第一章
その話は鮮明で(中)
盾になれと言われても敵ポケモンの攻撃を受け止める気なんてさらさらない。
普通に倒すか、逃げるかだ。
ちなみにメラルバは一切戦わない。
完全に見物客の体で、そのくせパーティーみたく行動しているため、経験値は入る。
ついでに言えば一時間足らずでレベルが二、三上がったりしている。
虫タイプの成長の早さには感服である。腹立たしいことに。

「で、どこに向かってるんだ?」
「そんなことも分かってないの?」

そして完全に上下関係が確立していた。
ひねくれた奴だ。
メラルバは呆れかえったように言う。

「あのでっかい木まで」

彼に指があったら指していただろう方向には、どこか神々しさを纏って起立する樹木の姿があった。
明らかに何かありそうな湖と反対方向である。
いや、あの木だって怪しすぎるけど。

「何で?」
「決まってる、上から確認するためだよ」

確認?
目線だけで問いかけるとメラルバは深いため息をついた。

「脳筋だ脳筋だって思ってたけど本当に脳筋だね」
「…」

の、脳筋なのだろうか。
こんな所に挑んだりとか、
自覚がない訳ではない気がしたりしなかったりするかもしれなくはないかなぁ。

「お宝があそこにあるのはまず間違いない。
理由としては森の中央で、湖から放射線状にダンジョンが伸びてるから」

最深部っぽいところに宝があるのはダンジョンのお約束といってもいいくらいだ。
これはどのダンジョンでも共通していることで、罠の可能性もあるが、限りなくその可能性は低いだろう。

「問題はお宝。物理的に持ち運びが出来ないものじゃお話にならない。
未だ誰もお宝を持ち帰れないって相当のことだよ。僕みたいのが言うのじゃアレだけど探検隊の情熱っていうか執念って…ね?」
「上からなら見えるかもと?」
「…多分、誰もがこの発想を抱いただろうから期待しないほうがいいだろうけど」

それもそうだ。
また、鳥ポケモンや一部の虫ポケモンは空からの偵察ができる。
ギャラドス達の格好の的になるのは間違いなさそうだが。
そうこうしているうちに根本まで辿り着いた。
メラルバは振り返ってにっこり笑った。

「ほら、僕が登ってくるから待ってて。犬は木登り出来ないでしょ」

…犬じゃないし。




木の上から戻ってきたメラルバは微妙な顔つきをしていた。
お宝は見えなかったか。

「思ったよりギャラドスが多い。あの湖、異常だよ」

苦々しく言う。

「あれだけのギャラドスを養うには、考えたくないけど…探検隊を喰ってる。
一つね、湖の中央へ進める道があった。そこに行ったらきっと帰れない」

ポケモンも生き物だ。
食べ物は食べるし、死ぬときは死ぬ。
死んでいった探検隊たちもきっと覚悟がないわけじゃない。
それでも、ギャラドス達を嫌悪する自分がいることに気づいた。
みんな、生きたいのだと知っていて、なお。

「僕は僕の目的からしたら湖に行く必要はない。
お宝が時の歯車じゃ、なかったからね」
「…トキノ、ハグルマ?」
「そ。単純にいえば世界の大時計のスペア。
僕たちはそれの番人だったんだけど…他にも歯車が有るなら大切に管理するのがいいって父さんが言うから探してる。大方僕の強化が目的と見たけどね」

あ、脳筋には小難しい話とか無理か。
かなりバカにされたような気のする台詞と共にメラルバが立ち去ろうとする。

「待ってっ!」
「…はぁ、分かったよ。行けばいいんだよね」

とか言いながら、ちょっとうれしそうな彼は自分などよりよっぽど探検隊向きだと思った。




湖に続く一本の道。
周りを取り囲むのは鬱蒼と茂る森。
無数のギャラドス達が周囲を警戒している。

…いや、どうしろと?

