未来への誘い‐141
* * *
「あれからもう数日たつけど……キースさん、ルーファスを捕まえたんですかね?」
今日も賑わいを見せるパッチールのカフェでは、シャロット、レイセニウス、セオがそれぞれテーブルの前に腰かけ、世間話に花を咲かせていた。シャロットはモモンジュースの中に『モーモーミルク』を注ぐと、それを口の中に注ぎ込む。濃厚な甘さにフレッシュなミルク。シャロットは満足げににっこりと笑った。
「はぁ?まだ捕まってないに決まってるじゃん。シャロットが知らないなら連絡まだってことでしょ。どーせあのイケメンが教えてくれるんでしょ〜」
「イケメン……あ、リオンさんのこと?」
「おお、今日もクズ発言連発かよ〜。あ、俺さ、絶対捕まると思うんだよなぁ、ルーファスとか言う盗賊」
「絶対……?何でそう言い切れるんです?」
シャロットは首をかしげながら、レイセニウスに対して質問を繰り出した。彼はシャロットの質問を受けると、『ほれ来た』とばかりにバッグからメモ帳を取り出し、おもむろにめくり始める。
随分ここに来てからいろいろと書いたな、とページをめくりながら思っていた。
「何で絶対と言い切れるかは……まぁ半ば勘が含まれてるけど、ぶっちゃけ俺キースさんあんま好きじゃない」
「えぇっ!?キースさんが好きじゃないって……なんで!?」
「良いポケモンだと思えないからかなぁー」
レイセニウスの意味不明な答えに、セオとシャロットは首をかしげる。レイセニウスは、自分がキースに投げかけた質問……『何故未来のポケモンである事を黙っていたのか』という質問を繰り出した際のキースの返答や様子を見て、感じていたことがあった。
『キースが言っているのは用意された答えであり、利用された』ような気がしてたのである。あの状況で、そういう風になってしまうのは仕方がない事。しかし、キースは内心『罪悪感』など感じていないのではないか……密かにそう思っていた。
更に、キースが言っていた『星の停止』についても気になる。ルーファスがこの『過去』の世界で星の停止を『今』実行しようとしているのだとしたら、当然それは『歴史外』のことの筈。つまり、キースさんの住んでいる『未来』は、この世界のように平和だということになるのだ。
しかし、キースはなぜか『星の停止』が一体どういう状態なのか、気味が悪いほどに知っていた。キースの住んでいる未来が何年後かなんて知らないが、『世界の破滅』と称するほどだ。キースが知る限り『星の停止』が起こっている歴史がこの先にあるとしたら、当然その事実を演説の中で添える筈である。その方がより信憑性が高まり、ポケモンたちに危機感を与えて『ルーファス捕獲』へと意識を奮い立たせることが出来る。しかし、そんなものは無かった。
……仮に、キースが住む未来の世界が、実際は『既に時が停止した世界』だとすれば、キースが『星の停止』とかいう歴史上に存在しそうにないものの実態を、やたら詳しく知っていつということへの辻褄が合うのである。
……しかし、そうなるとキースというポケモンの話を全て信じているこの状況……なんか怪しいなぁ。
現在は一方的な思い込みに過ぎないので、レイセニウスは皆までは言わないことにしていた。
「とにかく、この『時の歯車事件』を舞台にした文章を書きたいと思ってる。今俺がやってる仕事って、親父のおかげで何とかやってる状態なんだ。いつまでも頼ってらんねぇし、親父になんかあった瞬間俺はニートだしー」
「ふぅん。てか、文章かけるの?結構言葉遣いとか難しいよ?」
「………………」
「えー……まぁ、そこらへん細かいことは……。シャロットちゃん、どした?顔色悪いけど」
レイセニウスは、何やらシャロットの顔色が悪いことに気付いた。ジュースもあまり減っていない。体調でも悪いのか?と、セオも彼女の顔をのぞき込む。
そんな二匹に気付くと、シャロットは取り繕ったかのような笑顔で『大丈夫』と言いながら、モモンジュースを口に含んで一気にのどに流し込んだ。
「……最近、誰かにつけられてる気がするんです」
