#17 新たな出逢い
エレナを追って地下一階に辿り着いたフィルドてキュベレー。そこにはエレナと一人のポケモン――体が青灰色で首から頭まで白い羽毛で覆われている雛鷲のようなポケモン――ワシボンの後ろ姿があった。
フィルド達の気配を感じたのか、ワシボンは後ろを振り返った。その額には一本の飾り羽が生えており、首には雫のような形をした水晶のネックレスがかけられていた。
「エレナ……! やっぱりここにいたんだ……!!」
ワシボンはエレナを見た瞬間、喜びと驚きを含んだ表情に変わり、エレナもまたワシボンと同じ表情を作った。
「どうしてここに……?」
「ん、それは理由があるんだけどここに来る途中にエレナが修行しているって聞いてさ。いやぁ、まさかいるとは思ってなかったよー」
未だに驚いてるエレナに経緯を話すワシボン。
「あの……お二人は知り合いなんですか?」
「幼馴染みよ」
「オレの名前はシンラって言うんだ♪」
会話の途中に丁寧な口調で割って入ったフィルドに答えるエレナ。そしてワシボン――シンラは名前を教える。
「ところでシンラ君はここに来た理由って?」
「おぉ、忘れるところだったよ」
キュベレーに理由を問われるとシンラはフィルドの前に立ち頭を下げた。
「……オレを弟子入りさせてくれ――じゃなくて弟子入りさせてください!!」
「「「えっ!?」」
突然の頼みにフィルドとキュyベレーは驚きの声を上げる。
「でも、村長さん達には言ったの? 確か、あなたは村から出た事がなかったんじゃ……」
「大丈夫さ。ようやく認めてくれたし……それにあのサクヤ親方様がいる『プクリンのギルド』に弟子入りするのが夢だったから……なのでお願いします!!」
笑顔で語ったシンラはフィルドに再び頭を下げる。
「……分かった。入ってもいいよ……て言っても許可するのはサクヤ親方だからなぁ……とりあえずついてきて?」
「は、はい!!」
彼の熱意のようなものに根負けしたフィルドは手招きして地下二階へと向かった。
「おや、お前達。どうだったんだ?」
フィルド達が地下二階に戻るとペラトが待っていた。
「ペラト、ちょうど良かった! 実は――」
「オレを弟子入りさせてください!!」
フィルドが説明しようとした時、シンラはペラトとフィルドの間に入り頭を下げた。
「そ、そうか♪ じゃあ、親方様に報告して行くから待ってなさい」
ペラトは一瞬面食らったような表情をしたが、すぐに表情を戻すとサクヤの部屋へと入っていった――その足取りがやけに重そうに見えたのは気のせいだろう。
「皆、耳を塞げよ?」
フィルドが言うのを合図にキュベレーとエレナは耳を塞ぎシンラも二人を真似するように耳を塞ぐ。『サンライズ』のメンバー全員が耳を塞いでからまもなくして――
「たあぁぁぁーーーーー!!」
とサクヤの“ハイパーボイス”とそれに混じって部屋の中からペラトの断末魔が聞こえた。
「うひゃあ……これが噂の“ハイパーボイス”かぁ」
耳を塞いでたシンラはサクヤの“ハイパーボイス”のすざましさにやや感嘆まじりの声を上げる。
「へぇ……それなら今度は耳を塞がないで聴いてみるか?」
「そっ、それは遠慮しとくよ!!」
