ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















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八章 垣間見える光と影
北の砂漠‐126
「捜査の手伝いって言っても何すればいいんだろね?というか、さっきからボーっとしすぎだよ、リオン。どうしたの?」
 俺よりも体が少し小さい相棒は、相変わらずの穢れの無い笑みで俺に微笑んだ。嗚呼、いいな、お前。悩みが無くて。珍しく、俺は彼女に心から悪態をついた。最近、身の回りが急激に変わりすぎたのだろうか。平穏が崩されるのはこんな気持ちか。俺も所詮、平和ボケしすぎていた一匹なのかもしれない。ギルドになど入らなければよかったのか。心にそんな気持ちは微塵もないが、ふと思ってしまった。
 ギルドからポケモンが居なくなり、警察も『時の歯車事件』によって総出。このトレジャータウンの治安を守る者はほぼいない。シャロットさんが襲撃される可能性が高くなる。どうにかして近くに置いておけないものか。
 ……俺は本当に容量が悪い。ルーファスが命を懸けているというのに、俺は何をしている。
 ――――『北の砂漠』か『水晶の洞窟』……次はどこを狙うんだ。嗚呼、やはり『連絡』を絶つべきではなかった。お前の今の状況が全く見えない。もし、ギルドのポケモンたちと対峙してしまったら、どうする。あいつは命の尊さを知っている。命を奪うことは無いだろう。しかし……。
「……もしもし!リオンさん!聞こえてますか?」
「えっあっ!?」
「えへへ、シャロットの真似してみちゃった。シャロットなら反応するんだ。やらしー」
「おいおい勘弁してくれ……。頭の中お花畑かホント……」
 とにかく、ギルドの任務よりシャロットさんだ。ルーファスに行きつかせてはいけないし、シャロットさんを襲わせるわけにもいかない。彼女も現在、どういう状況になっているのか知りたいはずだ。彼女も探検家の端くれである。トレジャータウンでそこそこ名前の通ってるチームクロッカスの一員、ともいえば、捜査に参加することも不可能ではない。怪しまれないよう、傍に置いておく必要がある。
 幸いにも、ステフィとシャロットさんの関係は良好。一緒に居ても特に支障はない。正直、シャロットさんがクロッカスと出会ってくれていて助かった。『遠征』の際も、特に誰も突っかかることはなかったし……な。
 
 遠征に出発する前に、ペリーに頼んでおいたこと。『俺が遠征メンバーに入っている場合、シャロットさんも連れて行きたい』ということである。
 無理やりだということはわかっていたが、あの時点ですでに『キース』らしき探検家の噂が耳に届いていた。もしも俺がメンバーに選ばれた場合、しばらく『トレジャータウン』を離れることになる。一日で片付けられるものならともかく、その場を離れるとなると情報が入ってくるのが遅れる可能性がある。
 『俺が遠征メンバーに入っている場合』シャロットさんを連れて行きたいと申し出た時、ペリーは何が何だか、という顔をしていた。当然である。あの後、ペリーはパトラスに話を通そうとしたはずだ。そして、パトラスからは『オッケー』が出た。つまり、俺は遠征メンバーに入っている可能性が非常に高い。後の可能性は、パトラスが特に何も考えずオッケーを出していた場合であるが、そうなれば後々言い訳をぶっこくつもりであった。
 オッケーが出た為に、俺はシャロットさんが毎朝通っているカフェに行き、レイチェルに伝言を頼んだ。……というのが、真相である。俺は誰に説明してんだ……。
「……シャロットさんも呼ぶか」
「え、どうして?」
「全然進行状況伝えてないだろ?」
「あ、そっかー。ね、リオン。私ちょっと思ってたんだけど、なんでシャロットにはさん付けするの?」
 