「へ?それストーカーじゃん。大丈夫?」
「えぇ〜?シャロットをストーカーなんて、すっごい物好きだよね〜」
「黙ってなさいおクズ」
相変わらず空気を読めない発言を連発するのに対し、レイセニウスは軽く手帳でセオの頭を叩いた。シャロットは誰かに話せたことですっきりしつつも、まだどこかそわそわとした様子で目玉だけをあちらこちらへ動かしていた。どこからか見られている。以前なら無かったような感覚が、ここ最近彼女にはずっとあるのである。
だから、誰かと一緒に居る時や警察などの手伝いに行っていたときは、はっきり言って少し安心していたのだ。
「……大丈夫です。あたし、自己防衛得意ですから!」
心配しているレイセニウスや、訝し気な表情をするセオをよそに、シャロットはそういって柔らかく笑った。
* * *
「ルーファス捕獲成功!?」
数時間前、キースはアグノム、ユクシー、エムリットの協力のもと、盗賊ルーファスを見事罠に嵌め、捕獲を成功させていた。ルーファスが捕獲されたという一報は警察署内に真っ先に入り、既に署内は大きなざわめきと混乱に溢れている。中心人物の一匹であるドナートはその一方を聞きつけ、『盗賊ルーファス』が隔離されている場所へと向かっていた。
警察署からそう遠くない隔離施設。その地下にルーファスは幽閉されているのである。おそらく、キースもその場に居る筈だ。ドナートはとにかく足を急がせた。真っ先に確認するべきだと、何故だかそう思っていた。キースと直ぐに駆けつけた警官によれば、既にルーファスが所持していた時の歯車を全て回収したとも連絡が入っていた。
「……キースさん」
「嗚呼、ドナート警部補。やりました!ルーファスの捕獲成功です」
ドナートはゆっくりと『檻』のような場所を覗き込んだ。鮮やかな緑色をした一匹のポケモンが、牢屋の隅できつめにロープでグルグル巻きにされ、喋れないようにか攻撃されないようにか、口も縛られている。鼻は前の方に出ているので息をするのは問題ないらしい。
「ルーファスと少し……話がしたいんだが」
「ああ見えて、とてもルーファスは興奮しています。口の紐を解けば攻撃してくる可能性が極めて高い。今は放っておいた方が良いでしょう。
……それより、ドナートさん。ジゴイル保安官を呼んではいただけませんか?ルーファス捕獲を公表し、皆さんにまずは安心していただきたいのです。そして、頼みが……」
キースの妙な牽制と要求に、微かにドナートは眉をひそめた。
―――その数時間後。一方では、ルーファス捕獲の連絡はギルドにも届いていた。キースから連絡を受けたジゴイル保安官の部下が直々にギルドにやってきたのである。ルーファスは真夜中を狙って『水晶の湖』へと向かっていた為、その時は『朝』となっていた。朝礼を終えたギルドメンバーたちが仕事場へと就こうとしていたその瞬間の事態だった。
一時、ギルドの中は驚きと歓喜に溢れ、皆がなにやら奮い立たされたような事態となっていた。
「捕まったって……!」
「……よかったわね」
カイトは、何度も手を煩わせられた相手が逮捕されたことを非常に喜ばしく思っていた。リオンに一喝されたからと言って、カイトのキースへの信頼は全く消えていなかった。一方、アカネは嬉しそうに微笑みつつも、どこか気持ちに引っかかりを持っていた。ルーファスが捕獲されることを望んでいた。そのはずなのだが、何故だか妙な気持ちに晒される。
数分後、トレジャータウンの広場にてキース直々の発表があると伝えられていた。そしてジゴイル保安官の部下により、『キースは目的を果たした為、未来へと帰還する』という事実が伝えられる。
皆、嬉しくて悲しい。そんな表情になりながらも、ペリーを先頭にトレジャータウンの広場へと向かった。
『どうやって帰るのか』という疑問の声が度々上がったが、ジゴイルの部下によれば『時空ホール』という時間を司るトンネルを通り、捕獲したルーファスを連れて未来へと帰る、ということだった。
(疑われる前にトンズラするつもりか……!)