そんな彼をフィルドはからかっているとサクヤの部屋からボロボロになったペラトが出てきた。
「どうでした?」
「とりあえずシンラ……だっけ? お前さんは『サンライズ』のメンバーに入るように弟子入り登録しといたからな……明日から働いてくれ……」
「あ、ありがとうございます!!」
ペラトは弱々しく報告をすると食堂へと歩いていった。
「良かったわね! ようやく弟子入り出来て」
「あぁ!!」
エレナに満面の笑みを送るシンラ。
「入ったからには途中で放棄するような事はしないでくれよ? あぁ、それとこれからは敬語は使わなくてもいいからな」
「はい! ……じゃなくて、分かった!!」
「自己紹介がまだだったね。わたしはキュベレー、そして彼がリーダーの……」
「フィルドだ。ようこそ、探検隊『サンライズ』へ!!」
「キュベレーにフィルド……うん! これからよろしくな!!」
フィルドとキュベレーは笑顔でシンラを歓迎した。
「自己紹介も終わったし夕食を食べに行きましょ?」
「あぁ、そうだな」
「うん!」
「りょーかい!」
エレナの合図にフィルド、キュベレー、シンラの順に声を上げ、四人は食堂に向かっていった。夕食ではシンラが自己紹介をし彼はエレナ同様兄弟子達の暖かい拍手で迎えられたのだった。
「うわぁ……雷が鳴ってるよ……」
フィルド達が部屋に戻った時には既に大雨が降ってきて、時折黒い空が白く光り、雷が音を鳴らす。ちなみに呟いたのはキュベレーである。
「今夜は大嵐になりそうね……」
窓から外を眺めていたエレナも呟く。ちなみに、新入りのシンラはと言うと旅の疲れがあったのか早々と寝ていた。本人曰く、トレジャータウンに向かうために朝から村を出てきたとか。
「そう言えばフィルドと出会う前日もこんな天気だったんだよね……」
ふと、思い出したように呟くキュベレーはシンラをチラッと見て――
「まだシンラ君には言ってないからあんまり大きい声では言えないけど……この天気を見て何か思い出せそう?」
「うーん………」
少し声を潜めてフィルドに訊いた。なぜなら、シンラにはフィルドが記憶喪失で元人間である事は内緒にしているからである。フィルドは窓辺に立ち時々稲光が走る黒い空を見ながら思い出そうとするが――
「…………ダメだ。全然思い出せない」
「そっかぁ。でも、少しずつでもいいからね?」
「焦って思い出そうしても精神が疲れちゃうからね。ゆっくりでいいのよ」
残念そう首を横に振ったにをするフィルドにキュベレーとエレナは優しく声をかけた。
「二人とも……ありがとう」
「「どういたしまして♪」」
「あ、そうだ! 前から気になってることがあったんだけど……前に時がおかしくなっている影響で悪いポケモンが増えているって言ってたよな? あれってどういう事なんだ?」
二人に礼を言った後、フィルドは思い出したように質問を投げた。
「あ、まだ話してなかったね。フィルドがさっき言ってた通り、少しずつだけど……確実に時がおかしくなっている……いや、狂い始めてるの方が近いかな」
「そうね。最近その原因が時の歯車≠ェ影響されているんじゃないかって皆して言ってるの」
「時の歯車=H? それって――」
フィルドが時の歯車について訊こうとした時――
ピシァーーン!!
