#18 因縁残る再会
――プクリンのギルド――
新たな仲間、シンラを迎えた『サンライズ』は掲示板の依頼をこなしたり、見張り番の仕事を着実にこなしていた。その甲斐があって探検隊ランクがシルバーランクへと上がっていた。そして数日経ったある日の朝――
ドン、ドンとリズムよくドアを叩く音が聞こえた。時刻はこれから早朝を迎えようとしている時間帯であろうか、外はうっすらと明るみはじめている。
「(こんな朝から誰なんだ……)はーい……」
眠そうに目を擦りながら、ドアに歩いていく『サンライズ』のリーダー――フィルドはドアを開けた瞬間、彼の眠気が一気に飛ぶこととなった。
「サ……サクヤ親方!?」
「シーッ!!」
ドアノックをしたポケモンはサクヤだったのだ。思わず大きな声で驚いたフィルドに彼は指を自らの口元に当て“静かに”とジェスチャーをした。
「やあ、おはようフィルド」
「お、おはようございます……」
まだ寝ているキュベレー達を気遣ったのか声をやや抑えて挨拶をするサクヤ。
「ところで……新入り君は起きてる? ちょっと話したいことがあるんだ」
“新入り君”とはもちろん最近入ったばかりのワシボン――シンラの事を指している。
「まだ……寝ていると思います。起こしましょうか?」
「そうだね。それじゃあ、お願いしようかな♪」
サクヤはフィルドの問いに無邪気に答える。フィルドはサクヤを一瞥するとシンラが寝ているベッドに近づいた。
「おーい、シンラー?」
「……まっ……まだ……訊きたい事が……」
夢を見ているのか、うわごとを口にするシンラ。その表情は一瞬うなされているようにも見えた。
「シンラ起きろー憧れのサクヤ親方様がきて――」
「マジで!! どこにいるんだ!?」
フィルドが半ば棒読みでサクヤの名前を言った途端ベッドから跳ね上がったシンラ。その時、彼の右翼がフィルドの顎にクリーンヒットした。
「うぐぉ……!?」
「あ……ごめん!!」
痛そうに顎を擦るフィルドにシンラは謝る。だがその瞬間――
「あだっ!?」
シンラにげんこつが襲い掛かった。無論、彼も痛そうに額を抑える。
「……次はないからな」
「はい……すみませんでした……」
表情を少し顰めながら言うフィルドにシンラは頭を下げる。
「どうやら起きたみたいだね♪」
先ほどの一部始終を黙って見ていたサクヤが口を開いた。
「お、おはよう……ございますぅ!!」
「うん! おはよう♪」
声をうわずらせるシンラを気に留めず挨拶を返すサクヤ。
「ところでシンラに話があるって……」
「そうだね……詳しくはボクの部屋で話すよ」
そう言ってフィルドとシンラに背を向けて歩きだしたサクヤ。フィルド達も寝ているキュベレーとエレナを起こさないように慎重な足取りで部屋を後にした。
――場所は変わってサクヤの部屋。
「さてと……キミ達を呼んだ訳は……遠征の事なんだ」
「遠征??」
「フィルド達から話を聞いてない?」
首を傾げたシンラにサクヤは質問をすると彼は頷いた。
「それじゃ、フィルドには確認の意味で話すけど……近々遠征を行おうと思うんだ。それで普通は新入りは候補に入れないけど『サンライズ』の皆は頑張ってるから遠征メンバーの候補に入れたんだよ♪」
「そ、そうだったのか!? なんで言ってくれなかったんだよ!?」
「寝る前に話したんだけどな……」
サクヤの説明にシンラは驚きながらもフィルドを見た。そんな彼をフィルドはやや呆れ混じりに見る。
「説明の途中に寝るのが悪いんだよ……」
「うっ……」
フィルドに言われてシンラは言葉を詰まらせてしまう。
「話を戻していいかな?」
サクヤの声にはっと我に返った二人は彼に頷く。
「それで……新しく入ったシンラも出来ればフィルド達と一緒に候補に入れたいなぁって思ってるんだ」
「ほ……本当ですか!?」
「えっ……入ったばかりのオレが候補入り!?」
フィルド達は嬉しさが混じった声をあげる。
「あ……でもまだ入れるとは言ってないですよね?」
