♭1 制裁
――プクリンのギルド――
「クククッ、いい情報を得られたぜ……よくやったぞ、お前達」
「「へい!!」」
『プクリンのギルド』から出て階段の前で立ち止まった『ドクローズ』。彼らはお金(通称単価:ポケ)になる依頼を探していたところ、ギルドに弟子入りをしている『サンライズ』という探検隊から遠征がある事を知ったのだ。遠征で訪れる未開の場所は誰も見つけたことのないお宝がある、と彼らは考えているようだ。
「しかし……あの弱虫君が探検隊になって弟子入りしてるとはな……」
「ほう……マタド、詳しく聞かせろ」
「へい!」
ドガース――マタドが呟いた言葉に興味を持ったスカタンクは詳しい話を聞こうとする。
「あのロコンは自分の宝物も奪われたら取り返さないでただ立ち尽くしてたんですよ」
「しかも、俺達に尾行された事も気付かないとんだマヌケな野郎なんです」
マタドの説明に便乗するように付け加えたのはズバットのクロである。
「それにあのリオルがいないと何も出来ないんですよ……」
「それはまたいじめ甲斐のある奴だな……よし! ついでにあの二人もちょっかいを出すとするか……クククッ」
「ケッ」
「ヘヘッ」
『ドクローズ』の三人はまるで悪戯を思いついた餓鬼のように薄気味悪い笑みを浮かべる。すると――
「ちょっとあなた達! 待ちなさい!」
後ろから三人に向け声が投げかけられた。彼らがつられて振り返るとギルドの入り口にツタージャ――エレナが立っていた。
「なんだ貴様は?」
「さっきはよくもキュベレー達に手をあげたわね!」
「キュベレー? ……あぁ、あのロコンの事か……クククッ」
一瞬驚いた表情をするものの、キュベレーの名前を聞いた途端スカタンクが余裕の表情に変わった。
「お前もあの弱虫君の連れかい?」
「あんなマヌケで弱い奴についていくなんて……間違ってるぜ?」
「何を言い出すかと思えば……あなた達、キュベレーをこれ以上侮辱しないで!」
キュベレーに暴言を吐くマタドとクロに怒りを含めた話し方で言い返すエレナ。
「クククッ。あの弱虫な奴の仲間なら貴様も同じだ。もし、違うならそれを証明してみな。まぁ、無理な話だがな……クククッ」
「……!」
しかし彼らは怯むことはなく、それどころかエレナを馬鹿にするように挑発を仕掛ける。だが彼は知らない――この言葉を発した瞬間彼――いや『ドクローズ』に地獄が待っていたことを――。
黙ってスカタンク達に罵られていたエレナだが、やがて黙って右手をスカタンク達に突き出した……その時――
「ぐわぁぁ!?」
「「ア、アニキ!?」」
それはほんの一瞬の出来事だった。スカタンクにいつの間にか“蔓の鞭”が当たってたのだ。これにはマタドやクロも驚きの表情をするしかなかった。
「貴様!! この俺様に何を――」
「……これ以上キュベレーを侮辱するなら――
ぶっ飛ばす!」
スカタンクが言い終わらないうちにエレナは静かに言い、顔を上げる。その表情は怒りが込められており、まさに般若のような顔つきになっていた。その表情を見た瞬間、『ドクローズ』は背筋に悪寒が走った。
「ア、アニキぃ……!」
「チッ、ズラかるぞ!」
すぐに危険を感じたのか、エレナに背中を向け階段を降りようとした三人が――
「私から逃げられると思うなぁぁぁ!!」
エレナが叫んだと同時に“蔓の鞭”が『ドクローズ』を捕えた。
「うぎゃあ!?」
「た、助けてくれー!!」
「お前ら、情けないぞ!」
鞭に絡まれて足が宙に浮いた状態はマタドとクロを一瞬の内に恐怖が束縛する。その二人にはスカタンクの言葉は全く届いていなかった。
「なら……喰らえ! “毒ガ――」
「やらせない!」
スカタンクが技を出すよりも早くエレナはスカタンクをおもいっきり地面に叩きつけと出鼻を挫かせた。
「ぐぎゃあぁ!?」
「「ア……アニキぃ!」」
”蔓の鞭”に捕まってるマタドとクロは悲痛な声で地面に叩きつけられたスカタンクの名を口にした。
「そろそろ……トドメをさしてあげる」
先程とは打って代わり笑顔を浮かべるエレナ。しかし、目は相変わらず険しいままだったが。するとエレナは、『ドクローズ』を捕らえてたまま“蔓の鞭”をゆっくりと引き戻し始めた。地面に強打して気絶しているスカタンク、恐怖に支配され身震いをするマタドとクロ。
そして、蔓を戻している間にエレナは尻尾の先に力を蓄めていた。やがて尻尾の先が白く輝いた時、彼女は『ドクローズ』を捕らえていた蔓を一気に解いて彼らに向かい走っていく。やがて彼女は『ドクローズ』が落下する地点付近で動きをピタリと止めた。
「行くわよ! “テールウィップ”!!」
エレナは技名を叫びながらゆっくりと回転をする。回転の力で遠心力を得た彼女の尻尾は徐々に長くなっていき、落下してきた『ドクローズ』の三人に見事に命中したのだ。
「「「ギャアァァァァア!?………」」」
光る尾に避ける術もなく当たった『ドクローズ』は悲鳴と共におおよそ数十メートル先の海へと飛ばされていき、彼らが落下したところには小さな水柱が立ったのであった。
「あなた達が間違った事……それは私の仲間を侮辱した事よ……」
『ドクローズ』が飛んでいった方向を見届けながら呟くと、エレナはギルドへと足早と戻っていった。