#7 初めての依頼
「ここが依頼に書いてあった場所か……」
フィルドは辺りを見渡す。空気は湿気でじめじめして、至る所に苔が生えていた。
「ここにバネブーさんが落とした真珠があるんだね」
「そうみたいだな。とにかく奥を目指してみよっか?」
フィルド達は今回の目的を改めて確認すると『湿った岩場』へと入っていった。
このダンジョンは水タイプのポケモン――というよりは水路を泳いでくるポケモンが多かった。そうして襲ってくるポケモン達を倒していくフィルド達。
しばらく進むと二人のポケモンと出くわした。そのポケモンは鈴のような姿をしていた。
「あれも野生のポケモンだな……」
「うん。あのポケモンはリーシャンっていうの」
フィルド達は技を出す構えをするとリーシャンもまた叫び声を出してフィルド達に迫ってきた。
「突っ込んできたか……なら、かわすまで!」
通常攻撃をしてきたリーシャンをかわすフィルドとキュベレー。
「当たって! “火の粉”!!」
キュベレーが“火の粉”を繰り出し、技に当たったリーシャンが怯む。
「今だ! “電光石火”!!」
リーシャンに反撃の隙をあたえないよう素早く技を当てるフィルド。リーシャンは一瞬よろめいたが耐えていた。
「くっ!? 確かに手応えはあったんだけどな……!」
次の技を出そうと一定の距離を保って構えるフィルド。するとリーシャンは頭に付いていた紐を伸ばした。フィルドはかろうじてかわしたが、反応が少し遅れたキュベレーは当たってしまう。
「きゃあ!?」
バランスを崩したキュベレーにリーシャンが伸ばした紐が巻き付いてきた。
「キュベレー!!」
「……! う、動けない……!?」
キュベレーがどんなに足掻こうとも紐はなかなかとれない。そうしている間にも彼女にまきつく紐は次第に強くなっていった。
「……もう……ダメ、か……も…………」
「しっかりするんだ、キュベレー!! こんな所で諦めるな!!」
意識が朦朧とし始めたキュベレーに必死に声をかけるフィルド。
(くっ、どうすれば……そうだ! あれを使ってみるか!!)
何かを思い出し、トレジャーバッグをあさり始めた。そこから取り出したのは爆裂の種だった。
「さっき拾ったやつだけど一か八か……やるしかないな!」
フィルドはリーシャンを睨んだ。リーシャンはキュベレーを軽々と持ち上げてしめつける力をさらに強くしていた。
「うぅ……ごめん……フィ……ルド…………」
その力に耐えられなくなったキュベレーは気を失ってしまう。
「キュベレー……必ず助けるから!」
フィルドは爆裂の種をリーシャンに――正確にはリーシャンの足元に向けて投げた。種はリーシャンの足元に落ちると爆発した。
「ギャアァァァァ!!」
つんざくような悲鳴を上げるリーシャン。その爆発でバランスを崩したリーシャンは捕らえていたキュベレーを離した。
「……ッ! やらせるかよ!」
宙に放り出されて落ちてくるキュベレーをフィルドは両手で受け止めた。
「こいつでトドメだ! “波導弾”!!」
フィルドは片手で“波導弾”をつくり放った。相性的に考えるとエスパータイプのリーシャンにかくとうタイプの“波導弾”は効果がいまひとつなのだが、体力の限界がきていたのかリーシャンは、技を受けて気絶した。
「ふぅ……。一時はどうなるかと思ったよ……」
そう言いながらキュベレーを見るフィルド。彼女はまだ気を失っているらしく目を覚ます様子はなさそうだった。
「仕方がないなぁ……」
フィルドはキュベレーをそのまま抱き抱えて歩きだした。その間は奇跡的に敵と出くわす事はなかった。
*
しばらく進むと開けた場所に着いた。そこは所々岩場から湧き水が出ており澄んだ音色を奏でていた。
「……水、濁ってるなぁ」
薄灰色に濁った小さな溜まり場に注がれる水流を見ながら辺りを見渡すと少し進んだ所にピンク色の丸い何かが落ちていた。
「あれが真珠かな……」
「……う、うーん……」
「お、ようやくお目覚めか。おはよ! キュベレー」
フィルドが真珠に近づこうとした時、キュベレーが気が付いた。しかし目覚めたばかりか、まだぼぅとしている。
「あ、あれ……フィルドの声がすごく近くで聞こえるような……」
「そりゃそうだよ。だってキュベレーの事抱き抱えてたんだよ。さっきまでね」
「えっ……」
理由を言いながらキュベレーを地面に降ろすフィルド。それから、少し間を置いて――
「ええええぇぇぇーーーー!?」
顔を熟れたマトマの実のように真っ赤に染めたキュベレーの悲鳴のような声が響き渡った。
「い、いいつから……わたしを抱えてて?! そそれに……リーシャンはっ!?」
「落ち着いてキュベレー。リーシャンはとっくに倒したよ。それで、君は気を失ってたから抱えてきたんだ」
慌てるキュベレーに冷静に状況を説明したフィルド。
「そ、そうだったんだ。あ……ありがとう……」
「どういたしまして……ところでキュベレー、やっぱり熱あるんじゃない?」
「そ、そんな事ないよッ!!」
ようやく落ち着いたキュベレー。しかし、頬がいつもより赤く見えたのか心配をするフィルドに朝の出来事を再び思い出したのか慌ててそっぽを向いてしまった。
「と、とにかく真珠を拾って帰ろう!!」