「うん。だからね、候補に入れるかどうか見定めるためにボクから直接依頼を出すから♪」
「サ、サクヤ親方から直接依頼!?」
「え……ま……マジですかぁ!?」
サクヤの爆弾発言にフィルド達は今日で何度目か分からない驚きの声をあげた。
「詳しくは後で教えるから。依頼って言ってもいきなり難しいのは出さないから心配しなくても平気だから♪ 今日はそれを伝えたくて呼んだんだ。……朝からごめんね?」
相変わらず笑顔を絶やさずに説明をするサクヤ。
「わかりました。キュベレー達にも後で伝えて置きます。失礼しました!」
「失礼しましたー!!」
フィルドとシンラが部屋を出ていくとすれ違うようにペラトが入ってきた。
「お、親方様ぁーーー!! たっ……大変です!!」
「ん? どうしたの、ペラト?」
大慌てで入ってきたペラトに対してもサクヤは自分のペースを崩さずに声をかけた。
「そ……それが……とっ、とにかくこれを!!」
ペラトは右手(右翼)に持っていた紙をサクヤに手渡す。サクヤは受け取ると目を通し始めた。そして、ほんの一瞬だけだが彼の瞳が揺らいだ。
「……ペラト、この事を朝礼で皆に伝えてもらえる?」
「か、かしこまりました!!」
先ほどとは打って変わり、声のトーンを少し低くして指示を出すサクヤに、ペラトは一瞬ビクッ、と体を震わせだが、指示を承諾すると部屋を重い足取りで後にした。そして、サクヤも続くように部屋を後にした。
時はほんの少し遡る。フィルド達がサクヤの部屋を出た時――
「あ、ペラ――」
「お前達!! ちょっとどいてくれ!!」
声を掛けようとしたフィルドをものともせずにペラトが低空飛行でフィルド達に突っ込んできた。
「うわぁっと!?」
「ひゃあ!?」
以外にも速く来たため、フィルド達も慌てて道を開ける。そして、フィルド達が避けたと同時に先ほどいた場所をペラトが通り抜けた。
「なんかあったのかな?」
「さぁ? あ、そうだ! シンラに聞きたい事があったんだ!」
「オレに聞きたい事?」
「あぁ……さっき起こす時になんかうなされてるように見えたんだ。シンラ、なんの夢を見てたんだ?」
フィルドが思い出したようにシンラへ質問をする。
「……えーと……なんかわっかが付いた球体があって……そしたら、いきなりスカーフを与えるって言ってたな……」
そういいながらシンラは額に巻いてあるスカーフを自分で指す。
「そうか……(しかし……シンラまでも見てたんだな……オレ達の共通点は……夢であの球体に出会った事と波導のスカーフ≠巻いている事か……それと夢に出てくる球体……よく考えてみると時空のオーブ≠ニよく似てたな……関係があるのか……)」
「あのー……オレ、空気になりかけてるんだけど……」
腕を組みながら思考に没頭するフィルドにシンラの悲痛な声は残念な事に届いていなかった。
「おはよう! もう起きてたんだね」
ふと、声が聞こえてきた。その方向――弟子部屋に続く廊下を見てみるとキュベレーとエレナが立っていた。
「ん……? おぉ! おはよう、キュベレーにエレナ」
「おはようさん!!」
彼女達に気付いたフィルドとシンラも挨拶を返す。
「おはよう! 起きたら既にいなかったからビックリして慌てて出てきたところだったの。何かあったの?」
「サクヤ親方に呼び出しされてね、シンラが遠征メンバー候補させるために試験みたいなを出すって言ってたよ」
キュベレーとエレナに説明をするフィルド。
「へぇ……とりあえず親方様が言いだすのを待つしかないね。シンラ君、一緒に頑張ろうね!!」
「もちろんさ!」
キュベレーとシンラがガッツポーズのように前足(翼)を直角に曲げた。その様子を微笑ましく見るフィルドとエレナ。やがて、ロビーに兄弟子が集まってきて、いつもの朝礼が始まるのだった。通常ならとっくに終わるはずだったが――
「えー、本日は皆に報告が二つある」
ペラトがそう言ったため、全員がその場に残っていたのだ。
「まず一つ目は……『キザキの森』の時が……止まってしまったようだ」
