。アカネは、何か分からない恐怖に迫られていた。
「……ディアルガ様が私に与えた『使命』……それは、過去に向かったクロッカス、ルーファス、シリウスを消すこと。それに兼ねて、過去ではまだ力無き少女として生存している奴らの根源……シャロットを抹殺するということだった。
 お前達三匹を追ってタイムスリップし、過去の世界へと降り立った私は情報を集めながらお前達を探していた……。
 パトラスのギルドに初めて入った時、気づいた。シリウス、お前の存在に。種族も名前も違う。声も違う。しかし、独特の雰囲気が私の記憶にある『ルカリオ』と合致していた」
 『ルカリオ』……リオルの進化後の姿である。しかし、今のリオンは完全にリオルだった。どういうことなのか?さらに、キースは話を進める。
「あの時はまだ、タイムスリップの影響で種族が後退しているとは思っていなかった。遠い祖先、かもしれない。そんな風にしかな。
 シャロットを見つけるのはさほど苦労しなかったように思う。年齢と種族、性別も合致し、名前もシャロットというのは殆ど存在しないだろう。しかし、不自然なほどにリオンと名乗るリオルは、あの女を一匹で行動させまいとしていた。時間が経つにつれ、私はリオンと名乗るリオルがシリウスであることを確信していた。
 そして、クロッカスに出会った時……まず、チーム名に違和感を覚えた。ただ、その花言葉や在り来たりな響きから、そこまで重要ではないと判断していたが……何を思ったのか。アカネとカイトは、自分たちからアカネの秘密を私に打ち明けた。一番知られてはならないポケモンに、な。
 自らがポケモンでは無く人間である事、『時空の叫び』と、瞳の変色に伴って自らの力を大幅に上昇することのできる不可解な能力を使用することが出来ること。そして、『クロッカス』というキーワードがこいつらにかけられている。そこのヒトカゲ……カイトの母親が、過去に人間からポケモンに変化した存在だったという前歴もある。……私は確信した!この女こそ、私の探していた『クロッカス』だという事に。
 ……そして、『モグラ女』……ステファニーという少女の事。これは想定外だった。この女も、シリウスと同じような変化を遂げていた。今まで別人格の少女として生きてきたのにも関わらず、ルーファスが話に絡んできたことによりへケートを刺激したのだろうな。いつから体を乗っ取っていたのか知らんが、私が未来から来たポケモンだとカミングアウトした後、直ぐにコンタクトを取って来た。ご丁寧に、ルーファスを捕獲した際に殺さないように釘を刺してくれたよ。自分で殺したいとな。恐ろしい女だ」
 ステファニーはまた、不愉快そうに鼻を鳴らした。それを見て、ルーファスはキースの話の全てを受け入れるしかなくなった。リオンは大半の事は知っていたが、ステファニーの事だけはどうしても分からなかった。今まで過ごしてきた相棒だった。確かに、この世界に来てからどうも様子がおかしいことにはなんとなく気づいていたものの、そこまで大事になっているとは思ってもみなかったのである。
 地面に座って身だしなみをしているイーブイの少女。姿も顔も知っているのに、酷く遠い存在に、まるで見ず知らずの他人のような感覚に襲われる。
「……ふん。シリウスがお前と直接顔を合わせたことが無かったのが幸いだったな。へケートの顔つきや癖、雰囲気。……あいつにとっては、お前の中で生まれた新しい人格……ステファニーと言うただの少女でしかなかったのだから」
「別に、ステファニーは私の別人格ではない。ただ、思い出しただけだ。そうだな……初めて霧の湖で、『時の歯車』を目にした時だった。
 何が影響したのかしらないが……時の歯車を目にした時、何かの叫び声のような物が頭の中に響いてきた。そして、妙な映像が目の奥をよぎる。何が起こったのかさっぱりだった。しかし、霧の湖を出るとき……私は、不意に言葉を発したのだ。考えてもいなかったことだったが……『何故、記憶を消さないと決めた?』と……気づいたら、ユクシーに尋ねていた。
