#10 初めてのお尋ね者退治【後編】
「行くぜ! “電光石火”から“真空斬り”!!」
“電光石火"で後ろに回り込み“真空斬り”で攻撃をしようとするフィルド。だが――
「無駄だ!」
「なっ……!?」
リーパーは後ろを振り向かずに“真空斬り”をかわしてしまう。
「くっ、今の攻撃、避けられないはずなのに……!」
「まさか……特性の力!?」
「特性?」
戦闘中なのに気の緩んだオウム返しフィルド。ちなみに特性とはポケモンに秘められた潜在能力の事である。
「俺の特性は“予知夢”……お前達の攻撃は何処から来るのか分かるわけさ」
ご丁寧に自分の特性を説明するリーパー。
(そうか……それなら複数で攻撃すれば!)
フィルドはリーパーを挟んで反対側にいるキュベレーに口パクで作戦を伝えた。
最初は分からないような顔をしてたキュベレーだが、理解したのか次第に顔が引き締まっていき頷いた。
「もう一発“真空斬り”!!」
「無駄だと言ったはずだが?」
リーパーが“真空斬り”を先ほどと同じように避ける。
「なら、これならどう?」
今度は反対側にいるキュベレーがリーパーに向け“火の粉”を吐く。つまり、フィルドの技を避けている間に別の方向から技を当てる――という作戦だった。
「フン……“念力”!!」
ところが“火の粉”は“念力”によってリーパーに当たる直前で止められてしまう。それどころか、返されてしまった。跳ね返された“火の粉”はキュベレーに向っていく。
「キュベレー、逃げるんだ!?」
「……!!」
だがキュベレーは動揺しておりフィルドの声も耳に入っていなかった。そして、跳ね返されたひのこはキュベレーに当たった。
「ああっ!?」
「キュベレー!?」
「これでまずは一人目だ! ひゃはははは!」
フィルドはキュベレーの名前を呼びリーパーは高笑いをした。ところが――
「あ……あれ? ダメージを受けていない……?」
「ひゃはは――?! なっ、何だと!?」
フィルドが気の抜けた声を出す。なんとキュベレーは全くの無傷で立っていた。これにはリーパーも動揺したようだ。一方の本人も何があったのかさっぱり分からず目をぱちくりさせている。
「な、何故ダメージを受けていないんだ……」
「……よし! 今だ!!」
フィルドは口をあんぐりと開けているリーパーに何かを無理やり食わせた。すると、リーパーは体が硬直したように動けなくなった。
「な……何をしたぁ!?」
「口が開いてたから縛られの種を食べさせた訳さ。……さぁ、キュベレー! トドメを刺そうか」
「え……! 分かったよ!」
自分に何が遭ったのか分からないリーパーに説明をするフィルド。
「まずは私から……」
キュベレーは攻撃体勢に入るが、お尋ね者であるリーパーを目の前にするとどうしても体の震えが止まらなかった。
(大丈夫……これで勇気を出せば……!!)
キュベレーは自分を落ち着けるために目を瞑る。
「やはり……そこの小娘…………は……動けないよ……うだな……!」
なかなか攻撃してこないキュベレーを見て硬直状態でありながらも余裕ぶるリーパー。
「それはどうかな?」
フィルドがリーパーに向けてにやりと笑う。
「な、何がおか……しい!?」
「フィルド!! いくよ!」
リーパーが口を開いた時にはキュベレーがこちらに向けて攻撃しようとしているのが見えた。
「フ、フン! どうせはったりに決まって――」
「もう迷わない……“火の粉”!!」
「なっ……!?」
キュベレーはリーパーに向けて“火の粉”を吐く。自分の予想が外れた事に驚いたリーパー。
「ちっ……動き……やがれ…………!」
リーパーは逃げようとするが彼は今硬直状態でいくら予知夢があるとしても体が思うように動けなかった。そんな彼を“火の粉”――それよりも何倍も大きい“火の粉”が包みこんだ。
「ぐわぁぁぁあ!? な、何故これほどの威力が……!?」
「今思い出したよ……あなたに特性があるようにわたし達にもあるの。わたしの特性は“貰い火”であなたが弾いた“火の粉”を吸収したの。それで能力があがったんだけど……まさかこれほどの威力になるなんて……」
“火の粉”の威力に驚きながらもキュベレーは説明をする。先ほどリーパーが“念力”によって弾いた“火の粉”に当たったキュベレーは自分の特性――“貰い火”によって攻撃と特攻が上がったのだ。
「あとは目を瞑った時だな。キュベレーはただ落ち着かせるためにやった行動なんだけど……どうやらその時に“瞑想”を修得したみたいだ」
フィルドもその説明に付け加えた。つまり、知らない間に修得した“瞑想”を使った事により特攻がさらに上がった。結果“火の粉”がかなりの威力になった訳だという。
