#11 初めての探検と……
「さぁ、今日も張り切って仕事を頑張るよー!」
「「「おぉーー!!」」」
いつもの朝礼が終わり弟子達は自分の持ち場へと散っていった。
「今日も掲示板の仕事かな?」
「そうじゃん? 最近はそればっかりだし……」
二人はペラトの指示が来るまで他愛のない話をする。ここのところフィルド達は掲示板の依頼をこなし続けているため今日も同じだろう、と高を括っているようだ。すると――
「おーい、お前達!!」
今日は珍しくペラトがフィルド達に近づいた。
「お前達は最近よく依頼をこなしているな。特にこの前のお尋ね者を逮捕した事は親方様もお褒めになっていたぞ♪」
ペラトが言うお尋ね者の逮捕――それはリィナを誘拐したリーパーの事を指していた。後にフィルド達は知った事だがリーパーの逮捕のランクはAランクだったらしい。
つまり、通常ノーマルランクだったら手に負えないお尋ね者をフィルド達は逮捕したと言うわけだ。そんな訳でギルドの兄弟子達を驚愕させたと言う事はまた別の話。
「さて、そんな功績もあるからいよいよお前達に探検をさせようと思う」
「「えっ……?」」
ペラトの口から出た言葉でフィルド達はハモる。
「とりあえず不思議な地図を出してごらん」
ペラトに言われた通りトレジャーバッグから不思議な地図を出し広げた。
「今回探検してほしいところは……トレジャータウンからやや北東に行った所に雲で覆われている場所があるだろう?」
「……あっ、本当ですね」
ペラトの翼がトレジャータウンから目的の場所まで――まるで線を正確に引いている感じで動しながら説明をする。そして、雲で覆われている場所で動きがピタッと止まった。
「つまりここを調査する事が仕事なんですね?」
「そうだ。ここは『秘密の滝』と呼ばれている」
「『秘密の滝』ねぇ……」
キュベレーの質問に頷くペラト。一方のフィルドは復唱し『秘密の滝』が記されている場所を見ていた。
「この滝には何か秘密じゃないかと噂がある。近場だし初めての探検にはちょうどいいだろう。それじゃあ、よろしく頼むぞ♪」
そういうとペラトは梯子を登っていった。
「よし……それじゃあ俺達も行くか!」
そういい歩きだしたフィルドだが――。
「あれ? キュベレー、どうした――!!」
キュベレーが付いて来ない事に気が付いたフィルドが彼女の方を見ると、キュベレーは震えていたのだ。
「お、おい!? 大丈夫か、キュベレー!」
「う……うん……大丈夫だよ。実は……あまりに嬉しくて武者震いが……とまらないんだ……」
心配するフィルドに笑顔で言うキュベレー。しかし、震えてるせいかどこかぎこちなかった。
「(とにかく震えをほぐしてやらないとな……。)あのさ、キュベレー? とりあえず片方の前足を俺の手にのせてくれないか?」
「えっ!? き……急にどうしたの?」
フィルドの突然の申し出に戸惑うキュベレー。こころなしか顔が少し赤くなっている。
「いいから! 早くのせてよ!」
「う、うん……分かった」
幼子(おさなご)のようにせかすフィルドに右前足を乗せるキュベレー。
「そうそう。 それで今から俺が“ファイトー!”って掛け声を言うキュベレーは“おぉー!”って言ってくれる?」
