ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜
















小説トップ
八章 垣間見える光と影
“二つ目”‐119
 * * *

 チームクロッカスは依頼を終え、ほぼいつも通り皆ギルドに帰っている時間に帰省した。アカネは部屋で道具の整理をすると言って引きこもり、ギルドの朝礼場ではカイトとリオンが壁に寄りかかり、深刻そうな顔で話をしていた。
「え?ステファニーが本捨てたの?」
「やっぱ可笑しいって思うよな?」
「んー。でも、おかしいっていうほどでも無いというか、へぇ、意外だなって位しか。思い立ったらすぐ行動!みたいな感じじゃないかな?」
「お前はあいつの読書狂い具合を知らないから……」
 リオンは悩んでいた。相方が遠征が終わったとたん、急に本を手放し始めた事。勿論全て捨てたわけではないが、今まで一冊も手放したがらなかった彼女が、いったいどんな風の吹き回しだ、と。
 本来なら喜ぶべきなのだが、リオンが言う前に、こんなにあっさりとそうなってしまうと、なんだかかえってショックだったのだ。言っていることと思っていることが完全に矛盾しているのは承知の故だったが、相方の変化にリオンは動揺を隠せないでいた。
 一方、ステファニーのそういうところにあまり触れた事が無いカイトは、彼の動揺具合に理解できないところがしばしある。
「でも、よかったんじゃないかな?だってアドレーに床が陥没するって言われて注意されてたんでしょ?むしろ、リオンの言う通りになって良かったんじゃ?」
「あー。まぁ、あの部屋のすっきり具合には爽快感さえ感じるけど、さぁ。無かったら無かったで寂しいっていうか、あんなに大量に捨てなくてもよかったんじゃ、って」
 なかなか気持ちがまとまらないリオンに、カイトは事実を交えて、リオンが納得できる方向へと話を持っていこうとする。どうもリオンの気持ちがよくわからなかった。
 ステファニーというポケモンの性格や個性を、リオンの中で固定しているから、こんなに悩むのだと思った。一方、時間をかけるごとに変化していく相方、アカネをバンバン受け入れる体制のカイトは、なかなか会話にピリオドを打てずにいた。
 カイトはリオンの言葉に返事を出すため、視線を斜め左に移動させて考え始める。丁度その時だった
「みなさーん!御飯の時間ですよ〜〜」
 ちりん、ちりんと鈴の音が鳴り、ベルの声が広場に優しく響く。夕飯の時間のようだった。
「僕、アカネ呼んでくるから。じゃ、またあとで」
「嗚呼、なんか悪かったな。変な事言って……」
「大丈夫!僕もいろいろと相談した事あったから」
 そういうと、二匹は広場で二手に分かれる。リオンは食堂へ、カイトは部屋にこもって道具の整理をしているであろうアカネを呼びに向かった。
 
 
 食堂ではすでにメンバー達全員が集まり、目の前に並べられた食事に目を輝かせていた。号令が出るまで待ちきれない、とばかりに手を出そうとしたグーテは、ヘクターによってハサミで強く前足をつかまれた。
「痛いでゲスぅ!」
「フライングはナシだぜ?ヘーイ……」
 アカネとカイトは急いで食堂でメンバーたちと合流する。ペリーはまだ前に出ておらず、パトラスのみが、既に頭の上でセカイイチを回していた。ペリーが来ていないのでは、目の前の飯にありつけない。特に男性陣の空腹度はかなりのものであり、だんだんと苛立ってくる様子がうかがえる。
 そこへ、やっとペリーが食堂へと足を踏み入れてきた。全員飛びつかんばかりに『いっただっきま―――』と号令を勝手にかけ、テーブルへと手を伸ばしたのだが……。
「ちょぉっと待ったぁ!!!」
 ペリーがそれを制止し、全員の手元がぴたりと停止する。どうやら間に合ったようだ、とばかりに、ペリーは大きなため息をついた。
「えー……今日の夕飯を食べる前に、皆に伝えたいことがある」
「それ、食べる前に言わなきゃダメなのか?」
「ヘーイ。このままだと空腹で気持ち悪くなるって〜〜」
「静粛に!!お前達、夕飯食べるとすぐ眠くなるだろう!かなり真剣な話だ。まじめに聞いてほしい」
 起こったような表情から一転、真剣な眼差しをメンバーたちに向けるペリーを見て、渋々皆、声と感情を落ち着かせた。ゆっくりとペリーは話し始める。
「これはつい先ほどは言った情報だが……時の歯車が、また。盗まれたらしい」
 『時の歯車が盗まれた』その言葉を聞いた瞬間、空腹で憤っていたメンバー全員の表情が凍り付く。場が騒めき始めた。もはや空腹など忘れたかのように、皆の顔は不安に染まる。
「時の歯車が……って!」
「また盗まれたのか……!?」
「あ、あの……それって、もしかして……『霧の湖』の……?」
 皆が考えていた可能性を、グーテがペリーに向かって指摘する。ペリーはゆっくりと首を横に振る。
「霧の湖じゃないのかな……?」
「にしても、盗まれすぎ」
 アカネとカイトは、そのペリーの様子を見てほっとしたような、不安なような感情に駆られる。カイトが不安気にアカネを見て、ひそひそ声で話しかける。それを理解しつつ、ペリーはグーテの質問に淡々とした声で答えた。
「いや、違う。どうやら別の場所の物らしい。だが、これで盗まれたのは二つ目ということになる。これ以上盗まれるのは非常に良くない。皆の事を信用している。もちろん、共に遠征に行ったシャロットもだ。だが、一応念を押しておく。遠征で皆が見たことについては、絶対……誰にも言わないように!
 チームクロッカス。一応、シャロットにもこの事実を伝え、もう一度釘を刺してくれ。分かったな」
「…………了解」
 ペリーは一応のつもりで言った気でいたのだが、思った以上にその言葉に対するギルドメンバーたちの反応は大きかった。『いうわけないだろう』と怒りだしたり、顔をきつくしたりと、それが彼らの意志の強さを表しているのか否か……ペリーは参ってしまったような気持ちになる。
「わかったわかった!とにかくそういうことだから、静粛に!
 それでは、待たせたな…………あらためて、せぇーの、」