 時の歯車を目にした後、どんどんとその妙な声や映像が強く現れるようになってきた。本当に何も分からなかった。映像の中に出てくる一匹のエーフィや、他のポケモン達、漆黒に染まった世界……ただの夢だと思っていた。同時に、私の思考にも妙な影響が出始めていた。本が読めなくなったんだ。遠征前はあんなに好きだったのに、読めば読むほど物語と言うものがちっぽけで、感情移入するに足らない物になっていった。感情移入が出来なくなっていった。
 そして、時間が経つと毎日書いている日記に妙な文章が書かれるようになっていた。見知らぬ文章に抵抗はあったが、不思議とすんなり、体の中に入って来た……。
 ……しかし、決定打は……『時空ホール』を直接見た事か。はっきり言って、キースとコンタクトを取ったことはよく覚えていない。しかし……あの黒く渦巻いた穴を見た時、私はすべてを思い出し、確信した。
 ……あの映像の中に現れるエーフィは、日記の中に現れるへケートは、私自身なのだという事。何故今、イーブイとして生きているのかと言う事。
 ルーファス。何故か分かるか?私が時空ホールを見てすべてを思い出した理由が……お前にはわかるだろう?ルーファス。私はお前の為にすべてを捨てたんだ。私は、お前が殺したくて仕方が無かったんだ。分かるか?ルーファス……」
 可愛らしく整ったイーブイの顔つきが、どんどんと歪んでいくのを見た。嗚呼、やめてくれ。それ以上言わないでくれ。リオンは、ステファニーの追い打ちをかけるような言葉の数々に思わず耳を塞ぎたくなる。しかし、脱力感でどうしようもなかった。ステファニーはそんなものではないと、否定したかった。しかし、どんなに歪んでいても、その顔はほかでもない、ステファニーの顔立ちだった。盛り上がっていく感情とは裏腹に、体はどんどんと無気力を強調していく。涙を流したくなるほどに、どうしようもない感情にさいなまれた。
「…………アカネ…………」
「まって……意味わかんない……どういうこと……?」
 アカネには珍しく、口からこぼれてくるのは全て弱音ばかりだった。全てががらりと変わってしまったように感じた。自分が未来で生きる者だったことや、ルーファスの協力者だったこと。 
 リオンとルーファスの関係、ステファニーの奇行、シャロットが未来へと関係していたという事実……。自らの本当の名前まで。
 全ての真実がこの場で降り注いだ。受け止めるには大きすぎるし、多すぎる。アカネはその真実を、どうしても受け止め切れないところが有った。
 受け止め切れずに落下した真実は、地面に着いたときにどんな音を立てて砕け散るのか。アカネには、何かが地面に落下した瞬間、鋭い音で割れるのが何度も聞こえていたような気がしていた。
 キース達にとっては、複雑であるが単純な事。理解して、受け入れてさえしまえばどうでもいい。それをアカネ達が知った時のダメージは、キース達にとっては計り知れなかっただろう。
「……クロッカス、シリウス、ルーファス、シャロット……殺害すべきポケモンは既に揃っていた。全てを『未来への帰還』で、行おうとしていた。もし未来で逃亡されたとしても、その時はシェリーも一緒に殺ればいい。
 しかし、ヤミラミたちの手違いでシャロットだけは逃してしまったが……貴様らを始末した後、あの女もさっさと始末する。あの女がいると、いずれまた良くないハエがたかるからな。
 そうすれば、全てが終わる……ルーファス。貴様の儚い希望は成立しない!!フフ、ハハハハハ!!」
 キースは、狂ったように声を上げて笑い始める。腹部の巨大な口を大きく開け、その真っ暗な闇を皆に見せつけた。
 