「「「えっ……!?」」」
ペラトがやや重たそうに言った内容にギルドのメンバー全員に驚愕の表情が走る。
「い…一体どうなってるんだよ!!」
「ゴルダさん! 落ち着いて下さい!!」
「す、すまん……」
急に大声を出したゴルダをフウが宥める。
「それで……時が止まった『キザキの森』は……どうなったんですか?」
キュベレーがおそるおそる質問をする。
「……時が止まった『キザキの森』は……風も吹かず、葉についていた水滴も落ちない。そして、森全体が灰色に包まれて、生気そのものが全く感じられないらしい……」
ペラトも俯きながら説明をする。
「本当にどうしたんでゲスかね……」
「……時が止まってしまう方法はただ一つ……」
エレナの一言に全員が彼女を見つめる。だが、エレナは言いたくないのか、ただ俯くだけだった。
「……!! まさか……時の歯車≠ェ……!?」
その様子を見て何かを悟ったのかサンシャが口を開いた。
「……そうだ。時の歯車≠ェ――
何者かによって盗まれたのだそうだ……」
「「「えぇーーー!!?」」」
サンシャの言葉を受け継ぎ言ったペラトに、全員が再び驚きの声をあげた。
「今はバイル保安官が捜査に乗り出している。……怪しい奴を見かけたらすぐに知らせるように」
ペラトの忠告に全員が大きく頷いた。すると彼は先ほどとは打って変わり明るい声で話し始める。
「そしてもう一つは先ほどとは打って変わって明るい話題だ♪ 実はトレジャータウンからかなり東に湖があるのだが、まだ解き明かされていない謎が多く残されている。なので近々、遠征で訪れようと考えてる♪」
「いよいよ……この時期がやってまいりましたわ!!」
「ヘイヘイ! 燃えてきたぜーー!!」
“遠征”と聞いた瞬間重い空気に包まれたギルドが熱狂に変わる。
「皆も分かってるようだけど遠征には選ばれたメンバーしか行けないからな。この数日間で精鋭メンバーを選んで遠征に連れていこうと考えている……なので、遠征メンバーに選ばれるように頑張ってくれ!!」
弟子達に負けないぐらい声を張って説明をするペラト。
「燃えてきましたね!!」
「メンバーに選ばれるように頑張んないと……」
「あ、あっしは遠征に行った事がないから選ばれたいでゲス!!」
全員がそれぞれの想いを口にする。
「それじゃ、今日も張り切って仕事を頑張るよーー!!」
「「「おぉーーー!!!」」」
全員が意気揚々と持ち場へと散っていった。
「俺達も選ばれるように頑張らないとな!!」
「うん!!」
「もちろんよ!」
「オレも選ばれるように頑張らないとなぁ!!」
フィルドを筆頭に『サンライズ』のメンバーも気合いを入れた。
「あぁ、お前達はいつも通りに掲示板の依頼をこなしてくれ。……メンバーに選ばれるように頑張るんだぞ♪」
「「「はい!!!」」」
フィルド達は元気よく返事をしたあと、地下一階へと上がった。
「それじゃ、私とシンラはお尋ね者の依頼を選んでくるわ」
「りょーかい!」
エレナとシンラはお尋ね者の掲示板へと向かっていった。
「さて、わたし達も選ぼ?」
「そうだな――ってあれ?」
救助依頼の掲示板に近づいた時、フィルドが足を止めた。
「どうしたの、フィルド?」
「あいつら……どっかで見たことがあるような気がするんだけど……」
首を傾げるキュベレーにフィルドは掲示板の前にいる二人に指を差した。やがて、ポケモン達が振り返りフィルド達と目が合う。
「げっ!? お前達は!?」
先に声をあげたのは紫色の球体――ドガースである。
「「お、お前達(あ、あなた達)は!?――――
誰だっけ??」」
「「だあぁぁぁ!?」」
フィルドとキュベレーが拍子抜けた事をハモらせ、二人はずっこけた。
「俺達は『海岸の洞窟』であっただろーが!? 俺はマタドだ!」
「そうそう! で、俺はクロだ!! どうだ、思い出せたか!?」
ご丁寧に名前を名乗ったドガースのマタドとズバットのクロ。
「……あッ! 思い出した! たしか――」