「うん……!」
フィルドが何をするか若干の期待を込めて頷くキュベレー。
「よし……。じゃあやるか。……『サンライズ』! ファイトー!!」
「えっ!? ……あっ、お、おぉー!!」
フィルドが言った掛け声があまりにも普通すぎて返すタイミングが少しズレたキュベレー。
またその間にフィルドは手を少し下げたかと思うといきなり上に上げる動作をした。(その時、キュベレーは自分の前足を支える感覚が一瞬なくなったかと思ったら鈍い痛みを感じたようだ)
「あ、はは……前からやってみたかったんだ。こんな掛け声みたいな事……」
頭を掻きながら言うフィルド。
「そうだったんだ。でも……」
キュベレーは一つ間を置いて――
「ありがとう!!」
満面の笑みでフィルドにお礼を言った。
「えっ、あ……あぁ……どういたしまして♪」
突然お礼を言われたため一瞬目をぱちくりさせていたフィルドだがすぐに笑顔になった。
「どうやら震えも止まったようだし……準備して行くか!!」
「そ……そうだね!!」
フィルドとキュベレーは準備をするため『トレジャータウン』へと向かっていった。そして――
――秘密の滝――
フィルド達は不思議な地図に書かれた『秘密の滝』へと辿り着いた。
「す、すごい……!! 滝がものすごい勢いで落ちてる!!」
フィルドが感嘆を漏らしながら見ている滝は勢いを衰える事無くザァーと音をたてながら下にある滝壺へと流れ落ちている。
「ねぇ! もっと近くで見てみない!?」
「そうだな!!」
フィルド達は滝へ近づこうとした時――
「きゃあ!?」
先に近づいたキュベレーが滝に触れようとした瞬間、後方に吹き飛ばされたのである。
「キュベレー!? 大丈夫か!?」
「うん……平気だよ。滝の勢いがすごくて飛ばされただけだから。フィルドも近づいてみたら?」
吹き飛ばされたのにも関わらず表情はどこか楽しそうなキュベレー。そんな彼女を見て「大丈夫そうだな」と呟いたフィルドは滝を見て一歩一歩と歩みを進めた。そして、先ほどのキュベレーと同じく滝に触れようとしたが――
「うわぁ!?」
彼もまたキュベレーの近くまで吹き飛ばされてしまった。
「ね? すごいでしょ?」
「あぁ……本当にここ秘密なんてありそうだな」
フィルドも楽しそうな笑みを浮かべたその時――
「……ぐぅぅ!?」
耳鳴りがした。そして、フィルドは辛そうに片手で頭を押さえる。
「フィルド!?」
「この感覚……また……あの眩暈が…………」
――――来る!
フィルドがそう思った瞬間彼の視界がぼやけてやがて真っ暗になり映像が映し出された。
映像が映っていた場所は現在フィルドがいる『秘密の滝』だった。すると、一人のポケモンの影が滝の近くへとやってきた。その影は滝からおよそ五メートルくらい後ろに下がると助走をつけて滝の中に突っ込んでいった。
(たっ、滝に突っ込んでいった!?)
フィルドが驚いているうちに今度は洞窟らしい映像へと変わっていた。まもなくして先ほどの影が水しぶきと共に突っ込むような形で現れた。その影は何回か転がったが、立ち上がると洞窟の奥へと進んでいった。
(まさか……あんな滝の後ろに洞窟が……!!)
