04.森に眠る不思議のダンジョン【後編】
上空から一斉に襲いかかろうと急降下してきたポッポの大群。フィオナ達に避ける術などなく彼女達は固く目を閉じた、その時――
どこからか羽音が聞こえてきた。それはポッポ達の羽ばたく音とは明らかに違って擦りつけているような音。すると――ポッポ達が次々と落下していったのだ。
「一体何が……それにこの音……そんなに嫌な感じがしないわ」
フィオナは地べたで苦しんでいるポッポ達を見ながら首を傾げた。未だに羽音は続いているがフィオナ達が聴いている分には嫌な感じが全くしないのだ。逆にポッポ達は音が不快な気分にさせるのか頭を必死に押さえながら悶えていた。
「これ……まさか――」
「こんな所にいたんですね、ラシード」
ラシードが思い出したような声を上げた時、入り口から丁寧な口調で話しかける声が聞こえてきた。三人が入り口を見るとそこには緑色の膜で目を覆った四枚の羽を高速で動かしており、折り畳む事が出来ない四本の足をぶら下がりにしたポケモン――ビブラーバが浮かんでいたのだ。
「全く……木の実を採りに行ってくると言ってからなかなか帰って来ませんから心配しましたよ。探しに来たら偶然キノ君のお母様から話を聞いて……私が来なかったらどうなっていたか……ここが不思議のダンジョンだと分かって――」
「ご、ごめん!! だから説教はそれぐらいで勘弁してくれよ!!」
「ラ、ラシードさんはボクを助けに来てくれたんだよ! だから……ラシードさんは悪くないから怒らないであげてよ」
心配から段々と説教へと変えるビブラーバにラシードは耳を塞ぎながら謝る。キノも間に入ったためか彼女はため息をこぼしながら「これぐらいで許しましょう」と話を切り上げた。
「そちらの方も気にはなりますが今はダンジョンから脱出することが先決です。とにかく私についてきてください」
ビブラーバは踵を返すと来た道を戻り始める。フィオナ達も彼女を慌てて追いかけた。
「あ、ありがとうございます!!本当に何をお礼すればよいか……」
「そんな……お礼だなんて大丈夫ですよ」
地上へ戻ってきたフィオナ達を待っていたのはバタフリーだった。何度も頭を下げてくる彼女にフィオナ達は困ったような表情をしながら互いに見合わせる。
「ラシードさん、ティナさん! それから――」
「フィオナよ」
「……フィオナさん! 助けてくれてありがとう!!」
キノはフィオナ達の名前を一人ずつ言って丁寧に頭を下げた後――
「カ……カッコイイ……!!」
そう呟き尊敬の眼差しを輝かせながら彼らに向けた。
(な、なんだかそんな目で見られるとちょっと照れるな……でもこうして人助けをしてお礼を言われるとなんだか嬉しいし、助けた私自身も気持ちがいいわ)
「これは少しのお礼です! どうか受け取ってください!」
バタフリーの声にフィオナは弾かれたように顔を上げた。すると彼女は木の実が大量に入ったバスケットをフィオナに手渡す。
「え……こんなにたくさんの木の実を――ってこれって僕のバスケット!?」
「えぇ……ラシードちゃん達が行った後に戻ってきた際落ちていたのを気付いて。それに私なんかのお礼は木の実しかあげられません。こんな手では二つ持つだけで精一杯ですから返すついでに入れて差し上げようとしたのです」
「あ、それなら別に構わないですよ! 僕も木の実を集めに来たけどあんまり収穫はなかったんで……僕的には嬉しいです!」
申し訳なさそうに説明するバタフリーにラシードは慌てて両手を振る。
「では……本当にありがとうございました!!」
「バイバーイ!」
「じゃあね!」
「気を付けてお帰りくださいね」
再び頭を下げたバタフリーは息子のキノと一緒に家路へと向かっていった。その二人の背中にラシードは手を振り、ティナは声をかけ送り出した。そして完全に姿が見えなくなったのを見計らってティナが振り返り――厳しい顔つきでこう告げた。
「さてと……ラシード、詳しく聞かせてもらいますよ。そこのイーブイさんの事を含めて」
「う……わ、分かったよ……」
まるで尋問者のように問い詰めるティナにラシードは目を逸らしながら頷く。すると入れ違うようにフィオナが彼の前に立ち、自己紹介をした。
「そうだね。見知らぬイーブイが一緒にいると困るもの。あたしはフィオナ、ついでに言っちゃうと元人間で記憶喪失なの」
「フィ、フィオナ!?」
「なんですって……!?」
淡々と自分の素性を語るフィオナにラシードは驚きのあまり口を開いたまま彼女を見る。この世界はポケモンしかいないと教えたはずなのに自分を人間だとストレートに言ったフィオナに唖然としていたのだ。一方のティナは目の前のイーブイが言った事に驚愕しつつもすぐ冷静に言葉を続けた。
「……人間はこの世界に住んでいないのですよ? まさか初対面のポケモンに冷やかしのつもりでおっしゃったのですか?」
「いいえ。この世界の事についてはラシードから聞いたわ。あたしはただ本当の言ったまで。覚えている事を全てを。嘘を言ってあなたを小馬鹿にしたつもりはさらっさらないわ! ……信じるかどうかはあなた次第だけど」
ティナに正論を言われてもフィオナは下がる事なく自分の想いを彼女にぶつける。そして両者は沈黙をして相手の出方を窺ったが――
「……どうやら、あなたは嘘を言ってる訳ではないようですね」
「……! ひょっとして信じてくれるの!?」
先に口を開いたのはティナの方だった。フィオナはティナが言った事に食いつくと、彼女はゆっくりと頷いた。つまり、ティナはフィオナが言った事を嘘ではない、と信じたのだ。その事が分かりフィオナは「ありがとう!」とティナに感謝する。
「それからもう名前は先ほどキノ君が言ってましたが改めて申しますね。私はティフィアーナ=アベントリィ。ティナ、とお呼びください」
「分かったわ。あたしはフィオナ……下は覚えていないから分かんないけど。あたしの事は呼び捨てで構わないから。よろしくね、ティナ!」
「こちらこそよろしくお願いします、フィオナ」
二人は互いに自己紹介をして握手を交わした。少し蚊帳の外状態となっていたラシードは彼女達を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。