「さて……こいつでトドメだ! “真空波導弾”!!」
説明を終えたフィルドは“火の粉”のダメージで呻いているリーパーにダメ押しの“真空波導弾”を放った。その技はもちろんリーパーを飲み込み、中規模の爆発が起きた。
「そんな……俺が新米の探検隊に――――ぎゃあああぁぁぁ!!!?」
「やったの!?」
煙が晴れるとそこには片膝をついているリーパーがいた。だが、限界がきたのかそのままゆっくりと前のめりに倒れた。
「や、やったぁ!! わたし達お尋ね者を倒したよ!!」
「なんとか勝てたな……それよりも……」
喜ぶキュベレーをよそにフィルドはリィナに近づいた。
「フィルドさん……」
「山の麓でノルクが待ってるよ? 一緒に行こっか」
そういいリィナの頭を撫でるフィルド。リィナは涙を流しながらただただ頷いた。
「あれ? バッチが点滅してる……」
ふとバッチに目をやったフィルドがそういいながらバッチを見る。確かにバッチは真ん中のピンク色の部分(フィルド達はノーマルランクであるため)が点滅していた。すると――
「探検隊『サンライズ』ノ皆サン、『トゲトゲ山』ノ麓ニ来テ下サイ」
「のわっ!?」
「ひゃあ!? バ、バッチから声が……!!」
「この声、聞いた事ある! 確かほあんかんのバイルさんだよ!!」
バッチから声が出てきて驚くフィルドとキュベレーに対してなぜか冷静なリィナ。
「そうなんだぁ〜。初めて声を聞いたよ」
「……ほあんかん?」
納得をするキュベレーとオウム返しをするフィルド。
「保安官って言うのはお尋ね者みたいな悪いポケモンを逮捕するポケモン達の事だよ!」
俗に人間で言う警察と同じ職業である。
「なるほど……それじゃ、その保安官に会いに山の麓に行くか!」
フィルドはバッチを空に高く掲げる。そして、三人と倒れている一人は光に包まれて『トゲトゲ山』を脱出した。
フィルド達が山の麓に着くと銀色の体にUの字磁石を体の斜め下二つ付けたポケモン――ジバコイルが浮遊していた。
そして後ろには丸い体にUの字磁石を真横に二つ付けたポケモン――コイルも浮遊している。
「ハジメマシテ! ワタシハ保安官ヲ務メテイルバイルト言イマス」
丁寧に自己紹介をするバイル。フィルド達もお辞儀をした。
「ところでどうしてここが分かったのですか?」
「ソレハノルクサンガ我々ニ通報シテクレタカラデス」
キュベレーの問いにバイルが答えると彼の後ろからノルクが出てきた。
「……!! お、お兄ちゃあーーーん!!」
「リィ……リィナぁーーー!!」
リィナは猛ダッシュをして両腕を差し出すノルクに飛び込んだ。
「お兄ちゃん!! 怖かったよぉーーー!!」
「お兄ちゃんが目を離した隙に……ごめんよ!!」
二人は再会出来て嬉しかったようでしばらく声を出して泣き続けた。
「……あっ、思わず見入っちゃったな。バイルさん、コイツをよろしくお願いします!!」
思い出したように倒れているリーパーをバイルに見せるフィルド。
「……確カニオ尋ネ者リーパーデスネ」
リーパーを確認すると後ろで待機していたコイル達がリーパーに向けて動き出しリーパーを立たせた。
「…うぅ……なっ、保安官!?」
ようやく目を覚ましたリーパー。しかし、両サイドをコイル達に抑えられており逃げ出す事はほぼ不可能な状態だった。
「チョウド目ヲ覚マシタカ。……ソレデハ『サンライズ』ノ皆サン、ゴ協力アリガトウゴザイマシタ! 賞金ハギルドノ方ヘ送リマシタノデ……。サァ、来ルンダ!」
「トホホ……」
肩をがっくりと落としたリーパーを連れてバイル達は先に下りていった。残されたフィルドとキュベレーはすでに泣き止んだノルク達の元へ向かっていった。
「リィナ……怪我はしていない?」
「うん! 大丈夫だよ!!」
「本当に……?」
「大丈夫だよ。リィナは怪我は一つもしていないよ」
心配するノルクにフィルドが声をかけた。
「あっ、フィルドさん、キュベレーさん! リィナを助けていただきありがとうございます! ……でも」
フィルド達に頭を下げたノルクだが、その表情はどこか申し訳なさそうにも見えた。すると――
「……ごめんなさい!」
「「えっ?」」
突然ノルクが謝ってきたのだ。フィルド達も何故ノルクが謝ってくるのか理由も分からず戸惑った。
「実は……フィルドさん達がダンジョンに入った時、ここで待ってて言ってくれたのにここを離れたんです……」
ノルクは山の麓から動かないとフィルド達に言われたが、バイルを呼ぶために離れてしまった事を悔いていたのであった。
「そんな事はないよ。ノルク君がバイルさんを呼んでくれたおかげで、リーパーは拘束できたんだよ!
