Interlude――静かに動き出す者――
時はフィルド達が時の歯車≠フ話をしている時に遡る。
――キザキの森――
トレジャータウンから遥か北東に位置する『キザキの森』。時刻は夜で大嵐が来ていたため、辺りはかなり暗かったがかろうじて森の輪郭が暗闇に映える。そこへ一人のポケモンが現れた。
「ここが目的地か……」
ポケモンは呟くと鬱蒼と茂った森の中へと入っていった。途中で立ちふさがった野生のポケモン達を次々と薙ぎ払いながら進んでいくポケモン。そして――
――キザキの森 奥地――
森の奥地に着いたポケモンは辺りを警戒しながら、ゆっくりと進んでいく。やがて、ポケモンの目の前にちいさな水辺に浮かぶ青緑に輝く不思議な模様に包まれた青い歯車のようなものが目に入った。
「初めて見たが……これが時の歯車≠ゥ……」
その光景に魅入りそうになりながらもポケモンは歯車に手を伸ばそうとする。その時――
「待ちなさい」
「ッ!?」
突然後ろから声が聞こえたため、ポケモンは振り向く。暗くてどんな姿をしてるか分からなかったものの、体格はポケモンより遥かに大きいようだ。
「あなたは何故“それ”を狙おうとしているのですか?」
“それ”とはポケモンの後ろに浮かんでいる時の歯車≠フ事である。美しいソプラノの声質で問いかける口調は丁寧だが、独特なエコーが含まれているため、威厳を持っているようにも聞こえた。
「……何故貴様が俺の狙いを知ってるかは知らんが……邪魔をするなら容赦はしない!!」
一瞬だけ目を見開いたがすぐに腕についていた葉を鋭い刃に変化させる。そして――雷が光ったのと同時にものすごい速さで近づいて攻撃した。だが――
「なっ……いないだと!?」
「よそ見をしてる場合ですか?」
彼が薙ぎ払った時には既におらず空振りと終わる。そこへ不意に声が聞こえた瞬間――シュッと風を切る音と共にポケモンは吹き飛ばされてしまった。
「かはっ!?」
木の幹に打ちつけられて苦しむポケモン。だが目は決して諦めていなくてむしろ、闘志の色を含んだ鋭い眼光で未知の相手を睨んだ。また、攻撃を仕掛けた相手も手を出すことなくその様子を見下ろすように見ていた。
互いに睨み続ける間にいつの間にか雨や風が弱まり始めていた。
「なるほど……“それ”狙う理由が大方予想付きました……いいでしょう」
「な、何……?」
突然攻撃を仕掛けたポケモンは戦闘体勢を解く。その行為に吹き飛ばされたポケモンは戸惑いを隠せずにいた。
「あなたからは強い意思を感じます。私は強い意思を持った者に従うまでです……」
そういうと暗闇から蹄がついたやや細長い緑色の足が現れる。
「さぁ……私と契りを結んでください。あなたの願いのために……」
「……それならいいだろう」
倒れてたポケモンは目を一瞬だけ丸くしたものの、自分の手を伸ばし、緑色の足を握る。すると、緑色の足は一瞬にして消えた。
「なっ……!?」
呆気にとられていると目の前から緑色が現れたかと思うと、光は同じ色の粒子を彼に吹きかける。やがて光は何事もなかったかのようにすうっと消えていった。
「……力がみなぎる……」
その者は両手を見て呟く。その右手には翡翠色に輝くミサンガがついていた。そして、再び時の歯車≠ェある水辺へと足を運んだ。
「まずは……一つ目!!」
今度は誰にも邪魔をされずに歯車を盗る事が出来たようだ。すると不思議な模様は一瞬にして消えてしまった。
「……全ては未来のために……許せ」
歯車を肩から下げていたバッグに入れ、水辺を一瞥するとその場から素早く立ち去っていった。
そして、歯車を取ったポケモンと嵐が去った後の『キザキの森』は――
不気味なほどに静まり返っていた。やがて陽が昇り朝が訪れると葉っぱから滴る雫が制止し、青々とした木々が灰色に染まっていたのが明らかになる。また森のポケモン達――いや、森全体そのものの生気が感じられなくなっていた。
そう、『キザキの森』の時が――
――――止まってしまったのだ。