リオンはそんな報告を聞いて、とてつもない憤りと虚しさを感じていた。捕まらないで欲しかった。しかし、キースはルーファスが間違いなく来るように仕組んでいたのだ。この時代において、リオンやルーファスはキースとの戦いに敗れたのである。
(未来に帰れば必ず処刑しようとする筈だ……お前がその程度で諦めないことは分かっている。あっる程度どうかなる間に助け出せれば……)
広場に、おそらくキースはルーファスを連れてくるだろう。とにかく、未来へ帰還される前に助け出さなくては。
リオンは、視線を広場へと鋭く向けた。
トレジャータウンでは、『盗賊ルーファス』の姿を一目見ようと、以前より多くのポケモンが広場へと駆けつけていた。すでにルーファス逮捕の知らせは大陸中に広がり、この近辺のポケモンたちが広場に集まり、ルーファスの登場とキースの話を待ち望んでいた。
(これじゃまるで見世物だな……)
ドナートはその様子を見ながら思っていた。『時空ホール』という時間をつなぐためのトンネルのようなものの周辺を、住民達が近づけないようにドナートとその部下、ジゴイル、ジゴイルの部下などで囲んでいた。
明らかに見たことの無い、異様な雰囲気の宙に浮かぶ穴。どこか吸い寄せられるような感覚を覚え、この先が得体の知れない別世界のような場所につながっていると思うと心底ぞっとする。中には近づきたがるポケモンも広場には何匹かいたが、その都度ジゴイル保安官がリスクの説明をしていた。近辺のポケモンではない輩の中では、物わかりの悪いポケモンも多く、少し忙しいようだった。
「……警部補。先ほどから妙なポケモンが複数匹、この周辺をうろついているようなのですが」
「……あいつらか?」
一匹のポッタイシ、ラルクがドナートに小さく耳打ちをする。ルーファスの顔を拝みにきたポケモンたちの塊から少し離れた場所。木々に隠れた同種類のポケモンが何匹かこの辺りを見張っているようだった。種族は『ヤミラミ』である。ドナートはこの事件の関連で、彼らの事を知っていた。
「あいつらは皆キースの部下だそうだ」
「……少し気味が悪いですね。まるで何かを探しているみたいです」
ヤミラミたちはしきりに周囲を見渡し、広場に集まったポケモンたちの様子を見つめていた。ヤミラミは『悪タイプ』であり、種族差別と言われるかもしれないが、ドナートやラルクは少し不審に思っていたのである。
時間を延ばされるほど、場はざわめきに満ちていく。そんな中、連絡を受けたギルドのポケモンたちが一斉に広場へと駆けつけた。『ギルドのポケモンたちもやってきた』というので、おそらくキースが現れるのもそろそろだと思われた。
「へぇー!これが、なるほど!時空ホールという奴でゲスね!?」
グーテが時空ホールに引き寄せられるように、感嘆の声を上げながらそれに近づいていった。それに気づくと、ジゴイルはとてつもない剣幕でグーテをしかりつける。『ここに入ったら最後、未来へ飛ばされてしまう。注意しろ』と、周囲に聞かせるかのようにグーテに注意をしていた。しょんぼりと、いじけるような顔つきでグーテは渋々時空ホールから離れる。ギルドのポケモンたちも加わり、更に場は騒がしさを増した。ふと、ギルドのポケモンと一緒に広場へとやってきたカイトは、後ろの方にアグノム、エムリット、ユクシーの三匹が佇んでいることに気付き、アカネの手をやんわりとつかむと、先導してその三匹の方へと向かって行った。
「よかった、元気そうだね。作戦通りに捕獲できたの?」
「あなた達も、激戦だった割には怪我も治ってて安心したわ」
「作戦もすごく順調だったよ。さすがキースさんだ。ルーファスをうまくおびき寄せて捕獲に成功した。あいつに盗られた歯車も、全部奪い返してやったよ!」
アグノムは、意気揚々とした様子でキースをほめちぎり、当時の様子を大雑把にクロッカスの二匹に伝えた。どうやら、至極順調に作戦は成功していたらしい。アカネは僅かにはにかみながら『あんたが偉いんじゃないわよ』と小さくつぶやいた。アグノムはそれを聞いて、『えへへ』と嬉しそうに微笑む。
そうしているうちに、キースは広場へと到着した。『キースさんが来たぞ!』と大きな声がそれを知らせ、ポケモンたちは一気に『時空ホール』へと繋がる道を作り、キースと捕獲されたルーファスを迎えた。
