08.初依頼は洞窟で
――電磁波の洞窟――
「えーと……あ、あれかな?」
『ポケモン広場』で準備を行い、依頼に書かれていた『電磁波の洞窟』――『ポケモン広場』のおおよそ北に位置する――に辿り着いたフィオナ達。するとラシードが誰かを見つけたようでやや駆け足をしながら近付いていく。
その者達もラシードの気配に気付き、振り返った。銀色の丸い体に頭に一本、と下の方に二本ネジがついていて、左右にUの字磁石が一つずつついている――コイルと呼ばれる種族が二人いた。
「アナタ方ハモシヤ救助隊『ムーンライト』デスカ?」
「はい! 依頼が届きましたので……あなたが依頼人のバイルさんですね?」
「――ひぇ!?」
ラシードが代表して確認をとると左側にいたコイルが「ソウデス!」と片言で答えた。どうやら左側のコイルが依頼書を出したバイルというらしい。その際、フィオナは変な声を漏らしたが小さかったため誰も聞こえてなかったようだ。
「ソシテコチラガ、イルガ=カルバス。私ノ友達デス」
「ビビビ……イルガダ。依頼ヲ受ケテクレテ感謝スル」
バイルがもう一人のコイル――イルガを紹介するとイルガが軽くお辞儀をして感謝の意を伝える。
「いえ。それで今回はどのような内容ですか?」
「ハイ……実ハ、私達ニハ二人ノ友達ガイマシテ、彼ラハコノ『電磁波ノ洞窟』ノ奥マデ遊ビニ行ッタノデスガ……ソノ時ニオ互イノ体ガクッツイテシシマイ離レナクナッテシマッタノデス」
「我々モ助ケニ行キタイノダガ、洞窟内ニ特殊ナ電波ガ流レテイテ入ッテシマッタラ同ジヨウニクッツイテシマウカモシレナイ。ダカラ依頼ヲ出シタノダ」
後から追いついたティナの質問にバイルとイルガは説明をする。カタコトで話してるため少々分かりづらいが要約すると、『電磁波の洞窟』にいるバイル達の友達を救助して欲しいということだ。
「うーん……鋼タイプのポケモンに悪影響を及ぼす電磁波が流れているんだね……」
「ハイ……オ願イシマス……ドウカ二人ヲ助ケテ下サイ!」
ラシードが憶測を立てるとバイルが懇願するように頭を下げ、イルガも同じように頭を下げた。
「頭は下げなくても大丈夫ですよ! 僕達は依頼を受けるために来たわけですし……ね、二人とも?」
「え、あ、うん……?」
「そうですね。とりあえずあなた方は影響が及ばない『ポケモン広場』で待っていてください」
ラシードがバイル達を見たあとフィオナとティナに振り返り訊く。フィオナは何かに弾かれたようにたじろぎながら答えたため、最後が疑問系になったが誰も咎めることはなかった。一方のティナはフィオナを横目で見た後、バイル達に『ポケモン広場』で待つように促した。
「ハイ! アリガトウゴザイマス!!」
「ワーイワーイ! アリガトウ!」
フィオナとティナの返答を聞くな否や二人は互いの磁石をくっつけ大喜び。そのためなかなか動こうとしなかったため、ため息をついたティナに「早くしてください」と言われてようやく去っていった。
「で、フィオナはバイルさん達の話を聞いてたのですか?」
「あ……えぇーと……最初だけ……」
「……はぁ」
「やはり聞いてなかったようですね……」
どうやら先ほどのフィオナの返事が気になったようでティナは彼女に質問をすると視線を泳がせながらバイルが話始めてほんのちょっとしか耳に入っていなかったと答えたのだった。
これにはラシードも大きなため息をつき、ティナは予想付いていたのか、呆れた表情を露骨に表す。そのため、二人は先ほど話した内容を一からフィオナに説明することとなった。ちなみにこの時、彼女が話を聞いていなかったのはバイル達の機械音的な話方――いわゆるカタコト喋りを初めて耳にして驚いていたのだと、言い訳をしたが二人は耳を貸さなかったのはまた別のお話。
ラシードとティナの説明を聞きながら洞窟に足を踏み入れたフィオナ。ここ『電磁波の洞窟』はその名の通り、微弱ながらも電磁波が発生している洞窟である。
「……本来なら鋼タイプのポケモンが入っても何も起きないはずなのに……」