驚いているうちに映像はいつの間にかフィルド達がいた滝の前になっていた。今度はまた別な影があったが、先ほど見た影より結構小さかった。その影もまた同じように滝へ近づいた後、先に入っていった影よりもかなり後ろに下がってから助走をつけて滝へ突っ込んでいった。
その後はまた同じように洞窟の映像が映し出されて、小さな影もまた水しぶきと一緒に現れる。そして、辺りをキョロキョロと見渡すと洞窟の奥の方へと進んでいき、そこで映像は途切れた。
しばらくすると滝の轟音が聞こえてきた。フィルドが目を開けるとの隣ではキュベレーが心配そうに見ていた。
「フィルド!! 大丈夫!?」
「あぁ……それよりさっき映像が見えたんだ」
「映像って……リィナちゃんを助けるきっかけになったあれのこと?」
キュベレーの問いにフィルドは静かに頷く。
「それで何が見えたの?」
「実は……ポケモンの影があの滝に突っ込んでいったんだ」
「えええぇぇ!? あの滝に突っ込んでいった!?」
驚きの声を上げながら前足で滝を指すキュベレー。
「俺も見た時は驚いたよ。でもあの滝の中に洞窟が広がっていてその影は奥の方へ進んでいったんだ。だから……」
一つ間を置き――
「俺達も滝に突っ込むしかないよ」
滝を見据えながらフィルドは言う。しかし……滝に突っ込んでいくしかないと言ったのはいいが、もしあの映像が嘘で洞窟などなかったら……大怪我どころじゃすまないだろう。
――その考えがフィルドの決意を少しずつ削っていく。同時に彼の表情は迷いの色が漂いはじめていた。
「やっぱり突っ込むしかないんだね……ちょっと怖いけど……」
一瞬表情が暗くなるキュベレー。
「でも……わたしはフィルドを信じるよ!!」
その言葉にフィルドは思わずキュベレーを見る。彼女はそんなフィルドに満面の笑みを返した。
「キュベレー……ありがとう……!!」
フィルドはキュベレーに負けないくらいの笑みを返す。その表情には、もう迷いはなかった。
「それじゃ……いち、にのさんで助走をつけて突っ込もう」
「分かった。やるからには思い切ってやらないとね!!」
「あぁ!!」
滝からおよそ七メートル離れた所まで下がりフィルドとキュベレーは互いに頷き合った。そして、滝に向き合う。
「行くよ……。いち、にの――」
「「さん!!」」
声を揃えて走りだすフィルドとキュベレー。二人の横の列は見事に揃っていた。そして、滝に近づいた瞬間――
「頼む! 俺達に……」
「お願い! 私達に……」
「「勇気を下さい!!」」
フィルドとキュベレーは滝の轟音に負けないくらい大きな声で言い、滝の中に突っ込んでいった。その時、互いに言っている事が同じでしかも言うタイミングも一緒だったという事に知る
由もなかった。
「う…………うーん……」
ひんやりとした空気が体全体を撫でてフィルドは目を覚ました。
「ここは……洞窟なのか――って!?」
自分で言った言葉に反応しすぐに立ち上がって辺りを見渡す。辺りは暗くひんやりとしている。
フィルドの後ろにはややおおきな穴があり、青いカーテンのようなものが上から下へと絶え間なく落ちているのが見える。そこからは『秘密の滝』に来たときに聞いた滝の轟音が鳴り響いていた。
「これって滝だよな……」
そう言い青いカーテンに手を伸ばす。すると、冷たい感覚と水圧の感触が手を通して伝わり――
「うわっ!?」
突っ込む前と同じくはじき飛ばされた。
「やっぱりこれはあの滝なんだな」
フィルド達は滝に突っ込んだ後、この洞窟に倒れていた。と、いうことはフィルドの見たあの映像は真実だったのである。
「……うぅ……」
「あ、キュベレー! 気が付いたのか!?」
フィルドからやや離れて倒れていたキュベレーが気が付いた。
「あ……フィルド……? ここは?」
「ここは滝の裏だよ」
「えっ!? 滝の裏!?」
辺りをキョロキョロと見渡すキュベレー。そして後ろに流れ落ちる滝を見て、「本当に滝の裏なんだ」と呟いた。
「……どうやら奥に進めるようだな」
フィルドは前方の入り口を見ながら言った。
「きっと奥に何かがあるはずだよ! 早く奥に行こうよ!!」