 嗚呼、自分が今まで尊敬してきたポケモンは、こんなに醜い姿をしていたのか。
 カイトは、そんなキースを見てはっきりと、今の彼の姿が見えた気がした。価値観が歪み、壊すことで何かを得ようとする歪な正義感。こんな最低な野郎に、自分はアカネの秘密をばらすようなことを率先して行ってしまった。この男に加担するような真似を、平気でしてしまっていたのだ。
 もう、カイトにとってキースは尊敬の対象でも何でもなかった。ステファニーのことはまだ、理解がうまくできていない。しかし、カイトの気持ちはその時しっかりと固定されていた。ルーファスを信じよう、と。
「…………キースさん…………」
 もう、相手も自分たちをただのゴミだとしか思っていない。それならば、こちらだって敬称を使う必要は、もはやどこにもないのだ。
 
「……いや、キース!!」
「はは、威勢がいいものだ。覚悟はできたようだな」
「ッ……ルーファス!アカネッ!リオン……諦めたら駄目だ!」
 カイトは、地面を踏みしめて皆にそう伝えた。しかし、アカネの瞳は未だに不安気に揺れ、ルーファスもリオンも冷や汗を垂らしながら、完全に戦意喪失状態と化していた。
「……ッ……あきらめるな、と言うが……この状況をどうしろと?」
「やれることはとにかくやるんだ!だから考え…………ッそうだ!
 シェリー!時渡りを使って、『時の回廊』に飛び込むことはできる!?」
「不可能じゃない!でも、ディアルガがいるから可能性は低いわ!あいつは時間ポケモン……時渡りを使ったとしても、場所がばれて直ぐに破られる!」
「少しだけでも、とにかく回廊に近づくことが大切なんだ!頼むよ!」
「嗚呼もう、私は別に諦めてなんかないんだからね!!
 『時渡り』ッ!!!」
 一か八かだった。シェリーが時渡りを使用すると、五匹の周辺に光の渦のような物が発生し、その場から五匹は消えてしまった。
 キースはまずいと思い、ディアルガに合図を送った。『ディアルガ様!』と、キースの声が聞こえると、ディアルガは巨大な方向を地に向かって上げる。自らの力をのせて、『時渡り』を破ろうとした。
 硝子が砕けるような音が響き、時の回廊の一歩手前に、姿を消していたポケモンたちが現れた。五匹全員がその場に揃っている。時の回廊のすぐ目の前。しかも、門は既に開いている。この『時の回廊』ばかりは、シェリーの管理下にある為にディアルガにはどうすることも出来ない。
「そこかっ!!」
 キースは五匹の方へと体を向けると、攻撃を使うためにいっきに近づこうとした。『時渡り』は破られたものの、これは大成功である。時の回廊の至近距離まで近づくことに成功したのだ。あとは、開いた回廊に飛び込めばいいだけ。
「ッ惜しかった……!もう少しだったのに!」
「そんな事言う前に、早く行きなさい!飛び込んじゃえば後は私が守ってあげるから!」
 シェリーはカイトの言葉に続いてそう叫ぶ。
「シェリーは!?」
「……私は残るわ!この世界に留まっていることが私の使命!大丈夫よ、絶対に捕まらないって言ったでしょう!?
 絶対に……星の停止を食い止めて!この世界に光を取り戻して!」
「ッ……すまない、シェリー!本当に……ッ」
「ごめん!」
「……無事を祈るわ」
「ルーファスさんもシリウスさんまでっ!みんなさっさと行って!」
 シェリーに口々に礼を延べると、四匹は時の回廊へと飛び込んで行く。四匹が飛び込み終わった直後、キースはシェリーの目の前に立った。しかし、シェリーの不意打ちの時渡りと『時の回廊』の移動により、ディアルガは時渡りを破ることが出来ず、シェリーは逃亡に成功した。
「クソッ!!!何という事だ……!」
 
 そう、醜く顔をゆがめながら悔しがるキースの姿を、ステファニー……否、イーブイの姿をしたへケートは、小さくあくびをしながらつまらなそうに見つめていた。 



「…………クズが」

 可愛らしい顔からは想像も出来無いほどに、低く暗い声で小さく毒を吐いた。





■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

サラ「作者、このコーナーの雑談って基本どういうふうに書いてるのかしら?」
作者「その時の気分だね。今のところ書き溜めてはいないのぅ」
サラ「てか、投稿時間すごい遅いけど、眠くないの?」
作者「眠くないわけがない」
サラ「今日の作者なんかつまんないわね」
作者「うっせえBBA」
サラ「すぅっごく面白いわ作者!!」
作者「あ、そっすか?あざぁーす」
サラ「(o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ 。・゜・」
作者「時間差で……(#;∀;)」
サラ「誰がBBAだって?」
作者「眠気でつい、いつもはセーブしてるとこを……」
サラ「日本語でちゃんと言ってみろ?」

作者「ばばあ」

サラ「(o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ 。・゜・」
作者「(#;∀;)そろそろ顔が変形する……」




ミシャル ( 2016/03/29(火) 02:29 )