「キュベレーの後をついてきたストーカーかぁー」
「「ストーカーじゃねぇよ!!」」
キュベレーの言葉を継いで言ったフィルドにマタドとクロは息がピッタリと合ったツッコミを入れる。
「(ストーカーはあながち間違っていないけど……)それより、どうしてあなた達がここにいるの!?」
「ケッ、なんだよ? 探検隊が掲示板にいちゃあわりぃのか?」
「えぇっ!? あ、あなた達が探検隊だってぇ!?」
マタドの発言にキュベレーはかなり目を開きながら驚く。
「まぁ……やり方はちょっとあくどいけどな。それよりお前達こそどうしているんだ?」
「そりゃあ探検隊だからな。いちゃ悪い?」
クロの問いにフィルドが答えた瞬間、マタドとクロは顔を合わせる。そして――
「お前達が探検隊だとぉ!? こりゃ笑えるぜ! アハハハ!!」
「悪い事は言わねぇ……探検隊はお前達に向いてねぇぜ? 特に……そこの臆病で弱虫なロコンはなぁ……ケケッ!!」
「……ッ!!」
クロが腹を抱えながら笑い、マタドはキュベレーを見ながら嘲笑う。対してキュベレーは痛い部分をつつかれ傷ついたような表情をしていた。
「てめぇら……!!」
「待って、フィルド!!」
反論しようとしたフィルドをキュベレーは右前足で制す。その様子にマタドとクロは笑うのをピタリと止めたが、相変わらずキュベレーを馬鹿にするような表情は崩していない。
「――確かにわたしは臆病で弱虫だよ……だけど、それでも変わりたいと思って辛い修行も頑張ってる! それに……遠征のメンバーの候補にも選ばれてるように頑張ってるんだから!!」
勇気を振り絞りマタド達に反論したキュベレーは後ろに立っていたフィルドに笑顔を送る。彼もまたそれに応えるかのように笑顔を溢す。一方なマタドとクロはキュベレーが反論してきた事に驚きつつも“遠征”と聞いた瞬間、企みを含めた笑みを浮かべた。
「ほう……ここのギルドには遠征があるのか……」
「でも遠征って言ったって実力がないと選ばれな――」
クロが最後まで言い終えないうちに“波導弾”が飛んできてクロに命中した。
「ってぇ……いきなり何しやがる!!」
「実力って言うけどさ……俺達に負けてたり、さっきの攻撃をまともに喰らったお前達はどうなんだよ……」
「うるせぇ! あ、あの時や今はアニキがいなかったからだ!!」
「「アニキ??」」
フィルドの気迫に気圧されつつもクロは反論をする。クロから発せられた“アニキ”という単語にフィルドとキュベレーは眉をひそめる。
「そうさ! クロと俺――そしてアニキが揃った探検隊『ドクローズ』だ!!」
「アニキは俺達よりメチャクチャ強いんだぞ! お前達なんて一捻りさ――お、噂をすればこの匂い!!」
「「匂い?」」
マタドとクロは勝ち誇ったような表情をしながら語る。
「匂い? 別にそんなの――!!」
フィルドが口を開いた時、彼は咄嗟に動いた。その瞬間、先ほどまで彼がいた所が風を斬ったような音が聞こえた。そして、そこには――紫色の体に白い尻尾の先端が頭の上まで届くほどあり、その下にある顔つきはいかにも
質が悪そうに見えるポケモン、スカタンクが立っていた。スカタンクはゆっくりとフィルド達に近づいてきた。
「ほう……俺様の“辻切り”を避けるとはな……だが、俺様の前に立っていたのが運の尽きだ。……そこをどけ!!」
言い終えた瞬間、今度は体を大きくのぞけらせ“スモッグ”を放つ。
「ぐわあぁぁ!?」
「フィルド! ……うぅ…何……臭い…!?」
“スモッグ”を喰らったフィルドは吹き飛ばされてしまう。しかもこの“スモッグ”は普通のとはかなり違っていた。タメージを与えず毒に侵されない代わりにオナラの匂いと同じを含んいるためかなり臭いのである。フィルドを襲った“スモッグ”の匂いは地下一階に充満し始めていた。
「きゃー!! 臭いですわーー!!」
「ヘイヘイ! 一体誰がオナラを出したんだよ!!」
「あ、あっしじゃないでゲスよ!!」
皆辛そうに鼻を抑えていた。