「そうだな!!」
目を輝かせながら先に進むキュベレーをフィルドも追いかけた。
――滝壺の洞窟――
フィルドが今いるダンジョン『滝壺の洞窟』は水タイプのポケモン達が住んでいる場所である。また、洞窟内はひんやりとしており涼しかった。
「ふぅ。やっぱり苦手なタイプのポケモンと戦っていると疲れちゃうね」
キュベレーは小さな溜め息をつきながら言った。炎タイプである彼女にとってここは少し厄介なダンジョンであった。
「大丈夫? 少し休もうか?」
「ううん、大丈夫だよ」
心配するフィルドに笑顔で答えるキュベレー。そして、野生のポケモン達と戦いながらしばらく進んで行くとフィルドは急に立ち止まった。
「……? どうしたの?」
「静かに……」
フィルドは自分の指を口元に当ててジェスチャーをする。そして、彼は耳を澄ます。
「今、悲鳴が聞こえたんだ。……こっちだ!!」
「えっ!? ……あ、待って!!」
急に走り出したフィルドにキュベレーも慌てて彼を追いかけた。
一方別なフロアでは一人のポケモンが野生のポケモン達に囲まれていた。囲まれているポケモンは緑色の体に蛇を小さくして手足がついて尻尾が葉っぱの形をしているくさへびポケモン――ツタージャである。
そしてその回りには四人のポケモン達が囲んでいた。ツタージャの前に立っているニョロモから時計回りにコダック、ウパー、アメタマである。
「これじゃ、先に進めないわね……」
厄介そうに呟くツタージャにニョロモとアメタマが“泡”を、コダックとウパーが“水鉄砲”を放ってきた。
「あたるわけにはいかないわ!」
彼女は四方向からの攻撃をジャンプでかわした。
「……!?!?」
かわされた事に驚くニョロモ達。ツタージャはその隙を逃さなかった。
「まずは……あなたからね! “蔓の鞭”!!」
ツタージャは体から蔓を勢いよく出した。そのターゲットはウパーである。“蔓の鞭”はウパーを捉えて叩きつけた。
水タイプと地面タイプの両方を持つウパーにとって草タイプである“蔓の鞭”は効果は抜群、しかも通常の約二倍ぐらいのダメージを喰らったため、一撃で気絶してしまった。ウパーを倒された事により他の三人は狼狽える。
その隙を見逃さずツタージャは“蔓の鞭”でアメタマとニョロモに巻き付かせ、コダックのいる方へと投げ飛ばした。
「これでトドメよ!」
ツタージャは大量の葉っぱを出すとニョロモ達に向けて放つ。ここまでは技、“葉っぱカッター”と対して変わっていない。
だが、ニョロモ達の所へ近づいた瞬間葉っぱは彼らの周りを高速で回りはじめた。その様子はまるで緑色の竜巻のようである。
「いけ! “グラスミキサー”!!」
ツタージャが技の名前を叫ぶと竜巻は勢いを増して、ニョロモ達をダメージを与えた。やがて、竜巻が消えるとそこにはニョロモ達三人が気絶していた。
「ふぅ。これで終わった――」
その刹那、彼女の頭上から岩が降ってきた。
「きゃああぁ!?」
戦闘が終わって油断していた彼女は反応に少し遅れて直撃を喰らってしまうが岩が落ちた時にでる衝撃波が彼女を飛ばしたおかげで岩に埋もれる事はなかった。
それでも、うまく受け身がとれなかったため、彼女は地面に叩きつけられる形となってしまう。
「はぁ……はぁ……一体誰が……」
彼女が顔を上げるとそこには蓮の葉っぱを付けているポケモン――ハスボーとドジョウのようなポケモン――ドジョッチがいた。
(水タイプのポケモン……彼らは岩タイプの技を覚えないはずじゃ――)
岩タイプの技が何故打てたのか分からなかったツタージャだったがハスボーが攻撃体勢に入った瞬間、その謎が一気に解けた。
(まさかあのハスボーの“自然の力”が……!?)
“自然の力”――それは入ったダンジョンのフロアの地形により技が変わるのである。『滝壺の洞窟』のフロアの地形は岩……なので“自然の力”は、“岩なだれ”に変わったのである。今まさにハスボーが出そうとしている技は先ほどツタージャに出した、“自然の力”から変わった“岩なだれ”なのだ。
「くっ、ここまで……なの……?」
技を放とうと体を若干仰け反ったハスボーを見てツタージャは思わず目を瞑った。