ポケモン不思議のダンジョン〜時の降る雨空-闇夜の蜃気楼〜 - 八章 垣間見える光と影
興味‐118
 * * *

「……え、嘘。セカイイチの入荷予定無いのかい!?この先全く!?」
「貴重だから取引が難しいとか?ま、残念だったわね」
 あからさまにがっかりするペリーは、窘めたようなことを言うアカネを軽く睨んだ。しかし、どうしうようも無いものはどうしようもない。ペリーは一匹溜息をつき、これからどうしようかと考えていた。
「僕たちがリンゴの森で取ってくる?」
「はぁ?冗談じゃない。できればこの先行きたくないわね」
「まぁ、僕もだなぁ……」
 二匹の中に、ドクローズが待ち構えていた時の記憶が残っていた。またいるかもしれない、なんてことは無いとは思うが、良い思い出が無い。世界一を取ってくるのには成功したが、なんだか後味の悪い出来事だった。
「え、えー……じゃ、じゃあ私が取ってくるしかないのか……はぁ……まぁ、親方様にボコられるよりはましだ……世の中にあれ以上に恐ろしいものなどあるか……?」
 自問自答を始めたペリーに対し、カイトは冷や汗を流し、アカネは『フン』と、取りに行きたくないという意思を鼻の先で示す。ペリーにはとても冷たい世の中である。
 そんな二匹の反応に、ペリーはどうしようも無いな、と思ったのか素直に引き下がり、あからさまにテンションを下げながら、今日の仕事の指示を行った。
「今日は、いつも通り依頼をやってくれ……あー……」
「どうも。じゃ、行くよ。カイト」
「うん。大変だろうけど頑張ってね、ペリー」
「あ、あぁ…………あの……」
「お尋ね者依頼行きたいわね。単独だという確信があるタイプで。縛り玉買ったし」
「了解。じゃあ、この前やり損ねちゃった連れてって依頼も受けよっか〜」
 助けるようなそぶりを微塵も見せない二匹に、またがっくりと肩を落とした。なんて先輩不幸な弟子だ!涙を流すようなしぐさをすると、一匹せっせとリンゴの森に行く準備を始めたのだった。

 * * *

 一方、同時刻。遠征以来少し影を潜め気味だったシャロットはカフェにて『モモンティー』を楽しんでいた。足を使って器用に何か食すということが苦手なので、基本的に犬食いである。器に入ったお茶をぺろぺろと舐めながら、甘い〜香ばしい〜と、幸せそうな顔で『ふはぁー』と小さく息を吐く。
「シャロットちゃん、良い飲みっぷりだねぇ!」
「レイセニウスさんは、ブラック頼んでみた割には全然飲めてませんよー!」
「……いや飲めるかなって思ったんだ。のめるかな、って……」
 ロコンのシャロットと、フローゼルのレイセニウスはカフェで意気投合していた。まるで親父の飲み会のようににぎやかにコーヒーとティーを飲みながらゲラゲラ笑う。きっかけは勿論、レイセニウスがちょっかいをだしたことから始まったのだが、『友達作り』という名目で二匹して飲んでいた。
「シャロットちゃんって、キュウコンに進化しないん!?キュウコンて強いし綺麗なのに、なんで?」
「なんでって〜……だって、レイセニウスさん今までキュウコンが生きて動いてるの見たことあります?」
「あー。大陸に一応いるっていうのは聞いたことあるけど、見たことはねーな……」
「でしょ。そういうことなんですよ〜。キュウコンには千年の寿命があると言われています。それは実際に生きたキュウコンがいるからです。
 キュウコンなら千年生きることが出来る。すごいことだと思うでしょ?でも実際はそれ相応のメンタルというのかな、強さが無いとなかなか千年生きられません。自分はこの先生き続けるのに、同じ年に生まれたポケモンはもう老衰で亡くなるとかもザラじゃありません。あたしのお母さんもロコンのままです」
「他から見ればうらやましくても、ロコン達からすればそれは『選択』ってことっすかね?」
「そういうことかな?あたしは並みに生きることができればそれでいいです。あたしみたいな考え方のロコンはかなり多くて、それが未だ世界にあまりキュウコンがいない理由です。進化したら後戻りできないし、気持ちが弱ければ自分から命を絶つことにだってなりかねませんから!」
 シャロットは種族故の悩みをレイセニウスに語り、彼もまた、なるほどなぁと頭をフル回転させていた。彼にとって『寿命長いんだ。うらやまし』と思っていたことが、割とロコン達にとっては複雑な話だったのである。彼は一つ何かを学んだような気がした。
 シャロットは相変わらずモモンティーをチロチロ飲んでは、当たり障りのない話をレイセニウス相手にしていた。レイセニウスはここにきてからぐっとやることが減ったため、どうしようかと考える片手間でシャロットの話を聞く。
 彼は、ギルドの親方であるパトラスに、『少しの間でもいいからとレジャータウンに滞在してほしい』と言われていた。その理由はよくわからないが、それだけパトラスが過去の出会いにこだわっているということなのだろうと思い、深くは追及しなかった。
 ここには少し懐かしいやつも居る。交流する機会があるだろうし、第一それを承知の上で大陸に渡ってきたのである。彼に昔の友人を妨げる理由は無かった。
「シャロットちゃんはあれなんだっけ?クロッカスのメンバーなんだっけ?」
「いや、気まぐれに連れていかれるっていうか、あたしが行きたいときに強請るんですよ。一緒にー!!って!」
「そうなんだー。じゃあ、俺も一緒に行っちゃったりしていい?」
「それは助かるかもしれませんね〜。なんせ水要員がいないっていうか、アカネさんは電気だしカイトさんとあたしは炎だし、地面タイプ来た時に困りますしねー。でも、チームに参加するにあたってアカネさんは強敵ですよ〜。まずは相談!って感じですかね。」
 事情を知らないシャロットは、うんうんと頷きながらレイセニウスを探検に歓迎する姿勢を見せた。と言っても、彼の探検の実力はまだ分からないので、完全にイエスとは言い切ることが出来ない。レイセニウスは同意されながらも軽く流されていた。なかなかだな、とその爽やかな目元を細める。
「アカネちゃんは簡単に入れてくれない、ってこと?」
「そう、ですね。うんうん、あたしん時も結構難色を示してたというか、でも実際に一緒に行ったら褒め殺しにしてくれて……カイトさんの視線が怖かったなぁ」
「えぇ?カイトが、なんで君を睨むの?」
「あー睨まれたとかじゃ……。ただ、一緒に居るうちにねー。わかっちゃうんですよね〜」
 そう言ってシャロットは軽くニヤついた。レイセニウスも、「なるほどー!」と言いながら、シャロットの倍はニヤつく。
(あいつ、そうなんだ。へぇ、だからあんなに変わったんだ。ほぉ?)
 レイセニウスは内心妙なことを考えつつ、現実ではニヤケ面を丸出しにしていた。なにやら不穏な空気である。
「……あ。そろそろあたし行きますね。探検家ではあるけど、一応ニートというか……なんかやってないとホントお金ないんですよねー。失礼します!」 
 そう言って、シャロットはティーの入っていた器を机に残したまま、嵐の如くカフェから出ていく。レイセニウスはそんな後姿をみながら、ふと思った。


