#30 光がもたらした結末と……
「……ここって夢の中だよな?」
目を覚ましたフィルドがいたのは先ほどから打って変わり虹色に揺らめく不思議な空間。しばらくすると目の前の空間が揺らぎ、ある者のシルエットが映し出された。
「……先程は汝の呼びかけに応じれなくてすまなかった」
影はやがて色づき声の主――コバルオンの姿が露になる。
「気にしてないから大丈夫だよ。ところで……」
「ふむ……何故我が時空のオーブ≠ノ纏った光を見て言葉を失ったのか……それを知りたいのだろう?」
フィルドは首を横に降り別な話題を切り出そうとしたが、コバルオンが先に言葉を繋げる。フィルドはゆっくりと頷いた。
「それは――」
コバルオンが話そうとした時、空間が突如歪み始める。そして、フィルドは何かに引っ張られるような感覚に襲われた。
「どうやら……まだ……早すぎる、か……」
「え……ちょっと待ってくれ! どういう事なんだ!?」
「……いずれ話さねばならない時が来るだろう……その――時――――」
歪みは更に大きくなりコバルオンの声が聞こえなくなっていく。フィルドの視界も暗闇が支配し――
――もし……我の力……を使い…………たければ我の名を念じるが……よい――
その言葉を最後にフィルドの意識は途切れた――。
――ルイスタウン――
「――ッ!?」
フィルドは勢いよく上体を起こした。夢から覚めたばかりなのか呼吸が幾分荒い。
「体が軽いな……それにここは……一体……」
呼吸を整えてると体に重みを感じない事を不思議に思い始める。さらには先程いた場所とは違う事に違和感を感じて自分が寝ていた場所――ふかふかとしたベッドの上を基点とし部屋全体を見渡す。少し年代を感じさせる茶色い木で出来た部屋にはタンスなどの最低限の家具が置いてあった。一通り部屋を見渡して真っ直ぐ見ると窓の外が目に写る。空は黒が支配しつつある夜空。地平線には群青が存在をまだ残していて二色の境目が遠くで混じり合っているのがぼんやりと目視出来た。その下では灯りがあちらこちらついた家々が見える。
正に夜が始まろうとしてる景色をベッドからぼーっと見ているとだんだんと意識を失う前の出来事が鮮明に思い浮かぶ。
「俺……さっき『導(しるべ)の祭壇』でコバルオンの力を借りてサザンドラを倒して……それから時空のオーブ≠ェ光って……いや元々はサクヤ親方の依頼を受けて『ルイスタウン』に……!」
確認するようにゆっくりと言葉に出していると、妙な冷たさと重みが右手首から感じた。フィルドはゆっくりと自分の手首を見てみるとそこには――
銀色の腕輪がついていたのだ。その腕輪を見て再び状況を整理しようとしたフィルドの耳が微かに動いた。その同時に扉の向こうからヒタヒタと足音が聞こえ始める。
「誰だッ!?」
フィルドは反射的にベッドから離れて様子を伺う。いつでも逃げれるように窓際まで寄って足音が聴こえる扉を警戒する。段々と大きくなる足音。それがピタリと止んだ時、扉が少し開けられ――
「あ……ひょっとして開けてはいけなかったですか?」
隙間から申し訳なさそうに銀色イーブイ――リョウトが覗いてきた。
「あ……リョウト……さんでしたか」
緊張の糸が切れたようにフィルドは地面に座り込む。少し面識があるだけでも安心感があるのだろう。
「そういえば……ここは一体どこなんですか? さっきの洞窟と明らかに風景が違いますし……」
「あぁ……ここは『ルイスタウン』の長の家、です」
「そうなんですか……
……ってはい?」
リョウトの話にフィルドは思わず耳を疑う。
「だって、俺達は確か『導の祭壇』にいたんですよね? それがどうして目的に――」
「……ですよね。いきなり言われても実感が湧きませんし。先ほどまでいたダンジョンとはまるっきり景色が違うんですから……」
状況が追い付いてないフィルドにリョウトは彼の反応を予期していたのか驚きはしなかったものの、説明は出来ないのか困ったように肩を竦めて同意する。
「……! キュベレーは!? エレナやシンラは無事なのか!?」
「えっと……ぼくについてくれば分かる……と思います。立てますか?」
心配するリョウトにフィルドは早まる気持ちを抑えて「大丈夫です」と答えると少し安心して先に部屋を出ていったリョウトの後を追いかけた。
リョウトを追いかけて階段を降りていくフィルド。そして、彼が入っていった部屋へ足を踏み入れると――
「おっ、やっと起きたんだなぁー」
「あら、おはよう。怪我は大丈夫なの?」
幼い少年の声としっかりした少女の声が出迎えた。聞き覚えのある声と姿を見てフィルドは目を見開く。
「エレナ……シンラ……大丈夫なの……か?」
フィルドは声を震わせながらもなんとか言葉を紡ぐ。エレナとシンラは互いに見合わせると答えるかのように大きく頷いた。
「まぁ……体の痛みも感じないしシンラの腹の傷もなくなったみたいしね」
エレナはシンラを小さく指差す。フィルドは目で追ってみるとシンラが仁王立ちしながら腹を見せていた。そこにあった酷かった切り傷は跡形もなく完治していた。
「まさか……」
ふと何かに気付いたようにフィルドは自分の二の腕を触るが痛みが全く来ないどころか違和感さえも感じなかった。
(やっぱりあの時空のオーブ≠ェ治してくれたのか……?)