「お前盾ね?」

要約するとそんな感じの作戦らしい。
どこも策を練ってないんだけど。

「で、なんでぐるぐる同じ所歩いてるんだ?」
「…黙ってついて来て」

そして、湖には向かわずにひたすら森をあるくだけ。
なんなんだこれ。

「僕の言うとおりにしててよ?」

レベルでも上げるつもりか。
全然敵ポケモンに当たらないが。

「よし、来た」

カサカサと木葉の擦れることが聞こえた。

その後は完璧に反射である。
本能が鳴らす警鐘の元で横っ飛びに跳ねる。
一瞬前まで居たところに水流が激しく打ちつけられた。

木の上からこちらを狙う影。

ニョロトノだ。

気が立っているらしく正気を失っているようにも見受けられる。
ぎろりと睨まれるとぞわぞわと体毛が逆立った。

「ぼけっとしてないで行くよ!」

メラルバがひょこひょこ跳ねながら湖の方角へ走る。
そのあとを太い水流が追撃する。
ひらりと回避してそのまま茂みへ、そうかと思うといきなり飛び出してニョロトノを誘う。
カサカサ…木の葉が擦れる音が聞こえる。

「…ふ、増えたっ!?」
「元々湖に住んでた奴らだよ。ギャラドス達に住処を追われて完全に水生じゃないのだけ残ったんだ」

ニョロトノは重数匹確認できた。
他にもビーダルやブイゼルなどが騒ぎを聞きつけてやってきた。
皆我を忘れている状態だ。

「ギャラドス達の数が異常だって話したよね。
彼らとギャラドス達がもみ合っている間に原因を見つける」

それは厳しいのではないだろうか。
いくら元からいたポケモンの数が多くてもあれだけのギャラドス相手では時間を稼ぐどころか瞬殺されかねない。

「どうせ彼らだって水がなければ子孫を残せない。他の水場に行かなかったって事は戦う覚悟があるって僕は解釈するね。大体僕らは部外者だ。部外者が手伝ってやるんだから文句は言わせない」

むちゃくちゃな奴だ。
ポケモンが死ぬかもしれないっていうのにこんなにも楽しそうなのだから。
命を落とすことをおそれず、勇気を持って戦い抜く。

「…これが終わったら正式に探検家になりなよ」
「…そーゆーの、異国ではシボーフラグって言うんだよ」



ギャラドスが増える理由は二つある。
まず、餌となるポケモンが大量発生すること。
これは餌が減れば自然にギャラドスも減るので問題ない。
二つ目が問題である。
特殊個体が生まれた場合だ。

一口に特殊個体といっても多々ある。
特別な特性や技を持つ個体。
異様なほど耐久力や攻撃力、スピードに優れた個体。
色違いもその一種である。

さて、この特殊個体は多くの場合群れの凄まじい戦力となる。
そうなったとき釣り合いがとれた食物連鎖が崩れてしまうのだ。
格下のポケモンが格上のポケモンを乱獲したり、その結果全滅させてしまうことすらあり得る。

では、格上のポケモンに特殊個体が生まれたら?



「いい?
特殊個体を見つけたら倒す。くれぐれも殺さない程度に」

倒すなんて無茶だと思うかもしれないが。
全ての能力に優れた個体など滅多に生まれない。
攻撃力だけ高いとか、そんな所だろう。
なら、勝算はある。


沢山のギャラドス達の壁の隙間を縫って湖から突き出た岩の上を飛び移る。
さすがに仲間に水流を撃つ気はないらしく、探すのに専念できそうだ。
メラルバも跳ね回って探しているようだ。
負けてられないと目の前ギャラドスの右を抜ける。

…いた。

見た目は他と変わらない特殊個体なんて簡単に分かる訳がない…はずだった。
いや、特殊個体を探そうと言い出した時点でメラルバは知っていた。
木の上でこいつを見つけたのだろう。

赤い赤い、血色のギャラドスを。




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■筆者メッセージ
さて、二つで終わらせようとして結局続きます。
すみません。

赤いギャラドスの話をしたかっただけです。
ロコンといいウインディといい、赤いギャラドスといい、メラルバといい。
何かしら赤いポケモンが多い気が…

それでは来月お会いしましょう(よ、読んでくれてる人とかいらっしゃったらですが)
ドクダミ ( 2016/01/24(日) 21:29 )