壁とグランブル
幸い怪我人は出なかった。
マッハに負けて気が立っていたグランブルは、怒りの矛先をトレーナーのトシオに向けてしまったのだろう。
フウタは何度も謝ったが、少年たちのフウタを見る目はその日から変わった。
いつものように遊びに行ったりはしてくれるが、バトルにはフウタを参加させようとしなかったのだ。
当たり前だろう。
自分が噛まれるのかもしれないのだから。
フウタはあれ以来モンスターボールを触っていなかった。
今度は自分に攻撃してくるのではないかと恐れていたのだ。
ところが、数日後にフウタはグランブルの名前を呼び、モンスターボールを投げたのである。
「出てきてよ グランブル」
フウタ自身、グランブルとちゃんと向き合おうと考えていたのだ。
グランブルはフウタを見たとたん、顔を綻ばせて甘えてきた。
フウタはグランブルの笑顔を見て、急に涙が溢れてきた。
自分でも理由はわからない。
でも、涙は止まらなかった。
フウタにできていた心の壁は、この出来事によってほんの少しだが崩れたのである。