先頭には、二匹のヤミラミに挟まれて連れられて行く拘束されたルーファス。そして、その後ろから睨みつけるように現れたのがキースだった。『時の歯車事件』の犯人としてその名を広くとどろかせた盗賊、『ルーファス』の登場である。その姿を見るポケモンたちの瞳は、憎しみや動揺にあふれていた。
どうやら何度か激しく争ったようで、ルーファスの頬には微かに痣が残っている。口を縛られており、何か言いたげに何度も顔を振っていたが、どうにもならない状態のようだった。
『いかにも凶悪そうなやつだ』『捕まって良かったよな』『ぶん殴りてぇ』等、ルーファスに対しての様々な感想が飛び交う。それを聞きながらドナートは、『やはり見世物だ』と、眉をひそませる。
一方、その発言を聞いていたリオンは耳を抑えたくなった。涙も出そうになる。なんであいつだけがこんな目に。そんな憎しみの感情から、何も知らない『愚か』なポケモン達、それを意のままに操ろうとする『キース』に対して、嫌悪感を否めない。
今はポケモンたちの意識がルーファスに集中して出ていけない。どこかで意識がそれるようなことがあれば、ルーファスを救出することも不可能ではない。睨むようにしてキースを見つめた。
緊張を解くため、ここに来てからずっと黙ったままの相棒に話しかけてみることにした。
(…………お前といられるのは、これで最後かもしれないな)
「ステフィ、さっきから静かだな。どした?」
「……ううん。皆けっこー凄まじいなって。盗賊ルーファス、口まで縛られて、かわいそって」
ステファニーは柔らかく、まるでからかうように笑いながらそう言った。一瞬、リオンの背筋にぞわりとしたものが走ったが、それはこの場における緊張の所為だと思った。何も知らないポケモンたちが、しきりにルーファスを責めるような発言をしている。一部の者は殴りかかろうと喚き、警察にとらえられていた。
行けるか?リオンは考える。おそらく、キースや警察だけではない。この場のポケモン達全員が敵である。動きをしくじれば、直ぐにリオンは警察とこのポケモンたちに押しつぶされて動きを塞がれることだろう。しかし、やらなければならない。
「……随分今は大人しいけど、あれがルーファスなんだよね。動いてるところしかほとんど見たことないや」
「うーん。あたしよくわかんないです。目つきは……ちょっと悪いですけど」
アカネとカイトの方に、ゆっくりとシャロットが寄って来た。アカネとカイトの姿を見つけ、ポケモンの混み合いをかき分けて来てくれたらしい。アカネは『久しぶり?』といって、シャロットの頭を軽く撫でた。
アカネは、シャロットの頭を撫でた自身の手を見てなんとなく思う。『時空の叫び』……この力を使えることが出来れば、あのポケモンの心の内は分かるのだろうか。
ルーファスは、口を縛られて喋ることが出来ないようだった。何かを話したいように、しきりに顔を振っては口に巻き付けられたロープを解こうとしている。そうする度に、彼を囲んでいるヤミラミ達が威嚇し、ルーファスの体を痛めつけるのである。
彼が何を思っているのか。このサイコメトリーのような能力を使えば、何かわかるのかもしれないな。やる気も無いような事を、彼女は考えていた。
「…………皆さん!今日は……皆さんに、とても良い報告があります。このたび、ようやく……盗賊ルーファスを捕獲することに成功いたしました!これも、皆さんの協力のもとで成り立った成功!とても、とても感謝しています!
ルーファスは、見た通り凶悪なポケモンです。しかし、そんな彼に世界を脅かされる恐怖も去った!
皆さんの世界の平和は……これで、守られるでしょう」
「ッ!!?―――――!!ッ……――――ッ!!」
にこやかな様子で、キースは発表を開始した。『世界は守られる』、その言葉に、やたら反応を示すルーファスに対して、『うるせぇ!』と唾を吐く者までいた。皆、喜びにあふれる中で、どうしてもルーファスに意識が行ってしまう輩は少なくない。
「口縛られてるね。あいつ、口からも攻撃技使えるから、当たり前だけどさ……」
「……何かをしたいというよりかは、話したいみたいだけどね」
(世界が救われるだと!?嘘だ!!それは嘘だ!!信じるなッ!このままだと、この先の未来には滅亡しか待っていない!!
誰か……誰かッ!!口の縄を、話を……!)
