#13 洞窟の秘密
――滝壺の洞窟 奥地――
「うわぁ……!!」
「すごぉーい!!」
「すごくきれい!!」
『滝壺の洞窟』の秘密を解くために来たフィルドとキュベレー、その道中で出会ったエレナの三人は洞窟の最奥部らしき場所へと来ていた。そこには壁や地面に色とりどりの宝石が埋め込まれており、ごく僅かな光も反射し、神秘的な雰囲気を醸し出していた。その光景に彼らは目を輝かせながら驚きと感嘆が入り混じった声を上げていた。
「これを皆に報告すれば絶対喜ぶよ!!」
「そうだな!!」
「おーい!! 二人とも、こっちこっち!」
ギルドの皆が驚くなどと話しているとエレナが手で招いてフィルド達を呼んでいるのが聞こえた。
「どうしたんだ――ってなんだこりゃ?!」
「すごい……!!」
フィルド達がエレナに呼ばれて来てみるとそこには自分達よりも大きい宝石があったのだ。これには、フィルドとキュベレーも驚きの声を上げずにはいられなかった。
「これを持ち帰れたら皆本当に喜ぶよ!!」
「それじゃ、あなた達のお仲間さんのために手伝いますか!」
軽く腕を回して宝石を引き抜こうとするエレナだったが……
「……せーの、くぅぅ!! …………ぬ……抜けない……」
宝石はびくともしなかった。
「エレナ、今度は俺がやるよ」
エレナと交代しフィルドも宝石を引き抜こうとするが――
「んの! ……まだだ……はぁぁぁぁ!! …………く、くそ微動だにも動かないのか……!」
先ほどと同じく宝石は引き抜けなかった。
「じゃあ今度はわたしが!!」
フィルドと入れ替わるように宝石の前に立つキュベレーは二人と同じく引き抜こうとする。その様子を少し離れて見ていたフィルドだったが――
「くッ……!? また……あの夢かッ…………!!」
本日二度目の耳鳴りに襲われた。宝石を引き抜くのに集中しているキュベレーとエレナはフィルドが苦痛の表情をしている事に全く気が付いていないようだった。
やがて、風景が歪み目の前が真っ暗になっていき、映像が
三度映し出された。
映像は先ほどフィルド達がいた『滝壺の洞窟 奥地』を映し出している。まもなくして、最初に滝に突っ込んだポケモンの影がやってきた。そして、大きな宝石の前に立つと躊躇なくそれを押したのだ。宝石は簡単に押し出される。
だが、その影は何やら慌てたようにキョロキョロと左右を見ていた。そして、右に体を向けると突然右端から大量の水が流れてきた。表情は読み取れなかったが、飛び上がったため驚いているのが分かった。水流は影を飲み込み――そこで途切れてしまった。
(……今の映像は一体……)
フィルドは宝石を抜くのに悪戦苦闘中のキュベレー達の様子を見ながら先ほど見えた映像を整理を始めた。
(あの影が宝石を押した時、大量の水が流れてきた……って事はあれは押しちゃマズいんじゃ……)
フィルドの疑問が結論に達した時だった。
「はぁ、はぁ……やっぱり抜けないよ……」
「……あっ、それなら押してみるわ!」
先ほどまで座り込んでいたエレナが思いついたように立ち上がると宝石の前に立つ。
「……!! エ、エレナ押すなぁぁーー!!」
だがフィルドの制止も甲斐無くエレナは宝石を押した――
(あ……あ゛あぁぁぁぁぁーー!!!?)
フィルドが心の中で叫ぶが――
「んーー!! ……ってなかなか固いわね……ううん。私、腕の力がなかったんだわ……」
エレナが押しても宝石はびくともしなかった。どうやら彼女は腕の力が弱かったらしく、フィルドが見た影が簡単に押せた宝石を押す事が出来なかったようだった。
「……ふぅ……(た、助かったぁ……)」
空気が抜けたように一気にその場で座りこんだフィルド。
「エレナ、わたしが押そうか?」
「大丈夫よ。キュベレーは休んでいて」
だが、女性陣は諦めてなかったようだった。
「(あ、そうだ! 早く教えないと……)おーい、二人とも! その宝石は押しちゃ――」
「フィルド、今から集中するから話し掛けないで!!」
「あ……悪い……」
二人に真実を教えようとしたが、エレナに制されてしまい言うタイミングを逃してしまったフィルド。そんなフィルドを一瞥し、エレナは宝石からおよそ五メートル離れると――
「うおおぉぉぉぉ!!」
なんと雄叫びを上げながら走り出した。そして、宝石との距離が残り約七十センチくらいにさしかかった時だった。エレナは突然ジャンプしたのである。
「んな……!!」
「と、飛んだ……!!」
フィルドが絶句をし、キュベレーが呆気にとられている間にもエレナと宝石との距離はおよそ五十センチになっていた。
「うおぉぉぉりゃーー!!」
助走した時に着いたスピードを落とさないまま、彼女は宝石に向かって――蹴りを放った。蹴られた宝石は映像で聞いたカチッという音ではなくバコォン! という破壊音が洞窟内に鳴り響いた。
その音を聞きフィルドはしまった、というような表情に変わった。
「ふぅ……なんとか押せた……」
「なっ……何してんだよぉぉぉぉーー?!!」
爽やかな笑顔を作るエレナに対して悲鳴混じりの声を上げるフィルド。
「何って、押しただけだよ♪」
「ちょっと手荒かったけどね……」
笑顔を崩さないエレナにキュベレーは苦笑いしながら言う。
「と、とにかくここから離れるぞ!!」
「「えっ?」」
やや声を荒げながら言うフィルドにキュベレーとエレナは状況が読めないためか疑問を浮かべたような表情をしながらも言われた通り走りだす。この後何が起こるか知っているフィルドはエレナが飛び蹴りをしたとき、罠も一緒に壊れてるようにと強く願いながら来た道を走っていったが―――
その願いも遠くから聞こえてきた激流の音に虚しく消されてしまった。
(やっぱり間に合いそうにないな……あと、数秒ぐらいで確実に来る……!)
フィルドがそう思ったと同時にゴゴゴゴゴ……という音が洞窟内に響き始めた。
「なっ、何の音!?」
「キュベレー! エレナ! 俺にしがみつけ!!」
「でも……」
「いいからしがみつけ!!」
突然響き始めた不気味な音に若干パニック状態のキュベレーに、フィルドにしがみつく事に戸惑うエレナ。そんな二人にフィルドは次第に大きくなっていく音に負けないぐらいの大声を上げる。
そして、彼女達がようやくしがみついた頃には音と同時にやや強い震動が洞窟全体を揺らしはじめていた。
「いいか……なにがあっても放すなよ」
静かに言うフィルドにキュベレーとエレナは頷いた。この時、音が聞こえる方を見ながら言ったフィルドにキュベレーがカッコいい、と思っていた事はここだけの話。
まもなくしてフィルド達の視界に大量の激流が勢いよく流れてきた。
「うそ……!?」
「まさかさっき押したのは――!!」
エレナが言い終わらないうちに激流は彼らを呑み込んでいった――。