第一章
その質問は大切で
『この…が聞こえ…ま…か?』

誰だろう。
俺を呼んでいる。

『…聞こ……いるなら答…て下さい』

透き通るような綺麗な声。
…声、なのかはわからない。
聞こえるという感覚とは違うんだ。

『あ…たは、……の護るべき………を助け…人間』

途切れ途切れでよく聞き取れない。
護るべき? 人間?

人間。
そうだ、俺は人間だ。
だから何なんだよ?

『…なたの…を助……ためにも』

俺の何を助けるって?
もっと大きな声で言ってくれ。

『…うか…け…下さ…』

ノイズが響いてそれから声は聞こえなくなった。

☆☆☆

ゴーーーーーーーン…

例の鐘がなって朝を告げる。
起きなければと思ったがさっきの夢が気になる。
考え込んでいると少し後に目を覚ましたナズナは俺を揺すって起こそうとする。
昨日の一件から早起きをすることにしたのかも知れない。

「ホタル、朝だよ起きて」
「んー」

それにしても、何だったのだろうか。
夢なのにやたら明確に覚えている。
誰かが呼んでいて…?

「ホタルっ! 遅れちゃうよ?」

まあいいか。
それより遅れるとグレンさんのカミナリが落ちる。
あきらかにこっちの方が重要だった。

「全く、どうしたのさ?」
「夢を見た」

夢と聞いていかぶしげな表情をするナズナ。

「不思議な夢だった」
「…それって時代を遡るやつ?」

止めなさい。
しかもそのネタ古いからな?

「うーん…兎に角、詳しいことは後。
すぐ行かないと怒られちゃうよ?」
「そうだな」

よく分からないがこの夢はとても大切なものだと思った。

☆☆☆

広場への集合は間に合ってグレンさんに怒られることもなかった。

「二人とも昨日の今日で悪いが…今日は本物の依頼を受けてもらう。
この依頼書の通りにやってくれ」

配られた紙には救助の文字。
冷たい岩場で迷子になった、ムックルを助けるというもの。
報酬は150ポケ。

「特に難しい依頼ではないが…前回のこともある、気をつけてくれ」
「それに最近、悪徳探検家も多いと聞きますわ」

そういうこと言うな。
全く、不吉なことを…

「ホタル、頑張ろう!」
「ああ」

ナズナは何も気にしてないようだった。
それはそれは楽しそうに話しかけてくる。
そんなに探検隊が楽しいのか。
そういえばナズナは何で探検隊になりたかったのだろうか?

…昨日ナズナの事を聞こうと思って聞きそびれたのを思い出した。

☆☆☆

「…ここ、だよな」
「…だよね、やっぱり」

冷たい岩場は冷たいなんてもんじゃなかった。
寒いというかもはや痛い。
誰だ、難しくないっていったの。

「ね、ねぇ、ここにムックルがいるんだよね」
「みたいだな」

いつの間にか霰も降ってきた。
痛い。

「…死んでないよね?」
「…」

止めてくれ、そういうの。
気候だけのせいじゃなく背筋が凍るから。

「ダンジョンの中は多分ここより暖かいはずだよ」
「…どうして?」

空調設備でもあるのだろうか。
…いや、いくら何でもそれはないか。

「壁があるから」
「…」

そりゃそうだけど。
だけどね、上げて落とすのはよくないと思うぞ?

「ふふっ、行こっか」
「ああ」

全く、こいつは…
ナズナに続いてダンジョンに足を踏み入れる。

…意外にあったかかった。

霰が止んでいたというのもあるが、
どこか負けた気分を味わいながら雪と氷の塊が混じる道を進む。
ダンジョンに入って10分もすると敵ポケモンが出てきた。
けれど確かにあまり強くなく、一撃か二撃で何とかなる相手ばかり。

俺の初勝利はユキワラシ(レベル5くらい)だった。
レベル低いし、タイプ的にも有利な相手。
でもって後ろからひのこで攻撃という卑怯の折り紙付きだった。

「それに比べてナズナは…」

苦手な相手をたいあたりだけで倒し続いている。
なんかもうナズナだけでいいんじゃないか?

「ホタル、ムックルは見つかった?」
「いや、そっちは?」

全然見つからない。
そもそもいるのだろうか?