 ……呼び捨てにできるわけがないだろう。
 俺は軽くため息をついた。こんな話をしても、ステフィには意味が分からんだろう。「なんでだろー」なんて言って、軽く流す。どうにでもなる、こんなことは。
「シャロットを呼ぶのはいいんだけど、まずは警察に一旦交渉しようよ。まだ顔合わせてないし」
「わかった」
 どうやら、今回俺達が参加する方の捜査を指揮しているのはジゴイル保安官ではないらしい。どうも、ベテランで腕はいいが、その割に良い階級ではないポケモンのようだ。多少の不安もありつつ、俺とステフィは警察署へと向かった。
「ギルドの者です。えっと……『ドナート・ウィルシャン』さんはどちらに」
 ステファニーは警察署の前を守っているカモネギに話しかけた。なにやらデレデレとしながら、そのポケモンの所在を答えるカモネギ。面倒だから、そんなねちっこくしゃべらず早くすればいいのに。リオンは尻尾を不機嫌そうに垂らした。
「で、えっと……ドナート警部補なら三階の第二会議室にいらっしゃいます」
「了解。いこっか、リオン」
「嗚呼……いや、やっぱ俺は後で行くよ。ステフィ、先に行っててくれ」
「えー?まぁ、わかった。じゃ、あとでねー!」
 そう言ってステフィは警察署内へと入っていく。ギルドの任務よりも、シャロットさんをどうにか丸め込んで傍に置いておかなければ。