何かを話したげな様子が、ここだけかなり激しくなっているようだった。いきなり暴れようとするルーファスに対し、ヤミラミは攻撃を加え、ルーファスに痛みを当たえる。ルーファスが皆に目を向けると、そこにあったのは『嫌悪』の目だった。
やっと静かになったルーファスを横目でちらりとみながら、キースは再び話を始める。
「……しかし、同時に悲しいお知らせもあります。今から、ここにいるルーファスを未来へと送り出します。その際、私も未来に帰らなければならない……と言うことです。
皆さんとはここでお別れ……と言うことになります」
皆が悲しそうな声を上げた。キースも悲し気な表情を装いながら、彼らに別れを告げる。ヤミラミはルーファスに密着すると、『時空ホール』へと入る準備を開始した。
「『時の歯車』は、僕たちが責任もって元の場所へと返す。約束するよ」
「よろしくお願いします。
それでは、皆さん……名残惜しいですが……。……そうだ……アカネさん、カイトさん。ぜひ、あなた方に向き合って挨拶をさせていただきたいのです」
「アカネ……僕たち呼ばれてる。行こうか」
「……ええ」
アカネとカイトはポケモンたちをかき分け、キースの目の前へと歩いていく。その後ろから、リオンはゆっくりとキース達の元へ向かっていた。なかなかルーファスを救出するタイミングがつかめない。
……アカネとカイトは、キースのすぐ目の前に立った。それを確認したリオン、そしてキースのみが同時に感じたことがあった。『この距離、アカネとカイトに腕が届きそうだ』と。
「キースさん。迷惑もかけたけど、色々お世話にもなりました。これでお別れか……いままで、ありがとう」
「……能力ばらされたのはムカついたけど、それなりに世話にはなったわね。さよなら」
「…………―――お別れ、さよなら、な……それはどうだろう?」
そうつぶやいた瞬間、キースは悪意に満ちた表情で、醜く顔をゆがめた。カイトとアカネは『え?』と反射で声を出す。そして、その一言がリオンにははっきりと聞こえた。だれも気づいていない。誰も気にしていない。
けど、このままでは
「ッ………アァァァァ!!!」
リオンは勢いよくポケモンたちの中を潜り抜けると、キースやヤミラミたちを攻撃しにかかった。地面から勢いよく跳ね上がり『真空波』でヤミラミ二匹を攻撃する。その様子を見たルーファスは思わず目を見開く。それにいち早く気づいたキースの攻撃によってそれは相殺されたが、続けざまに『真空波』を放つ。ギルドのポケモンは思わず唖然とし、そのほかのポケモンたちは大きく騒めき始めた。
『一体何が起こっている?』だれもがそう思った。
「り、リオン!?何してッ……!」
「お前たちも一緒に来るんだ!」
ヤミラミ達はその存在を確認すると、ルーファスを時空ホールに突き落とし、一緒に飛び込んでいく。キースは微かに笑うと、動揺して自分から視線がそれていたアカネとカイトの体を握りつぶさんばかりに掴みあげ、キースは『時空ホール』に身を投じた。
『クソ!間に合わなかった!』リオンがそう思い、振り返るや否や何者かによって体を押され、時空ホールへと突き飛ばされる。
リオンが後ろを振り返って最後に見たのは、一匹のヤミラミが自分を突き落とす光景だった。
「リオン!?リオンッ!!」
「おい!!ステファニーッ!!!」
場は大きく騒めく。そんな中で、ステファニーまでもが『時空ホール』へ落ちたリオンを追って閉じかけたその穴へと飛び込んでしまう。更に、民衆の中からまたも悲鳴が上がる。
「シャロットちゃん!?」
複数のヤミラミがポケモンたちをかき分け、シャロットに攻撃を仕掛けてきたのだ。『一体どういうことだ!?』と、ポケモンたちは彼女を助ける心の余裕を作ることが出来ず、唖然としていた。隅の方に居たレイセニウスやセオは、不意に『誰かにつけられている気がする』と言っていたシャロットの言葉を思い出し、思考が追い付いた瞬間、勢いよくその場から走り出した。
「テメェ等何してんだ!!」
『水の波導』を使い、大暴れするシャロットを抱え込もうとしたヤミラミに攻撃を仕掛け、更にセオは迷いがありつつも、『スパーク』でヤミラミをシャロットから突き放した。シャロットは動揺しながらも、『炎の渦』を繰り出して何とかヤミラミを近づけまいと攻撃を開始する。ドナートはそんな光景を目の当たりにし、状況をはっきりと理解した。とにかく、この状況を変えなければ。地面を踏みしめると、力いっぱいの『遠吠え』をした。
威嚇するための遠吠え、総攻撃に怖気づいたヤミラミは、皆『時空ホール』へと身を投じていく。最後の一匹が時空ホールへと入ったその瞬間、黒い渦巻き状の穴は完全に姿を消した。
「はぁ、はぁっ……な、なに、なんで?」
今にも泣きそうな顔で目を潤ませているシャロットは、ポケモンたちが消えていった『時空ホール』があった場所を、何を考えるわけでもなくただただ唖然当見つめていたのだった。