09.依頼完了
――電磁波の洞窟 奥地――
「ビビビ……助ケハマダカナ……?」
「大丈夫。キットバイル達ガ何トカシテクレルハズダ」
『電磁波の洞窟』の奥地はやはり『小さな森』と同じように少し広めの部屋が広がっており、その中央で二人のコイルがくっついていた。表情はなにやら不安な顔を浮かべていたが片方のコイルが何かを感じたのか部屋の入り口の方に目を向ける。もう一人も慌てて見るとそこには――
「君達がバイルさんの友達?」
バッチを片手に持ったマグマラシと脇で羽ばたいているビブラーバ、少しふてくされているイーブイの三人が立っていた。
「ヒョットシテ助ケニキテクレタノ?」
「はい、バイルさんから依頼として頼まれましたので」
近づいてくる三人に最初に目を向けたコイルが質問を投げるとビブラーバ――ティナが丁寧に説明を入れると隣にいたマグマラシ――ラシードに目配せをする。視線を感じ取った彼は安堵の表情を浮かべるコイル達の前に立つとバッチを二人の間にかざした。
するとバッチの中央が光り、目の前にいたコイル達が一瞬で光に包まれる。光はすぐに収まったが先程までいたコイル達はいなくなっていた。
「すごい……何この便利システム!」
「これが救助隊バッチの性能の一つ、遭難者の転送です。実際に見たのは初めてですが……あなたが言った事も間違いではないみたいですね」
ふてくされていたイーブイ――フィオナが一転して目の前で起こった事に興奮しているとティナが説明を入れる。
「それで……僕達はどうやって戻る?」
「確か、ダンジョンの奥地ではバッチで帰還することが出来たはず……」
「え!? そんな機能あったのか!?」
ラシードの質問にフィオナは思い出すように慎重に答える。その答えにラシードは直ぐ様食い付くとティナはわざとらしいため息をついた。
「はぁ……朝説明したのですが……まさか忘れたとでも?」
「いっ、い、いやそうじゃなくて……ほら初任務だから覚えてなかった――あ」
ティナの察しにラシードはぎこちない動きで彼女に顔を向けて説明したがボロが出てしまったようだ。無論、その言葉を聞き逃すほどティナは甘い性格はしておらず、「やはり……」と呟き彼との距離をさらに縮める。その際自分の前足をゆっくり握り、硬直して動けないラシードの前に浮くと、足を上げて彼の頭に向かって躊躇うことなく降り下ろした。
「いってぇぇぇぇ!?」
「全くあなたっていうポケモンは……」
踵落としモドキを喰らい頭を抑えて地面にのたれまわるラシードにティナも彼とは違った意味で頭を抑える。おそらく悩みの種が成長して双葉が出てきてしまったのだろう。その二人に突っ込む気力がないのか、フィオナは苦笑いをするとまだのたれまわっているラシードに近づいた。
「ラシード、あたし達もそろそろ戻ろ?」
「フィオナ……君も心配してくれないのかい……?」
「喋る気力があるんだから大丈夫よ。さ、早く早く」
心配してくれないフィオナに上目遣いで彼女を見るがフィオナは軽くあしらいラシードを急かす。その態度に彼は少しだけ傷付いた表情をしたがすぐに引っ込ませて立ち上がるとバッチを空に掲げた。すると、バッチの中央が光始め瞬く間に三人は光に包まれる。その光が消える頃、彼らがいた場所は誰もいなくなっていたのだ。
――ペリッパー連絡所――
「ビビビ! アリガトウゴザイマス!!」
「本当二助カッタヨ!」
「モシ救助隊<K来ナカッタラズット中途半端ナ姿ダッタヨ……」
フィオナ達はダンジョンから抜け出した後、先に『ポケモン広場』に行ってたバイル達と合流し、そのまま『ペリッパー連絡所』へ向かったのだ。そして現在は掲示板の前でバイル達にお礼をされているのである。
「ビビビ……コレハ助ケテクレタオ礼ダ。受ケ取ッテクレ」
するとイルガがいつの間にか右の磁石に引っ掻けていたらしい巾着のようなものをフィオナに手渡す。フィオナが受けとるとそれはジャラッ、と高い音を奏でた。そのことからお金をくれたんだ、と彼女は理解する。
「ビビビ……本当ニアリガトウゴザイマシタ!」
「マタ縁ガアレバ……」
「コレカラモ救助活動ガンバッテ!」
「『ムーンライト』ノ皆サン、アリガトウゴザイマシタ!!」
「また困ったことがあったら言ってね!」
再び四人のコイル達はお礼を述べると掲示板の前からゆっくりと去っていった。ラシードが彼らの背中に向けて言うと「ソノ時ハヨロシクオ願イシマス!」とバイルが代表して返した。
「……ふぅ。初めての依頼、なんとか成功してよかったよ……」
「うへぇー、疲れたぁー」
そしてコイル達の姿が完全に見えなくなったのを合図にフィオナとラシードは空気が抜けたように地面に座りこむ。
「掲示板の前で座り込んでいると通行人の邪魔になりますよ?」
「だって初めての救助活動ですごく緊張しちゃってさ。無事に成功出来て安心したら力が抜けたんだよ」
その二人にティナは小さくため息をつきながら彼らを立たせる。しかし、それはいつもの呆れたものではなくどこか安心感があるような、小さなため息だった。
「さあ、帰りましょうか」
「……あっ、そうだ!」
フィオナ達に背を向け帰ろうと動くティナ。するとフィオナが思い出したように声を上げてラシードとティナを交互に見て話を切り出した。
「二人にお願いがあるんだけど……」
――ムーンライト基地――
「うげぇー、疲れたー」
場所は変わってここは『ムーンライト基地』。その建物内で少女の声が発せられる。だがその言葉は、特に最初の一言は彼女にしてはあまりにも不釣り合いだ。そんな親父くさい言葉を発した少女――フィオナは本をテーブルに投げてぐったりと突っ伏する。が、しかし――
「ぴぎゃあ!?」
「本は投げるものではありません!」
フィオナの頭上でコツン、と乾いた音が鳴り彼女は奇声と共に頭を擦る。犯人は彼女の頭を本で――否、本の角で叩き真面目に注意するティナ。その本には足跡のような文字――足型文字で『足型文字を学ぼう!』と書いてある。
現在、フィオナは二人から足型文字について教えてもらっている最中なのだ。その訳は、基地に帰る際、フィオナが二人に足型文字について教えてほしいと頼んだため。それが示唆するように彼女がテーブルに投げ捨てた本にはポケモンの足跡やら書き順などがズラリと並んでいる。
「むぅー……だって難しいんだもん……」
「でもさ、僕らに頼んだのはフィオナだろう?」
「うぅ……」
「とりあえずあなたが基本を覚えるまでは寝かせませんよ?」
「えぇーっ!?」
「えぇーって……頼んだ本人が何を言うんだよ……」
上目遣いで訳を述べると今度は隣にいたラシードがすかさず正論を言ったため、フィオナは首を縮こませてしまう。さらにはティナまでも追い討ちをかけてきたためフィオナは嫌な顔を全面に表すが、二人には全く効いてないようである。結局、彼らの足型講座は日が落ちても終わることなく続いたようで切り上げたのが日付が変わるところだったそうだ。