#22 失敗を乗り越えて
「えー、遠征のメンバーの発表はここ数日間に行おうと思ってる。皆最後のアピールだからな♪ それじゃ、今日も張り切って仕事を頑張るよー!」
「「「おぉーっ!!」」」
次の日の朝礼。ペラトの言葉に兄弟子達は意気揚々と声を上げ持ち場に去っていく。それもそのはず。彼が言った事は兄弟子達の気合いを煽るのに十分な効力を果たしたのだから。その一方でフィルド達は昨日の夕食を抜きにされた挙げ句、空腹で夜も眠れなかったためか表情に覇気がなかった。
そんな彼らに向けペラトはいつものように告げる。
「お前達は今日も掲示板の依頼をこなしてくれ。後……」
だが、ここで言葉を切り唸る。まるで言うのを躊躇っているかのように。しかし、決心づいたのか少しだけ厳しい表情を浮かべて続けた。
「遠征メンバーの事だが……お前達は諦めた方がいい」
「「えぇぇ!?」」
その内容にキュベレーとシンラは驚愕の表情をしながらハモらせた。
「……やっぱり昨日の失敗が響いてるのか?」
「あぁ……やはり昨日の失敗は大きいと思うぞ。親方様は一見あぁ見えて実は腸が煮えくり返っているかもしれん……。だから、遠征メンバーの発表はあまり期待しない方がいいぞ? じゃあ、仕事を頼んだぞ」
フィルドの問いにペラトはそう言い残すと地下一階へと上がっていく。
「うぅ……ただでさえお腹が空いてるのにあんな事言われたら、力が入らなくなっちゃうよ……」
彼の姿が視界から完全に消えた後、キュベレーはその場で座り込んでしまう。昨日の『ドクローズ』によって嵌められたのが失敗へと変わり『サンライズ』全員に重くのしかかっていた。
「おーい、キミ達ー!」
「うっ……この声は……」
そんな空気をものともせずに響く呑気な声。フィルド達はその声に耳が入っても声がする方向を向かない――否、向けなかった。
やがて、その声の持ち主がフィルド達に近づいてきた。
「さっきから呼んでるんだよ?」
「「「……………」」」
声の主――サクヤの質問にフィルド達は沈黙を続けるどころか逃げるように俯いた。
「……ふぅ。しょうがないなぁ……」
サクヤは暗い表情を浮かべて逸らす『サンライズ』の顔を一人一人見て溜め息をつくと――
「「うわぁ!?」」
「きゃぁ!?」
「な、なに!?」
全員を包み込むように抱え込み自分の部屋へと連れていったのだ。
「……いきなり何するんですか?」
(サ……サクヤ親方様に抱かれた……!!)
サクヤの部屋に着いて解放されたフィルド達。そして、いの一番にフィルドが口を開いた。ちなみにシンラは憧れのサクヤに抱かれたのが嬉しかったようだ。
「どうしてって、ボクがキミ達を呼んでも来ないからだよ? それと……はい♪」
サクヤは理由を述べながらフィルド達の前に大きなリンゴを一つずつ置いた。
「これって……」
「大きなリンゴだよ♪ 実はねキミ達が部屋に戻った後、こんな事があったんだよ」
*
フィルド達が退室してから数分後……
『親方様! 入ってもよろしいでしょうか?』
『いいよ♪』
セカイイチを食べたためかいつも通りに完全に戻ったサクヤ。そんな彼の前に訪れたのは――
『あ、親方様! 起きてたんですね!』
サンシャ、フウ、そしてビートであった。
『やあ! こんな夜遅い時間にどうしたの?』
『じ、実は親方様にお願いがあるんでゲスよ』
ビートがそう言うと彼らはサクヤに大きなリンゴを四つ差し出す。
『無理なお願いかもしれませんけど……明日『サンライズ』の皆さんにこれを食べさせてくれませんか?』
『サクヤ親方様、お願いします!』
『あ……あっしからもお願いしますでゲスぅ!』
ビートと入れ代わって前に出たサンシャはサクヤに懇願すると二人も後に続く。そんな彼らと四つの大きなリンゴをサクヤは交互に見つめ少し眉間に皺を寄せたがすぐに笑顔を浮かべて頷いた。
『……うん♪ いいよ!』
『『『あ、ありがとうございます(でゲス)!!!』』』
彼から許しが出た瞬間、サンシャ達は笑顔で礼を述べて手を取り合った。
*
「兄弟子達がキミ達を想って残してくれたみたいだよ?」
「そうなんですか……」
「オレ……我慢出来ないよ! 頂きます!!」
思い出しながら話すサクヤにフィルド達は大きなリンゴを置かれた理由を納得したが、ここでシンラは我慢の限界がきたのか一足先に大きなリンゴに噛り付いた。