「それより……私達よりも先に声をかける子、いるんじゃないの?」
「そうだった……キュベレーは!?」
エレナに指摘されフィルドは我に返りキュベレーの姿を探す。すると彼女はエレナの脇から顔を――エレナがキュベレーの壁のように座っていたためフィルドには見えなかった――覗かせていた。
「……! キュベレー!」
「フィルド!」
ようやくキュベレーの姿を見つけたフィルドに彼女は椅子から降りるとフィルドの所へ駆け寄る。
「キュベレー、首……大丈夫なのか?」
「うん! 大丈夫だよ、ほら!」
キュベレーは首を傾げたり回したりする。どうやら彼女の首も奇跡的に回復したようだった。
「そ、そうか……良かった……キュベレーが……皆が無事で……!」
「うん! 心配をかけてごめんね……」
「いや、俺こそ……守れなくてごめん……」
一瞬フィルドとキュベレーの表情が暗くなったものの、再び目が合うと互いの頬が緩み笑顔が浮かんだ。そんなニ人を見てエレナ達も自然に笑みがこぼれて、和やかな雰囲気が部屋を包み込む。
「そういえば……俺達はいつ『ルイスタウン』に来たんだ? それにサザンドラは――」
「それは私から話しましょう」
暫しの喜びを噛み締めた後、フィルドは疑問を口にする。すると彼の質問に答えるかのように落ち着いた女性の声が聞こえてきた。その場にいた全員が声がした入り口へ一斉に目を向ける。そこにはピンクローズと紫色のツートーンカラーの体を宙に浮かばせて目を瞑っているポケモン――ムシャーナがいたのだ。
「あ……あなたはたしか……」
「「「誰ですか?」」」
「「長!」」
フィルドは思い出すように呟き、キュベレー、エレナ、シンラは首を傾げ、そしてリョウトとジュードは笑みを浮かべながら迎え入れるなど、三者三様に彼女を見る。
「初めまして。私の名前はシャルナ……この『ルイスタウン』の長を勤めさせていただいてます」
シャルナは『サンライズ』のメンバーの顔を見て一礼をすると「あら」と呟いてフィルドを凝視した。
「ひょっとしてあなたは……あの時にぶつかったリオルなのですか?」
「あ、はい。探検隊『サンライズ』のリーダーをやっているフィルドです。あの時は本当にすみませんでした!」
「大丈夫ですよ、もう過ぎた事ですから……それよりあなた方が『サンライズ』……遠出からわざわざ来て、迎えを頼んだリョウトとジュードを守ってくださりありがとうございました」
「いやいや、そんな事はないですよ……あ、そうだ!」
フィルドはシャルナに向かって頭を下げるが、逆にシャルナに頭を下げられてしまう。フィルドは慌てて両手を前に出して降ると思い出したようにバッグから何かを探して取り出した。
「これを……サクヤ親方の依頼で手紙を届けに来ました」
「そうですか……わざわざありがとうございます!」
フィルドが取り出したもの……それはサクヤ直々からの依頼で頼まれた手紙だった。あれほどの戦闘があったのにも関わらず破れるどころかシワ一つも出来てない手紙にフィルドは「流石はトレジャーバッグだな……」と思いながら差し出す。シャルナは頭を戻して手紙を確認すると“念力”で受け取った。
「さて……そろそろ本題へといきましょうか」
手紙を受け取ったシャルナの一言でその場にいた全員の表情が少し真剣な表情になる。
「まずはあなた達が何故『
ルイスタウン』にいるのか……それは私達が運んだからなんです」
「運んだ? まさかシャルナさん……ダンジョンに足を踏み入れたのですか?」
「そうですね。……正確には村人の何人かに手伝ってもらいましたけど……そしてその時に倒れていたサザンドラは――」