騒ぎ立てる鼓動を抑えてキュベレーは真珠の所へ行く。
「なんなんだろう……?」
理由が思い浮かばないフィルドは首を捻りながらキュベレーの後についていき、真珠を拾った。
「よし。これで依頼は完了だな!」
「早くバネブーさんに真珠を届けよう!」
キュベレーもようやく落ち着き目的の真珠をトレジャーバッグにいれたフィルド達はバッグについていた探検隊バッチを空に掲げる。バッチは光輝きフィルド達を包みこむ。そして、彼らを包んだ光は『プクリンのギルド』に向かって飛んでいった。
――プクリンのギルド――
「いやぁ、ありがとうございます!!」
「そ、そんな……わたし達は困ってるポケモンを助けたまでですよ」
ギルドに帰ってきたフィルド達を待っていたのは依頼主のバネブーとペラトだった。そしてたった今、真珠をバネブーに返していたところである。
「あぁ……この真珠がなければ歩く度に転んでしまって……でも今日からはそんな心配はありません! 本当にありがとうございました!!」
何度も頭を下げるバネブー。その体の所々に絆創膏が貼っており、青丹になっている所もあり、真珠がなかった時、たくさんの災難に見舞われたのか物語っていた。
「とにかくお礼をしなくてはなりませんね。この謝礼金と道具を受け取ってください!」
バネブーは懐からちいさなビン三本と袋をフィルドに渡した。
「お礼はタウリン、ブロムヘキシン、リゾチウムと2000ポケです!」
「に、2000ポケぇ!?」
謝礼金の金額にキュベレーは驚きの声を上げる。
「こんな大金を……いいんですか!?」
「はい! この真珠に比べたら大したものじゃないですよ。では本当にありがとうございました!」
そういうとバネブーは器用に梯子を登っていった。
「に、2000ポケ……ほ、本当に……夢じゃないよね……!」
(2000ポケってそんな大金なんだな……)
キュベレーはポケの量に純粋に喜ぶ。対照的にフィルドは若干冷めた目で喜ぶキュベレーを見ていた。
「お前達、初めての依頼にしては上出来だったな♪ 本当によくやったよ。だが――」
フィルド達を褒めたと思ったら翼で2000ポケが入った袋を掠め取った。
「なっ……何するんだよ!?」
この行動にはさすがのフィルドも怒ったのかペラトを思いっきり睨むが、彼は完全に無視した。
「お前達は入り口にある『プクリンのギルド』 探検隊の心得 十箇条≠フ最後を読んだかい?」
「えっと、少ししか読んでませんけど確か――稼いだ賞金はギルドに分ける――って書いてあったような……」
『湿った岩場』にいく前に看板に書かれていた内容を思い出すキュベレー。
「その通りだ。だからお前達の報酬は――これくらいだ」
ペラトは袋から硬貨を二つ出すとフィルドに手渡した。その硬貨は数字で小さく100≠ニ書いてあった。
「つまり俺達の報酬は2000ポケの10分の1……」
「200ポケなの……?」
「そういう事だ♪」
おそるおそる聞く二人にペラトは上機嫌に答えた。
「まぁ、これからも頑張って稼いでくれよな♪」
1800ポケが入った袋を持って地下二階へと降りてしまったペラト。フィルド達は当然肩を大きく落としたのであった。
それからしばらく経つと何処からか風鈴の音が聞こえてきた。
「皆さーん、お待たせしました。夕食の準備が出来ましたよー!」
音を鳴らした正体――フウが食堂から現れた。
「まってましたー!」
「早く食べようよ!」
夕食の準備が出来たと聞いただけで大歓声がギルドを包んだ。そして、弟子達が我先にと食堂へ向かっていく。
「俺も初仕事やったから腹ペコだよ……」
「じゃあ私達も早く食堂へいこ?」
フィルド達もお腹を押さえながら食堂へ行った。そして、夕食を食べ終わり弟子達はそれぞれの部屋へと戻っていく。フィルド達もまた自分達の部屋に戻っていた。
「初めての依頼成功出来てよかったよ」
「まぁ、ペラトに謝礼金の九割とられたのが残念だったけど……喜んでいる依頼者を思い浮かべたらそんなのどうでもよくなったよ」
フィルド達はベッドの上で横になっていた。
「でも、今日は本当に……ありがとう!」
「リーシャンを倒したお礼か? 別にいいって」
「う……、うん……」
本音を抑えるようにキュベレー顔をベットにうずめた。
「明日からゴルダさんに起こされないように早く寝ないと。じゃあ、おやすみ……」
「あぁ。おやすみ、キュベレー」
まもなくキュベレーの寝息が聞こえた。
「まだ眠くならないな……そうだ! せっかくだから足型文字を読めるようにしないとな」
フィルドはベッドから身を起こすと切り株のテーブルに置かれている本を手にとる。それはキュベレーが家から持ってきた足型文字についての本だった。
「いつまでもキュベレーに読ませる訳にはいかないからね……」
そう呟き読み始める。
それから一時間くらい時間が過ぎた。
「さて今日はこれぐらいにして寝るかな……」
本を閉じてベッドに向かうフィルド。そして、ベッドに横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。
「明日も頑張らないとな…………」
やがて、フィルドも深い眠りについたのだった。