01.出逢い
――小さな森――
ここは『小さな森』と呼ばれる場所。その名の通り、この大陸ではもっとも小さい森と言われてる場所である。また背の低い木ばかり集まっているためか、光がよく届き明るい。
その森を一人のポケモンが歩いていた。深緑とクリーム色のツートンカラーが特徴で胴長、腰付近と額には赤丸がついている――マグマラシと呼ばれるポケモンだ。首に小さなバスケットをかけながらマグマラシはしばらく歩いて――とある場所で動きを止めた。
「うん、今日も出来ているな」
声代わりなどほど遠い少年声を発しながら見上げる。彼の前にはオレンの実がたくさん実っている木が立っていた。しばらく木を見ていたマグマラシだったが、不意にバスケットを近くに下ろして来た道を戻っていく。
ある程度戻ると振り返って木に向かって走り出し、そのまま木にぶつかったのだ。幹は少しぶれた程度だったが――
「いってぇぇぇ!!」
マグマラシの方はあまりの痛さに額を押さえながら悶えた。それもそのはず、あの太い幹に正面衝突するなどやる前から結果が見えている。
だがそうしている間に今度は木からオレンの実が数個落ちてきて――そのうちの一個がマグマラシの脇腹に命中した。
「――――っ!?!?」
もはや声は出ないようで変な奇声だけが森を反響した。そして悶えること約一分。痛みが治まったのか彼はゆっくりと立ち上がるとオレンの実が当たった部分をさすりながら下に落ちてきた実を次々と拾い、バスケットの中へと入れていく。
「さてと……目的は達成出来たし戻るかな――?」
バスケットを首にかけて振り返ろうとした時、マグマラシの視界に何かが入った。彼は目をじっと凝らし、そして弾かれるように何かに駆け寄る。
近くに来てようやく正体が明らかになった。茶色の体に襟と尻尾がふさふさしているイーブイと呼ばれる種族だ。そのイーブイは背中を向け倒れていた。そのため、遠くから見れば目でも良くない限り何が倒れているのか検討もつかなかったわけだった。
「おい! しっかり――」
「やだ……来ないでぇ!!」
「!!」
心配して手を伸ばしたマグマラシだがイーブイの口から発せられた言葉に思わず引っ込めてしまった。それは何かに怯える少女の声だった。
そして彼女はまるで近づく者を拒絶するかのように足をばたつかせる。だがそれも一瞬のうちだったようでピタリと収まった。
果たして諦めたのかそれとも――
マグマラシの頭に最悪のことが横切り慌てて首を振る。そして、正面に回り込んで――――
「ねぇ、起きて! しっかりするんだ!!」
必死で体を揺らして起こそうと試みた。それが功を奏したのか分からないがイーブイは左前足をゆっくりと挙げた。しかし、全身はまだ震えており、まだ怯えていると見てとれる。
「大丈夫だよ。僕がそばにいるから……」
その手をマグマラシはそっと包み込み、優しく声を掛ける。すると、彼女は安心したのか震えが止まり表情が幾分か穏やかになった。それを見てマグマラシは安堵の溜め息をつき、自分の手へ視線を向けて――――
「……うわっ、うわあぁぁぁぁぁぁあ!?」
慌てて手を離して、ものすごいスピードで後退りをした。
「ぼ、僕見知らぬおお、女の子の手を触っちゃったよ!! しかも、なんかキ、キザな台詞まで言っちゃったし……わわっ!!」
先ほどの行動を思い出し、顔を熟れたマトマの実のように真っ赤に染め上がる。どうやら、彼は無意識にやっていたようだ。
「……ん、あれ……ここは……?」
マグマラシが一人で頭を抱えている一方でイーブイが目を覚ました。そして、何やら念仏を唱えるかのように早口に呟いているマグマラシをぼうっと見つめる。
(マグマラシが呟いてる……? いや、それより喋ってる!?)
「ぁあぁぁあ、どうしよう、本当にどうしよ――」
そして、振り向いたマグマラシと目が合った。
「はっ、い、今の独り言は気にしないで!! ――じゃなかった、だ、大丈夫?」
「嘘――が喋ってる――」
「……へっ?」
「マグマラシが喋ってるぅぅぅぅ!?」
少女の驚いた声が森の中に
木霊する。それによってたくさんの鳥ポケモン達が慌てて飛んでいったのだった。