“サザンドラ”と聞いた途端、シャルナ以外の全員に緊張が走る。
「心配はいらないよ。あのサザンドラの身柄は保安官に渡したから」
シャルナの言葉を受け継いだ、気さくな声が彼女の後ろから聞こえてくる。そして、声の主は彼女の後ろからひょっこりと姿を現した。
「あ……オーベムさん!?」
「いやはや、あのサザンドラを手渡してたら遅くなっちまって……とそこの団体さんが『サンライズ』……でいいのかな? 報酬はギルドに送ったと保安官から伝言を預かったよ」
「そうですか。わざわざありがとうございます!」
驚きの声を上げたジュードを余所にフィルド達に伝言を伝えるオーベム。
「しかし、保安官に連絡をしておいて正解だったな。洞窟から笑い声が聞こえてくるしジュード達は勝手に戻って行くし……それでしばらくしたら大きな爆発音がしたから長達と一緒に行ったら案の定、皆して倒れていたんだよ」
オーベムは手のパルスを顎に当てながら細かく……と言ってもやや大まかに説明をする。そこへシャルナが補足を入れた。
「流れで言えばオーベムが言った通りです。私達は倒れているあなた方を“サイコキネシス”で村まで運んできたのです」
「そうだったのですか……」
そのおかげもあってか、オーベムの説明でもいまいち理解出来なかったフィルド達は納得をした表情をする。
「せっかくでしたらお茶でもいかがですか?」
「あ……でもわたし達、そろそろギルドに帰らないといけないので……」
「そうですか……それならばギルドまでお送りしますよ?」
「え……? いいんですか!?」
シャルナの申し出にキュベレーは声を上げる。
「構いませんよ。私もあなた方のギルドに行きたかったので……さぁ皆さん、私の周りに……」
シャルナはフィルド達を促すと、まだ突っ立ってるジュードとリョウトを見て声を掛けた。
「何をしているのですか、あなた達も一緒に行くのですよ?」
「えっ……ぼ、ぼく達もですか??」
思わぬ催促にリョウトは頓狂な声を出しジュードは声には出さなかったものの驚いた表情でシャルナを見ていたがまだ動こうとはしない。恐らく状況が整理出来ていないのだろう。その様子を観察していたオーベムは溜め息をつくと“テレポート”を使い二人の後ろに立つ。
「いいから行け、ほらほら!」
「えっ……えぇえ!?」
「ちょっとオーベムさん、押さないでよ!」
やや強引にリョウトとジュードをシャルナの所に押しだくった。
「おっと、ジュード。お前に渡すものがあった」
「えっ……僕に……?」
ニ人から手を離すとオーベムは思い出したように何かを取り出しジュードに見せる。それは小さな六角形の立体で鮮明な光沢のある金色をした物だった。
「これ……どこで……確かなくしたお守りなのに……」
「んー、たまたま散歩してたら見つけたんだよ。今度からなくすなよ?」
理由を述べながらオーベムはジュードが付けている首輪の引っ掛ける部分にそのお守りを付けた。それは灯りを受けて美しい光沢を生み出す。
「ありがとうございます!」
「あいよ。じゃ、気を付けていってら!」
嬉しそうにお礼を言うジュードにオーベムは手を挙げる。
「それでは参りますよ……“テレポート”!」
シャルナは二人の会話が終えたのを確認すると閉じていた目を開く。すると彼女を中心にその光がフィルド達を包み込む。その間、彼ら達は無重力空間にいるような感覚を覚えた。
そうしている間に光が強く輝きだし――
それが収まった頃には先ほどまでいたフィルド達がいなくなっていた。