#1 運命の出逢い
「うーん……どうしよう……」
高台に何かのポケモンの上半身が建物となっている――ギルドと呼ばれる場所にとあるポケモンがうろついていた。
「いや、今日こそ覚悟を決めてきたんだから……大丈夫な……はず」
その者は目の前にある格子のようなものを見ており、言葉とは裏腹に何度も前足を出したり引っ込めたりしていた。それから数分してようやく前足だけを格子の上に乗せた。すると――
「ポケモン発見! ポケモン発見!」
「誰の足型? 誰の足型?」
突然下から声が聞こえてきたのだ。
「きゃあ!!」
格子に乗っていた者は驚いてしまい、格子から足を離してしまう。
「足型は――あっ、離れました」
「はぁ……またか……」
「はぁーぁ……またやっちゃったよ……」
下から何かやりとりをしている話声が聞こえたが、そのポケモンはひどく落胆しており耳には入っていなかったようだ。やがて、懐から何かを取り出してじっと見ていたが――
「今日は、宝物も持ってきたからいけると思ったのに……やっぱりわたしって意気地なし……なのかなぁ……」
消え入りそうな声で独り言をいい終えたのと同時にそれをしまって、ゆっくりとその場を去っていった。――そこで怪しく蠢く二つの影に気付かずに――
*
「……うぅ…………」
場所は変わってここは静かな海岸。そこにポケモンが倒れていた。一定のリズムで打ち寄せる漣の音色に瞼を上げたポケモンは、しかし体を動かず事無く再び瞼を降ろしていく。
「……! 誰かが来る……でも、体が動かない……くそ、意識……まで……も…………か…………」
そのポケモンが意識を手放した後、海岸ではクラブ達が集まっていた。そして、彼らは夕陽が沈み始めた水平線に向かって、大量の泡を噴き出していく。その泡に夕陽の光があたり、まるで
宙に漂う宝石のように輝いていた。
「うわぁー……やっぱりきれいだなぁー」
波打ち際で感嘆の声をあげたのは、先ほどギルドの前にいたポケモンである。彼女は砂浜に座ると、目の前に広がる風景に見入る。
「今日も見れてよかったよ。……ふぅ、わたしって何かあるたびにここに来てこの風景を見ているんだよね……」
誰も聞いていない海岸で一人で語るポケモン。どうやら、ここは彼女のお気に入りの場所のようだ。
「……よーし! 明日こそ頑張って入門を――ってあれ?」
決意を新たにし、立ち去ろうとしたその時だった。近くにあった洞窟から少し離れた所にポケモンが倒れていたのだ。彼女はその倒れているポケモンの所へ急いで駆け寄る。
「ねぇ! 君!? 大丈夫!?」
「……う、うーん……ここは……?」
倒れていたポケモンは彼女に揺さぶられたことにより気がついた。
「よかったぁ……どこもケガがないみたいで……あっ、ここは『トレジャータウン』から少し離れた所にある海岸で君はここに倒れていたんだよ?」
安心したように話すポケモン。一方で気を失っていたポケモンはこれ以上もないくらいに目を見開いて彼女を見つめて小さく呟いた。
「…………が喋ってる……」
「えっ? どうしたの?」
ポケモンが呟いた言葉に彼女は聞き取れなかったのか首を傾げながら聞き返す。
「……なんでポケモンが……ロコンが喋ってるんだ!?」
先ほど心配してくれたきつねのようなポケモン……ロコンに指をさしながら驚きを隠せないと言わんばかりの口調でそのポケモンは叫んだ。
「えっ? なんでって……そんな驚くほどじゃないよ……?」
「な、なんで当たり前のように言ってるんだ!?」
「だって当たり前だよ? 君だって
ポケモンだし……」
「な……?! 俺がポケモン!?」
ロコンが言ったことに目を丸くて驚いたポケモンだが否定するように首をゆっくりと横に振った。
「……違う……俺は……俺は人間だよ!!」
「ええっ!? 人間!?」
今度はロコンが驚く番となった。それはロコンからしてみれば信じがたい話。何故なら彼女の目の前にいる彼はポケモン、そして――
「……君はどこからどうみてもリオルだよ!!」
「俺がリオルっていうポケモン!? そんなわけが――」
ポケモンがロコンに抗議しようとした時、二人の間に先ほどのクラブが出した泡が割って入ってきた。そこには――
青い体に手足が黒く、目尻から黒い房が片方に一つずつ垂れ下がっているポケモン――リオルが七色に反射する泡に映っていた。
「そ……そんな……完全にリオルになってる……(でも、なんでリオルになったんだ……?)」
急に落胆したかと思えば何か考えはじめるリオル。そんな様子を見てロコンは――
「ね、ねぇ。君、さっきポケモンだよって言われて否定したと思ったら、急に落ち込んで……そしたら、何かソワソワしているし……ひょっとして、私を騙そうとしているの?」
完全に怪しい奴を見てるような視線でリオルを見据えていた。しかし、その瞳には不安と恐怖で揺らいでいる。
「いや……! そんなつもりじゃなくて……その……」
「じゃあ、名前を教えてくれる? わたしはキュベレーっていうの」
ロコン――キュベレーに言われて落ち着いたリオルは腕を組み「うーん」しばらくと唸った後、答えた。
「……俺の名前は……フィルド……」
「フィルド君ねぇ……」
一応名前を教えたリオル――フィルドだが、キュベレーはまだ警戒を解こうとしなかった。
「……そういえばフィルド君はどこから来たの?」
キュベレーに質問されてフィルドはまた考えたが――
(俺が来た場所――あ……あれ? そういえば俺はどこから来たんだ? ……駄目だ……)
「……ねぇ。本当に大丈夫なの?」
「あっ、あぁ……」
気遣ってはいるが声色から警戒を滲ませているキュベレーに少しだけ表情を歪ませながらもフィルドは再び考えるが――
「……思い出せない……」
「思い出せないって――!! それってまさか……!」
「どうやら記憶喪失みたいだ……」
「ええっ!? 記憶喪失!?」
「あぁ……自分の名前と人間だった事以外は考えても思い出せないんだ――あっ!」
「どうしたの? まさか思い――」
「言っておくけど、俺は怪しくないからな!」
何かを思い出したようだがその内容がフィルドの記憶と全く関係がなかったため思わずずっこけたキュベレー。しかし、フィルドと話しているうちにいつの間にか警戒心が解けていたようだ。
「(フィルド君はやっぱり怪しくないかも……)……あの、さっきは疑ったりしてごめんなさい……」
「えっ!? やっと俺が怪しくないって分かってくれた?!」
キュベレーが謝ったことにより疑いが晴れたと思ったフィルドは思わずキュベレーに近寄る。
「う、うん(か、顔が近いよ……)ここのところ、悪いポケモンが増えてきて、突然襲ってきたり油断しているところを襲ってくるの……」
「そうだったんだ……(何か嫌な気配がするな……俺達以外にも誰かいるのか……とりあえず話が終わったら聞いてみるか)」
視線を逸らしながらキュベレーが話を一区切りつける。そしてフィルドが先ほど考えた事をキュベレーに聞こうとした時、彼女の後ろにいた何者かの影が彼の視界に入った。
「キュベレー、危ない! 後ろに誰かいるぞ!!」
「……えっ?」