その時だった。
ガサガサと茂みが揺れ、ポタポタと積もった雪が落ちる。
その奥には黒い影が逃げていくのが見えた。
茂みを覗くと中には沢山の羽毛が散らばっていて事態の深刻さを物語っていた。

「追いかけるよ!」
「ああ」

茂みを掻き分けて進む。
足跡が無いから相手の特定が出来ないかと思ったが、細くて長い紐のような跡があることから蛇系統のポケモンだろう。

「だとしたら…」

ナズナには不利だ。
頭の中を毒系統のポケモンがちらつく。
一番良かったとしても同種の進化系、いや、細すぎるか。
寒いんだから冬眠してろよ。

「ここみたい」

ナズナにいわれ、見ると黒い影の正体はアーボらしい。
ムックルに手を出そうとはしていない。
その周りにはグミやら木の実やらが散らばっている。
俺達を待っているのか?

「モンスターハウスだな」

待つならそれしか理由は無いだろう。
突っ込むのは危険だし、だからといってムックルをこのままにするわけにはいかない。
おそらくこの部屋ひとつで10匹程度の敵ポケモンが出てくるはずだ。
そうなったときアーボを逃がさずムックルを助けることができるだろうか。

「へ? 何で分かるの?」
「道具やグミが多いから。それにアーボが待ち構えるならそれしかない」

そっかあ、と感心するナズナ。
それにしても、どうするべきか…

「一歩でも踏み入れたら駄目なんだよね」
「ああ」

俺達は遠距離技なんて覚えていない。
きのえだやてつのとげも持っていない。
手詰まりだった。

「回り込める? 向こうの入り口」
「え?」

回り込む?
部屋の入り口はふたつ。
片方がこっちでもう片方が…

「ボクが一歩入ってから全力で逃げるからホタルはアーボを捕らえて、ムックルを助けて」
「囮になるって言うのか」

危険すぎる。
ここはこおりタイプのポケモンが多い。
囮なら俺の方がいいはず。

「目的を忘れないで、ボクじゃアーボに太刀打ち出来ない。
見てて分かるよね、アーボは誰にもおそわれていない。いちばん強いんだよ。
だったらボクが囮になってへびにらみでなんとか耐える」

それは…そうだが。

「分かった。くれぐれも無理はするな」

☆☆☆

反対側の入り口に回り込む。
少しするとナズナが合図を送ってきた。

今だっ!!

ナズナがモンスターハウスに足を踏み入れ、全速力で逃げる。
俺も続いて中に。

「…」

その時、アーボがニヤリと嘲笑した気がした。

本当に情けない話だが既に部屋の半分程まで来ていた俺は底知れない何かに足がすくんでしまった。

アーボが真っすぐ、こちらに迫ってくる。

☆☆☆
「という感じにアーボが向かって来たのにビビって逃げられたと?」

め、滅相も御座いません。
ほら、だってニヤリってのが只のはったりだとか分かんないし。

「まあ、ムックルが助かったのは良かったけどね?」

あの、ナズナさん?
目が、目が笑ってませんよ?

「…で、ボクの苦労は何だったの?」
「スイマセンでしたぁー!!」

sliding土☆下☆座…は火に油を注ぎそうなので自重。

「…はぁ、もういいよ。帰ろ」

ちょっと待ってくれナズナさん、もういいよという表現は文字にするとより辛辣だぞ?
ネットいじめに繋がらなくもないからな?

「どうしたの、ホタル?」

……?
ネットって何だっけ?

☆☆☆

「あれ? グレン師匠は?」

帰ってみればグレン師匠はどこかへ出掛けるという。
めんどくさそうに代理をしているチョロネコに報告でいいか。

「ボクが報告してくる」

それは来るなという意味でしょうか?
ずんずん歩いていくナズナ。

「…お前も大変だな」

耳元の声にかなり驚いて振り返るとマルマインがいた。
確か、チョロネコの取り巻きのキャラが薄いほう…

「ああ見えてちゃんと気遣ってるんだよ。
二人でいったらチョロに絞られるのはお前だろ?
ああ、羨ましいな…チョロなんて、全然構ってくれないし、気遣ってくれないし…」

何だろう、まともな奴は居ないのだろうか。
…まあ、愚痴をいうくらいまともな内か。

「こんなにチョロのこと好きなのに、好きなのに、好きなのに好きなのにぃぃ!!」
「黙りなさい。コータスの上で蒸し焼きにしますわよ?」

やはりまともな奴は居ないらしい。

☆☆☆

「あら…ムックルからお礼があるようですわ。
カフェ•チェリムで待ってる、って連絡が入りましたの」

というチョロネコの話のもと、いまだ把握できていない村を散策。
そうそう、立て看板をみて、初めてここがミカン村という名前だと知った。
なんでも特大ミカンやら激辛ミカンやらが採れるとか。