「うわあっ!?」
「「きゃあっ!?」」
「のわあぁ!?」
今までより大きな雷の音が鳴り響き、フィルド達は驚いてしまった。あまりにも大きな音にギルドが少しだけ揺れ、それによりシンラが飛び起きた。
「あら、熟睡してるシンラが飛び起きるなんて珍しいわね」
「だって今の音、凄かっただろ!? おかげで目が冴えちまったよ……」
背伸びをしながら言うシンラ。
「ところでエレナ達はまだ寝てなかったのか?」
「あぁ、なかなか寝れなくてな」
「ふーん……」
「あの……そろそろ話を戻していいかな?」
シンラの質問にフィルドが答えた後、キュベレーが口を開く。
「なんの話をしてたんだ?」
「時が狂い始めた訳の話を聞いてたんだ。シンラも聞くか?」
フィルドの問いにシンラは首を何度も頷かせる。
「それで――時の歯車≠チて?」
「誰も見たことがないらしいから形は分からないけど……ただね、小さい時に聞いた事があるの」
エレナは一つ間を置き時の歯車≠ノついて語り始めた。
「時の歯車≠ヘ地域の時間を守っているみたい。それと世界のあちこちに隠されてるの。……例えば深い森の中、鍾乳洞や湖、火山の中――私達が普段立ち寄らない場所に安置されているみたいなの」
エレナはフィルドとキュベレー、そしてシンラに分かりやすいように説明する。そんな中、シンラが右翼を挙げた。
「しつもーん!! もし、時の歯車を盗ったらどうなるんだ?」
「たぶんだけど……その地域の時間が止まっちゃうと思うわ。だから誰も時の歯車≠盗りたがろうとはしないのよ。例え悪事を働かせるポケモンまでもね」
「なるほど……説明してくれてありがとな」
フィルドがお礼を言った後やや重い空気が弟子部屋を包み込んでしまう。その中で――
「フィルド達はなんでスカーフしてるんだ? なぁ、オレの分はないのか??」
シンラが口を開いた。その内容は彼から見ればフィルド達がスカーフを巻いているのに自分にはないのは不公平だ、と言うものにも聞こえる。
「ドタバタしてたから気付かなかったよ。ちょっと待ってて」
フィルドはトレジャーバッグから時空のオーブ≠取り出し、シンラに差し出す。
「触ってくれないか?」
「お、おう」
フィルドに言われ時空のオーブに触れるシンラ。すると、触れた所から波紋が広がりオレンジ色を帯びていった。やがて完全に色づいた時、足型文字が浮かび上がった。そこには――“汝の波導の色はパワフルなオレンジ。よってオレンジスカーフを与える”と書かれていた。
そして時空のオーブ≠ゥら光が生まれてシンラの頭上まで近づいていき、オレンジ色のスカーフに姿を変えるとシンラの頭の上に落ちた。
「……エレナぁ、スカーフ着けてくれー」
「ふぅ……しょうがないわね」
顔にかかったスカーフの端を上げながらエレナに頼むシンラ。頼まれた彼女も嫌な顔をせずにスカーフを取るとシンラの額に――飾り羽の後ろに巻いてあげた。
「そうだ! これから、仲間が増えた時には時空のオーブ≠ノ触れさせてあげようよ!!」
キュベレーが思いついたように言ってフィルド達に同意の眼差しをする。フィルド達はもちろん頷いた。すると――
「入りますわよ!!」
「は、はい。どうぞ」
突然の来客にフィルドは慌てて時空のオーブ≠トレジャーバッグの中にしまい込んだ。それとほぼ同時にドアが開けられ、サンシャとフウが入ってきた。
「こんな夜中にどうしたんですか?」
「実はレードさんが怪談話をしてくれるみたいで……だからあなた達を誘いに来たんですよ!!」
エレナの質問にやや興奮気味に答えるフウ。
「わ、わたしは遠慮します……」
「大丈夫! 皆で一緒に聞けば怖くないですわ!!」
「え、ちょっと――」
後退りしながら断ろうとするキュベレーをサンシャは彼女の前足を掴むと強引に連れ出して行った。
「それでは先に待ってますので是非来てくださいね!」
“是非”を強調して言ったフウも部屋を出ていった。
「これは行くしかないわね……」
「怪談話かぁ……楽しみだなぁー!!」
エレナはやや呆れながら、シンラは嬉しいそうに部屋を出ていった。フィルドも部屋を出ようした時には窓が目に入った。
先ほどの大嵐はいつの間にか過ぎていったようで、外は静けさに包まれていた。
(何だろう……胸騒ぎがする……)
フィルドは不気味なほどの静けさに胸騒ぎを覚えたが気のせいだ、と自分に言い聞かせエレナ達の後を追った。その後、怪談話が行われたビート、レード、ゴルダの部屋からキュベレーの悲鳴が
木霊したのは言うまでもなかった。
また、彼女はこの日以来怪談話が大嫌いになったそうだ。