01 のどかな村
かれこれ歩いて数分だろうか、あたりを覆っていた木々が薄くなっていくのがわかった。たくさんのリンゴが入った袋を背負うファングと、それを後ろから支え歩く、三匹の姿があった。
「おーし!」
ファングが歩みを止めた。ヒートとカレンも足を止め、彼の方に目を向けた。
「森を抜けたぞー!ヒート、あそこに見えるのがオレ達の村、ユタカさ!」
ヒートは袋から手を離し、ファングの横に駆け寄った。すると、自分達が今までいた森は、小高い丘の上にあることがわかった。そして、そこからそう遠くないとわかる位置に、家々が建ち並ぶ様子がうかがえた。さらに自分たちの足元に、その場所へ導くように他のポケモンたちが作ったであろう道も認められた。
「へぇ〜 あれが」
「もう少しだから頑張ろうぜ!」
ファングはにっこり笑うと、再び袋に力を入れた。ヒートもこくりと頷くと、元の位置まで戻り、三匹揃って歩き始めた。
丘から村まで続く道に従い歩き続けること数分、ようやく一行は目的地であるユタカへとたどり着いた。村の入り口には、ここからユタカ村だと分かるようにするためか、大きな木でできた門が建てられていた。
「到着〜!!」
門をくぐるとともに、ファングが両手を挙げて大声をあげた。それを見たカレンがため息を漏らして彼に言う。
「もう、まだギルドについてないから到着じゃないでしょ?」
「わかってるって〜ははは!」
二匹のやり取りを、ヒートは苦笑しながら眺めていた。
「この村をまっすぐに歩いて行ったところにギルドがあるわ。もう少しだから頑張りましょ!」
カレンが優しくヒートに言う。ヒートは頷いて袋に力を入れた。
道中、ヒートは初めて訪れた村を、首を右へ左へ何度も切り替えながら観察していた。村は主に木で出来たポケモン達の小さな家々が、緑の芝生の上に乗るように形成されていた。村の門からまっすぐ歩いたほんの少しの時間に、村の住人であろうポケモン達数匹ともすれ違った。耳を澄ますと、ポケモン達の楽しげな声が自然と入ってくる、まさに「のどか」という言葉が似合う村であった。
やがて一行は、一本道を抜け大きな円形状の広場へと出た。その広場には、ポケモン達が商店や飲食店を構えている様子が見受けられた。ここがこの村の中心となる場所なのであろう。そして、その丸い広場を半分に切るように、一行がまっすぐと歩いていくと、
「おーい!あんたたち〜!」
三匹の左の方から声がした。足を止めてそちらへ目を向けると、手を振りながらゆっくりとこちらへ歩いてくるポケモンが一匹いた。
「あっ!リアンさん!こんにちは!」
「こんにちは〜!」
「こ……こんにちは!」
ファングとカレンがそのポケモンに挨拶をすると、ヒートもそれにならって真似をした。三匹の下に近づいてきたポケモンはガルーラであった。名前をリアンという。
「いま帰りかい?」
リアンは三匹のすぐ横で立ち止まった。その大きい体に自然に三匹の目線も上を向く。
「そうなんです!」
カレンが元気よく答えた。
「そうかい!毎日毎日えらいことだねぇ!」
「ははは!オレ達は探検隊なんだから当たり前だぜ!」
リアンに褒められて、ファングが得意げに言った。そして、リアンの目線がヒートへ向かった。
「おや?そっちの子は……見ない顔だねぇ?新入りかい?」
「え……ええっと……」
ヒートは言葉に詰まってしまった。すると、カレンが迷わず
「この子は友達です!!」
と答えた。にこやかな表情を見せながらそしてヒートの体を前足でつついた。
「はっはい!名前は、ヒートって言います!」
「ヒート。かっこいい名前だねぇ、よろしくね!あたしはガルーラのリアンっていうのよ。この村でカフェを経営してるのよ。よかったら今度、お茶でもしに来なさいよ」
リアンはにこりと笑った。ヒートも同じ表情で、
「はい、是非!」
と答えた。
「って、まああんたたちのとこにはティアラがいるから、美味しいものには困ってないでしょうけどね」
リアンの笑顔が苦笑いに変わった。そして、ティアラという名前が出た途端に、ファングの表情がくもる。
「うっ……」
リアンはそれを見逃さなかった。
「おや?どうかしたのかい?
「い……いやぁ……何も……」
ファングは小さな腕を激しくばたつかせていた。カレンがすかさずフォローに入る。
「こっちの話です」
「そうかい、まあそれ以上は何も聞かないよ」
ファングはリアンの発言を肯定するように首を激しく縦にふった。すると、リアンは唐突に自分の左を指差して言った。三匹の進行方向である。その先には、周りの家よりも、ひとまわりりもふたまわりも大きい建物が見えた。
(もしかしてあれが……?)
ヒートが心の中でつぶやいた。
「そういや、さっきあんたたちのギルドで物騒な物音がしたけど……」
「えっ?物騒な物音?」
「ええ、なんかガシャン!って割れるような音だったわね……」
ファングとカレンが顔を見合わせた。
「何かあったのかしら?」
カレンが静かに口を開く。ファングが首をかしげる。ヒートはポカンとしている。
「と、とにかく行ってみようぜ」
「そうね」
「邪魔したねぇ、あたしもいつまでも代わりのものに店を任せておくわけにいかないから、これでね」
「はい!じゃあまた!」
「またねぇ、ヒートちゃん!あたしの店に一度は来なさいよ!」
「あっ……はい!」
小さく手を振るリアンの前を、目の前に見える大きな建物目指して、三匹はまたゆっくりと歩みだした。