01 ファングとカレン
ここは「サヤカ森」と呼ばれる場所。とある村から少し歩いた場所に存在する森だ。ここでは木の実やリンゴなど、ポケモン達の食料となるものがよく採れるので、周辺のポケモン達からは「恵の森」とも呼ばれている。今は時期的にリンゴが美味しい季節だ。
「……!」
「……!」
その森の道をまっすぐに歩く二匹のポケモンがいた。二匹は何かを言い合いながら足を進めていた。片方がワニノコ、もう片方がフシギダネだ。ワニノコの方は無邪気に笑いながら話をしているが、フシギダネの方は何やら不機嫌そうな表情を浮かべていた。ワニノコは、自分の体よりもだいぶ大きい、はちきれんばかりに膨らんだ袋を背負っていた。フシギダネの方は、その袋を地面に引きずらないよう体からつるのムチを出して支えていた。
「ははは!今日は大量だったね!!ギルドのみんなも大喜びだね!!ねぇ!カレン!」
「こんなに採る必要はなかったわよ……全く……ファングが手当たり次第に落すから」
ワニノコは名をファング、フシギダネは名をカレンといった。ファングはオスでカレンはメスである。
「いいじゃん! たくさん採った方がみんなお腹いっぱい食べられるだろ!」
ファングが声高に話すと、カレンはため息をついて答えた。
「うちのギルドは食料には困ってないわよ……今日、隊長に言われたことはギルドメンバーの人数分のリンゴを採ってくるってことだったじゃない。9個だけ採ればそれで終わりだったのに……20個も……いちおう、探検隊として頼まれた依頼なんだから真面目にやってよね……」
二匹は、一応正式な隊員ではあるが「見習い」という形で「ポケモン探検隊」というものに所属していた。「ポケモン探検隊」とはその名のとおり、世界を旅しながらいろいろなものを発見したりする組織……というのも間違いではないが、厳密には世界中のポケモン達からの依頼を受けて、それを達成するという活動が主である。「ポケモン探検隊」には数多のギルドが存在し、二匹もあるポケモンを隊長とするギルドで活動をしているのである。
二匹の今の状況を表すとこうだ。隊長からリンゴ9個を採ってくるように頼まれこの森にやってきた。森の中にあるリンゴがなっている木までやってきたまでは良かったのだが、そこでファングがみずでっぽうを乱射してリンゴを落としすぎた。結果として依頼の倍以上の収穫をしてしまったというわけだ。
「じゃあさ、リンゴをここにおいて減らして行けばいいんじゃない?」
ファングが提案すると、カレンは首を横に振って答えた。
「ダメよそんなの!もったいないじゃない!この時期のリンゴは美味しいんだから、採った以上は持って帰らないと……捨てたりなんかしたらティアラさんに言いつけるからね」
カレンが口にした名に、一瞬ファングの表情が凍りついた。
「わ……わかったよ……でも、これだとどっちにしても怒られないか?」
先程までのテンションが嘘のように、ファングは冷静になっていた。自分の背負う袋を改めて見て、それを実感した。
「だから言ってるじゃない。もっと考えて行動してよね」
カレンが軽くファングを睨みつけて言う。ファングは反省したのか頭をたれながら小さく、
「うん」
と答えた。今日が初めてではないこのやり取りをしながら二匹はギルドへ戻るために足を進め続けた。