「どうしたの? 早く食べなよ?」
「はい……頂きます!」
「「頂きます……!!」」
一心不乱にかぶりつくシンラを見たサクヤに催促されてキュベレー、エレナ、フィルドも続くように大きなリンゴをひとかじりする。すると彼らもまたシンラのようにがむしゃらに食べてあっという間に食べてしまった。
「いやぁ、いつもよりうまかったなぁ!」
「ご馳走様でした! サクヤ親方、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
「うん♪ でもお礼はボクじゃなくてサンシャ達に言ってね? あ、そうだ! 前にボクが直接依頼を出すって言った事、覚えてる?」
フィルド達の礼を聞いた後、サクヤは別な質問を切り出す。
「あぁ! シンラを候補に入れるかどうかを見極めるあれですか?」
腕を組んでいたフィルドが思い出したように口を開くとサクヤはコクりと頷いた。
「うん♪ それで依頼の内容はね、この手紙を『ルイスタウン』の長に渡してほしいんだ」
「えっ……それだけなんですか?」
フィルドに手紙を渡しながら内容を話すサクヤにキュベレーは素っ頓狂な声を上げる。
「そうだよ。でもね…手紙を届けるって簡単そうに見えて実は大変なんだよ?」
「確か……手紙には重要な機密情報が書かれている可能性があって、盗賊とかお尋ね者が狙っているからなんですよね?」
「そういう事♪ ちなみに『パッチールのカフェ』に案内人がいるから彼らと合流して行ってねー」
エレナの説明に頷くとカフェへ行くように促した。
「最後に……失敗は誰だって付き物だからめげずにメンバーに選ばれるように頑張ってね?」
「サクヤ親方……! はい、頑張ります!!」
サクヤのエールに代表してフィルドが応え、『サンライズ』はサクヤの部屋を後にした。
「あ、サンシャさん達だ! おーい!!」
『パッチールのカフェ』に向かう途中、ギルドの入り口で雑談中のサンシャ、フウ、ビートと見かけたキュベレーが彼らに声をかける。彼女の声に気付いた三人はフィルド達に体を向けて笑顔で返した。
「まぁ、あなた達! 昨日は夕食抜きにされて辛かったでしょう?」
「大丈夫でした……って言えば嘘になります。朝は辛かったですけど……先輩達がくれた大きなリンゴのおかげで助かりました! 本当に………」
「「「ありがとうございました!!!」」」
彼らを気遣うサンシャにフィルドは首を横に降ると大きなリンゴを分けてくれたサンシャ達に深々と頭を下げた。
「それじゃ……親方様は分けてくれたんでゲスね! 良かったでゲスぅ!」
「はい! ……でも……」
嬉しそうに微笑んだキュベレーだが急にしょんぼりとしてしまう。またフィルド達もどこか表情が暗いようにも見えた。
「ど……どうかしましたか!?」
「……朝ペラトさんに言われたんです……遠征メンバーに選ばれるのは諦めろって……だから――」
「それはまだ……分からないですわ!」
心配そうにしたフウにキュベレーは朝の会話を思い出し、理由を話す。だがその話を遮ってサンシャが力強く言う。
「そうですよ! だってまだメンバーが決まったわけじゃありませんから!」
「そうでゲスよ!」
「先輩方……」
フウとビートも続け様に言う。その言葉を聞き、フィルド、エレナ、シンラは安堵の表情をしたがキュベレーだけがまだ浮かない表情をしていた。
「でも……もしわたし達が選ばれてこの中の誰かが落ちたら……」
「その時は……その時ですわ!」
「もし、落ちたらその時はメンバーに選ばれた方々を応援するまでです」
キュベレーの不安気な問いを遮るようにサンシャとフウは言った。
「とにかく……ペラトの言ってる事はあまり気になさらなくてもいいですわ!」
「今は気落ちしないでメンバーに選ばれるようにまた頑張ればいいんですよ」
「そうでゲス。最後まで諦めずに頑張るんでゲスよ?」
「皆……ありがとう……ございます!!」
サンシャの言葉を聞きキュベレーはようやく笑顔を見せた。
「よし! そうと決まれば早速頼まれた依頼をこなすとするか!」
「うん!」
「そうね。ペラトさんを見返さないとね」
「おっしゃぁ! やる気が出てきたぜ!」
兄弟子達の支えにより元気を取り戻したフィルド達は案内人が待つ『パッチールのカフェ』に向かって勢いよく走りだした。