 キースの目的を皆知らない筈だ。つまり、本当の意味で息のかかってるものは居ない。
 
* * *

『――――というわけで、北の砂漠という場所に僕たちは今から探検に行く。付いて来て』
『えぇ!?いやだよ、俺全然ダンジョンとか最近入ってないし、このご時世だよ!?怖い!』
『逆に、なんでこのご時世にダンジョン避けるの?』
『えぇ〜……』
 ……という会話を、カイトとその幼馴染ポジションにあたるレイセニウスは、数時間前に交わした。酷い砂嵐の中、『ノーテンバンダナ』を腕、首に括りつけたアカネとカイトは、息も絶え絶えになりながら『北の砂漠』にあたるダンジョンを進んでいた。
 『ノーテンバンダナ』は、装備すると体を特殊で透明な何かが守り、気候の影響を最小限に抑えられるのだ。さすがに今回ばかりは『砂嵐』という、電気タイプと炎タイプの強敵。しかし全体的にそれっぽい為、避けては通れそうにない。一応ノーテンバンダナの威力は発揮されているようで、砂嵐によって体を傷つけられることなかった。視界も通常よりはクリアになっている筈なのだが、それでもウザったいのに変わりはない。 ダンジョンに入って早々に、アカネは多少の焦りと苛立ちを覚えていた。
「バンダナのおかげで視界はあまり問題ないけど……キリが無いねっ!」
 特性『砂隠れ』によって、地面と同化していたり砂の中に潜っている者がいる。それに気づかないと、即攻撃されてどうにもならない。足もとには大量の砂。足を掬われてしまいそうだ。カイトが踏みつけた場所が丁度そのような場所だった為、出てきたポケモンを瞬時に拳で殴りつけた。
「っはぁ……レイが引き受けてくれたらここまで大変じゃなかったんだけど、ごめんね」
「別に……。まぁ、あいつは一般のポケモンだから……連れていくのはペリーとかそのあたりが難色を示す可能性有りね」
 カイトは、レイセニウスをダンジョンに連れていくつもりだった。カイトの記憶では、彼はダンジョンで戦うにおいて『弱くはない』。現在もそれは変わらないのなら、迷いなく連れていくつもりだった。
 しかし、レイセニウス自身がダンジョンに行くことに難色を示した為、結局、ダンジョンでの相性が悪すぎるアカネとカイト、通常の二匹で行くことになったのだ。
 当然、トントン拍子にはいかない。だが、何とか階段を見つけ出し、その都度『次のフロアでは砂嵐が吹き荒れていないよう』と願っては、階段を通過していた。
 何回目かの階段を通過した時、アカネとカイトの姿を確認したサボネアが腕を振り回しながら二匹の方へと走ってくるのが目に入る。草タイプを持っている。いける、と思い、カイトは『火の粉』でサボネアを狙い撃つ。当たったかと思えば、次の瞬間サボネアはミサイルバリを連続で打ち込んできた。一筋縄ではいかず、アカネが『十万ボルト』で狙うが、砂の中に隠れてしまって当たらずの状態である。
「カイト!あんた、確か『火炎放射』が……」
「あ、そうだったね!確か火炎放射使ったばかりだった。いけるかなっ!!」
 そういうと、カイトは勢いをつけて口から炎を吹き出した。『火炎放射』である。イメージよりも少し威力は弱いが、火の粉のそれとはまったく違う。カイトはしっかりと『火炎放射』を取得していた。
 どこに隠れているのかはわかっている。カイトはそこを火炎放射で狙い、一気に放つと、とわずかに突き出たサボネアの体にある突起が焼け、耐えきれなくなったサボネアが砂から飛び出してくる。
 怒り狂った様子で『ミサイルバリ』を打つ姿を確認すると、二匹は別々の場所に退避し、その後、確実に『十万ボルト』でサボネアの体を貫いた。
 野生のポケモンの一体一体のレベルがそれぞれ高い。二匹で息を合わせて戦わなければ最奥部までたどり着くのは難しそうだ。
「あ、痛っ……!」
 サボネアを倒して早々、アカネは右足に痛みを感じた。何かが噛みついているような感覚である。それを振るい落とし、そこから瞬時に離れる。アカネが先ほど立っていた場所に『ナックラー』が顔を出していた。このダンジョンの中で基本的に砂の中で息をひそめているのはこいつである。特性ではないようだが、種族故だろう。アカネの足はすぐに振り払ったため、酷くは傷ついていなかったが、少し血が滲んでいた。
 近づくと『蟻地獄』に飲み込まれる可能性がある。足の応急処置をしつつ、カイトと共にその場を離れ、隣の部屋へと足を踏み入れた。部屋にぽつんと佇んでいた階段を通過すると、フロアに降りたその瞬間に再び『ミサイルバリ』のような攻撃が二匹へと放たれる。カイトがアカネの腕をつかんで引っ張り上げ、ギリギリで攻撃を避けた。鬼のような顔つきのノクタスが二匹をじっと見据えている。まるで感情の無い人形のようで、ほんの少し気味が悪いポケモンである。
