#27 力を望む者
「……ッ!? ここは……」
フィルドが意識を取り戻し目を開けると、そこは先ほどいた場所とは違った景色が広がっていた。周りは漆黒に覆われているが、フィルドの視線の先には小さな円型の光が差し込んでいる。
(とりあえず、あそこに行ってみるしかないな……)
フィルドはおもむろに立ち上がると光に向かって歩き出すが、光は彼の動きに反応して逃げるように移動を始めてしまう。
「……!! 待ってくれ!!」
フィルドも追うように速歩きにそして、走り始めると光もそれに合わせて逃げるスピードを上げていく。
「な、なんで逃げるんだッ!? こうしてる間にもキュベレーが苦しんでるのに……!!」
走ってる間もフィルドはあの光景を――サザンドラに首を折られて悲鳴を迸らせるキュベレーを思い返していた。それが脳内を過る度に彼の気持ちをさらに焦らせる。
「くそ……俺はこんな所で立ち止まっている訳にはいかないんだッ!! 俺は力が欲しいんだ! 皆を守れる力を、キュベレーを助ける力をッ!!」
ありったけの想いを口にした時、光がピタッと止まった。まるでフィルドを待ってるかのように。一方の彼は走るスピードをだんだんと緩めるも、勢いがつきすぎてしまったがために止まれずにいた。そして、彼が光の輪に入った時――
「うわっ!?」
光が発光し、周りを一瞬で包み込む。あまりの眩しさにフィルドは思わず目を閉じてしまった。
しばらく経ち目を開けてみると周りはまだ暗闇が支配していた。だが、先ほどよりは少し明るくはなったためかフィルドの周りを囲うように岩が立っているが目に入る。また、天井は何ヵ所か穴が開いているようで細くて小さな光が差し込んでいた。
フィルドは天井を見上げていると彼の耳が微かに動く。彼が振り返ると、ドスンドスンと遠くから重い足音が聞こえ始めた。それは近づいているのかだんだんと大きくなっていく。
フィルドも近づいてくる足音に危険を感じたのか本能的に後退りしたが――
「冷たッ!?」
背中に感じたひんやりとした感覚が彼の動きを止める。フィルドは思わず振り返るとそこには一際デカイ銀色の岩がそびえ立っていたのだ。
逃げ場がない――そう思った時には足音の持ち主が光を遮ってフィルドの前に立っていた。遮られてしまった光は地面を照らせない代わりにその者の青い体の一部を照らす。
「待っていたぞ……フィルドよ……汝と直接対話出来る日を……」
「……あ、まさか俺に語りかけてきたやつか!?」
沈黙を打ち破るエコーを含めた威厳に満ちた低い声。フィルドはその声を聞き自分の頭に語りかけてきたポケモンだとすぐ理解した。
「フィルドよ……汝は力が欲しいと言ったな」
間髪入れずにそのポケモンは言葉を紡ぐ。
「あぁ、俺達がこうして話してる間にも大切な仲間がやられているんだ。今も……」
フィルドは言葉を区切ると俯いて唇を噛んだ。
――こうしてる間にもキュベレーが……早く戻らないと。だから――
「だから力が欲しいんだ! エレナやシンラ、そしてキュベレーを……俺の大切なポケモン達を守りたいんだッ!!」
そして、再び目の前にいる者を見据えてはっきりと伝えた。自分が力を求める意味を。ポケモンはしばらく黙っていたが――
「それが汝の覚悟か……やはり昔と変わらぬな」
そう呟く。だが、最後の部分は注意しないと聞き取れないほどか細くと呟いていたが。
「えっ……それはどういう――」
「聞こえていたか……だが今の汝にはまだ早い……」
フィルドは小声の部分も拾って問おうとしたが、ポケモンは遠回しに拒む。
「さて、汝の覚悟と願い――しかと聞かせてもらった。我が力を貸そう!!」
ポケモンが高らかに言うと光がまた強くなった。一回目と変わらない光の強さにフィルドは再び目を閉じてしまう。
そしてフィルドが目を開けた時、彼は突如目の前に現れた存在に大きく目を開かざる得なかった。その者はフィルドより遥かに大きく青い体に四本足、黒い額に稲妻を表すような二本の角が短く生えており、人間に若干近い顔立ちのポケモンが立っていた。
「我が名はコバルオン。この世界を見護りし者の一人だ」
「世界を見護りし者……」
フィルドが反復するとコバルオンは静かに頷いた。
「フィルドよ。我が力はとある方から生み出されたもの……それは使い方によってはポケモンの命を容易く奪ってしまうものだ……」
コバルオンは説明をしながらゆっくりと右前足を伸ばした。
「汝はこの力を悪意に染めずに見極めて使えると言うなら手を出すとよい」
フィルドは黙って差し出された彼の足を見る。「まるで復讐や仕返しの為に相手の命も奪うな」とでも言ってるようにも聞こえた。
「あぁ、分かった。だから改めて言わせてもらえないかな?
コバルオン……お前の力を貸してくれ!!」
「承知した。我が力、汝が守りし者達に使うがよい!!」
フィルドも右手を出しコバルオンの前足に触れた瞬間――
「なッ……!?」
フィルドは意識が飛んでいく感覚に襲われた。