 ――――出会いが一つあるだけで、あんな不良があそこまで変われるもんなのかな。
 
(あの大陸の中で、あいつとうまくやれてたのは俺だけだった。でも俺とアカネちゃんの性格はある意味正反対。俺はいつでも明るくポジティブに生き続けてきた。
 アカネちゃんにいったい何がある?ケド、確かに惹きつけられるのも事実だなぁ。カフェを見渡して一番に目についたのがあのピカチュウだったんだから。雰囲気から相手にしてくれないのは目に見えていた。
 何で話しかけたんだっけか)
 レイセニウスはそう考えるや否や、自分が持っていたバッグから紙を何枚も重ねたもの……所謂メモ帳を取り出し、ペンをバッグから抜き取るとカリカリと書き始めた。

『探検隊チームクロッカス アカネ 種族はピカチュウ
 基本的に冷静な様子が伺える。かなり端正な顔立ち。初対面にも遠慮が無く、口が少々悪い。カイトの現パートナーらしい。彼に執着している様子は見られないが、カイト自身はそうではないらしい』
 余白は随分残っているが、とりあえずレイセニウスはこれだけメモに書いてみた。描いてみたからと言ってどうなるということでもないが、何か感じたことがあればこれに書いてみよう、と思う。
 少しこちらに来るから旅行記にでも、と思って持参したメモ張を、こんな風に使うとは。レイセニウスは爽やかに目を細めて口角を上げると、ゆっくりと椅子から立ち上がった。

(アカネちゃんか…………)
 俄然興味がわいてきた。レイセニウスはメモ用紙を鞄に放り込み、かっこよさげにペンをクルクルと手の上で回しながらバッグに突っ込む。
 彼はカフェの外へと歩みだした。

■筆者メッセージ
気まぐれ豆雑談

作者「るぁるぁるぁ〜〜〜→→るぁっるぁっるぁーーー↑↑」
アカネ「ラジオ体操?意外に健康志向なのかしら?」
作者「ちげーし!ポケダン時闇空のみゅーずぃっく!『ずっと忘れない…』だし!」
カイト「小説キャラの前で何で言うかな!!ノーガードで殴られてんのと同じなんだけど」
作者「私の歌は相変わらず素晴らしいわ。ゲームに差し替えたいくらい」
アカネ「やめなさいド音痴」
カイト「世界が泣いたあのシーンを木っ端微塵にする気かな?」
作者「素晴らしい作品だったからこそ私の歌で彩るべきよ!!」
カイト「ひ、品もクソもない作者が星を眺める少女目を如く輝かせてるよ!」
アカネ「末期ね」
パトラス「ここは僕が食い止めるよ!!滅びの歌えいやっさ〜」

そして誰も居なくなった

ミシャル ( 2016/02/11(木) 01:33 )