♯0 始まりの追いかけっこ
「な、なんでこうなんだよ〜〜〜〜〜〜!?」
どうもみなさん、初めまして。
オレはヒイロ。真っ赤な体で尻尾の先からメラメラと炎が燃えているのが特徴のヒトカゲだ。
自分は今日この町、ヒワダ町へと引っ越してきたばかりだ。そんな自分は今この町の商店街を夜遅くにも関わらず思いっきり走っている。
なぜそんな事をしているのか?
それは……
「待ちやがれぇぇぇぇぇぇ!!」
「このトカゲ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
これが、その答えだ。
自分の少し後ろには不良と思われるポケモン達が十人ほど、追いかけてきている。
……『不幸』だ。
そう。これは自分自身が呼び寄せた不幸だ。自分にはそうとしか思えない。だって……
「っ!?しまった!?」
商店街の細い道に入るとその先にはコンクリートで出来た壁が。完全に行き止まりだった。すぐに元の戻ろうと振り向くが既に遅く、目の前には不良ポケモンが息を切らせて並んでいた。みんな怖い顔をして自分を集中的に睨みつけてきている。
「はぁはぁ、ようやく追い詰めたぜ。観念するんだな」
不良集団の1匹、筋肉ムキムキで青い肌をしたチャンピオンベルトを腰につけているポケモン、ゴーリキーが不敵な笑みを浮かべ、ポキポキと両手を鳴らしている。なぜかこの集団、黒い学ランを着て左腕には紫色の腕章に金色で『力全』と刺繍してある。まるで昔世代の番長のような姿だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!確かにあんな事をして悪かったけどあの時は……」
自分は両手をあげ相手に静止するように頼む。
しかし、彼らはそんなので止まってくれる相手ではない。
「あの時は、ってなんだ!?テメェがオレ達にケンカ売ってきたんだろうが!?今更、命乞いしたって遅ぇぞ!!これを見ろ!!」
そう言ってゴーリキーが後ろを向いて背中を見せた。
そこには白い液体のようなものが染み付いていた。
オレはそれがなんなのか知っている。
なぜならそれをつけたのは“自分”だからだ。
少し前に買い物終えた自分は、帰りながら市販のソフトクリームを食べていたのだが、ある出来事によって食べかけのソフトクリームが飛んでいってしまい、彼の背中にベチョリとくっついてしまったのである。
そして今に至るのだ。
もちろんわざとではないし、ケンカを売ったわけでもない。
「いやぁ〜……だから……」
「問答無用!!やっちまえ!!」
ゴーリキーの号令と共に、『おおおぉ――――!!』とまるで軍隊が押し寄せてくるかのように、オレに向かって来る。
「えっ!?ちょ、ちょっとまっ――」
声掛けで止めようにも止まる事無く(当たり前だが)、鬼の形相した輩がすぐそこまで迫っている。
あぁ〜〜〜〜もう!!しょうがねぇ!!めんどくせぇ!!!
「だから……」と、オレは拳を握りしめ、
「人の話を聞けえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
オレは地面に向かって拳を振り下ろし、叫んだ。
「まったく……酷い目にあった……初日だってのに、いきなりこんなんだとこの先の生活が不安になるよな……」
オレは、暗い路地裏から一人出てきて呟いた。
「まぁ、ボヤいててもしょうがないし、とりあえず帰るか……って、ご飯どうしよう……もう9時過ぎだし、スーパーやってないし……どっかコンビニに寄るか……」
溜息を混じり合わせながら、オレは新しい自宅へと帰ることにした……ってちょっと待て、
「…………帰り道……どっちだ?」
「な、なんだ……これは!?」
警察官である数匹のガーディが現状を見て驚愕した。
ついさっき変な爆発音と路地裏の方から一瞬光のようなものが見えたと通報があって駆けつけたのだが そこは辺り一面黒く焦げた壁や地面と、数匹のポケモン達が煙を上げながらピクピクと痙攣をさせて倒れていた。
「い、一体ここで何があったんだ!?」
とりあえず、倒れているポケモン達を病院へ運ぶため救急担架を要請することにした。
ちなみに、ポケモン達……特にゴーリキーがまるで悪夢に魘《うな》されているかのように呟いている。
『なんなんだ、あのヒトカゲは』……と。