#32 遠征メンバー発表
リョウトとジュードを新たに加えた『サンライズ』。サクヤに一日だけ休みをもらった後、活動を再開した彼らは依頼を着実にこなし、兄弟子達の仕事も率先して手伝った。それから一週間後――
いつものようにロビーに集まった弟子達だが、今日はいつもと違い全員が緊張した面持ちでサクヤとペラトを見る。
「えー、今から遠征メンバーの発表をする」
「い……いよいよですね……」
「あっしも選ばれるといいでゲスが……」
ペラトの口から言われた“遠征メンバー発表”に全員の緊張が一気に高まる。そう、今日は待ちに待った遠征に行く選抜メンバーの発表されるのだ。全員を見渡したペラトは右翼に持った紙を上に掲げながら説明を入れる。
「この紙に選ばれたメンバーの名前が書かれてある。私が名前を呼ぶから言われたら――」
「コラ、ペラト! 早く言わんか!!」
「そうだそうだ!」
「こっちは我慢の限界なんだよ!」
説明に我慢出来ずクリオが口を挟む。それにつられて他の弟子達――もちろん、フィルド達『サンライズ』を含む全員がブーイングを始める。
「わ、分かったから静粛に! 今から言うからな!! 呼ばれたら前に出てくれ!!」
ペラトが大声で叫びブーイングが収まった。ここで彼は咳払いを一つして紙に目を通す。
「まずは――」
全員が固唾を飲んでペラトが言いだすのを待つ。そして――
「――――ゴルダ♪」
「ガ……ガハハハ! まぁ、俺が選ばれて当然だな!!」
一番最初に呼ばれたのはゴルダだった。名前を呼ばれて一瞬キョトンとした彼だったがすぐに大声を出し前に出る。
(よく言いますよね……)
(先ほどまで一番ソワソワしていたクセに……)
そんな彼を他の兄弟子達は冷ややかな視線で見ていた。
(……あ)
周りを見ていたフィルドの目に一箇所だけ――先ほどゴルダがいた場所が水溜まりのような滲みが出来ているのが目に止まる。おそらくゴルダの汗が滴って床に染みたのだろう。
「きっと緊張していたんだな……」
誰にも気付かれないように小声で彼の心情を呟いた。
「では次――――ヘイトス♪」
「……! ヘイヘイヘイ!!」
ペラトが読み上げるとヘイトスは元気よく返事をしてハサミをブンブンと振り回しながら前へ歩み出る。――その時、彼が心の中で安堵の溜め息をついたのはここだけの話である。
「次は――お、おぉ!?」
急にペラトが驚きの声を上げたため、全員の視線が彼に注いだ。
「――なんと、ビート♪」
「えっ……えええええぇッ!? あ、あっしでゲスかぁぁぁぁ!?」
こちらも先に呼ばれた二人に負けないぐらいの大声を出したが何故か前に出ようとはしなかった。
「ビート先輩……?」
「ど、どうしたんだい!? ビート?」
見兼ねたフィルドは彼の名前を呟く。他の兄弟子達も心配そうに彼を見る。これにはさすがのペラトも心配だったのか、ビートに尋ねた。
「い……いや、あっしも行きたいのは山々なんでゲスが……感動して足が……動けないでゲスよ……グスッ」
(((し、心配して損したぁぁぁぁ!!)))
涙を溜めて打ち明けたビートにサクヤ以外全会一致でずっこけそうになった。
「……とりあえずお前はそこにいろ……では、気を取り直して――お、おおぉぉぉ!?」
ビートに溜め息をつくと視線を戻すと先ほどよりも声量を上げて驚いた。
「――――フィルド、キュベレー、エレナ、シンラ、それにリョウトとジュードだ♪」
「「「ええぇッ!?」」」
「嘘……」
「信じられない……」
「え……らばれたのか……!?」
リョウト、ジュード、シンラ、キュベレー、エレナ、フィルドの順ににわかに信じられないような声を上げる。そして――
「「やったぁぁぁぁ!!」」
「ぅおっしゃーーー!!」
キュベレーとエレナが喜びのハイタッチを、シンラが雄叫びを上げたのをきっかけに『サンライズ』は歓喜に包まれた。
「ほらほら、はしゃぐのは分かったからから前に出なさい!」
「「「はーい!」」」
ペラトに促されフィルド達は前に出る。その時エレナはチラッと『ドクローズ』を見たが非常に悔しそうに表情を歪ませていた。そんな彼らを見てエレナは「ざまぁみろ」と心で唱えた代わりに勝ち誇った笑みを彼らに返したのだった。
「次! ――サンシャ、フウ♪」
「やりました!」
「きゃー、選ばれましたわー!!」
呼ばれた彼女達は喜びを表すかのように手を繋いでスキップしながら前に躍り出る。
「えー……それから、レード、ティラス、クリオ♪ ……って」
紙の下辺りをしかめっ面しながら読み上げると今度はサクヤと紙を交互に見た。
「……失礼ですが、親方様。まさかこれって全員で行くつもりじゃ――」
「うん! そうだよ♪」
ペラトの言葉を遮りながら彼は満面の笑みで頷いた。これにはその場にいた全員がポカーンとしてしまった。