「そうですね……おそらく自然災害と何か関係があるのでしょう――来ますよ」
ラシードに相槌を打ったティナが動きを止めて戦闘体勢に入る。その先にいたのは上に灰青色の体に小さな突起物が背中からつきだしているポケモン――ニドラン♀と黄色の体に頭上がコンセントの形を目付きが鋭いポケモン――エレキッドがこちらに威嚇している姿だった。
「やっぱり……敵対心剥き出しね」
「あぁ……自然災害のせいで我を忘れているし――おっと」
どこか寂しそうにつぶやくフィオナにラシードは頷くと素早く右へ避ける。そこへ少し遅れて青色をした微弱の電流――“電磁波”が先ほど彼がいた場所に当たり、電流が小さく残った。
「“火の粉”!」
技を避けたラシードはマグマラシの特徴である額と腰の丸い模様から炎を噴き出すと、口で火の玉を形成して数個吐き出した。彼の口から勢いよく出た火の玉はエレキッドに真っ直ぐ向かい、彼に被弾する。“火の粉”が当たったエレキッドは二、三歩ほどよろけてラシードを睨み付けるが――
「“体当たり”!」
彼に意識しすぎて横から襲ってきたフィオナに対応しきれず、まともに喰らいよろめいたが倒しきれて切れてなかったようで気絶はしなかったようだ。
「まだやるのね! ならもう一発――!?」
フィオナが“体当たり”を出すため再び走り出した時、突如彼女の顔が歪む。次の瞬間、彼女はその場に崩れ落ち痙攣する。
「フィ、フィオナ!?」
「! ラシード、むやみに行っては危ないですよ!?」
フィオナの異変を見たラシードはティナの忠告を聞かずフィオナの元へ走り出すが、そこへ――
「ぐはっ!?」
ニドラン♀の“二度蹴り”が彼の腹部に命中し、彼は小さく吹き飛ばされてしまった。
「……だからむやみに向かうなと言ったはずなのに……」
ラシードが立ち上がったのを見計らってティナはため息をつきながら言うと、片方の翅を上に上げる。まもなくしてその翅に風が渦巻き始めた。徐々に回転数を上げ翅の周りで動く白い風は――
「……“ソニックブーム”!」
ティナが技名を発して鋭い刃と化し、ニドラン♀に一直線に向かっていった。横から突如現れた白き刃を喰らい吹き飛ばされたニドラン♀はそのまま気絶する。ティナはそれを確認すると素早くラシードの所へ行き、バッグから青く楕円のような形をした木の実――オレンの実を手渡した。
「た、助かったよ……ティナ」
「全く不用心過ぎます……よっ!」
オレンの実をかじりながら無邪気に話す少年にティナは身を翻して何かに噛み付いた。彼女に噛みつかれて悲鳴を上げた者――エレキッドはティナの技“噛み付く”がトドメとなったのかゆっくりと後ろへ倒れていく。
「うわ……ティナはすごいなぁ……」
一部始終を目の前で見たラシードは感嘆の声を漏らしながらティナを見上げる。すると彼女は「これぐらい当たり前ですよ」と呆れた物言いを口にし、「それに……」と続ける。その瞬間、ラシードの顔は凍りついた。
「いやだってフィオナが急に倒れたんだよ!? 心配するじゃないか!」
「だからってエレキッドばっかり見ていたら他のポケモンへの注意が散漫になってしまうじゃないのですか? その結果が不意討ちに繋がったではありませんか」
「うっ……そ、それは……」
「だいたい私の話を何故聞かなかったのです? そうすれば――」
慌てて弁解するも時既に遅し。彼女の口から出た的確な指摘にラシードは声を詰まらせてしまう。そこからティナの長い説教が始まったのだった。
「……おーい……いつまであたしを痺れさせたままにするつもりぃ……?」
そんなわけで二人から少し離れた場所で痙攣――否、エレキッドの特性である“静電気”によって痺れたままのフィオナは完全に放置プレイを喰らっていた。しかし彼女の切実な声は思い切り耳を塞ぐラシードと呪文のように言葉を紡ぐティナの耳に届くことはなかった。そのため、彼らがフィオナが痺れていたことに気付いたのは彼女の麻痺が治ってから随分と時間が経った頃だったそうな。