「と、とにかく空気をいれかえないと……シンラ! 窓を開けるから、“吹き飛ばし”を使って!!」
「りょーか――ゲホゲホ……肺がいてーよ……」
返事をしようとしたシンラはガスを思いっきり吸い込んだため、むせ返ってしまう。そうしてるうちに、カチッと言う鍵が開いた音が聞こえたと同時に――
「シンラ!! 今よ!!」
「行くぜ! “吹き飛ばし”!!」
エレナが窓を開けるとシンラは“吹き飛ばし”を使い、匂いの原因である“スモッグ”を消した。その様子に特に気に留めることなく鼻を鳴らして一瞥したスカタンクは目の前にいるキュベレーを見下した。
「貴様もさっきの奴と同じく張り倒されたのか!?」
「あ……あぁ……」
スカタンクの威圧に耐えきれずにキュベレーは道を開けてしまう。
「さっすがアニキ!!」
「やっぱアニキはつえーよ!!」
マタドとクロは前に立ったスカタンクを褒め称える。
「……それで金になる依頼はあったのか?」
「いや……依頼の方は全くダメでしたが一つだけ収穫が……」
マタドはそう言うと、スカタンクにひそひそ話をする。やがて、スカタンクの表情が悪巧みを考え付くような表情に変わっていた。
「ほほう……これは美味しそうな情報だな……お前達! 早速帰って悪巧みを考えるぞ!!」
「「へい!!」」
そういうとスカタンク達は梯子を登っていった。
「キュベレー! フィルド!! 大丈夫!?」
彼らが去ってまもなくエレナとシンラがやってきた。
「うん……わたしは……大丈夫だか……ら……」
キュベレーは顔を下にしたまま答えた。やがて――
「原因はあいつらね……シンラ、あとは頼んだわよ……」
「ひっ……は、はいぃ!!」
エレナはかなり低めのトーンでシンラに言うと猛ダッシュで梯子を登って行ってしまった。そして、シンラはと言うと顔を完全に引き攣らせた。
「う……うーん……」
「あ、大丈夫か!? 怪我してねぇか!?」
「あぁ。しかし、あの“スモッグ”……なかなか威力が高かったな……吹き飛ばされるとは思ってなかったよ……ところでエレナはどこに行ったんだ?」
「あ、あぁ……エレナなら――」
シンラが続きを言おうとした時、外から三つの断末魔が響いてきた。
「……なるほど……そういう事か……」
フィルドもエレナが何をしてのか分かったのか思わず顔を引き攣らせる。
「……フィルド、シンラ君……ごめんね……」
「キュベレー、どうしたんだ? 急に……」
突然謝ってきたキュベレーにフィルドとシンラは思い当たる節が見つからないため、首を傾げた。
「わたし……あのスカタンクが前に立った時……すごく怖くて……何も出来なかった……わたしってやっぱり弱虫なの……かな……」
体を震わせながら言葉にするキュベレー。その瞳には涙が溜まっており、嗚咽する度に頬へと伝わり、床に小さなシミを作る。
「…………違う。キュベレーは弱虫なんかじゃない」
「えっ……?」
「さっきマタド達に言い返してただろ? それにお尋ね者リーパーの逮捕や初めての探検だってキュベレーがいなかったら……絶対成功してなかったと思う」
「フィルド………」
キュベレーは少しだけ顔を上げる。
「フィルドの言う通りよ」
「エレナ……」
すると先ほどまでいなかったエレナもいつの間にか帰ってきていた。
「私達はあんなくだらない奴らよりキュベレーの強いところやいいところをたくさん知ってるわ。あんな奴らの言ってる事をいちいち気にしちゃダメよ?」
「それにキュベレー、弱い自分がすぐに変われるなんて無理な話だよ。少しずつでいい……キュベレーのペースで変わっていけばいいんだ」
「オレ達はいつでもキュベレーの味方。キミに合わせて一緒に進むよ!」
「みんな……ありがとう……!!」
フィルド達の励ましによりようやく笑顔を見せたキュベレー。
「それじゃ、落ち着いたら依頼をやりに行こうな!」
「うん……もう落ち着いてから大丈夫だよ」
キュベレーが泣き止んだ後、彼らは依頼書を片手にダンジョンへと走っていった。――遠征メンバーに選ばれたい想いを胸に――。