「ぜ、全員で行ったらメンバーを選んだ意味がないじゃないですか!? それに留守中に泥棒にでも入られたら――」
「大丈夫だよ! 戸締まりはちゃんとしていくからさ♪」
朗らかな表情を崩さずに答えるサクヤにペラトはお手上げ、とでも言いたそうに翼を挙げる。
「親方様、私も心配です。遠征に行くにはメンバーが多すぎてはないでしょうか?」
ここで先ほどまで事の結末を黙って見ていた『ドクローズ』のリーダー、ヘスカが心配そうに言う。もちろん、心から心配している訳は微塵もないが。
「うーん……友達にそう言われると困っちゃうなぁ」
そんな事は知らずサクヤは心配してくる彼に困ったような表情で返すとヘスカはさらに言葉を付け加えた。
「そもそも全員で行く意味なんてあるのですか?」
「えーっ!? 意味なんて大ありだよ! だって――」
ヘスカの疑問にサクヤは驚愕し一つ間を空けると全員に向かってこう言った。
「皆で行った方が楽しいだもん! だから、皆で遠征を楽しもう! それで成功させようね!!」
「「「おおぉぉぉー!!!」」」
「ひッ!? ひェェェェ……」
トドメのウィンクも披露し、ギルドの弟子達の士気は上昇した一方でヘスカは悲鳴を小さく上げながら、後に下がった。
「仕方がないな……じゃあ、選ばれたメンバーは(というか全員だけど……)説明をするから準備を済ましたらここに戻ってくるようにな。では、解散!」
というわけで選考は終わり一旦解散をしたが、『サンライズ』は兄弟子と共に円陣を作っていた。
「よかったですわ! これで全員で行けますわね!!」
「さすがは我がギルドの親方と言ったところだな!」
「わたし達なんて選ばれないって思ってたから名前を呼ばれた時はびっくりしたよ!」
「まさか入門してまもない僕とリョウトも選ばれるなんて……」
サンシャ、クリオ、キュベレー、ジュードは口々に言う。
「こうして全員で選ばれたからな! 親方様の言う通り楽しもうな!」
「皆で遠征を成功させましょう!!」
「そうですね……。皆、頑張りましょう!!」
「「「おぉー!!!」」」
ゴルダ、フウ、フィルドが音頭を取り彼らのボルテージは最高潮に達した。それからは各々で準備を済ませて再びロビーへと集まった。
「全員揃ったな。では、不思議な地図を広げてくれ」
ペラトに言われた通り全員が不思議な地図を一斉に広げた。
「今回の遠征の場所……『霧の湖』はここから東の方にあるのだが、その名の通り霧で覆われてるため誰にも発見されていない。噂では美しいお宝が眠っているらしい」
全員が地図を広げたのを確認するとペラトは説明を始める。彼が言う『霧の湖』は未踏地のため分厚い雲にかぶさっていた。
「ギルドからかなり離れている……そこでだ」
ペラトは雲に覆われた部分の目の前を指差す。
「この『高原の麓』にベースキャンプを張ろうと考えてる。さらにそこへ辿り着くまで全員で移動すると機動力に欠けるため……グループで行動してもらう♪
今からそのグループ分けをする。まずはAチーム――ゴルダ、サンシャ、ティラス、ビート」
「お前達! ワシの足を引っ張るなよ!!」
「あら、それはこちらのセリフですわ!」
「あわわ……落ち着いてください!」
(なんか……不安でゲス……)
ゴルダの一言で始まった痴話喧嘩にティラスは慌てて止めようとしたが時既に遅し。そのやり取りにビートは言い様のない不安に襲われた。
「次はBチーム――クリオ、フウ、レード、ヘイトス♪」
「なかなかいい組み合わせだな」
「皆さん、一緒に頑張りましょうね!」
「もちろんだ……グヘヘ」
「あったりまえだぜ!」
次に呼ばれたBチームはAチームとは対照的に一致団結しているのが伺えた。
「Cチーム――フィルド、キュベレー、エレナ、シンラ、リョウト、ジュード♪」
「了解!」
(どうせなら『サンライズ』で括ればよかったのに……)
ここはリーダーのフィルドが代表して力強く頷く。その一方でジュードは心の中でツッコミを入れた。
「『ドクローズ』さんは単独でお願いしますね」
「分かりました……クククッ」
「ケッ」
「ヘヘッ」
『ドクローズ』は笑顔で返す。その下で彼らが考えている事などはペラトを含む兄弟子はまだ気付いていないようだ。
「親方様は私と行動してください」
「えーッ! ペラトと一緒なんてつまらないよー!!」
「我儘言わないで下さい。これも作戦のうちですよ?」
ペラトの提案に納得してないのか拗ねたが彼に諭された事で「ケチ」と呟きながら渋々合意した。
「じゃあ、皆の健闘を祈ってるよ。『高原の麓』で合流だ! では……解散!!」
ペラトの合図で『プクリンのギルド』の遠征の火蓋は切って落とされたのだった。