 カイトはノクタスに『火の粉』を放った。火炎放射を放つ前にレベルを図る為である。しかし、ノクタスは瞬時に攻撃を避けると、アカネに向かって『毒針』を放った。アカネはそれを電撃で相殺した。ノクタスに直接物理で触れるとダメージを追う危険性がある。特殊技を電撃以外は特に持っていないアカネは、ひとまず注意を引き付けて、攻撃はカイトに回そうと考える。相手は地面タイプを持っていないため、電気技は通じるものの、『火の粉』でも倒れない相手。電気技で折れてくれそうには見えない。
 ノクタスの近辺を走り回りながら、何度もノクタスに向かって電撃を放つ。当たるか当たらないかという電撃を何度も繰り出すことによって、ノクタスを苛立たせようとしていた。一方、カイトは苛立つノクタスがアカネを狙おうと体を固定させるのを見計らい、『火炎放射』を撃ち込もうと息を大きく吸いこむ。ノクタスの視線がアカネにぴたりと重なったその時、その斜め横から『火炎放射』をノクタスへと打ち込んだ。
 効果は大きい。ノクタスは体を焦がすと、砂に埋もれながら地面に伏した。アカネは息を荒くしつつも、「うまくいった」と思い、カイトが自分の方へ足を運ぶのを待った。
「大丈夫!?」
「平気」
「そっか。とりあえず、無理しないでね」
 ノクタスを戦闘不能にした後、再び階段を発見して踏み込むと、そこには今まで野ダンジョンとは一見違う場所が広がっていた。砂嵐も無く、ただただ砂漠のみが広がっている。
「……ここが最奥部かな」
 ただただ広がる砂漠の中に、一つ二つ三つと、大きな流砂がいくつも佇んでいる。足を掬われたら飲み込まれてしまうだろう。ここは危険な場所である。
「下手に歩くと飲み込まれそうだね」
「……変な感じ」
「辺りを見渡しても……時の歯車らしきものは無い、か」
 砂漠と流砂。この場所にはそれしかなかった。そんな中、アカネはまたもベースキャンプで感じたような、不自然な感覚に襲われる。まるでこの場所に来たことがあるかのような、この場所を知っていたかのような、そんな不思議な気分である。
「アカネ、大丈夫?ボーっとしてる」
「……嗚呼、大丈夫。……あのさ、カイト。ちょっと聞いてほしいんだけど」
「え!?な、なに!?」
 やたらカイトが食いついてくるのは良いとして、アカネはこの不自然な感覚の事をカイトに話した。カイトは先ほど、何もないと判断した時点でここを立ち去るつもりだったが、アカネの話を聞いて考えをすぐに改めた。この砂漠と流砂、何かが時の歯車と繋がっているのではないかという見解であった。
「……考え直してみれば、変かもね。地図で確認すると、この場所は雲で覆われてることになってるんだ。この先にはただただ砂漠が広がってる」
「砂漠の中に唯一存在するのが『流砂』ね。……流砂って、砂が何らかの要因で地中に吸い込まれてるのよね」
 流砂が起こる要因。地面が崩壊し、上の砂が引き込まれているのが主な理由だと言える。この場所には流砂しか残っていない。それ以外は本当に何もないのだ。
 考えればわかる。ここでできることは一つしかないと。しかし、その行為はあまりに危険であった。
 はっきり言って、『滝壺の洞窟』の時、滝に飛び込んで行ったあの時よりも、この先に何かしらある確率は低く、危険度も高い。
 なかなか言い出すことはできなかった。
「……あの流砂の中に、何かあるんだね?」
「……と、思う」
 カイトがアカネの発言から気持ちを汲み取り、それを代弁した。アカネは軽く頷くと、多少不安そうな顔をして、中央に佇んでいる一番巨大な流砂を見つめた。あの中に、飛び込む。普通のポケモンはそんなことをしない。言われてもしないし、そもそもわかってても言わない筈だ。
 アカネは滝壺の洞窟の時もそうだった。実際にビジョンを見たのは彼女だったにもかかわらず、一番怯えていたのである。今だってそうだった。
「……やっぱり、レイ連れてこなくてよかったかも。
 僕は良いよ。行ける」
 カイトはそう言って、わずかながら顔色の悪くなっているアカネの肩をポンポンと叩いた。アカネはカイトの顔を見据えると、軽くうなずく。

「じゃあ、カウントダウンはアカネが。信じてるから、同時に!」
「……もう、すぐに行くよ!三、二、一ッ!!」
 思い切って、二匹は走り出し、巨大な流砂の中央へと足を踏み込んだ。
 


■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「最近もう書き始めると眠くて眠くて」
リオン「それ飽きたっていうんだよ」
作者「もう書いてると頭が煮詰まって」
ステファニー「その程度で疲れてどうするの〜!?働け」
作者「表現法が意味わかんない」
リオン「それ絶対スランプだろ」
作者「ですよね〜」
ステファニー「リハビリがてら別の小説書くとか言わないよね!?」
作者「大事でもない限りはこれを終わらせてからって決めてるのよぉ!あっはっは」
リオン「そういうとこだけやけに律儀……」
作者「ミーは先が思いやられるでしゅ!!」
ステファニー「あざと……くない」
ミシャル ( 2016/02/19(金) 21:38 )