04 三匹の部屋
三匹は階段を登り終え、二階へと到着していた。ファングとカレンが二匹で並びながら歩き、ヒートがその後ろをついて歩いていた。三匹はその場から一直線に伸びる廊下を歩き始めた。その途中には、おそらく隊員達の部屋へ通じているであろうドアが左右に幾つか等間隔で並んでいた。ヒートは自分の視界に入るドアにいちいち顔を向けながら足を進めていた。やがて、先頭の二匹の足が止まった。そこはその廊下の突き当たり、階段から一番奥に設置されていたドアであった。二匹がヒートの方を向いた。
「ここがワタシ達の部屋よ」
「一番奥なんだね」
「分かりやすくていいだろ、ははは!じゃ、入ろうぜ」
そう言ってファングがドアへ手を伸ばした。キィーという小さな音を立ててドアが開く。三匹はゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れた。
「わぁ〜」
ヒートは、驚きとも感動とも言えぬ声を漏らした。部屋の中はいたってシンプルなものだった。部屋の形は四角で、ドアから自分の足で約七、八歩ほど歩いた場所、おそらくこの部屋の中央にあたるであろう所に、寝床と思われるワラが二つ並べてあった。そこから先は部屋の突き当たりまで何も置いていなく、突き当たりの壁に小さな小窓が一つと隅の方に、水飲み場と思われる水溜めがあった。ワラ、小窓、水飲み場と非常に簡素な部屋ではあるが、それが幸いしてか体が小さな三匹にとっては、ゆったり体を伸ばしながらくつろげるほどのスペースがあった。
「何もない部屋で驚いた?」
「ううん」
カレンの問いかけにヒートは首を横に振って答えた。やがてファングとカレンは部屋に敷いてあるワラにそれぞれ腰をおろした。ヒートは二匹の前に小さくあぐらをかいて座り込んだ。三匹をそれぞれ頂点としてその部屋に三角形ができていた。すると、ヒートを見ながらカレンがハッとした。
「あっ!そうよ、ヒートの寝床を作らなきゃね!場所は、今座ってる場所でいい?」
「うん!」
「わかったわ。じゃあ、ファング」
「なに?」
「何じゃないわよ。ヒートの寝床にするワラを持ってきてよ。ワラは厨房にあるでしょうから、ティアラさんからもらってきて」
「え〜!!今せっかく座ったばっかなんだぜ!?」
ファングは不満げな表情を見せたながら、大声を上げて彼女に反発した。それを見たヒートが気を使って「自分が行く」と言うが、カレンは冷静に、貫くような冷たい視線でファングに反論した。
「あなた、まさか今日の依頼のこと、反省していないわけじゃないわよね?」
「うっ……反省はしてるよ……たった今、怒られたばかりじゃないか……」
「本当に反省してるのかしら?だったら態度で示してほしいわね」
「ううう……」
「行ってくれる?」
「……この、卑怯者ぉ〜!」
ファングは自分の寝床から飛び起き、足早に部屋をあとにした。その様子を見て、カレンはクスッと笑ってヒートの方を見た。ヒートの方はというと苦笑い見せながら、カレンのとった行動に少し恐怖を感じていた。
「なんだか、悪いね」
「いいのよ。気にしないで」
そう言うとカレンは、両目を開き、何も言わずにじーっとヒートを見つめ始めた。ヒートは不審に思い首をかしげながら彼女に聞いた。
「どうかした?」
「いえ……その、記憶……戻るといいね」
「あ……」
彼女の発言に、ヒートは忘れかけていた事実を改めて実感した。そして、自分の体を見ながらもう一度だけ、そのことを考え出した。
(…………やっぱり、ダメだ……)
「はぁ」
ヒートが小さなため息をついた。それを見たカレンが表情を緩めた。
「まあ、思い出せないものは無理よね、焦らずゆっくり思い出していけばいいんじゃないかしら?」
「うん……そうだね!」
ヒートはそのことに関して考えるのをやめ、きっぱりと返事を彼女に返した。