プロローグ
「……はぁ……はぁ……」
「だ、大丈夫か!? しっかりするんだ!!」
辺りは黒を塗り潰したかのように暗く、時折光る雷光が唯一の灯りだった。その中から二つの声が周りの音に遮られながらも聞こえてきた。
「もう……いい……。手を放してくれな……いか…………」
「な、何を言うんだ!? もう少し……あと少しの辛抱だからがんばるんだ!!」
どうやら二人は手を握っていた。しかし、そのうちの一人――少年の声はかなり苦しんでおり、もう一人――青年の声が必死に声をかけ続けていた。その時、ピシャンと音が弾ける
。
「くっ?!」
それと同時に二人の近くに雷が落ちてきたのだ。
「あ……このままだと…………いけない……っ!!」
「!? おい! 手を放すなっ!!」
苦しんでいた少年が手を放した時、雷がその少年にめがけて落ちてきた。
「や……やめろーーー!!」
「あっ――う……うわあああぁぁぁぁ!!!」
その時、青年は雷に紛れて黒い塊が少年を襲っていたのをただ見ているしかなかった――。
今日はとても荒れていた。海もまるで狂暴な怪物が牙を剥いているように何度も波打ち際を飲み込んだ。それは、何かが起こる予感が渦巻く……嵐の夜だった。