02 いざ、ギルドへ
三匹はその建物の入り口となるドアの前に到着していた。その建物は、少し離れた場所からでも大きいと認識することは容易であったが、小柄なポケモンが近づくとまたそれがはっきりと分かった。三匹の目の前にあるドアも、大柄なポケモンも出入りが可能なようにするためか、大きめに作られていた。
ヒートは目の前にそびえる大きな建物を見上げた。前面には、小さないくつかの小窓が見られた。その配置を見て、ヒートはその建物が三階建てになっている事を理解した。
「ここが?」
ヒートがたずねた。彼の横にいたカレンが答える。
「ええ、そうよ。ここが私たちのギルドなんだけど……」
二匹の前にいたファングが首に巻いていた袋を離した二匹はそれを見て袋をゆっくりと地面に下ろした。ファングは扉に近寄り、顔を当てた。そして少ししてから顔を離し、二匹に向かって言った。
「物騒な物音がしたって言ってたけど、特にそんな変な音は聞こえないなぁ………でも誰かが話しているような声は聞こえるよ?」
「隊長達かしら?」
「そうだとは思うけど……」
三匹の間に如何ともしがたい空気が流れた。そして、三匹がそれぞれの顔を見合った後にファングが切り出した。
「まぁ、ここでずっと立っているわけにもいかないし、とりあえず中に入ろうぜ?」
「そうね」
カレンはファングの意見に頷いた。ヒートもカレンに続くように頷いた。
「よーし、じゃあ開けるぜ〜……まったく、いつものように帰ってきただけなのになんでこんなに緊張しなきゃいけないんだよ……」
小さな文句を漏らし、ファングは扉へ腕を伸ばした。そして自分たちよりもはるかに大きいその扉を、ゆっくりと奥に向かって開けた。
ギィィーという音を立てて扉が開く。
「隊長!今もど……あっ」
帰宅のあいさつを全て言い切る前に、口をぽかんと開いたままファングは目の前に広がっている光景を見て悟った。後ろから二匹も顔をのぞかせる。カレンもファングと似たような反応を見せた。ヒートはおそるおそる開いた扉の奥を見る。
扉の奥は広間になっていた。そしてその広間の中央辺りに、大きな長方形のテーブルが一台置いてあった。だがそれよりも、三匹の目に最初に映ったのはそのテーブルの前、ファングが開けた扉の本当に目の前の光景である。そこには、体の大きな二匹のポケモンがいた。一匹はその場に正座をし、もう一匹はそれを見下すように腕を組んでそのポケモンの前に立っていた。正座をしているポケモンはラグラージ、立っているポケモンはニドクインだった。二匹は自分達の目の前の扉が開いたというのに、それに気づいていないのか会話を始めた。先に口を開いたのは、ニドクインの方だった。ニドクインはゆっくりと目を閉じ、ため息を漏らしつつ話し始める。
「……隊長、いけませんわね……ワタクシがせっかく仕入れたカイスの実を盗み食いしようとするなんて。あれは今日の夕食に出す食材なんですから、勝手な真似をされては困ります。夕食は誰かが遠出していない限りは必ずみんな一緒に食べる、というルールを作ったのは隊長ですからね」
すると、正座をしていたラグラージが苦笑しつつ彼女に訴えた。
「い、いやぁ……盗み食いだなんて、そんな感じの悪いことを言わないでください。私は、ただカイスの実が腐っていないかを確かめようと眺めていただけでして……その……」
「ではなぜワタクシが声をかけた時に、あれほどまでに取り乱したのでしょうか?それに、その時に口に放り込もうとしていたものは何だったのでしょうか?そもそも、なぜあの時間に厨房にいたんでしょうか?」
「うっ……それは……」
表情を変えずに淡々と話すニドクインに、この「隊長」と呼ばれているラグラージは声を震わせていた。声色からしてオスだが、なんとも情けない光景である。それを見ていたファングは、カレンとヒートのそばに駆け寄り、ニヤニヤしながら二匹に言った。
「面白そうだからこのまま見ておこうぜ」
カレンがむすっとした表情を見せて言った。
「悪趣味ね、あなた……まぁ、でも割といつもの光景だし……ヒートにうちのギルドの雰囲気を紹介するいいイベントかも……ね?」
ね?という言葉と同時にカレンはクスッと笑ってヒートを見た。ヒートは口をぽかんと開き、そのまま何も言わずに目の前で行われている説教を見続けていた。ただ、その時ヒートは心の中で、
(カレンも悪趣味なんじゃないかな……?)
と小さく呟いた。