もしかしたら君が呼んでいなかったらリーパーがまた逃げて悪い事をしてたかもしれない……。ノルク君にはむしろ感謝してるんだよ!」
満面の笑みで言うキュベレー。その言葉を聞きノルクの表情がパァッと明るくなった。
「フィルドさん、キュベレーさん……本当にありがとうございました!! ほら、リィナも」
「フィルドさん! キュベレーさん! 助けてくれてありがとう!!」
ノルクとリィナが揃って頭を下げる。
「どういたしまして!」
「気を付けて帰るんだよ?」
「はい……! 本当に……ありがとうございました!!」
フィルドとキュベレーは笑顔で言うとノルクとリィナは再び揃って頭を下げて、帰っていった。
「さてと、俺達も帰るか!」
「そうだね!」
こうしてフィルド達は初めてのお尋ね者退治は無事に成功したのだった。
――プクリンのギルド――
「お前達♪ 保安官のバイルさんから賞金が届いたぞ♪ 初めてのお尋ね者退治は成功したようだな♪」
フィルド達がギルドに帰ってくるとやけに上機嫌なペラトが出迎えてくれた。
「今回の賞金は3000ポケだよ♪」
「ええーーっ!! さ、3000ポケぇ!!?」
「昨日より多いな」
3000ポケという単語を聞いただけで驚きと嬉しさを隠しきれないキュベレー。フィルドもどこか嬉しそうな表情を浮かべた。そして――
「「……………」」
期待の眼差しでペラトを見つめる。フィルドに至っては手を前に差し出していた。
「そうだな。お前達の報酬はこれくらいだな♪」
フィルド達の眼差しをスルーしながらフィルドにポケを渡す。
「えっ……これだけなんですか……」
キュベレーがフィルドの脇から覗きながらショックを受けたような感じで言う。何故なら彼らが貰った報酬は3000ポケのうち2700ポケ引かれた300ポケ(硬貨三枚)であった。
「さ、300ポケだけかよ!?」
「……当たり前だ。これもギルドのしきたりだからな♪」
フィルドの悲痛な叫びとは対照的に上機嫌に話すペラト。
「この調子でうんと稼いでくれよ♪」
ペラトは先ほどと変わらず上機嫌で階段を降りていった。
「はぁ……結局こうなるのかよ……」
「もう少し多くても良かったのにね……」
ペラトが去った後、昨日と同じくらい肩を下げだキュベレー。フィルドに至っては地べたに座りこんでしまった。
「でも……初めてお尋ね者を退治出来てよかったよ!」
「そうだな……キュベレーも頑張ってたよ!」
「そ……そうかなぁ。あとね……あの時はフィルドの言ってた事より修行の方を優先させてごめんなさい……」
「いや、急に謝られても……それにあの時って……」
急に謝るキュベレー。フィルドは腕を組みながら記憶を辿ってみる。そして、一つの事に辿り着いた。
「あぁ、『トレジャータウン』でリーパーと初めて会った時か。別に気にしてないよ。俺だって最初は自分の事疑ったし…それよりも謝るのは俺の方だよ。あの時は急に声を荒げてごめんな。……怖くなかったか?」
フィルドもまた謝りながら不安そうな顔をしながらキュベレーに聞いた。
「うん、ちょっと怖かったけど、大丈夫だよ! フィルドが教えてくれたおかげでリィナちゃんを助けられたんだから!」
キュベレーの答えを聞き、少し顔がほぐれたフィルド。そして二人は互いの顔を見て微笑みあった。すると――
ぐりゅるるー
どこからか腹の虫が鳴った。
「あ……」
「や……やだ、わたしったら……」
完全に顔を赤くして俯くキュベレー。どうやらキュベレーのお腹が鳴ったようだ。
「きっとリィナを助けるのに必死だったからお腹が――」
ぐりゅるるー
再び鳴る音。
「あ、あはは、俺もお腹すいたよ……」
フィルドは照れながら頭を掻く。そして、今度は二人のお腹から同時にお腹が鳴った。
「お腹が鳴った事に気付いたら余計にお腹が鳴っちゃったよ……」
「そうだな。それじゃあ食堂でご飯を食べに行くか!」
フィルド達は食堂へ向かって走り出した。