#9 初めてのお尋ね者退治【前編】
――交差点――
フィルド達が勢い良くギルドを飛び出し十字路になっている『交差点』に差し掛かった時、一人のポケモンが彼らの視界に入った。
「おい、あれって!」
「ノルク君!?」
「あっ! あなた方は……!」
フィルド達の声に気付き辺りを見渡しながら近づいてきたのはノルクだった。
「リィナちゃん達は!?」
「それが……僕が目を離した隙にリーパーさんがリィナを……」
「どこにいったか分かるか?」
頭と尻尾を元気なく下げるノルクだったが、フィルドの質問を聞いてまるでスイッチが入ったように頭と尻尾を上げた。
「確かこっちに行きました! 今から案内します!」
「よろしく頼むよ」
ノルクを先頭にフィルド達はリィナ達が向かったところへと急いだ。
――トゲトゲ山――
ノルクに案内され辿り着いた場所はゴツゴツした道が特徴のダンジョン『トゲトゲ山』だった。
「こっちに向かっていったんだね?」
「はい……」
キュベレーの質問にノルクは元気なく答えた。
「心配するなよ。リィナは必ず探し出すから、ノルクはここで待っててくれよ?」
そう言いながら頭を撫でてくるフィルドにノルクは頷いた。
「それじゃあ行こう!」
「あぁ!」
二人は頷き合うとダンジョンに入っていった。
「ここで待ってて言われても……そうだ!」
ノルクは何か思いついたのか『トゲトゲ山』を後にしようとする。一瞬フィルド達が登っていった山を振り返るが再び前を向くとそのまま走り去っていった。
『トゲトゲ山』で襲ってくるポケモン達は『海岸の洞窟』や『湿った岩場』に住んでいるポケモン達よりも強い。フィルド達は現在ムックル二人とイシツブテ一人の計三人の相手をしていた。
「今までのよりなかなか強いな……“波導弾”!」
ムックルに向け“波導弾”を撃ち、二人のうちの一人に当たった。そして、フラフラになっているところへ――
「隙だらけだよ! “体当たり”!」
キュベレーの“体当たり”が追い討ちをかけてムックルは気絶した。
「あと二人……」
残されたムックルとイシツブテはかなり興奮していた。
「俺はイシツブテの相手をするから、キュベレーは――」
「分かった! ムックルの相手をするよ!」
フィルド達は自分達の相手に向かっていく。イシツブテ達も応えるように“体当たり”を繰り出してきた。
「あたるわけにはいかないな……“電光石火”!」
フィルドはイシツブテの“体当たり”を“電光石火”をかわし一気に距離を詰めていく。
「零距離とった……“波導弾”!!」
“電光石火”で追いついたフィルドは振り向いたイシツブテの顔面に手をかざすとそこから“波導弾”が放たれる。ゼロ距離だったためイシツブテは為す術もなく直撃を食らい、気絶した。
「相性が良かったから呆気なかったなぁ……。ところでキュベレーは?」
イシツブテを倒したフィルドは辺りを見回すとキュベレーはまだムックルと戦闘中だったが、ムックルの方はかなりのダメージが蓄積されているようでキュベレーは有利に戦っていた。
「これでトドメだよ! “火の粉”!!」
キュベレーが出した“火の粉”は今でも倒れそうなムックルに見事に命中し、ムックルは気絶した。
……実はこの時波導のスカーフ≠しているためフィルド達の能力が+1加算されていたのだが、フィルド達は気付いていないようであった。
「キュベレー! 怪我はないか?」
「わたしは大丈夫! 今までより強かったけど、倒せたから。それよりも早くリィナちゃん達を探さないと……」
「そうだな。とりあえずオレンの実を食べよう」
フィルド達はオレンの実を食べて、体力を回復したあとリィナとリーパーの捜索を再び始めた。
――トゲトゲ山 山頂――
一方のリィナとリーパーは『トゲトゲ山』の山頂に着いたところだった。
「あれ? リーパーさん、落とし物は?」
「落とし物は……ここにはないよ」
「えっ……」
リーパーは出会った時とはまた違う笑みを浮かべている。その笑みに戸惑いながらもリィナは兄のノルクがいない事に気付いた。
「お兄ちゃんは? さっきまで一緒だったよね……?」
「残念ながらお兄ちゃんも来ないんだよ。実は……お前を騙してたんだ。それよりも――」
「えっ……だま……してた…………って……?」
リィナはリーパーの言っている意味は理解出来なかったが、彼女の心はリーパーに対するある感情――恐怖が生まれていた。
すると、リーパーがリィナの――彼女の横にある小さな穴に指を差した。リィナは自分に差していないのに体が反射的にビクン、と動いてしまう。
「お前の後ろに穴があるだろう? そこには、とある盗賊が集めた財宝が隠されているらしいんだ。……だが、俺じゃ体が大きくて入らないんだ。
さあ、早く入って取りにいくんだ。なに、おとなしく言う事を聞けば帰してやるからな……」
邪悪な笑みを浮かべながら言うリーパー。だが今のリィナの心は完全にリーパーに対する恐怖の感情に塗り潰されていたため、リーパーの言ってた事が聞こえていなかった。
「い……嫌……お兄ちゃぁんーーー!!」
ただこの恐怖から解放されたい――その想いを胸に大好きな兄の名前を叫びながら逃げようとするがリーパーが既に先回りをして進路を塞いでしまった。
「……ひっ!?」
「聞こえなかったか!? おとなしく言う事を聞けば帰してやると!?」
言う事を聞かないリィナに対し憤りと焦りで歪んだ表情をしながら彼女に迫るリーパー。リィナも後退りをするが後ろには壁がありそれ以上は下がれなかった。
「言うことを聞かないと……痛い目に合わせるぞ!!」
「た……助けてーーー!!」
「そこまでだ! お尋ね者リーパー=I!」
リィナが叫んだ時何処からか声が聞こえた。リーパーがその方向を見てみると――
「わたし達は探検隊『サンライズ』! い、今すぐリィナちゃんから……離れなさい……!!」
フィルド達が立っていた。声を震わせながらもキュベレーは言い切った。
「な、何故探検隊が! どうしてここにいるとわかったんだ――って、おや?」
リーパーは驚きの表情をしたがキュベレーの様子がおかしい事に気付く。
「そうか。お前達、探検隊と言ってもまだ結成仕立ての新人って事か……」
「うぅ……」
震えるキュベレーを見て余裕を含めた笑みに変える。
「弱そうに見えるからっていい気になるな! 先入観で判断したらどうなるか……教えてやる!」
「フン……。口先だけは威勢がいいようだな。だが、お前達新人探検隊にそうやすやすと捕まる訳にはいかないなぁ!」
そういうと戦闘体勢に入るリーパー。
「キュベレー! 君には勇気があるはずだろ? しっかり気を持つんだ!!」
「……!! 分かったよ、フィルド!!」
フィルドに鼓舞されリーパーをしっかり見据えるキュベレー。そしてフィルド達も戦闘体勢に入った。ここにフィルド達の初めてのお尋ね者退治が幕を開けた――。