…オレンの実とかオボンの実とかじゃないんだ。

「ここだよ、カフェ•チェリム」

連れてこられたのは鮮やかな青の屋根の建物。
木造で、大きさはやはりというか大型ポケモン対応サイズだった。
ビバ、バリアフリー。

「いらっしゃいませ♪」

巨大な扉をあけて、店内に入ると掃除をしていたらしいチェリムが振り返った。

「ホタル様とナズナ様ですね、お待ちしておりました♪
ムックル様がお待ちです♪」

笑顔がまぶしかった。
…いや、騙されないぞ、ここにきてまともな奴に会った試しがない。
悩んでいるともうナズナはさっさとムックルを見つけて行ってしまった。

「あ、ナズナさん、ホタルさん。
いきなり呼びつけちゃってごめんなさい」
「ううん、そんなことないよ」

ムックルはごそごそと何かを取り出した。

「あ、あの、これ、うけとってもらえますか?」

渡されたのは報酬のポケとスカーフ。

「あれ? 報酬はポケだけだと思ったんだけど」
「あ、その、わたし助けてもらったので」

なるほど。
でもアーボに逃げられておいて貰っていいのだろうか。

「ありがとう。大事にするよ」

貰ってた。
まあ、ナズナは大活躍だったし…

「…ところでホタルさん、二人はなんというチームなんですか?」
「え」

そういえば…聞いてない。
そういえばナズナがあれやこれや記入したんだった…

「“レーヴ”だよ。ボクたちはね、夢の探検隊なんだ」
「ゆめ…?」

ナズナはにっこり笑って問いかけた。

「《キミの夢はなんだい?》」

☆☆☆

辺りはもう暗くなり、ぼんやりと家の灯りだけが漏れるような時間。
ナズナと俺はベッドで丸くなりながらも寝付けずにいた。

「…ねえ、ホタル。まだ起きてるよね」
「ああ」

暖かいベッド、小さな部屋にナズナと俺の声だけが響く。
秘密基地、みたいな気分だ。

「記憶はまだ戻らないのかな?」
「ああ」

何となく、だったが。
少しこの世界にズレを感じる。
人間だったころに知っていたことを欠片ほどには思い出せた気がしないでもない。
だが、まだまだ点。線や面としては全然だ。

「じゃあ、夢の方は? 朝、言ってた奴」
「…分からない」

誰の声なのかも分からない。
透き通るような、あるいは鈴が転がるような、表現は何でもいい、綺麗な声だった。
ほんとうに声、なのだろうか。
分かるのはそれぐらいだ。

「そっか…」
「なあ、ナズナ」

ああ、そういえば。
ナズナには聞きたいことが沢山あった。

「なんだい?」
「ナズナは…どうして探検隊に成りたかったんだ?」

思いついたのはこれだった。
ほかにも聞きたいことはある、でも、一番は…

「それは、ボクの夢を答えるってことでいいんだよね?」
「ああ」

夢の探検隊、なんでそんな名前にしたのか。
ナズナは何がしたいのか。

しばらく静かな時間が流れ、

そして

「ボクはね、この世の全てのポケモンの夢を叶えたいんだ」

囁くように告げられた言葉はどこまでも甘い香りがした。
ナズナは続けて言う。

「ホタル、《キミの夢はなんだい?》」
「俺の、夢?」

夢、それは経験からこうなればいいのに、と生み出されるものだ。
俺には、その経験である記憶がない。
分からない。
俺は何がしたかったんだろう?

「…ごめん、忘れて。答えを見つけたときでいいから。
明日も早いし…おやすみ」
「そうする、おやすみ」

全部、夢なら楽でいいんだけどな。
あいにく夢オチで無いことだけは呆れるほどの現実味、要はバトルの痛みで理解している。

まったく、なんでこんな事になったのやら。



■筆者メッセージ
大変日にちをあけてしまい申し訳ありません。
まあ、誰も待ち望んだりして読んでないでしょう。
だよね!?(必死&泣)

さて、やっとのことで名前を付けました。
薄々気づいてらっしゃるでしょうが私、名付け下手です。
チーム名もまんま付けました。
反省してます。

ところで超ポケモン不思議のダンジョンはもうプレイしましたか?
今日も私は勉強そっちのけでやっておりました。
やっぱロコン&ツタージャっていいですよね。

それではまた、近い内に(書けたらいいなぁ…)
ドクダミ ( 2015/08/26(水) 08:50 )