 『いっただきまーす!』という声に食堂は包まれ、一気にそこは戦場と化した。アカネはいつも通り自分の食べきれない分を机の下に忍ばせながら、モモンの実をかじった。全員が『やけ食い』のように食べている中、アカネは机から顔を上げた瞬間に、一つの『浮いた』光景が目に入った。
 怖い顔つきで全員が食事をする中、一匹だけ。
 リオンが、微かに笑いながら食事にがっついていた。


 * * *

「可笑しいと思わない?」
 アカネはそう言って、ばふばふと毛布をベッドの上に広げた。カイトは彼女の方を振り返ると、軽く首をかしげる。いろいろなことがありすぎて、アカネがいったい何のことを言っているのかよく分からなかったのだ。
 アカネは軽くため息をつくと、ベッドにもぐりこみ、首から上だけをスポッと毛布から出した。可愛い。
「時の歯車」
「嗚呼……これで二つ目だね。誰が盗んでるのか知らないけど、迷惑な話だよね。一体なんで時の歯車を集めてるんだろ」
「そもそも、今の時点ですでに二個取られてるってのが可笑しいんじゃない?一個目が取られたのは確か……私たちが、誘拐されたマリをロリコンから救い出した後の事。結構前ではあるけど、犯人はそれまでに『時の歯車』を発見する、という目的が有ってそれを探していた筈。それなら、あまりにも期間が短過ぎると思うわ」
「なんとなくわかるよ。僕たちが湖を発見したのは、そこに何かがあるという前提で捜索を進めてたからだよね。盗んだ犯人は一から歯車を探さなければならないのに、どうしてこんなに時期を詰めて。って事でしょ?」
 『時の歯車』を一から探しているとなると、こんなに短期間で二個も盗むことが出来るのだろうか。二匹が言っているのはそういうことである。一個目が盗まれた時点でポケモンたちの警戒心は高まっていた筈だった。しかし、何の前触れも無く二個目までいとも簡単に盗まれてしまった、ということである。未だに目撃情報はない。そのポケモンはとんでもなく高い戦闘能力とIQを持っており、透明にでもなれるというのか?疑問がふつふつと沸いて出る。
「期間を詰めている理由は、『以前から知っていた』なら理解できる。つまり、力を秘めた宝『時の歯車』を手に入れることで快感を感じているとか、そんな物じゃなくて、それを集めて何か重大なことを起こす……とか。的確に何か目的が有るってことね」
「時の歯車を盗むって、犯罪以前の問題だからね……捕まったらまず出てこれないだろうし、そんなリスクを冒してまで……か」

(……盗まれたどうのこうのも気になるのは気になるけど。それ以前に……。時の歯車を初めて見た時、何か燻るような気分になった。あれは、時の歯車の『影響』?皆嗚呼やって感じてたのかしら。
 それとも、ベースキャンプで感じたあの違和感とつなげて、私だけってことあんのかしら。
 ま、どっちにしても関係ありそうには思えないけどね)
 アカネが独り言を内心で呟いていると、カイトがアカネの顔の前にうつ伏せで寝転がると、ニコニコとしながら話しかけた。
「ねえ、アカネー。今思うとさぁ、遠征に行ったのがもう随分前のことに感じるよね。実際全然経ってないのに。
 あそこの景色、綺麗だったなぁ。夢みたいだった」
「……そうね。実感があまりないのかしら」
「どうだろ。でも、ユクシーは元気にしてるかな」
 カイトは、今も思い出す『霧の湖』の番人である、ユクシーのことを思い出し、窓の方へと視線を傾けた。

■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「私も一回ポケモンになる気分を味わいたいんだ」
カイト「すでにボルトロス」
作者「うっせぇ引き摺るんじゃねぇ!カイト君付き合って」
カイト「えー……」

作者「こ、ここはどこ!?わたしはだれ!?」
カイト「君、大丈夫?」
作者「なんと!ヒトカゲがでかくて喋ってるぅ!」
カイト「どうしたの?君なんかクズで変態っぽいね」
作者「おい本音混ぜただろ今。
   失礼ね!私は人間なのよぉ!」
カイト「え?君はどう見てもボルトロスなんですけど?へ、変態ダァーーー!!」
作者「やめろやめろ引き摺るなってェ!!御三家タイプの可愛いのにしてってェ!!これから始まるロマンスぶち壊すなよォ!」
ミシャル ( 2016/02/12(金) 20:13 )